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第七十話 SIDE:ジューチカ「痩せぎすの調理女中の悩み」
『ジューチカ、元気にやっていますか? ちゃんと二食食べさせてもらっていますか? 身体は壊していませんか?
あなたはとても不器用なのに、人一倍責任感が強いので、頑張りすぎていないか母はとても心配しております。
お給料が減額になった話は分かりました。お父さんは晩酌を一杯ひっかけられなくなったと嘆いており、できればこれまでどおりの仕送りを頼むと伝言を預かっておりますが、一切気にしないように。自分の都合を優先なさい。
あなたが仕送りをしてくれたおかげで、いままで我が家は十分すぎるほど助かってきました。くれぐれもあまり無理をしないように』
わたし――ジューチカは、机の上のランプだけが室内を照らす使用人部屋で、二つあるベッドのうち自分の使っている片方に座りながら、温かい気持ちを慈しむように母からの手紙をそっと抱きしめていた。
「お母さんったら、もう。こんな大きなお屋敷なんだから、わたし、二食どころか毎日三食食べさせてもらってるわよ――と言っても自分で作っているんだけど。お父さんのほうは相変わらずだなあ……」
ひとり感慨に耽っていると、いつまで経っても成長しないこの薄い胸からスルリと便箋の二枚目がすべり落ちた。
『追伸。
女料理人になるという夢を見るのも良いですが、あなたはわたしたちに似て取りたてて才があるわけでも無いのですから、ちゃんと現実も見ることも大切ですよ。
結婚して家庭を持つのも決して悪い考えではありません。あなたのような親孝行な子が産まれたのですから、この母が保証します。
姉のティアリにも、理想の男性探しなんて夢から醒めてさっさと嫁入りして落ち着いてくれれば良いのにと思っております。
そうそう。あなたと一度会ってみたいという男性がいらっしゃいました。なんでも内覧会というのに行って、マルク家で働く女中に強い興味を惹かれたそうですよ。もし見合いをする気があるなら一度暇をもらって帰ってきなさい』
それを読んでわたしの胸がズキリと痛む。
「さ、才能ないなんて自分で分かってるわよ。娘の気持ちを挫くようなことをわざわざ言わなくたっていいじゃないの……」
決して悪い親なんかではないことは分かっているし、自分のことを心配してくれる母親の言葉だからこそ、なおさら堪える。
わたしは腰を浮かせて備え付けの椅子に座り、深呼吸をしてから、インクに浸しておいたペン先を走らせる。
『お母さん、平和な村にならず者が現れたと聞きました。だれも怪我をしていないことを祈っております。
お屋敷の状況が良くなり、お給料も元に戻してもらったので仕送りはこれまでどおり送れそうです。無理はしておりません。
お母さんは心配しておられますが、わたしはこれでもお屋敷の中でそれなりに頼られているんですよ』
この時点でのわたしは、せいぜい村に数人の物盗りが現れたのだと事態を過小評価しており、手紙に書いた『それなりに頼られている』というのは、少し見栄を張りすぎかななどと頬に手を当ててせせこましく考えこんでいるところであった。
毎日重たいリッタの尻を必死に押してなんとか調理場を回し、屋敷の使用人たちの賄い飯を作り続けているのだから、これくらい書いてもバチは当たらないであろう。
「それにしても結婚かあ。いまのわたしの状況だと考えることすらできないよ」
心の底からそう嘆息し、胸に手を当てて心を落ち着かせる。いつまでたってもふくらまない胸の薄さを指先で実感しながら再びペンを取った。
『ちょうど人手が増えてお仕事に余裕ができそうなので休暇を取れるか聞いてみようと思います。先方に失礼にならないのであれば、会うだけなら会ってみても構いません。でも、あくまでわたしは料理人になりたいので、いまのところ結婚はまったく考えておりません』
重い息を吐き出すようにそこまで書き終えたとき、コンコンとノックする音が聞こえてきた。
「よう、ジューチカ、また相部屋よろしくな!」
旅から戻ってきたという赤毛の少女が大きなトランクを抱えて部屋に入ってきた。
わたしはマイヤの目元が赤いことに気がつく。怖い目に遭ったのを思い出して、泣き腫らしたのだろうか。
「マイヤ、大変だったね?」
「おお。一時はどうなることかと思ったぜ。実家の村が襲われたんだから、おまえも相当心配だっただろ?」
「え、そんなに大事だったの?」
そう驚きつつ、マイヤの声が思ったより明るいことに気がつきホッとする。
