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第六十九話「赤毛の雌犬の号泣」

 使用人部屋のベッドに腰掛ける伯爵家の令息は、自身の両隣に身体をより添わせて座る銀髪の少女と赤毛の少女に向けて話を切り出した。

「あのね、トリスから聞いているかもしれないけど、ぼくはいま見合いするよう迫られているところなんだ」

 その言葉に、薄手のスリップを着けただけのソフィアは軽く眉をひそめ、プリント地の女中服姿のマイヤはその華奢な肩をビクッと跳ね上げて動揺を露わにした。

「いままででダントツにお金持ちな令嬢がこの国にやって来たから、伯爵も前のめりなんだ。もしレノスの街に行っていたなら、そのまま婚約させられていたような気がする」

 新大陸の令嬢の写真を見たトリスは、とても綺麗で勝気なじゃじゃ馬と評していたが、綺麗であろうとなかろうとウィルとしてその見合い話など受け入れられようはずがなかった。

「あ、会わなかったということは、見合いの話は無かったことになりそうなのか?」
「そう期待しているけど先方との交渉役はギュンガスなんだ。このままだとギュンガスのメンも丸潰れだから、きっとなにか仕掛けてくると思う」
「あんなやつ、クビにしちまえば良かったんだ!」

 そうしたいのはやまやまなのだが、残念なことにギュンガスの人事権は王都のタウン屋敷ハウスの管轄であり、男性使用人の長である執事の同意なしには動かせない。領地の屋敷カントリーハウスに身をひそめるいまのウィルに表立った働きかけなど出来ようはずがなかった。

(ギュンガスのことはもうソフィアの引換券であったと割り切るしかないだろうなァ)
「それでどうするのだ?」

 銀髪の少女は、薄手のスリップの上からふとももを撫でさせながら小首を傾げて問いかけてきた。

「こちらも、ぼくに都合の良い結婚相手を独自に立てようと考えている」
「なるほど。周りが納得しなければ気に入った女をさらって犯してしまえばいいというわけか」
「いや、さすがにそこまで乱暴じゃない。強引さではそれ以上なのかもしれないけど……」

 伯爵家の令息は、草原の娘の――部族によっては略奪婚の風習まであるという――言葉に苦笑を浮かべながら首を振る。
 父親の伯爵の死を前提として、いまのうちに自分の結婚相手を見繕ってしまおうという腹づもりなのである。

「な、なあ、ウィル。おまえがだれと縁組みするつもりか知らねえけどよ、頼むから女関係の清算はなるべく引き伸ばしてくれよな?」
「ん? 清算って? ぼくが女中へのお手つきをやめるわけがないじゃない?」
「こんな関係、ずっとは続けられねえだろ?」

 マイヤは、いまにも泣き出しそうな顔でそう告げてきた。
 婚姻の障害になりそうな下々の女中との関係などさっさと切り捨てるのが、上流階級に生まれた子息のたしなみであることを、この赤毛の幼なじみは痛いほど理解しているようである。トリスもウィルと話をするまでそのように考えているふしがあった。
 これについては屋敷の女中たちと一生肌を合わせることを人生設計の前提にしているウィルの方がよほどおかしい。

「だから終わりが来ないように、ぼくたちの関係を受け入れてくれる結婚相手をこれから見繕うんだって! 生涯ぼくの犬で性交セックスも込みだとか自分で言っときながら、いまさらなにを言ってるんだよ!?」

 少年はそう主張し、華奢な少女の肩をぐいっとつかんで自分の方に引き寄せてやった。

「……うう、ウィル、オレだっておまえに一生抱かれてえよォ……」

 グスグスと鼻を鳴らしながらすがりついてきた赤毛の少女の頭を撫ででやる。

「おい、ウィル。銀狼族の者になる約束の方も忘れるな?」

 以前までとは違いソフィアからは、まるで多頭飼いされた犬が自分も撫でてもらいたがっているような空気が感じられて仕方がない。
 ソフィアの肩も一緒に抱き寄せてやると、なんの抵抗もなくこちらに柔らかく体重を預けてきた。撫でろと言わんばかりに向けられた銀髪の頭を撫ででやる。
 そして令息は、左右からしなだれかからせた少女二人の脇の下に手を差し込み、その若く発育途上の乳房を服の上から遠慮なくニギニギと揉みはじめた。二人はまるで抵抗しない。

