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第五十九話「赤毛の親友と黒髪の妹」

「おまえ、精液臭い」

 天蓋つきのベッドの上で目を開いた令息に対する赤毛の幼なじみの第一声がそれであった。

「ん? おはよー、マイヤ。ふあああ」

 ウィルは一瞬なにを言われたのか分からず、あくびと背伸びをしながら返事をする。
 窓のない部屋で日が差さず、年代がかった木の重厚なベッドが燭台の火の光に照らされているので、いつもと違い隠れ家的な雰囲気が漂っているであろうか。

「おう、もう昼だけどな」

 やんわりと不機嫌さを主張するマイヤの声色から、このベッドでトリスとまぐわっている途中に意識を失ったのだと思い出した。

(すっごくいっぱい出したなァ……ちょっと腰が軽くなったかも。あれ? さっきぼく、マイヤに臭いって言われた?)

 令息は自分の身体をクンクンと嗅いでみて、思わず顔をしかめた。

(うわ、なんか臭うし、身体中がベトベトしてる)

 胸の谷間で射精したあと、ぬぐったとはいえ身長差のある女性と正常位で接合したのだから、多少の性臭にまみれもしよう。

「おら、拭いてやるから身体を起こせ。湯が使えないのは文句言うんじゃねえぞ」
「あ、うん。ご苦労さま」

 水の入った桶をここまで持ち込んでくれただけでも十分助かる。
 ベッドで上体を起こした少年の裸の上半身を、マイヤの持つひんやりと冷たい濡れた布が拭っていく。

「洗濯場には早めに話を通しておいた方がいいな。替えはあるけどよ、シーツも結構臭うぜ」
「そうだねえ。そのまま洗濯に出したら目敏い洗濯ランドリー女中メイドたちには、ぼくが屋敷に戻ってきてるって一発でバレちゃうし。口止めしとかないと」

 ふと、幼なじみの女中服に視線を留めた。
 少女は側付きウェイティング女中メイドとしての少し小綺麗な黒地のお仕着せではなく、プリント地のワンピースに飾り気のない厚手のエプロンと汚れてもいいような女中服を着ている。いつ以来だろうか――

「オレな。しばらく調理場に戻ることにしたわ」
「え、どうして? ……あ、そうか!?」
「おまえのメシを運んできてやるんだから感謝しろよ?」

 考えてみれば、ウィルが不在の屋敷でウィルの世話をする側付き女中に仕事があるはずがなく、屋敷に潜伏する令息の食をまかなうのにマイヤ以上の適任者はいないのであった。

「リッタに事情を話すのは、色々落ち着いてからの方がいいだろ?」

 ウィルの顔を見るだけで大きな尻をくゆらす金髪の料理人コックの姿が脳裏に思い浮かんだ。

(たしかになあ……)

 リッタはお手つき済みで顔を合わせても問題ないはずだが――なんとなく面倒くさそうなので、事情の説明は後回しにしようと少年は思っている。

「オレなんかでも居なくなったら少しは寂しいか?」

 マイヤは唇を尖らせ、拗ねるようにそう口にした。

「ちょくちょく覗きに来てくれるんでしょ?」
「どうだかな」

 プイッとそっぽを向く。
 この赤毛の少女は、ルクロイの村でウィルとともに危険な目に遭い、馬車の中では少年を必死になって自身の股ぐらに押しつけるようにスカートの中に匿ってくれた。
 考えてみればこれほどウィルに献身的に尽くしてくれているというのに、あまり報いてあげられていない気がする。
 ウィルは幼なじみの手首を引っ張って抱き寄せた。

「わわ、ウィル、おまえ精液臭えんだよ。臭いが移って他の女中にバレたら困るだろうが。引っ付くな!」

 それ以上の憎まれ口は叩かせず「あっ」と短い声をあげた少女の唇に吸いついた。
 すると赤毛の少女はいままでの不機嫌さをかなぐり捨てて、すぐに少年に縋りつき、ウィルが口内に舌を差し入れると情熱的に絡み返してきた。ぴちゃぴちゃとお互いの唾液が混ざり合う。
 やがて息継ぎをするように唾液の橋のかかる少女の唇からは、

「はあ、はあ、ウィル! ああ、ウィルぅ。オレ、様子見に来るからな。手が空いたら本当に様子見に来るからな?」

 少年を求める言葉が漏れる。
 幼なじみの少女の熱い吐息に、淡い胸をまさぐる両手の指にも熱がこもる。服の上から指の腹で、硬くなった乳首のしこりを容易く見つけることができた。