「マジで大変だったんだぞ。でも、おまえの家族は大丈夫だから安心しとけ。おまえの姉ちゃん美人だな? なんかキラキラした目でウィルを見てた。あの女ったらしめ」
「え、あのお姉ちゃんがウィル坊ちゃんをキラキラした目で? そりゃウィル坊ちゃんは品の良いお顔立ちをしてるけど、お姉ちゃんの好みは野性的なタイプでそれからはちょっと外れるような……」
わたしは小首を傾げることになる。
「野性的なタイプね。あー、それでか。もしかしたら、いずれこの屋敷に来るのかもな。もしそうなってもウィルのやつ拒まねえだろうし。まあ、何人増えたところでいまさら好きにしやがれって感じだな。へへ」
赤毛の少女は妙に余裕のある表情で笑い飛ばすと、ベッドの上にトランクケースをドスンと載せて、鼻唄まじりに自分の店を広げはじめた。
赤毛の少女は、その雑多な私物の中から不釣り合いな刺繍入りの高級下着をいそいそと取り出して、部屋に備え付けのタンスの引き出しの奥に大事そうに仕舞う。
そして次に素焼きのカップを取り出すと、備え付けの机の上に置いた。
「十年以上屋敷にいて、オレの私物ってこんなのばっかりなんだぜ。へ、笑っちまうよな。本当に大事なものは全部この屋敷に結びついていて、どこにも持ち出せねえんだ」
幼少期のウィル坊ちゃんがプレゼントしたというそれはひび割れていて、いくら穴を補修してもまともに使えない稚拙な代物なのだが、マイヤは急に大人になったような柔らかな横顔でくすぐったそうにそれを眺めて、頬を緩ませている。
あれほど一緒にいることを望んだウィル坊ちゃんと離れ離れになったというのに、それほどマイヤが落ち込んでいるようには見えないのはどうしてだろうかと、わたしは首を傾げる。
「ん? どうした? おめえの方はちょっと元気なさそうだな?」
「ああ、うん……お母さんから手紙が来ててね。わたし、どうせ料理人になる才能なんかないんだから見合いするのはどうかって言われちゃった」
ささくれ立った気持ちをそのまま打ち明けると、赤毛の少女は途端に血相を変えた。
「才能はあるだろ!? リッタだっておまえの舌は認めてんだぜ。オレもおまえのことは応援してる。親だからかなんだか知らねえけど勝手なこと言いやがって!」
「ちょっと落ち着いて、マイヤ! お母さんは、わたしのことを心配して言ってくれているのよ。わたしはマイヤと違って要領も悪いし不器用だからそう言いたくなる気持ちも分かるのよ。知りもしないのにわたしのお母さんのことを悪く言わないでったら!」
実のところ思っていたことをマイヤが代弁してくれたため、おかげでスッと胸の支えが取れたのだが、代わりにマイヤはベッドの上にストンと尻もちをついていた。
「……ご、ごめんな、ジューチカ。おまえを腐すようなことを言われたって聞いて、つい感情的になっちまってよ。うう……オレが捨て子だからかな。おまえを思う親の気持ちのさじ加減ってもんが分かんねえのは……オレって本当にダメなヤツだな。ぐすっ……」
なにが心の琴線にそこまで触れたのか、この小柄な親友が急にベソまでかきはじめたので、わたしは大慌てでひしっと抱きしめる。
「わ、わたしの方こそごめん! きっと、いまのはわたしの話の持って行き方が悪かった。なんか落ちこんでるけど、マイヤはわたしの自慢の親友なんだから!」
「……そ、そうか?」
「ええ、そうよ!」
「…………へへ、おめえにこうされるのはいつ以来だっけな。ああ、そうか、思い出した! ウィルのやつが寄宿学校に行っちまったときにこうして慰めてくれたっけな」
「そんなこともあったわね」
わたしは赤い癖毛を優しく撫で続ける。
マイヤは次第に気持ちが落ち着いてきたのか、わたしの身体を抱きしめ返すと、ふいに妙なことを口にしたのだ。
「――あのよ、おまえがどうやったら料理人になれるかを考えてたんだ。おまえがウィルの食事まで作っちまえばいいんだよ。いまが絶好の機会だ。絶対に逃すなよ。このままウィルの胃袋をつかんじまえ。こればっかりはリッタも助けてくれねえぞ。昔は自分でやろうと思っていたんだけどよ、おまえを応援することにした」
一瞬、マイヤがなにを言っているのか分からず、キョトンとする。
「いいか、リッタだけでなくオレにも気を使うんじゃねえぞ。屋敷の料理人になるってのは綺麗事だけじゃあ済まされねえんだ」
「え? そりゃあ、作らせてもらえるのであればこの上なく嬉しいけど、そもそもいつウィル坊ちゃん帰って来られるのかしらって話で――」
(そういや、リッタが暇を持て余すとろくなことがないんだよね。また屋敷に男を連れ込もうとしたり、変な問題起こさなければいいけど……ん?)