(ああ、ぼくは奴隷市場で見初めた銀狼族と一番の親友のおっぱいを揉みくらべているんだ。二人とも、最初に触ったときより少しふくらんだよね。また裸に剥くときが楽しみだよ)

 同年代の少女が薄い胸を露わにしたときのあの――白い柔肌の上に一対の桃色の突起が切なげに乗った――いたたまれなくも甘酸っぱい情感がたまらないのである。
 シャルロッテの少女たちの青い芯の残った豊満な若い乳房を揉みほぐすのとはまた違った良さがあった。

「ソフィア、おまえは良いよなあ? ウィルにガキまで産ませてもらえるんだからよ」

 ふいに赤毛のマイヤの唇から、地を這うような声が漏れ出してきた。

「そして妹も取り戻すんだろ? オレには血の繋がった家族なんて一人もいねえからうらやましくて仕方がねえ。もしウィルのそばにすら居られなくなったら、オレ、どうすりゃいいんだよぅ」

 居場所を失う恐怖と嫉妬が、気の良い赤毛の幼なじみに、普段なら絶対に口にしないような言葉を吐かせているのだ。
 それに対しソフィアは頬をポリポリとかく。

「おい、ウィル。都合の良い嫁が必要ならマイヤをめとってやったらどうだ?」

 あまりに唐突で空気を読まない提案に、ウィルもマイヤも目を白黒させた。

「はあ!? やぶから棒になに言ってやがる!?」
「馬車の中で必死にスカートの中にウィルをかくまうあの姿を見て、マイヤには第一夫人の資格がありそうだと思ったぞ。一緒に戦場に立ってくれたしな。なによりとても働き者で面倒見が良い。屋敷に来たときに飯を食わせてもらったのも本当に助かった」

 あくまで草原の民の価値観に基づく評価を与えられて、赤毛の少女は脱力したようなため息をつく。

「――おい、マジで毒気を抜かれたぞ。あのなあ、嬉しくないって言ったら嘘になるけどよ、オレは屋敷に拾われた捨て犬そのものなんだ。ウィルと結ばれるに足る血統書がねえんだよ」
「だが、ウィルはこのあたりの領主ヌシなのであろう? 反対する者がいたらひづめで踏み潰せば良いではないか?」

 今度はウィルがため息をつく番であった。
 どうやらこの草原の少女が慣れることができたのはせいぜいこの屋敷の階下の世界ビロウステアーズまでであって、階上の世界アッパーステアーズについてはまるで想像が及ばないらしい。

「ちょうどいい例があってね。アラベスカの嫁ぎ先だったチルガハン侯爵家では、家を継いだ当主が女中と結婚すると言い出して、お家騒動のまっただ中らしいんだ」
「……ほう、なんと」
「あの家は子飼いの貴族が多いのが強みなんだけど、かれらに見放されたとなると、もしかして本当に没落するかもしれないね」

 ウィルは伯爵家を取り巻く状況を頭の中で整理する。
 老いて寝たきりになった王の死を待つように、王兄派と王弟派に分かれて国内の貴族たちによる権力争いが繰り広げられてきた。王兄派に属する父親の伯爵は、王弟派一角であったチルガハン侯爵家が自壊したことに、さぞ小躍りしたことだろう。
 今回の莫大な資産を持つ令嬢との見合いは、ここ最近の小麦の乱高下で懐の傷んだ王兄派の地盤固めの可能性が高いとウィルはにらんでいる。

(もしレノスの街に行ってたら、そのまま王都に連行されていたかもね。大々的な社交界デビューの上に婚約発表までさせられたりして)

 そうなっていたら上流階級好みスノビズムのギュンガスの独壇場であったに違いない。
 マリエルの進言どおり、すぐに引き返して正解であった。

「……むう。なんとなく理解できたぞ。有力者の娘でないと周りも納得しないということなんだな?」
「そういうこと。ソフィアだって長老の意向は無視できなかったんでしょ?」
「……ぐっ、まあ、そうだな」

