↑［≫］ボタンを押すことで次のコメントに飛びます
第七話「女中長の性教育」
こんな遅くに女性を自室に引き入れたのは、幼児期を育児室で乳母とともに過ごして以来、これが初めてであろう。
壁際に置かれた小さな銀の燭台に一つだけ火の灯る薄暗い部屋の中で、少年の胸の鼓動は高鳴っていく。
向かい合って立つトリスの服装はいつもの女中服であった。
エプロンは着けておらず、すぐ目の前には、自分よりも頭一つ分くらい背の高い女性の黒い布地を押し上げる大きな胸のふくらみが見える。
さきほどウィルが乱暴につかんだ後ろ髪も、再び頭の後ろできっちりと束ね直されていた。
「わざわざ、着替えさせてごめんね」
「いいえ」
トリスが首を振ると、乳児期のウィルを育んでくれたその大きな胸のふくらみがたぷんと一緒に揺れた。
「むしろ嬉しかったです。それはもう」
トリスは柔和な笑みを浮かべる。
どのような格好で部屋を訪ねたらよいかと聞くトリスに、いつもの女中服のままがいいとウィルは答えたのだ。
今日は本当にいろいろなことの起きた一日だった。
少年の人生の転機といえる。
そんな今日を締めくくるのに相応しい出来事がこれから起きるのであった。
トリスの背後には、いつもウィルの使っている天蓋つきの白いベッドが見える。そこは女中の手により完璧なベッドメイクが施されていた。純白のシーツがぴんと張られており、いつでも使用できる状態にある。
目の前のトリスはというと、自制するように自身の両肘を押さえながら、ぞくぞくと身体を震わせていた。
（ぼくは、いまから、これからこの女を抱く……！）
令息は鼻から荒い息を吐きながら、足を一歩前に踏み出して、長身の元乳母にゆっくりと手を伸ばす。
すると、待ちきれないとばかりにその手がグイッと引っ張られ――
（あ……）
トリスの大きな乳房に顔を埋める体勢となった。
女の長い手が少年の身体に絡みつく。ウィルの股の間にはふとももが押しつけられており、長身の女は背を丸めながら少年の身体の裏側を優しく撫でてきた。
（や、柔らかい。で、でも。身動きが……）
女中長は女郎蜘蛛のように、ウィルに纏わりつき耳元で、
「ご主人さまは焦らすのがお上手です」
そう囁きかけてきた。
ついでに軽く少年の耳がしっとりと唇で啄まれた。女の熱い吐息が少年の首筋を直撃する。
顔を埋めた胸の谷間からは、風呂上がり特有の磨いた柔肌の匂いがした。
「……ぼくのほうからも触らせて」
「はい」
トリスはあっさりと拘束を解いた。
ウィルは、雄大な曲線を描く柔肉に手を伸ばし、指の腹で下乳の重みを慎重に確かめながら、ゆっくりと外周をなぞる。
「そのまま立ってて」
ウィルはそう言って、従順に頷くトリスの背後にまわった。
かなりの身長差がある。つま先立ちになって、ようやくそのうなじに唇が届くくらいだろう。
女の背後から両脇に腕を差し入れ、両手で乳房のふくらみを掬い上げる。重量感のある柔らかい肉のかたまりを、ぐにぐにとこねて感触をたしかめた。
（す、すごい……！）
極上の女の肉体を自由にしている感じがたまらなく良い。
視線を下げると、ウィルの腰より高い位置にある大きな臀部が、黒い羅紗地のスカート生地を柔らかく押し上げているのが見える。
左手で乳房を揉みながら、右の手で女の尻を撫で下ろしてみた。尻の谷間を指先で念入りになぞっていく。
身体を触るたびに、女の柔腰にぶら下がっている鍵束がじゃらんと音を立てる。
ウィルにとっては何気ない――屋敷の女中たちが耳にすれば反射的に背筋を伸ばさざるを得ない――この音を聞いてふと思いついた。