「あ、あ。だ、だめ……ウィル」

 そこを擦ると少女は予想以上に敏感にビクビクと反応した。

(さっきまで背の高いトリスの大きなおっぱいを触ってたけど、小柄なマイヤの小さなおっぱいも興奮するよね)

 トリスを好きに抱けるからマイヤのことはもう抱かなくてもいいなんて話には絶対にならないのがこの令息であった。
 十以上も年上の女性の大きな胸を好き放題揉み漁ったあと同世代の少女の小さな胸を愛でる――この女中たちの幅の広さに強い幸福感と深い満足感を覚えるのだ。
 女中服のスカートの中に手を差し入れ、奥に手を伸ばすと、ビクビクっと少女の身体が痙攣するとともに、

(あ、あれ?)

 そこにあるべき布がなく、しっとりと湿った少女自身に直接触れたので驚いた。ついぬるりと指を差し入れてしまう。

「ひゃっ!」

 ビクビクと小柄な体躯が痙攣し、プハッとマイヤが唇を離した。少女の狭い穴は締めつけがキツく、ねっとりと温かい。

「オレの下着はおまえに渡したから、いま穿いてないんだよ! あれ大事にしてんだから後で返せよな!?」
「あ、たしか女中服のポケットに入れたままだよ」

 下着を探そうと視線を回しかけたら、マイヤの唇が吸いついてきた。
 そのままぎゅうっと抱きしめられ、うっとりと幸せそうに少女の目が閉じられ舌がこちらに伸びてきた。絡み返してやる。歳上の女性のねっとりとした舌使いも良かったが、同世代の少女の瑞々しい舌も良いものだと思う。
 そのときふと、死角になっている天蓋のカーテンの向こうから、

(ん?)

 じいっとこちらを見つめる視線に気がついた。
 最初はまたリサ・サリかなと思ったが、カーテンの脇から桃色の瞳がずずっと近寄ってきて顔の左右で黒髪を縛った美しい少女の顔が見えた。
 ウィルよりも背の高い少女は、しまいには腰を屈め、令息とマイヤの唇の接合を特等席からねっとりと観察しはじめたのだ。
 びっくりして唇を離した。

「ロ、ロゼ、いつからそこに……」
「え、ロゼ!? うおっ!?」
「あら、ごめんなさい、お兄さま。マイヤも。ささ、わたしのことなどお気になさらず、どうぞ続きを……」
「続きをって……」できるわけがないと心の中で指摘をした。

 ウィルは背の伸びたロゼの見慣れない女中服姿を、上から下までたっぷりと凝視する。
 黒地のお仕着せの上に――客間パーラー女中メイドほどには凝っていない飾り刺繍入りの――白いエプロンを付け、少女の頭の上には帆のような白いフリルの女中帽ヘッドドレスが載せられている。屋敷の家政ハウス女中メイド姿であった。
 少女は嬉しそうにほんのりと頬を赤らめ、肩をわずかにモゾモゾとさせながら令息の視線を受け止めた。
 実の妹同然に扱ってきた少女が女中服に身を包んでいる姿は新鮮であり、同時に現実を突きつけられるようで、ウィルはなんとか口を開く。

「……ロゼ、いるならいるってひと声かけてよ?」
「ごめんなさい、お兄さま。マイヤの仕事を取ってしまうわけですから、お兄さまとの時間を作ってあげたいと思っていたら、熱い抱擁が始まってしまったので――眼福でしたわ」

 どう反応してよいか分からずまごついていると、マイヤがぼりぼりと赤毛の髪を掻きながら口を開く。

「……なあ、ロゼ。おまえ、自分の好きな男がオレと口づけしてたんだぜ。なんとも思わないのか?」
「あら、マイヤ。なんとも思わないどころか、マイヤを可愛がっているときのお兄さまのお顔が愛しくて愛しくてたまりませんでしたわ」
「え? ロゼ、おまえの性格はときどきよく分かんねえ。おまえ、ウィルのことが好きなんだよな?」

 マイヤは腑に落ちないという表情を浮かべている。

「はい。もちろん。お兄さまのことが大好きでなかったらシャルロッテに行ってませんわ。いまのわたしの人生の目的はもっともお兄さまのお役に立てる女中になることですから」

