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第六十三話「シャルロッテの女中たち(上)」

 ベッドの前の足置きに腰をかけた令息が、シャルロッテの女中たちを見上げて口を開いた。

「ぼくのことはウィルって呼んでね。気安い方が好みなんだ。ソフィアやマイヤには呼び捨てにさせているし、ロゼからはお兄さまって呼ばれてるね。古株の女中にはいまもウィル坊ちゃんって呼ばれることが多いかな」

 令息はそう言うが、上流階級の貴族をいきなり愛称で呼び捨てできようはずがない。まだほとんど面識のないシャルロッテの四人の少女たちからは、戸惑いがありありと伝わってくる。

「ちなみにトリスお姉さまは、昔はウィル坊っちゃまでしたが――いまはご主人さまとお呼びするようになっておりました。ヴェラナはウィルさまですね」

 ロゼの言葉に、どこかホッとした空気が広がった。

「じゃあ、一人ずつ自己紹介してくれるかな? ああ、ロゼとヴェラナは知ってるからいいよ」

「――では」と金髪の巻き毛の少女がウィルの前に進み出た。
 白い帆のような女中帽ヘッドドレスで前髪を上げた少女はスカートを摘まみ上げて膝を折り、その露わな額が沈み込む――完璧なカーテシーのお辞儀を披露した。
 たぷんと大きな胸が揺れるとともに、ふわりとスカートが広がり、その裾からまだ大人になりきらない少女特有の甘酸っぱい芳香が周囲に舞った気がする。

「エリーゼと申します。ご主人さま、誠心誠意お仕えいたしますので、どうかお目をかけてやってください」

 トリスに憧れバレエに勤しんだという少女は、トリスの呼び方を踏襲したらしい。

「きみがシャルロッテの次席なんだって?」

 そう話しかけると、金髪の少女はすっと細めた青い目を光らせた。

「ご存知いただけて光栄です。ただ、ご主人さまの長いお腕が伸びなければ、わたくしが首席でしたわ。この屋敷で働くことができなければお恨み申し上げるところでした」

 周囲の少女たちを一瞬ひやりとさせる率直な物言いは小気味よく、ウィルはそれが嫌いではない。

(あ、だれかに似てると思ったら、ニーナだ)

 ここまで見事な巻き毛ではないが、前髪を上げて額を露わにした髪型が、あの舌足らずな屋敷の最年少の皿洗いスカラリー女中メイドニーナに似ているのである。
 そう納得したときエリーゼが後ろに下がり、代わりにウィルより少し背が高く癖のある赤毛を肩の下まで伸ばした少女が進み出る。
 少女の日に焼けた顔にはそばかすが散っており、ウィルに緑の瞳を向けて、にこりと快活な笑みを浮かべてくる。

「ナタリヤと申します。測量を専門にしており、一時期は軍隊で研鑽を積んでおりました」
「測量を……え、軍隊で?」
「はい。シャルロッテのコネで実験的に軍の演習に何度か同行しました。地図の製作や弾道の計算をするだけでなく、男の兵士に混じって大砲の弾を運んでおりました」
「へええ」

 ソフィアではあるまいし、まさか女性が演習とはいえ従軍しているとは思わなかった。ナタリヤはウィルよりも少しだけ背が高いが、同じ赤毛でもジュディスほど大柄なわけではない。

「お兄さま、ナタリヤは体力お化けなのですわ。腹筋などは当然のように割れております」

 ロゼがどこか呆れるようにそう口にしたので、令息の視線はナタリヤの引き締まったウエストに向けられ、次いでその上の大きな肉の盛り上がりに移動した。

「ああ、この胸ですか。昔は色気の欠片もない小娘で男の兵士と雑魚寝しても平気だったのですけど、みるみる胸がふくらんで夜這いをかけられるようになって、こんな胸の腫れた兵士の面倒など見れるかと軍属の話はなくなりました」
「え、夜這い!?」
「ご心配なく、全員ノシましたから。揉み合ったときに胸や尻くらいつかまれたことはありますが、処女は守り抜きました」

 そばかす顔の少女はカラカラと笑い、手のひらにパチンと拳を打ちつけた。
 よく見るとその拳のでっぱるはずの部分は、人を殴り慣れているのか平らになっている。

(うわ、おっかない。レベッカの農地視察のお供にはうってつけかも……)

 そう思っていたら、ウズウズするような緑色の瞳が向けられた。

「ウィルさま、いつかお手すきのときに、あたしと手合わせを願えませんか? できればステゴロで」
(ステゴロォ!?)