 銀髪の少女は苦虫を噛み潰したように銀色の眉をひそめる。

「ぼくの場合は、周囲を黙らせるほどの財力があるか、あるいは、それなりの家格の貴族の血を引いているかどちらかになる。前者については海を渡って来た令嬢のように、後者についてはレベッカやアラベスカのようにね――」

 そこまで口にして、赤毛の幼なじみが震える指先を向けてきた。

「おい、まさか、おまえに都合の良い結婚相手ってのは……」
「うん、そういうこと。これならいけるよね?」

 ウィルの言葉に赤毛の少女は唇をわななかせながら、何度もうなずいて応じた。

「ハハ、おまえ、結婚した後も、本当にこれまでどおりヤリまくるつもりなんだな!? 頭おかしいんじゃねえの? この筋金入りのド助平め!」

 マイヤは心底呆れたように、それでいてよくやったと言わんばかりに令息の肩をバンバンと叩いてくる。

「――痛いって。そのためには、ぼくがそういう主人であり続けられるようきみたちには全力で支えてくれないと困る。こんなふうに扱われることにも慣れていってもらわないとね?」

 そう言って、令息は少女たちの胸から手を離すと、いきなりばっと両側のスカートをまくり上げる。
 そして少女たちのふとももの間に手を差し込み、むんずと二人の股ぐらをわしづかみにした。

「ううっ!?」「ひゃっ!?」

 左右二人の少女がビクッと身体を震わせるのに構わず、少年はいままで以上にあからさまに指を立てて、股の割れ目のあたりをなぞりはじめる。

「ひゃ!? ちょ、ちょっと待てよ。そういうのは二人っきりのときにしてくれよ」
「――まったくだ。せっかく、さきほど触らしてやったというのに」

 ソフィアとマイヤは互いをちらちらと気にしており、このようにスカートをまくられて同時に触られていることに対する戸惑いが布ごしにありありと伝わってくる。

「未来の妻を教育しないといけないのに、きみたちがいちいち困惑してたら収拾がつかないじゃない? これくらい自然に受け入れてくれないと絶対にやっていけないって。ほら、二人ともぼくが触りやすいように股を開いてくれるかな?」

 ウィルがそう言うと、まずソフィアが肩を落としてため息をつき、マイヤが盛大に天を仰いだ。

「――まあ、たしかにな」
「チクショウ! なんつう立場だよ!」

 同世代の少女二人が敏感な部分を指でなぞられながら従順にふとももを左右に開いていくさまには相当にそそられるものがあった。
 ウィルに好きに触らせ下着の股をじんわりと湿らせながら、ソフィアはポツリと口にする。

「おまえはさきほど未来の妻の教育と言ったが、屋敷の女中の中でレベッカのことだけは気に食わない。やたら草原を耕したがるからな。あの女は敵だ」
(あれえ、うーん、これは参ったぞ……)

 見渡す限りの草原を守りたいソフィアと、農地の拡大を強力にし進めたいレベッカ――別々の方向に進みたがる二頭立ての馬車を御さなくてはいけないようなものだ。
 どう言い聞かせたものかと考えていると、颯爽と馬車を先導する伴走犬のようにマイヤが声を上げた。

「あのな、ソフィア。おまえウィルの子を産むつもりなんだろ? まだだれが正妻になるか確定してねえけど、今後は屋敷の女主人とも上手く付き合っていかないといけねえんだぞ?」
「むう……」
「さっきはついオレも感情的になっちまったけどよ、使用人が主人の子を産むとなると揉めて当然なんだ。ほかの女中からの風当たりも強くなるものなんだぜ?」

 マイヤがコンコンと諭すのを聞いて、ウィルは以前なにかのおりに、人に慣れにくい猛獣を飼い馴らすには若いうちから犬と一緒に飼って秩序と序列を守ることを学ばせるのが最善の方法だと耳にしたことを思い出した。
 いくらソフィアがなつくようになったとは言え、その本質は依然として屋敷のほかの人間には手に負えない猛獣であり、屋敷の未来の女主人ともどもきっちり調教しなければならない相手であることに変わりがなかった。

