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第八話「女中長の夜伽」

 ベッドの上にあおけに横たわるトリスの白い肢体を、しょくだいの炎が照らしていた。
 女が身につけているのは豊満な乳房を包む白い胸当てだけであり、裸の下半身の膝を左右に折り曲げ、剥き出しの股ぐらを少年の眼前にさらしている。
 ウィルの右手の中指は、すっぽり付け根までトリスの膣の体温に包まれていた。
 そこは、ぐちょぐちょしていて、ぬかるんでいて、温かい。そんなに良い匂いでもないのだが、嗅ぐと自然に興奮が高まってくる。
 なにより、トリスが反応してくれるのが嬉しくてたまらない。
 白いシーツの上で左右に開かれたトリスの股の間から尻の窄まりにかけて幾筋もの愛液が垂れ落ちており、ウィルが指をくねらせるたびに、見上げる女の紅い唇から悩ましげな嬌声が漏れるのだ。

「あん。ご主人さま。あとほんの少し奥に指を伸ばせませんか?」
「う、うん。目一杯伸ばしているつもりなんだけど……」

 黒い陰毛の茂る土手に親指をかけて、ぐにぐにと中指をりそうになるくらい伸ばしてみたが、先端に届くものはない。

「わたしは少し膣がふこうございますから」

 トリスが思案げに上半身を起こすと、白いレースで包まれた大きな胸の谷間が揺れた。

「すみません。いったん抜いてくださいますか?」
「うん」

 返事をしたあとに気がついた。

(どうやって自分の膣が深いなんて気がついたのかな。男と違って、外に見えるものでもないのに……)

 思考を掘り下げかけて、ぶんぶんと首を振った。それよりもいまは目の前の女の肉体を楽しむほうが重要である。

「んん……」

 ウィルが指をにゅるっと引き抜くとき、トリスは黒いりゅうを悩ましげに寄せた。
 女の粘膜にかっていた指先は粘液で光り、ほかほかと湯気をたてている。ウィルのシャツの袖はまだら模様に濡れていた。

「女中を抱くときに、ご主人さまにはやっていただきたいことがございます」
「う、うん?」

 トリスは畳まれた黒いスカートのポケットから、親指くらいの茶色い塊を取り出すと、長い指でぐっとウィルの唇のすきに押しこんできた。
 ウィルは戸惑いながら、条件反射的にこのよく分からないものをもぐもぐとしゃくする。
 女中長にはお菓子や医薬品作りをするための専用の蒸留室スティルルームまで割り当てられており、そこでの仕事を手伝う蒸留室スティルルーム女中メイドがいるくらいなので、これまでの経験からトリスが出すお菓子はなんでも美味しいものだという認識が染みついていた。

「あに? ほれ」

 初めて口にする、ぐにゃぐにゃとした、なんとも形容しがたい食感に戸惑う。
 蜂蜜味だが、どこか薬臭い風味も混ざっている気がする。これはお菓子ではなく薬の一種なのだろうか。

「少し噛んでいていただけますか?」

 ウィルは、言われたとおり素直に、口の中のものをもぐもぐと嚙みほぐす。やがて四角いブロックは角張った固さがほぐれ、嚙むほどに唾液を吸って柔らかくなっていく。

(甘くて結構おいしいかも。だけど――)

 かみ切れないスジ肉のようにいつまでも口のなかに残る。飲み込めず持てあましたころあいに、

「はい。お出しになっていただけますか?」

 トリスは白い両手をお椀ボウルのように差し出してきた。
 ウィルは少し戸惑いながらも、そこにぺっと口の中のものを吐き出す。トリスの手の上には、嚙み切れなかった茶色いかたまりのようなもの、そのものであった。なにがなんだか分からない。

「これは、アカシアの樹液と蜂蜜を混ぜて固めたものです」

 そう言うと、トリスはウィルの唾液で濡れた茶色い塊をくにくにと指先で潰し、小さな皿のような形に整えた。

「それで、これはなに?」
「避妊のための道具です――」
「あ、避妊!」

 さきほど触らせようとしていたのが女の子宮口だということに、ようやく思い至った。

(……性交したら妊娠するんだ。そりゃそうだよね、うわ、なにも考えてなかったや!)