 冗談ではない――夜這いにきた兵士を返り討ちにするような女と手合わせなどできるものか。

「ぼくは多少銃が使える程度で、きみの期待にはとても添えないよ」
「またまたご謙遜を。あれほどの武勲を立てておいて、いまさらなにを仰いますやら」

 かなり正直に伝えたつもりだが、ナタリヤはひらひらと手のひらを振って受け流す。完全に勘違いされている。

「あたしたち、ルクロイの村の出身で、故郷を救ってくれたウィルさまには大層感謝しております。素手がお嫌なら得物は下のお持ち物でも構いませんわ」

 どうも軍隊仕込みらしい品のない冗談を口にして、少女は一礼をして下がっていく。

(うちの領民だったんだ。ん? あたし?)

 ウィルがなにかを口にするまえに、

「あ、姉が大変な失礼をば!」

 長い栗毛の小柄な少女がスカートをつかみながら、あわてた様子でウィルの前に踊り出た。切りそろえた癖のない前髪が跳ね、大きな胸も弾む。

「ユーリと申します!」

 そう言って、ずれた眼鏡を直した。六人の中で一番小柄な少女はただ一人眼鏡をかけており、いかにも図書館の司書でも似合いそうな印象があるのに、大あわてしている。
 さきほどのナタリヤが日に焼けており、癖のある赤毛に緑色の瞳をしているのに対し、目の前のユーリは肌が白く、癖のない栗色の髪に灰色の瞳をしており、この二人は身長から肌の色、髪の色、目の色に至るまですべて違う。共通しているのは胸が大きいことくらいだろう。

「て、あれ? 姉って二人は姉妹なの?」

 ユーリはウィルが怒っていないのを見てとって、ほっとした表情を浮かべた。

「はい。わたしとナタリヤはとしの姉妹です。似てないとよく言われますが、同じ父と母から生まれました。先祖に色々な血が混ざっているためか、うちの家系は猫の子のように髪の色も目の色も違うんです。あとナタリヤの方は課外活動が多かったので一年遅れて一緒に卒業したというわけです」
(気になったことに全部答えてくれた。要領の良さそうな子だな)

 そうウィルは感心した。
 ちなみにユーリの胸はそれなりに張り出しているが、ナタリヤには及ばないだろう。着やせするのかヴェラナやリッタほど、ぽっちゃりとした印象はない。

「それでわたしの方ですが、姉ほどの体力や腕力はありませんが、一応なんでも無難にこなせる方で、特に経理を得意としております。これでもシャルロッテを三番目の成績で卒業いたしました」

 栗毛の少女はウィルの目を真っ直ぐ見て、軽く微笑みながら、落ち着いた様子でしっかり自分をアピールした。

「きみがエリーゼの次なんだ。数字に強いのは助かるよ」

 ウィルが顎に手を当てて考えるそぶりを見せると、手ごたえを感じたのか少女の眼鏡がきらんと光った気がした。一礼して下がっていく。
 どうもユーリは一見大人しそうな見た目とは裏腹に存外に優秀らしい。

(そういや、いままで屋敷の女中で年子の姉妹っていなかったな。アラベスカとレベッカはすこし歳が離れているし)

 最後に長い黒髪の妙にもっさりした、いかにも骨の細そうな少女がふらふらと前に進み出た。背の高さはウィルと同じくらい。微妙に猫背である。
 同じウェーブがかかった髪でもエリーゼと違い、髪量が多く海藻のような鬱陶しさがある。
 ガリガリに細身だが、それでも胸は大きく張り出している。顔は整っているものの、青い目の下に隈があり、三白眼で目つきが怖い。