「そう。その相談がしたくてマイヤを呼んだんだ。ソフィアだけだと折り合っていくのが無理だとぼくは見ている。ソフィアと同じ立場で、上手く立ち回ってくれる味方が必要なんだ」

 すると、なにを言われるのかを察したかのように、赤毛の少女が、はあっとこれ見よがしなため息をついた。

「だからマイヤもソフィア共々ぼくの子をはらんで、ソフィアのことを手助けしてあげてほしいんだ」
「まあ、おまえらがどうしてもって頼むなら――って、はァ!? おい、てめえ! いま、なんて言いやがった!?」

 赤毛の親友は令息の耳元で素っ頓狂な声を上げて慌てふためく。

「マイヤに、ぼくの子を孕んでもらう、って言ったんだよ?」
「はあああああァ!? てめえ、正気かよ!? 冗談でも言っていいことと悪いことってあるだろうがァア!?」
「正気だし、冗談でもない。マイヤのことは、ぼくに女中として仕えてくれて、いつでも好きなときに好きなだけ抱かせてくれる最高の親友だと思っている。ぼくは、そんな最高の親友であるマイヤのことを孕ませたいんだ!」

 少年は幼なじみの少女にそう言い放った。

「……それってオレの『親友』の定義と絶対違う――いや、待て待て……女中を妊娠させるなんてそんなのトリスが許すわけねえぞ!」
「だから、最初にトリスを妊娠させて、文句なんか言えないようにするんだ。どのみちソフィアにも子を授けてあげないといけないからね」
「っ――――」

 赤毛の幼なじみは絶句する。

「くくく……ははは……」

 その間、よほどお気に召したのか、ソフィアは股を広げたまま心底おかしそうに腹を抱えて笑い転げていた。

「そうやっておまえは解決するんだな。そりゃマリエルもおまえに一族の命運を託すはずだ!」

 無言で固まったままのマイヤの谷間を触り続けていると、ふいに奇妙な感慨が湧き上がってくる。

「こんな狭い穴からぼくの子が産まれてくるのだから不思議だよね」

 赤毛の陰毛の茂る土手の下に突き込んだときの、あの狭い肉ひだの感触がまざまざと思い越される――幼なじみであり一番の親友の畑で自分の種を芽吹かせるのだ。
 マイヤを孕ませる行為には、いままでとはひと味違う大きな快楽が得られるという予感があった。

「やい! コラァ、てめえ、いい加減にしろ!」

 ふいに赤毛の少女が少年の顔に手を伸ばしてきたので、てっきり引っ叩かれるのかと思い、反射的に目をつぶる。
 少年の首の後ろに少女の両手がぎゅっと回された。
 薄目を開けた先に見えたのは、至近距離から自分を見つめる見慣れた青い瞳とそこからポロポロと流れ落ちる大粒の涙――

「……ウィル、本当にオレにおまえのガキを産ませてくれるのか? 本当にオレに家族をくれるのか?」
「マ、マイヤ。な、泣いているの?」
「そりゃ泣くだろォ! オレの中にある大切なものはすべておまえ絡みなんだぜ? そんなおまえがオレに家族を持たせてくれるって言うんだ。そりゃ泣くだろうよう!」

 どうやら令息が思っていた以上に、この赤毛の幼なじみはウィルとの繋がり、さらには家族という繋がりを渇望していたようだ。

「だって、マイヤが孕むんならぼくの子以外ありえないでしょ? それ以外認めないよ」
「だよな? だよな? そうだよな? う、う、うう……」

 勝手な言い分にも関わらず赤毛の少女は二つ返事で同意し、ウィルの首にすがりつきえつしはじめた。

「……でも、マイヤ。産まれてきた子には、たっぷりと愛情を注ぐけど認知だけはできないよ。本当の家族ではあるけど、正式な家族ではないってことなんだ」
「そんくらい分かってんだよ!? このままおまえとずっと一緒にいられて、しかもおまえが本当の家族って言ってくれて愛情までくれるんなら願ったり叶ったりじゃねえか! 私生児バスタードだろうがなんだってかまいやしねえよ!」