 赤毛の少女はしばらく悩ましげにギュウッと目をつぶったあと、やがてパッと見開いた。

「あ、なんとなく少し分かった。おまえトリスにそっくりなんだ」

 今まさに思っていたことを代わりにマイヤが口にしてくれたのだ。
 こうして二人を見比べると、昔は同じくらいの背丈だったのに、随分と身長差がついたものだと思う。
 胸の大きさも随分と違う。調理女中のエプロンの胸元が――よく観察しなければ起伏が分からないくらい――ストンと落ちているのに対し、家政女中の少し胸元が細くなったエプロンの左右からはあからさまに黒地に包まれたふくらみがはみ出している。

「やい、ウィル! てめえ、なにニコニコしてやがんだ」
「いや、だって、こんな風にロゼとマイヤが言い合いするなんて三年ぶりで、そこは昔と変わってないんだって思ってね」

 令息がそう言うと、赤毛の少女は、はあっと大きく溜息をついて肩を落とした。

「……なんか毒気が抜かれた。オレ、そろそろ調理場に戻るわ。ロゼ、あとは頼んだ」
「はい。任されました」
「おい、ウィル。下着は回収していくぞ」

 マイヤは畳まれたウィルマの女中服のスカートからレースの布切れを取り出すと、大事そうにポケットに仕舞う。それはウィルに手折られた証であった。

「まあ、羨ましい」
「へへ。また顔を出すわ。じゃあな」

 短い会話に女の複雑で繊細な感情を交錯させたのち、少女はドアを開けて退出していった。
 そして部屋に二人残される。
 ロゼは以前よりもずっと背が伸び目線の位置は随分と上になった。かつての未熟な薔薇の蕾のような儚さはない。首席卒業生として女王蜂の名を冠し、咲き誇る薔薇の花弁というべき堂々たる貫禄をつけて戻ってきた。
 まるでトリスのようにウィルの頭上には大きな胸が庇のように張り出しているのだ。トリスが頭の後ろをすっぽり包む女中帽モブキャップを着けているのに対し、ロゼは白い帆のようにフリルを立てた女中帽ヘッドドレスを頭に嵌めているのが違いだろうか――

「こうして二人っきりになるのは三年ぶりだね?」
「はい。お兄さま」

 ロゼは身体を拭く濡れ布巾を持ってニコニコと微笑んでいるが、ウィルの方は下半身にシーツを巻いただけの格好なので内心で非常に居心地が悪い。しかも情事後である。
 あらゆる観点において、ロゼを手込めにすることが求められている状況下ではあるが、古くからの顔なじみに自分の成長した局部を興奮状態で見られる心の準備はできていなかった。
 三回も精を放っておいて、まだ寝起きで勃起しているのだからウィルは我がことながら呆れるしかない。

「……あの、さっきマイヤも聞いてたけど、ぼくがその、他の女中とそういうことになってもロゼは本当に気にしないの? ぼくは屋敷の女中たちのほぼ全員にお手つきをしなければならないのだけど……」
「正直、予言のことは昨日初めて聞かせていただいたばかりですので、わたしには本当らしいということしか分かりません。ただ、あの賢明なお兄さまとトリスお姉さまが納得しているのですし、ルクロイの村で起きたことは紛れもない事実ですから、わたし個人として異議などございません。三年ぶりに屋敷に戻ってきたばかりのわたしを信じて事情を打ち明けてくださったことを心より感謝しておりますわ」

 ロゼは胸に手を当て、感じ入ったようにそう答える。

「あ、うん。ロゼが信じて納得してくれたことは大いに助かってるのだけど、どうしても生理的な感情ってあるものじゃない? ロゼはぼくに幻滅したりしないの?」
「いいえ、まったく。わたしはお兄さまの満足そうなお顔を見るのが大好きなのです」

 ウィルの質問に対し、少女はまったく意に介さないように首を振り、言葉を続ける。

「マイヤはなぜ嫉妬しないのか不思議なようでしたが、お兄さまは屋敷の女中たちみんなのご主人さまなのですから、わたしだけが独り占めできようはずがございませんし、そのような状況ではなかろうかと思います。なにせお兄さまの命がかかっているのですから」
「ぼくだけでなく、屋敷の女使用人たちの命もね」

 少年はキリッと真剣な表情を浮かべるのだが、生理現象でシーツの中で勃起した性器を隠すように内股になっているのだから格好つかないことこの上ない。

「それでお兄さま、個人的に気になっていることなのですが、わたしのことはいつごろお手つきしていただけますか?」
「ぶっ」
「わたしの希望としてやはり避妊具なしでお兄さまをお迎えしたいと思っておりますが、残念ながら避妊薬が効きはじめるまでまだ数日はかかる見込みです」