「フ、フランチェスカと申します。フランと呼ばれることが多いです。ほ、法律に詳しいことが強みです」
「詳しいってどのくらい?」
「えと、その……あの……えと……」

 先ほどのユーリとは対照的にフランチェスカはもごもごと口ごもる。見かねたように「お兄さま」とロゼが口を挟んだ。

「フランは土地法や遺産相続に関わる条文を、すべてそらんじることができます。周辺の国々も含め、ここ百年の主だった土地の係争の判例にすべて目を通したそうですわ」
(へえ……)

 令息は、コクコクとぎこちなく首を縦に振るフランチェスカを感心したような目で見つめる。
 ウィルも土地法や遺産相続の大まかな概要くらいは把握しているが、一条たりとも口にすることはできない。
 今後いつになるか分からないが、令息はいずれ伯爵家を相続することであるし、革命の波が押し寄せている情勢下、周辺の国々も含めた土地の係争の行方を把握している人材はぜひとも手元に置いておきたいところだ。
 また、面倒な土地の区画整備に散々苦労しているレベッカの大きな助けにもなるだろう――

「すごいじゃないか」

 思わず漏れたウィルからの賛辞に対し、フランチェスカは目の下の隈を歪ませ、ピクピクと頬を引き攣らせている。

(んん?)
「お兄さま、いまフランは天にも登りそうなほど喜んでおります」
「え、これで?」

 下手に容姿が整っていることも相まって呪われた人形のような不気味さを感じていたところだ。

「極度に緊張しているせいもありますが、元からこういう挙動不審な子です。感情表現に癖のある、見た目が陰気なリッタと申し上げれば、少しは伝わるでしょうか」

 目の下に隈のあるギョロギョロした三白眼といい、海藻のような黒髪といい、どこかひょろ長い身体つきといい、胸が大きいことだけは共通しているが、見た目はリッタにまったく似ていない。もしリッタほど性に奔放なら困ったものだが――

「構ってやればすぐになつきますよ。懐かれたら懐かれたで面倒くさいのですが」
(面倒くさいんだ……というかロゼって前からリッタのことをそういう風に見てたんだね……)

 もっさり髪の少女は怪しい足どりで列に戻り、これでシャルロッテの子たちの全員の顔と名前が一致した。

「で、話があるんだって?」

 ウィルがそう促すと、金髪の巻き毛の少女エリーゼはその大きな胸に手を添えて、覚悟を決めたようにすうっと息を吸い込んだ。

「今後、このお屋敷に男性の使用人――特に家令ランドスチュワード従者ヴァレットを新規に採用するのを止めていただきたいのです」

 ウィルは目を見開いて驚きを示したあと、顎に手を当てる。

(ふうん……そこの言質を求めてきたか。やるねえ)

 伯爵の死後、屋敷の体制をどうするかある程度のプランはあるが、ウィルのいままでのやり方からして、どのみち女性使用人主体にならざるを得ないのは確かであろう。

「エリーゼ、屋敷の人事に口出しするなどそんにもほどがありますわ」

 面子を潰されたロゼが不快感を表明した。ロゼにとっても想定外の要求であったに違いない。

「自分でも相当無茶なお願いをしていることは百も承知しております。ですが、他のお屋敷のように、いずれご主人さまが側近の男性使用人を近辺に置かれるようになったら、わたくしたちに活躍の場などないものと思っております」

 エリーゼの言葉に、三人の少女たちがコクリと頷いた。

(なるほど、各々専門分野を持ってたら、エリーゼに同調したくなるよね)

 エリーゼはシャルロッテの女王蜂候補としてロゼの向こうを張っていただけのことはあるなとウィルは思った。

「いま実質的にレベッカが家令の役割を務めているけど、ちょうど人手が不足しているね」
「伯爵家にとっても、家令やその部下の男性使用人を、女性使用人に置き換えた方がずっと安上がりのはずですわ」
「――でもそれは能力が同じであるという前提の上ですわね」

 空気を読まないロゼの発言に、四人の少女たちの目が一斉に吊り上がる。

「なぜシャルロッテでともに学んだあなたがそのようなことを口にするのかしら!?」

 金髪のエリーゼが感情的に反応し、

「あたしは腕っ節だって男に負けないよ!」

 赤毛のナタリヤがそう主張した。
 栗毛のユーリと黒髪のフランチェスカはウィルの方を向く。

「悔しくて、悔しくてたまらないんです。男性に負けないくらい勉強したというのに、活躍できる職場が世の中にない! なんで女というだけで門前払いされるのですか!?」
「わ、わたしたちのこの気持ち、お、王立学院首席のウィリアムさまなら、きっとお分かりになるはず……」