 その瞬間ウィルの脳裏に、成長して屋敷の当主となった自身の周りでまだ見ぬ正妻の子と女中たちの子が笑い合っている豊かな生活が思い浮かんだ――これはマイヤ抜きでは為しえない光景であろう。

「実際問題、割りに合わないくらい色々な苦労を背負わされることになるよ? 上流階級の客人が来たときに正式な家族ではないから、一緒にテーブルを囲めずけ者にされたりとかね」
「生まれてこの方、喉から手が出るほどほしかったきずなを、おまえがくれるってんだ。割りに合うとか合わねえとかどうでもいいし、そんなの苦労でもなんでもねえんだよ!?」

 そして、貴族としての豊かな暮らしに――少なくともこの令息にとって――豊かな性の営みは欠かせない。

「女主人とも上手く折り合っていかないといけないよ? ぶっちゃけ自分の奥さんを抱くまえにマイヤを抱いたり、奥さんを抱いたあとにマイヤをとぎに呼びつけたりもするよ?」
「やい! てめえの魂胆は分かってんだぞ! どうせ一緒に呼ぶつもりだろうが、このド助平、ド変態め! こうなったら、とことん付き合ってやるからな!?」

 マイヤはそう言って、股に宛てがわれたウィルの指の上に自身の指を重ね、より一層強く薄い布地にめり込ませる。

(おお……これからのことを思うと心が躍るな)

 屋敷に四十人もの女中がいれば――さすがに四十人を一度に夜伽に呼ぶことはないにせよ――生涯試しきれないほどの組み合わせを楽しむことができよう。この果てしない遊びに一番の親友であるマイヤを連れて行くことができるのだ。
 そして女主人のみならず、銀狼族の神子までもその数に加えることができれば申し分ない。

「ソフィアの面倒まで押しつけちゃったけど引き受けてくれる? マイヤにはこれからずっとソフィアのお手本であってほしいんだ」
「うむ、どうやらわたしにはマイヤの助けが必要らしい」

 この草原のしろがねろうはどこまで分かって言っているのやら――

「仕方ねえな! オレの雌犬っぷりを見習いやがれ!」

 マイヤはウィルの首から手を離し、自身の薄い胸をドンと叩く。その心意気が頼もしい。
 この赤毛の幼なじみの目が「ほかにまだあるか。なんでも言ってみろよ」と促してきたので、ウィルは微笑みながらあと一つだけ条件をつけ加えた。

「ぼくはほかの女の子と結婚するし、これからも屋敷の女中たちにお手つきするけど、マイヤには一生、男としてぼくのことだけを好きでいてもらうからね? ぼくもそこは譲れないんだ」
「そんなの当たりめえだろ!? 一生おまえのことが好きだからこそ、胸の奥がこんなに張り裂けそうになっちまってんだよ!?」

 振り返ればマイヤとの数々の思い出が脳裏に蘇ってくる。
 孤児院に捨てられ、「ともだち」が欲しいと望む幼い令息の願いを叶えるべく屋敷に連れて来られた赤毛の孤児は、やがて身も心も屋敷の女中となり、身も心も令息に捧げるようになった。

「マイヤ、ぼくもマイヤのことが大好きだよ。もしぼくが『ぼくの子を産んでくれ』って言ったらマイヤは喜んで『はい』って返事をするんだよ? まだだいぶ先の話なんだけど、ぼくは必ず言うからね?」
「そんなの『はい』って言うに決まってんじゃねえかよ!? うあああああああん、ひく、ひくっ、嬉しくてたまんねえよォ。オ、オレをこんなみっともなく泣かしやがって。ウィルのバッキャロー! うわあああん!」

 マイヤはついにウィルの胸の中に飛び込み、号泣するのであった。


屋敷の置かれている政治的な状況とかをギュッと詰め込みましたが、この辺に違和感があるとかありましたらコメントください。
伯爵家女中伝はあくまで屋敷の中で令息がお手つきしまくる部分が主題で、屋敷の外の政争は(ソフィアとの絡みがあるにせよ)流れゆく背景みたいなものなのですが、なるべく鬱陶しくない範囲で丁寧に描写したいと思っています。



第六十九話「赤毛の雌犬の号泣」へのコメント:
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