 令息は快楽にばかり意識がいって、避妊について考えていなかった自身を恥じ入った。

「アカシアの樹液には古くから避妊効果があることが知られています。調べたなかでは、これが一番人体に害がないようでした」
「ひ、避妊はしたほうがいいよね」
「はい。必ず避妊はしてください。女中の妊娠は頭の痛い問題ですから」

 トリスは茶色い塊の避妊具ペッサリーを自らの女陰へとあてがう。

「ご主人さま、やり方を覚えていただきたいのです。なかに入れるのを手伝ってもらえませんか?」
「……う、うん。そのまま指で押せばいいんだね」

 令息は茶色い塊に爪を食い込ませた。
 ズブズブと桃色の洞窟の中に呑み込まれていく。
 にゅうっと指を限界まで差し入れると、こつっと一度奥の何かに当たり、指先の感触が消失した。

「後はわたしが押し込みます」

 ウィルが指を引き抜くと、小さく開いた穴はすぐにくちゅりと窄められ、膣口から半透明の粘液が垂れ落ちた。
 女中長は、背を丸める少年に見せつけるように黒い長靴下に包まれた足を左右に広げ、自らの長い指を膣深くに差し入れる。それも一本ではなく二本も――
 すぐ目の前の光景を少年は食い入るように見つめていた。

(そ、そこまでして避妊具を取りつけるものなんだ……)

 女はくぐもった吐息を漏らしながら、根元まで押し入れた指をさらに押し込んでいく。

「……ト、トリスは、そんなに妊娠するのが嫌なの?」

 少年は、内心で『もし、ご主人さまがお望みなら』という返事をしてくれることを期待していた。
 だがトリスは――

「女中とは、主人によって使役される存在です。もし女中が主人の子をもれば、わたしも扱いに困ります。はらんだ女中は、主人と使用人との中間のような存在となって、屋敷の秩序に良い影響を与えないでしょう」

 あくまで女中長としての立場で返答したのだ。
 それに若干の寂しさを感じつつも、ウィルの亀頭はこれからの行為を待ち焦がれるように張り詰めていた。

「ご主人さまに嚙みほぐしていただいた避妊具が、子宮口を覆い包んでいるのを感じますわ」

 自身の唾液をたっぷり含んだ避妊具が女のさいおうに張り付いていることが、一層少年を興奮させていた。まるで女の身体の一番深いところを差し押さえているような錯覚を抱いてしまう。
 女の身体が後ろに倒れると、乳房がたぷんと揺れ、重力で潰れた。

「さあ、どうぞ。準備は万端です」

 トリスがこちらに向かって両手を広げてきた。
 誘われるままに少年は年上の女の膝を左右に割り、白く重量感のある乳房に顔を埋める。
 少年の背中に両手が回され、後頭部には女の顎がこつんと当てられた。

「夜は長いのですから、したいことを満足するまでなさってください」

 トリスはそう優しく言ってきた。
 さっそく乳房の先端に顔を寄せる。
 何年ぶりの邂逅であろう――ふと見上げると、トリスのほうもやや困惑した表情を浮かべていた。乳母ナニーであるか女であるか決めかねているのかもしれない。
 チュパっと吸いついた。つんと突き立った乳首を唇で覆い包む。
 ここをくわえたのはもう記憶も定かでない幼児期のころ以来だ。
 強く吸ってみると、元乳母はくすぐったそうに眉を寄せたが、ここから母乳が出ることはなかった。

「おっぱい出ないんだね」
「もう何年も、断乳してましたから」

 母乳を出させようとしつように吸ってみた。
 手のひらで女の白い乳房をみ、ふたつの先端の乳首を交互に吸っていく。

「出たら、大変ですよ」
「どうして?」

 白い胸の谷間で鼻筋を揺らしながら少年がそう訊ねた。

「ご主人さまを赤ん坊扱いしているということですから。それをお望みですか?」

 ウィルはぴたりと乳首を吸うのを止める。
 そして気を取り直したように、ずりずりとトリスの身体の上をい上がっていく。
 ぐにぐにと女の両胸を揉みながら、その唇をついばんだ。