 各々の訴えを聞いて、どうして優秀なシャルロッテの少女たちが貞操を捧げてでもこの伯爵家で職を得ることを望んだのか、ようやく気持ちの上で納得できた気がする。
 ロゼはこういうことですわと言わんばかりの平然とした顔をしていた。

「分かった。分かった。きみたちの能力は疑ってない。それ以上にぼくにとって大切なことは本当に信用に足る使用人かどうかなんだ。ちょっと説明するね――」

 令息はベッドの前の足置きから立ち上がり、頭をかきながら少女たちの前を横切る。

「ぼくと伯爵の関係は正直あまり良くない。いまや実質的に領地経営しているのはぼくの方なんだけど、王都にいる男性使用人のことはだれ一人として信用していない。ん……?」

 そこでこの領地の屋敷カントリーハウスでも、そういえば従者ギュンガスのことはまったく信用できなかったなと思い出し、半目になる。
 いま信用できる男性使用人は、屋敷に連れ帰るときに馭者役を務めた小作人カインくらいであろう。
 重傷を負った寡黙な初老の馭者コーチマンであったり、農地経営で助言をくれた中年の園丁ガードナーであったりと、これまで影のように屋敷を支えてくれた年配の男性使用人たちとは――マリエルの伝言によると、残念ながら顔を合わせることすらままならない。

「ルクロイの村で襲われたのもだれかの差し金で、だれが敵か味方かも分からないから、おかげで女中に扮装してほとぼりが冷めるまで屋敷に身を隠す始末なんだよ」

「あー」という声が少女たちの間から上がった。ロゼから伝え聞いた令息の奇行の件は相当気になっていたに違いない。
 ウィルは一列に並んだ家政女中たちの横で立ち止まると、スケッチをするときのように片目をつぶりながら両手の親指と人差し指を顔の前で伸ばした。指で切り取ったフレームの中に、多少重なりながらも背の低いユーリの胸から背の高いロゼまでの胸の側面が納まっていて面白い。
 あからさまにシャルロッテの少女たちを値踏みしているのだ。

「――これは絶対に内緒にしておいてほしい話なんだけど、ぼくが屋敷を継いだら、王都の屋敷タウンハウスにいる男性使用人をバッサリと切り捨てるつもりでいる。現状彼らがいなくても領地経営できているわけだしね。伯爵家の男性使用人の数は少なくとも半数以下になるだろう」
「は、半数に……」
「少なくともだよ。もっとずっと減る。中央の政争から手を引いて王都の屋敷自体を畳んでしまうつもりなんだよ。金食い虫だし、社交界から距離を置くなら維持しておくメリットもないからね」

 少女たちの息が吸い込まれ、横から見た大きな胸が一斉に揺れるのが壮観であった。

「家令は置かなくてもいい。もうレベッカに任せて大丈夫という目処は立ったもの。あとは、執事と数人の従者と従僕フットマンくらいはいてもらわないと伯爵家の屋敷としての体裁が保てないから、新規に採用しないという言質は与えられない。でも、もうそこは文句ないね?」
「――そ、それはもう……」

 金髪の巻き毛の頭が圧倒されたようにコクコクと縦に揺れた。
 要望を出した当のエリーゼとて、ここまで急進的な体制の変革は予期していなかったに違いない。
 他の国々の土地の相続をよく知るというフランチェスカは、隈のある三白眼を見開いて「ああ」と何度も頷いて納得顔を浮かべていた。
 西方の国々では、戦争で男手が取られているせいもあって大きな屋敷でも人員構成が女性使用人主体に切り換わりつつあるらしい。ウィルとしては時計の針を少し進めてやるだけだ。

「家政女中の数が不足しているから、そちらをおざなりにしてもらっても困るけど、この伯爵家の根幹を女中たちに任せるつもりだから、きみたちが想像している以上に責任のある仕事が割り振られることは期待してくれていいよ。もちろん、きみたちのことが信頼できるという手応えが得られてからだけどね――」