ふとマイヤを抱きしめている感触――特に胸のあたりが思いのほか柔らかいことに気がつき驚く。
思わずわたしはマイヤの肩に手を置いて身体を離し、まじまじと見下ろした。
なんというかマイヤの華奢な身体つきが、ちょっと見ない間に妙に艶かしくなったように感じられる。
「あれ? マイヤ、前よりちょっと成長した?」
「本当か!? 身体がちったあ女らしく変化したのかもな。へへ」
「えー、抜け駆け! マイヤだけはわたしを置いていかないと思ってたのに」
これはかなり本心からの言葉である。屋敷の中でわたしより痩せぎすの女中はいないだろう。
ただでさえシャルロッテから来た同年代の女中たちが揃いも揃って胸が大きいことに衝撃を受けていた折なのである。
そして腕の良い女料理人というのは、なぜかリッタに代表されるように豊満な身体つきをしているイメージがある。この胸も少しはふくらんできてほしいと切実に願っている。
「へへ。たぶん、ウィルのヤツとそういう関係になったおかげじゃねえかな? オレの身体もちったあ前より抱き心地良くなっているといいんだけどよ」
赤毛の親友はさりげなく、そしてかなり生々しいノロケを挟んできた。
それに対し、わたしは真顔で尋ねる。
「ねえ、マイヤ。そういうことするとそうなるものなの?」
「……顔が近えって。個人差あるんじゃねえの。専門家じゃねえし、さすがにいい加減なこと言えねえよ。あ、それで思い出した。トリスのヤツが呼んでたぞ。時間が空いたから診てくれるってよ」
‡
わたしは屋敷の奥まった場所にある一室で女中長のトリスさまと向かい合って座っているところであった。
(うっ……)
その瞳に見据えられると、なにもかも見透かされているようで怖い。伊達に『トリスさま』とわたしも含め、歳若い女中たちから心の中でまで敬称付きで呼ばれていない。
(それにしてもマイヤって、トリスさま相手によく平気でタメ口きけるものよね)
洗濯板のような胸のわたしが、大きく胸の張り出した女性とこうして向かい合っているだけで、圧倒的な物量差に打ちのめされてしまいそうになる。
トリスさまは、たっぷりとわたしを観察してから口を開いた。
「それでジューチカ、いまだ生理の気配は無いのかしら?」
「っ……ありません。ずっとないんです……」
それがここ何年にも渡るわたしの身体的な悩みであった――
早い子なら十歳に満たないうちに初潮を迎えるというのに、自分の身体にはそれが訪れてこない。この胸がいつまで経っても大きくならない原因であろう。
「困ったものね。先日ルノアも初潮を迎えたというのに」
「うぐっ……」
あの黒髪のちっちゃな女中はわたしを夜中に叩き起こし、わんわんと泣きながら血に濡れた下穿きを見せつけてきたのを思い出す。
自分の胸ほどの背丈しかない幼女――いや少女にまで先を越され、泣きたい気分なのは自分の方であった。
「……あの、ずっとこのままではダメなのでしょうか?」
わたしは縋るような気持ちでそう尋ねてみた。
母親から手紙で結婚について触れられるたびに焦りの感情が持ち上がってくるが、ずっと屋敷で働き続けるのであれば月のもので体調を崩すことがないし、むしろ不都合がない気もする。
「ダメね。味覚が子供のままだもの。たしかマイヤも生理を迎えてからの方が料理の腕は上がったのではないかしら? 生理も迎えていないような貧相な小娘にご主人さまのお食事は任せられませんね」
「っ!?……そ、そんな、困ります。わたし、どうしても料理人になりたいんです……」
なんとか一品か二品だけでもウィル坊ちゃんの食事を任されるようになり、それを足がかりとしていずれは料理人としての腕前を認められたいと願っているというのに――