「トリス! ぼ、ぼくのを挟んでくれるかな」

 ウィルは二つの白い巨峰のうえにびくびくと小刻みに震える男性器を差し出した。

「はい。喜んで」

 女は、自分の乳房を両側からわしづかみにして、ウィルの剛直を挟みこんだ。
 両の腕の動きによって、二つの白い丘がゆるやかに前後左右、平行に、あるいは交差して少年の男性器を磨き上げる。

「う。ううっ!」

 少年は無意識にトリスの乳房のなかにトンネルを掘るようにして、前後に腰を往復させる。
 背筋にゾクゾクとした刺激が立ち上ってきた。
 このまま白い山を汚してしまうのもよいかもしれない。
 だが、それよりも――


「い、れたい!」

 ウィルはそう叫んだ。
 とにかく、問答無用に膣に挿れたい。女の膣に男根を突き刺したい。
 女の肉襞のなかで男の精を解き放ちたくてたまらないのだ。
 トリスはとろける微笑みを浮かべ、主人を受け入れるために、ふとももを左右に広げた。

「はい。どうぞ」

 それは素晴らしい光景であった。
 自分の挿入を待ちわびて、女が自分から股ぐらを開いてくれているのだ。両の足の付け根で、ぱっくりと女性自身が口を開き、ひくひくとうごめいている。
 剛直がびくびくと天をき、女への支配欲が高まっていくのを感じる。
 少年は女の左右のふとももを両手で押さえつけ、粘液で濡れ光る女性器の割れ目に、男の証明を近づける。

「存分にわたしを食らいくしてくださいまし」

 元乳母はそう口にした。
 ちゅぷりっと先端を膣口に押しつける。
 ぬるぬるした粘膜どうしが口づけをするように触れ合い、トリスの膣の入り口が軽くウィルのものを啄んだ。
 柔らかくぬめった秘肉の間をかきわけるように、ずぶずぶとウィルの性器が沈んでいく。
 ぎゅっと目をつぶりながら、根元までにゅるりと突ききった。
 さらに押しつけたがそれ以上奥には行けず、じょりじょりと二人の黒い陰毛がすれ合う音がした。

(や、やった! ついに、ぼくは奥まで挿れたんだ……)

 ぱあっとウィルの顔が明るくなる。少年は、山のいただきに立ったような征服感を抱いていた。

「トリス。もう、おまえはぼくのものだ!」

 芽生えはじめた支配者としての自我が、少年にそう叫ばせた。
 それを聞いたトリスは、もう我慢できないとばかりに、赤い唇を吊り上げ、歓喜の笑みを浮かべる。

「唯一無二のご主人さまとして、生涯お仕えいたします!」

 トリスは一語一句はっきりと口にして感極まった笑みをたたえながら、その手がわなわなと震え近づいてくる。
 その手に重ねようと、ウィルが震える指先を伸ばそうとした矢先――

「わ、わわ!」

 白く長い足が柔らかく曲がって少年の身体に絡みつき、両のふくらはぎが少年の背を押したのである。
 激しくぶつかったかと思いきや、ぽよんとその衝撃は柔らかい肉のクッションで吸収された。
 少年と女の体格差だと、女の膣内に男性器を埋めながら、巨乳が顔を枕のように支える体勢になるらしい。
 さきほどのトリスの、『女は夜具のようなものとお考えください』という言葉を思い出していた。

「すいません。我慢できずに粗相をしてしまいました」

 女は雌蟷螂めすかまきりのような、ねっとりとした視線でそう言った。
 腕だけでなく、足のつま先まで神経が通っているようにウィルの腰や背をやさしくあいをする。
 ふくらはぎや太ももがお互いの汗で温かくすべる。
 頭がでられる。
 ウィルは顔の横にある乳首に吸い付いた。
 いまは泉の源泉は枯れてしまっているが、この乳を飲んで育ってきた。
 これは何という感覚だろう。
 ――大地とまぐわう全能感。ウィルの感じているものがまさにそれであった。
 大地の恵みを吸い、大地の芯に男根を突き立てているような不思議な感覚に囚われる。考えてみれば、実の母親の顔を知らないウィルにとって、トリスとは自分を育んでくれた大地のようなものだ。

(ぼくはいま、自分の大地を犯しているんだっ!)