 目をギラつかせながら互いに視線を交わし合う少女たちの中、成績がそこまで良くないらしく、これといった専門分野を持たないヴェラナだけはどこか所在なげにたたずんでいた。

「どのようにすれば信頼していただけますか!? できることはなんでもいたします!」

 エリーゼがそう問いかけてきた。もはや交渉でもなんでもない。

「これはぼくの性向なんだけどね、抱いたことのある女の子なら信用を預けられる。抱いた子に裏切られるならもうこれは仕方がないよ。レベッカもそうだけど信頼して仕事を任せられるのは、ぼくが好きなときに好きなだけ抱ける女中だって安心感あってこそなんだ」

 恥ずかしげもなく告げられた令息の言葉に、貞操を捧げることを覚悟して屋敷にやってきた少女たちは、むしろ納得した表情を浮かべていた。

「性交も提供できない新参者の女中が、お兄さまの信頼を勝ち取れるはずがございません。当然のことですわ」
(いや、その条件ってロゼが勝手に課したんだけどね……)

 そう呆れながら令息はロゼとヴェラナの前まで歩いていき、二人の大きな胸元にそっと手のひらを向ける。
 そのまま手を伸ばして、ぎゅっと二人の胸をわしづかみにした。

(おお……)

 黒地の布越しに柔らかい感触が手のひらに伝わってくる。

(まさか、こんな風に同世代の子のおっぱいを触りくらべる日が来るなんてね……)

 しかも二人は親友どうしなのだ。
 初めて胸を――それもかなりぞんざいにまさぐられたのに、ヴェラナは目を丸くしただけで、嫌がるそぶりは一切見せなかった。
 単に驚いているだけかもしれないが、本人の申告どおり図太さはある。繊細なロゼの胸の感触に比べて、手のひらからはイグチナ似の肉厚な柔らかさが伝わってくる。
 やがてヴェラナは胸をわしづかみにされ、にぎにぎと揉みしだかれながら、嬉しそうにニコリと笑ったのだ。

「ヴェ、ヴェラナにまで先を越された……なんで?」

 エリーゼは自分の胸を見下ろし、そしてウィルにわしづかみにされ、にぎにぎと揉みしだかれているヴェラナの胸に納得いかなさそうな焦燥感の混ざる視線を向けていた。
 この金髪の少女は、ここが勝負どころと捉えたのか巻き毛のかかる胸元に指を沈ませ、

「ご主人さま、わたくしは初めてをお捧げした上で、生涯だれとも結婚をせずにご主人さまにお仕えし、一生ご主人さまだけに抱かれます!」

 ウィルにそう畳みかけるように宣言してきた。
 取るものも取り敢えずいち早く身を投げ出すことを優先したらしい。このあたりの判断の早さはさすがかもしれない。

「待って、急かさないからよく考えて決断した方がいいよ」

 令息は二人の胸から離した手のひらをエリーゼに向けて押しとどめる。

「いいえ、どのようなお望みにもお応えして、必ずご満足いただきますわ」

 シャルロッテの次席がそこまで口をすべらせたのは艶学を受講していたからかもしれない。トリスはこの時分の少女は性的好奇心旺盛で背伸びをしたがると口にしていただろうか。
 処女が男性を満足させると公言していることにおかしみを感じるのか、ロゼがものすごく良い顔をしている。

「あのね、ぼくは毎日屋敷のだれかしらにお手つきしていると思うけど、幻滅しても知らないよ」
「英雄色を好むですわ。頼もしいです。わたしたちに確実に出番が回ってきてお目をかけていただけるなら、むしろありがたいことですわ」
「ロゼにも言ったんだけど、引き返すならこれが最後のチャンスだよ。ぼくは貴族だから必ず約束は守るし守らせる」

 二人の胸を触ったのでこらえが効かなくなっており、さきほどから令息のズボンの股間は見るからにふくらんでいる。ひゅっと息を呑むような音とともに周囲からチラチラと令息の下半身に視線が送られてきた。

「お、お気遣いなく! 上級使用人を目指すのですから一生結婚などしないものと決めております。わたくしたちは元々、自分たちの力を試せるなら、お相手は脂ぎった中年でも良いと覚悟していたんです!」