 まるで洋梨の食べごろでも伝えるように下腹のあたりをさするロゼのあまりの率直さに面食らう。

「わたしはいますぐに味見していただいても構いませんし、お兄さまのどのようなお望みでも受け止めますので、なんなりと仰ってください」

 とんでもない美少女に誘われて、ウィルとて心が揺るがないわけではない。なにせ頭上では大きな胸が張り出しているのだから。
 トリスは女学院出身の少女たちを、未経験なのになんでもさせられる究極の耳年増と評していたであろうか――

「お兄さまが、あの銀髪の子にされていたことをそのままわたしにやっていただくのでも問題ありませんわ」

 つまりは後ろの穴に――一瞬想像しかけてブンブンと首を振ってウィルは口を開く。

「あ、あのね、ロゼ。正直なぼくの気持ちを言うね。ぼくはきみにお手つきをすると決めているのだけど、まだ気持ちの整理がつかないんだ。血が繋がっていないとはいえ、ぼくにとってロゼは大切な妹だからね」

 心のなにかが歯止めをかけるのだ。
 ロゼはどこか男を落ち着かせなくする困り顔を浮かべている。

「お兄さま。幼少期を共に過ごした男女は性的関心を抱きにくくなるそうですわ」
「ああ、『人類婚姻史』だったかな。ぼくも王立学院の図書館で読んだよ。たしかにそうかもしれない」

 ウィルはそう納得した。このあたりの会話は、さすがは王立学院とシャルロッテ女学院の首席どうしといったところであろう。

「ですが、お兄さまはマイヤにお手つきされてますわ。さきほども愛でておられましたし、わたしだけ除け者というのは納得がいきません」

 ロゼが軽く頬をふくらませている。

「うう……マイヤとロゼはまたちょっと違うというか。マイヤは親友だけど、ロゼのことは実の妹のように思っていたわけだし」

 少年は自分でも整理のつかない感情をしどろもどろと説明した。
 マイヤのときは最初は若干の心理的抵抗があったものの、結局親友を性の捌け口とすることに大いに興奮したのを覚えている。妹を犯すきんに興奮できるかというと、ウィルの性癖からは少し外れているのだ。

「お兄さま、わたし気がついたのですが、お兄さまがわたしを抱くことを避けているのは、わたしを性的な対象と見なすことで、これまでの血の繋がらない擬似家族の関係が崩れてしまうことを懸念しているからではありませんか?」
「……あ。それはあるかもしれない」

 ズバリと言い当てられた感じがする。

「ロゼはそういうのはないの?」
「お兄さまには申し訳ないことですが、わたしは最初からお兄さまのことを異性として意識しておりましたので」
「え!? そうなの?」

 ロゼの発言に大混乱に陥る。ウィルにしてみれば人格形成の大前提が崩れたようなものだ。

「お兄さまに初めて男を感じたのは、幼少のころにお兄さまに出会って抱きしめられたときにございますわ」
(本当に最初の最初じゃないか!?)

 さらに黒髪の美少女はベッドの上で下半身だけシーツを被せたウィルの方に顔を寄せ、花の匂いでも嗅ぐようにすうっと息を吸い込んだのだ。

「ロ、ロゼ!?」
「さきほどマイヤは精液臭いと言いましたが、わたしには、いかにもお兄さまという、とても良いお匂いだと感じておりますわ」

 血の繋がらない妹はうっとりとそう語る。

「お兄さまは、わたしのことを実の妹のように大事にしてくださっていますが、わたしにそんな資格などございません。なぜならわたしは、そんなお兄さまに幼少のころから性的に欲情しておりましたから。お兄さまのことを想い、自分を慰めたことは一度や二度ではありません」

 とんでもないことを言いはじめた。
 ここまで来てようやくウィルは理解する。目の前の少女は、自身の妹という偶像を力づくで壊しにかかっているのだと。
 ウィルは追い詰められ、あえぐようにして口に出した言葉が――

「ロゼ、きみはトリスの歳の離れた妹なんだろうか、それとも娘なんだろうか?」

 ロゼの出生に触れる質問であった。
 トリスと同じシャルロッテ女学院に在籍していたロゼならば、すでに真実にたどり着いているかもしれない。
 せめて歳の離れた姉妹なのか母娘なのかが分からないと、自分の性欲を血の繋がらない妹に振り向けることはできない。自分の性欲の形を定義できないのであった。


なんとなくほめて箱を開設したのですが、いっぱいコメント来て大変嬉しかったです。
感想いただけると嬉しいです。



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