 そのまま大地に向けて腰を打ちつけていった。
 そうすると大地は波のように振動し、喜びのひびきをあげはじめる。
 女中長は自身への挿入をたのしむように、ウィルが腰を前後させるリズムに合わせて、背中を撫で上げる。
 ニュルッ、ニュルッと部屋に肉のぶつかる音が響いた。柔肉が性器に絡みついてくる。
 乳房の谷間から、トリスの顔をうかがうと、唇のあいだから天井に向かって舌を突き出していた。
 女のその仕草を見ただけで、思わず射精しそうになる。
 ウィルは小さなお尻をぷるぷると震わせて、なんとか快楽の波をやり過ごした。

「あら、我慢なさらずお出しになればよろしいですのに。わたしはもうご主人さまのものなのですから、好きなときに好きなだけお使いになればよろしいのですわ」

 トリスはそう言って、やや横からウィルの頭を抱きかかえると、耳の穴に舌を差し込んだ。
 思わぬ攻めに、びくんとウィルの背筋が震えた。
 なんとかその、神経に直接さわられるような刺激に耐え、

「ぼ、ぼくもトリスを感じさせたいんだ」

 そう言うと、直後、女は身体を波打たせ、ウィルは達しそうになった。

「んん。きつっ!」
「ふふ。ごめんあそばせ。わたしはどうも言葉責めに弱いようでして」

 トリスは、不用意にきゅっとウィルのものを締め付けたことをびた。

「ご主人さま。いまは、わたしのことなどお気になさらないでください。わたしの弱いところ感じさせる手順など、あとで全てお話ししますから」

 少年は自分の快楽を極めるために、激しく腰を打ちつけていく。

「あっ、あっ、ああん」

 トリスもごく自然に嬌声を上げはじめた。
 ストロークを長くしていき、くっちゃくっちゃという水音がより激しくなる。ウィルの顎先からしたたり落ちる汗が、トリスの跳ねる乳房のうえに落ちた。
 零した汗がトリスの肌に浸透していく。
 達する気配を察してか、ウィルを包む内股がきゅっと締め付けられた。
 ウィルが太ももを両手で押さえると、トリスのふとももの長内転筋が手のひらに浮き上がるのを感じた直後、猛烈に膣内が締め上げられた。
 下腹から何かどろどろしたものが上がってくる。
 限界まで突き込み、まもなく来る絶頂の予感を感じる。
 ――次の瞬間、強烈な快楽の奔流がウィルの身体を貫いた。
 どくんという精液を放出する音が部屋に響いているのではないかとすら思った。もの凄い勢いで精液を女のたいないに放出している。
 命が脈打っているかのように、ウィルの男根はどくんどくんと長い射精を続けていた。
 やがて射精が収まりはじめたころに、トリスのほうも、ぶるると身を震わせる。
 女の柔らかい肉布団の上に倒れ込むと、猛烈な眠気に襲われ、少年の意識は糸が切れるように途切れた。


   ‡


 ウィルは、男性器をねっとりとめ上げられる感触で、意識を取り戻した――
 いつのまにか仰向けになっていることに気がつく。
 トリスのほうは、こちらに白くれいなお尻を向けて髪をかきあげながら、その下腹部の柔らかくなった肉の棒を口に含んでいる。
 次に先端だけ啄むと、尿道に残ったものを、ちゅぱちゅぱと音を立てて吸っていた。

「尿道にのこった精液は吸い出したほうが良いとされています。今後は女中をそのようにおしつけください」

 上から男性器を口に含むと唾液はいんけいの根元に流れ落ちていくのだが、トリスはじゅるじゅると音を立てて唾液を回収し、喉を鳴らしていく。

(ぼ、ぼくのものに付着した唾液を飲みこんでいるんだ)