 そこで焦らしてやれというロゼの言葉が頭をよぎった。

「ぼくのこと男としてはどう思っているの? 嫌々身を捧げるんだったら、ぼくはもらってなんかあげないよ」
「ああ、もう! 不満などあろうはずがありません! 王立学院の首席だしお若いしお顔も綺麗だし。正直言うと来るまえはもっと逞しい外見の、十歳くらい年上のダンディーな殿方が理想かなと思っていたのですけど、ルクロイの村でのお力を見せつけられたらもうどうでも良くなりましたわ!」

 エリーゼはぶんぶんと巻き毛の金髪を左右に振り、その大きな胸を揺らしながら、そうぶっちゃけた。
 赤毛のナタリヤ、栗毛のユーリ、黒髪のフランチェスカも息を呑むように頷いている。細部は違うだろうがおおむねそのようなところらしい。
 ロゼがそっとウィルの耳元に唇を寄せた。

「あの子たち、濡らしておりますわ。わたしも艶学を受講したあと、お兄さまにご奉仕する日を想像してつい自分を慰めましたもの。どのようなお望みにも応えると口にしたのですから、ぜひ一言スカートをめくれとお命じください。お兄さまと歳の変わらない小娘たちがどれほど性的好奇心旺盛か、お確かめいただけますわ」

 ヒソヒソとウィルの耳元にささやくロゼに対抗心を煽られたのか、エリーゼはどこか悔しげに金色の眉をひそめ、スカートの端を摘まんで挑むようにウィルの前に進み出た。

「必ずお役に立ちますから、わたくしも可愛がってくださいませ。後悔はさせません。女中としても女としても、ご主人さまに絶対の忠誠を誓います」

 赤毛と栗毛と黒髪の三人もあわてて金髪の巻き毛のあとを追いかける。
 こうして若い少女たちの香りに取り囲まれた。ウィルを中心にシャルロッテの少女たちの胸がずらりと触れ合わんばかりの半径で円周を描く。
 これだけ綺麗でこの若さでこれだけ胸が張り出しているのは、何千人に一人だろうか。それ以上かもしれない。それが何人も並んでいるのである。
 何歳か年上の成熟した大人の女性ではなく、この小便臭さの混ざる小娘どうしが張り合い、同世代の発育の良すぎる、選りすぐられた若い女体に揉まれるこの甘酸っぱい感じがたまらない。
 シャルロッテの少女たちの輪の中心で、令息はにっこりと笑いかけた。

「こうして囲まれるのも嬉しいんだけど、なんか胸の圧迫感が凄くて落ち着かないや。一人ずつゆっくり身体を触りたいから、横一列にお尻を並べてくれないかな?」


◇ 屋敷の女性一覧 ◇

女中長   1人 (トリス◎)
蒸留室女中 2人 (リサ◎・サリ◎)
洗濯女中  6人 (第一:ジュディス◎)
         (第二:イグチナ◎・ブリタニー◎・シャーミア◎)
         (第三:アーニー◎・レミア◎)
料理人   1人 (リッタ◎)
調理女中  4人 (第一:ジューチカ、マイヤ◎)
         (第二:エカチェリーナ・フレデリカ)
皿洗い女中 2人 (ルノア・ニーナ)
乳母    1人 (アラベスカ◎)
酪農女中  3人 (ケーネ)
客間女中  1人 (フローラ◎)
家政女中  9人 (ウィルマ・ロゼ△・エリーゼ・ナタリヤ・ユーリ・フランチェスカ・ヴェラナ)
雑役女中  8人 (ルーシー・チュンファ・デイジー・ターニャ)
側付き女中 2人 (ソフィア○・レベッカ◎)
修道女   1人 (ヘンリエッタ◎)
その他   1人 (オクタヴィア)
    計42人
お手つき 16人 ※済み◎、一部済み○、途中△
         ※△は数に含めず

ご感想をお待ちしております。

あと以下のように、ノクターンノベルズにアップした版と比べた修正部分を緑色のラベルで表示するようにしました。
作者本人がときどきノクタ版との差分に混乱するので整理したかった次第です。




第六十三話「シャルロッテの女中たち(上)」へのコメント:
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