たちどころに動揺するわたしに、屋敷の女中長はクスリと悪戯っぽく微笑みかけてきた。
「ふふ、冗談よ。わたしにそのようなことを決める権限はございません。ただ、料理人を目指すのでしたら貫禄をつけるためにも、リッタのようにもう少し身体に肉を付けたほうがいいことも事実ね」
「……それはおっしゃるとおりだと思います」
いったいだれがこんな痩せぎすの小娘の作る料理を美味しいと期待してくれるだろうか――思い詰めるわたしを宥めるようにトリスさまは一つため息をついた。
「実を言うと、わたしも若いころバレエに打ち込んでいたせいで生理は相当に遅かったの。あなたくらいの年でもまだ生理を迎えていなかったわ。胸もいまのように大きくはありませんでした」
「え!? トリスさまもそうだったのですか!?」
「そうよ。必ずあなたの身体にも生理はやってきます。そうすればあなたの身体も女らしく変わることでしょう。でもなにかきっかけが必要だわ。ただ、わたしの言うとおりにすればなんとかなるかもしれないわ」
「な、なにか方法があるんですか?」
「少々外聞の悪い方法ならございます。他言無用にできるなら教えてあげてもいいわ」
「ぜ、絶対に秘密にするのでぜひ教えてください!」
わたしは蜘蛛の糸に縋るように必死になってそう言い募る。
「ならば端的に言います。殿方に抱いてもらいなさい。そうすれば、あなたの体はきっと異性に気に入られるよう変化することでしょう」
予想外の提案にわたしはあんぐりと口を開けた。女中長が他言無用を念押しするだけのことはある。
「ただし性交だけでなく、ちゃんと自分の膣に精液を流しこんでもらわないとダメなの。これは精液に含まれる物質が女性の身体に影響を及ぼすという医学的な根拠がきちんとあるのよ。妊娠する準備のできていない女性の子宮に流し込まれた殿方の精液が、妊娠する準備を促してくれるのは考えてみればごく当然の話よね。そのためには若く、できるだけ年齢の近い殿方の精液が良いとされているわ」
専門知識の濁流がわたしから思考能力を奪う。トリスさまの言うことだ。きっと正しいに違いない。疑問を挟む余地のないくらい早口だったのも気のせいであろう。
「で、でも、結婚もしていない相手とそんなことをするのは……」
「体型だけでなく考え方の面でもリッタを見習いなさい。リッタがあの歳であの地位にいる理由、それは料理の腕だけでなく自分を引き立ててくれる異性と寝ることに躊躇がなかったからよ。本人はそこまで考えての行動ではなかったでしょうけど」
料理人を目指すのに貞操を守る必要はないことはまさにリッタが証明しているとおりである。
「そのお相手はあなたの場合どなたになるかしら? ただし女中長の立場から男性使用人と不埒な行為に及ぶことは認められませんよ?」
「っ………………」
(そんなの一人しか……)
ここまで言われたらいくら察しの悪いわたしでも、ウィル坊ちゃんに抱いてもらうよう促されているのだと分かる。
「……あの、こんな鶏ガラみたいな体つきをした小娘に興味を持っていただけるとは、どうしても思えないんです」
それに対し、トリスさまはクスリと微笑んだ。
「あら、それはあなたではなくご主人さまがご判断されることよ。わたしもあなたの素材は悪くないと思っているの。とにかく診察をしないことにははじまらないわ。さあ、前回みたいに下穿きを脱いでスカートを持ち上げてくれるかしら?」
「……は、はい。お願いします……」
わたしは蚊の鳴くような声で返事をながらスカートを摘まみ上げる。
これからトリスさまにわたしの剥き出しの秘所を診てもらうのだ。いくら医療行為とは言え恥ずかしいものは恥ずかしい。
「夜も遅くなったし、手元が暗くて見えづらいから助手をつけるわね?」
(え? 助手?)