 若い男根は、次第に勢いを取り戻しはじめていた。
 トリスはウィルの男性器を右手で柔らかく包むと、ぺろっと赤い舌を伸ばし、亀頭の周辺にそよがせる。
 舌の先まで神経の行き届いたトリスの舌遣いのあまりの見事さにウィルは感動する。

「――ね、ねえ。トリスの思いっきり凄い舌技を見せてくれない」

 ウィルは、それがどれだけ迂闊な一言だったかをすぐに知ることになる。

「よろしいですとも!」

 トリスは、ウィルの股間にうつぶせに顔をしなだれかからせた姿勢から、膝を少し立てる。手慣れた手つきで左手の指を二本己のしょに差し挿れると、背をらしてウィルの男性器に口を近づけた。

「ん? なに、その体勢?」

 さきほど浴室で潰れた蛙のようにウィルのまえで跪いていたのとは違う。
 なんとなく、自分よりもずっと身体の大きいネコ科の肉食動物が背を反らして顎門あぎとを開いている姿を連想させた。

「ご主人さまは、ご自分が楽しむことだけに集中なさってください。わたしは存分に楽しませていただいておりますので」

 蝋燭の炎に照らされたハート型の尻がゆらゆらと左右に動く。
 猫だけでなく虎などの大型動物もこうやって、獲物をねらう前に尻をふるという。

「もし、わたしの身体を触りたければご自由になさってください。わたしは身体が柔らかいのでどのような要求にでも応えます。胸なり尻なり、揉むなり吸うなり噛むなりたたくなり、ご随意に」

  そして、女は感慨深そうにためいきをついた。

「ここまで本当に長かった。積もり積もったとしの情念でご奉仕させていただきます」

 ――その直後、快楽神経を直接刺激されたかのような感覚が背筋を駆け上った。
 窄められた紅い唇が、秘肉の細道に分け入るような抵抗感をウィルに与えていた。同時に頰がへこみ、猛烈に吸引されている。
 女の喉奥に突き当たったと思ったとき――

(ふ、深い――!)

 階段でも踏み外したような浮遊感に、ぞわりと肌があわった。入ってはいけない領域に侵入しているような気がする。
 それと同時に、のどおくの粘膜が一層ねっとりと絡みついてくる。どうやっているのか分からないが、女ののどがキュっと亀頭を締めつけてくるのである。
 まるで神経を直接刺激するかのような強烈な快楽が背筋を駆け上り、少年は鳥肌を立てながら性感を感じることがあるのだと知った。
 ――そこからのトリスは一切容赦をしなかった。
 もう瞬殺に次ぐ瞬殺である。
 ウィルは二度ほど続けて逝かされた。
 もう覚えているのはそこまでである。ウィルはゼンマイが切れたかのように意識を失った。


   ‡


「や! みんな、おはよう!」

 翌朝、少年の表情は明るかった。

「みなさん、おはようございます」

 隣りを歩くトリスの声がウィルに続く。
 屋敷の令息は女中長と一緒に、裏方の女中たちの働く階下の世界の見回りをしているところである。
 注がれる視線に少年はふと気がつくと、

「ん? トリス、どうかした?」

 横を見上げ、くったくなくそう問いかけた。

「ふふ……ご主人さまの普段とお変わりない――それどころかみなぎってさえいらっしゃるご様子に感動しているだけですわ」

 トリスは、さも頼もしいと言わんばかりに淡褐色ヘーゼルの瞳を細めている。

(いや、昨晩は相当キツかったよ? 何度も途中で意識を失ったし……)

 ウィルは少し困ったように苦笑いを浮かべる。
 こうして平然と歩くことができているのは、若い回復力もさることながら、はじめて女を経験して自信がついたというのが大きいだろう。
 なにせ、昨日までとはまるで景色の見え方が違って見えるのだから――
 木綿のお仕着せと厚めの生地のエプロンという、掃除に適した午前の服装に身を包んだ女中たちが忙しそうに働いているのを、女中に身を捧げてもらう喜びを覚えた令息は、主人然とした視線で眺めていられるようになったのだ。

「ううっ。重い。朝は忙し……ん?」

 ウィルの横を、石炭の入った鉄バケツをもった雑役女中オールワークスが急ぎ足で通り抜けようとして、ぴたりと足が止まった。

「おはようございます。坊ちゃん。女中長ハウスキーパーも……え?」

 白いシーツの山を抱えながら、うれしそうに挨拶をしかけた洗濯ランドリー女中メイドの足も止まった。

「おはよ。あ、ウィル坊ちゃん、おはようございまーす!  あれ……?」

 卵の入ったかごを抱えた調理キッチン女中メイドが振り返った。
 四つん這いになって床を磨いていた女中も、額に髪の張りつく顔を上げてじっと見つめてきた。

「……ねえ、いつにもまして女中長のお肌つるつるじゃなかった?」
「それになんだか上機嫌みたい!」

 屋敷の女中たちが、あちらこちらでささやき合い、ちらちらと視線が寄越されるのを感じる。
 少年は半歩遅れて付き従う女の顔を振り返り、うわで眺めた。
 黒髪によく映えるトリスの肌はしっくいのように白く美しいが、ともすれば人としての温かみに欠けるよう見られるきらいがあった。そんな昨日までとは違い――

「……トリス、なんだかみんなうわさしているよ?」
「あら。ふふ……女中なのですから噂話くらいいたしますわ」

 情事の余韻を漂わせるように、女の唇からは熱を含んだ息が吐き出されたのだ。

(そりゃ、みんな足を止めるよ……)

 要するに一夜明けたあとのトリスは、より一層、れいになっていたのだ。

「……なんだかウィル坊ちゃんのほうも、どこか雰囲気変わったよね……? すこし大人っぽくなられたような」
「なにか心境の変化でもあったのかしら?」

 後ろから聞こえた女中たちの声に、少年はぎくりと肩を震わせる。せめて本人に聞こえる場所で噂話をしないでほしいと思い、苦笑をらした。

 廊下を曲がり、トリスが先に進むと、揺れるトリスのぷりっとなめらかな尻が見える。バレエをやっていただけあって、歩き方が綺麗であった。
 ウィルは、きょろきょろと周りに女中のいなくなったときを見計らい、片手で形のよいお尻を撫で上げてみた。
 トリスは表情一つ変えずに黙って、ウィルの愛撫を受け入れる。
 かつてウィルのたけがトリスの腰ほどしかなかったころ、この尻は頰を寄せる場所であった。
 いまは触りかたも以前とは違って、尻の肉たぶの合間を指でなぞるようになっている。
 ウィルは、昨晩この割れ目の奥に射精したかと思うと、胸がどきどきとした。

「あら」

 ふいにトリスは立ち止まり、白いエプロンで包まれたおへその下あたりを、指の長い手のひらでさすった。

「昨日、いただいたものが下りてまいりました」

 そう呟いたのだった。
 トリスの唇が少年の耳に寄せられた。

「いっぱいお出しいただきましたから、わたしの下着はもうご主人さまのものでべとべとですよ。ちなみに今日は黒です――ご主人さまが、黒はわたしのイメージとおっしゃってくださいましたから」

 目の前の長身が穿いている黒い下着の股のクロッチに、自身の放った白い精液が絡んでいることを想像すると、むらむらっとした欲望が鎌首をもたげる。
 ズボンの布が少し持ち上がりはじめたが、もうウィルはそれを隠そうとはしなかった。
 昨日までなら、みっともなく腰を引いていたことだろう。
 目の前の女とは昨夜さんざんなぶった――嬲られた関係にある。いまさら隠す必要を感じなかった。

「まあ、ご主人さま。ご立派になられて。ふふ。でも次はほかの女を試してみませんか?」

 女中長はそうささやきかけてきたのだ。



◇ 屋敷の女性一覧 ◇

女中長   1人 (トリス◎)
蒸留室女中 2人
洗濯女中  6人
料理人   1人
調理女中  4人
皿洗い女中 2人
酪農女中  3人
客間女中  1人
家政女中 12人
雑役女中  8人
側付き女中 1人 (ソフィア△)
    計41人
お手つき  1人 (済み◎、途中△)




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