スカートに両手を挿し入れて下穿きを脱ぎかけたあたりで、屋敷で見かけたことのない少女が手にランプを持って無言で部屋に入ってきたので焦る。
背はわたしと同じくらい。おそらく年も同じくらいだろう。長い黒髪で前髪を切りそろえた少女の顔立ちは整っている。
「ど、どなたですか?」
動揺しつつそう問いかけると、黒髪の女中はわたしに向かって口を開きかけて固まった。
だれかに似ているような気もするが、それがだれだか思いつかない。なぜかは分からないが、妙に緊迫感のある何秒間かが過ぎ去った気がする。
「屋敷の新入りの女中のウィルマよ。増えたって聞いているでしょう?」
賄い飯を作る人数を把握しておく都合、ひととおり面通しは済ませたはずなのだがこの少女には見覚えがない。
顔なじみのロゼやヴェラナも含めて、腹立たしいくらい全員が全員胸が大きかったことを覚えている。
「この子もまだ初潮を迎えていないのよ」
(あっ、だから胸がぺったんこなんだ。この子も苦労しているんだなあ)
わたしは一気に親近感を覚え、じっと見つめると、ウィルマは困ったように頬をかく。
「ちなみに初潮が極端に遅かった女の胸は、いままでの埋め合わせをするように急激に大きく成長する傾向があるの」
「え、そうなんですか!?」
「ええ、わたしの勘だけど、生理さえ迎えることができたらあなたの胸の薄さはすぐに解消されると思うわ。わたしの見立てだと、フローラと同じくらいにまでふくらむのではないかしら」
わたしにとってフローラさんの胸は、かなり大きい。リッタやトリスさまを遠くに見える雄大な山脈だとすると、マイヤの胸は身近な丘であり、なんとなくフローラさんの胸は少し離れた場所にあるわたしには到底越えることのできない山のように感じていたというのに。
「あの、なぜ、そんなことが分かるのでしょうか?」
「乳首の周辺だけ肉づきが良いと小さくふくらんで、胸全体に肉が付いていると、大きくふくらむ傾向があるからよ。股だけでなく、胸も見てあげましょうか? じっくり触れば少しはもう少し正確なことが分かるかもしれないわ」
「ぜ、ぜひ!」
「ふふ、それと急に大きくなった胸は硬く、とても乳腺が張っているの。ぜひ殿方にお願いして、口で吸ってもらったり念入りに揉みほぐしてもらうのがいいわ。まあ冗談はさておき、ほぐしておかないと乳腺が固まっていざ母乳を出すときにとても苦労をするのは本当よ?」
(ひゃああ……もう、トリスさま、明らかにわたしをからかいにかかってるよね?)
顔を赤らめるだけでなにも言い返さないわたしの反応が面白くないのか、トリスさまはわたしから視線を外し、今度は紅い唇を吊り上げながらウィルマの方に顔を向ける。
からかわれるターゲットが変わったのだと分かった。
「元々、この年頃の娘は日々体型が変わりやすいのです。特に遅い生理を迎えた娘はその傾向が顕著で、あっという間にソフィアやマイヤよりも胸がふくらむというのがわたしの見立てですの。ふとももの太さや尻の厚さも日々面白いように変わるでしょう。ご主人さまにおかれましては、ぜひ毎日手のひらの中で大きくなる固い胸を揉みほぐし、柔肌に指や舌を這わせる楽しみを知っていただきたいものですわ」
まだ初潮を迎えていないというウィルマは覿面に動揺してよろけ、ガタガタッと近くのテーブルを揺らした。
今日のトリスさまはちょっとお意地が悪い。へえ、この子も胸が大きくなりそうなんだ。
「ジューチカ、あなたもウィルマになにか言葉をかけてあげたらどうかしら?」
「あ、えと……ウィルマ、お互い大変だと思うけど一緒に乗り越えようね?」
自分にしては上手く微笑みかけられたつもりだが、より一層動揺して見えたのはどうしてだろう。
「そろそろ診察をはじめましょうか。悪いけど、わたしの時間も限られているのよ。一緒に診させてもらうわ。お互い気まずいでしょうけど、我慢してちょうだい。ウィルマのあそこを診るときには今度はあなたが助手として手伝う。それなら、おあいこでしょう? 構わないわね?」
「……はい。それなら構いません」
わたしはさして時間をかけることもなく、この初対面の少女を秘密を共有する同志にすることに決めた。
その際に、なぜかさきほどのマイヤの言葉が脳裏を過ぎる。
『おまえがウィルの食事まで作っちまえばいいんだよ』
『いいか、リッタだけでなくオレにも気を使うんじゃねえぞ』
わたしは下穿きを脱ぎ下ろすと、トリスさまに指示されるがまま机の上に腰をかける。
(うわあ。わたし、ろくに毛も生えそろっていないのに同年代の子にあそこを見られるのは恥ずかしいな……)
腰を屈めたトリスさまとウィルマが見守る前で、わたしは女中服のスカートとペティコート、スリップを順繰りめくり上げる。
そしてウィルマの下げ持つランタンの明かりに剥き出しの股を照らされながら、おそるおそるふとももを左右に開いていくのであった。
バレリーナとか体操選手は二十歳を過ぎても生理が来ないケースがあるらしいです。実はこのネタを思いついて結構前だと思うのですが、第十四話「蒸留室の双子姉妹」の生理のリストからひっそりとジューチカの名前が消えております。
ご感想をお待ちしております。
ご感想をお待ちしております。
第七十話 SIDE:ジューチカ「痩せぎすの調理女中の悩み」へのコメント:
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