「いつかトリスが女中に指示を出している後ろから、こうやってお尻を撫でてみたいな」
女中たちの見ているまえで女中長の尻を何気なく触ったら、女中たちはどれほど驚くであろうか。
「ふふ。それはよろしうございますね。ご主人さまがそうなさる日を楽しみにしておりますわ」
女が心底楽しみだと言わんばかりに陶然と微笑んだので、いまさら冗談だとは言い出せない雰囲気になってしまった。
見上げていると無性にその赤い唇を吸いたくなったが、つま先立ちになってもまだ届かない。トリスの方からウィルに合わせてもらう必要があるだろう。
「ト、トリス、ベッドに腰を掛けて」
「はい」
女は従順にベッドの縁に座り、じっと少年を見上げる。
ねっとりとした赤い唇がわずかに開いていた。
（ええい。いっちゃえ……！）
少年の背が屈められ、未成熟の唇が、成熟した女の赤い唇の上に被せられる。
合わさった瞬間、熱い息が流れ込んだように思う。
（ああ！ ぼくいま、トリスと口づけしているんだっ……）
さきほどのソフィアの唇の瑞々しさに対し、トリスの唇からは熟し切った果実のような、ねっとりとした濃厚な味わいを感じるであろうか。
舌を差し入れると、すぐに応じてくれた。しばしチロチロと舌先を絡め合う。
（あ、あっ……）
脱衣場で性器を咥えてもらったときのように、弱いところを的確に捉えてくる感じがする。
身を委ねていると、それだけで達してしまいそうだ。あわててちゅぱっと唇を離した。
「あとでもっと凄い口づけを教えてね」
「はい。いくらでも」
唾液で唇を濡らしながら、トリスはうっとりと返事をした。
「ねえ、トリス。女性のあそこがどうなってるか見せてくれない？」
ウィルの要求はひたすら直線的であった。
「あ、ちょっと」
するとトリスは女と教育係の中間の顔をして微笑み、唇の端を舐めた。
「いいえ。自分でご主人さまに性の手ほどきを申し出たのですから、いかなる要望にもお応えするのが筋であり、わたしの使命だと考えております」
トリスはスカートを脱ぎ落とすと、白いガーターベルトに白いストッキングで包まれた脚が露わになった。
トリスの下着のイメージは黒だと思っていたので意外だった。
ウィルの視線に含まれる色合いに気がついたのか、
「今日は、なんだか生娘のような気分でしたので」
手の甲を鼻の先にあてて、トリスはくすりと笑った。
「うん。とても似合っている。トリスのイメージは黒だけど白も新鮮でいい」
思わずといった感じで、そうぽつりと呟くと、「女泣かせになりますわ」そうトリスは潤んだ瞳でウィルを見上げた。
「今後は女中の下着の色もご主人さまがご指定ください」
「え？ は？」
しかも、トリスは「わたしの」と言わずに「女中の」と言った。
「スカートをめくったときに、好みと違う下着だと興ざめでしょう？」
「……い。いいのかな……そこまで干渉してしまって。ごくっ」
露骨に女中のスカートをめくる自分の姿をイメージしてしまった。
幼い頃、女中のスカートをめくるのはお気に入りの遊びだった。といっても、女中の腰にも背が満たないころの話である。女中のスカートは絶好の隠れ場所なのだ。女中たちもくすくす笑いながら、自分からスカートのなかへと誘導してくれたものだ。
刺繍の入った長靴下の巻かれた二本の綺麗な足、それがウィルの心象風景である。
だが、幼い時分にスカートをめくるのと、いまそれをやるのでは意味合いが全然違う。
「部屋のカーテンや壁紙を変えるのと同じですわ」
トリスはそうあっさりと言ってのけた。
ウィルは奴隷市場で、家具でも選ぶかのように奴隷達を買っている上流階級に嫌悪感を感じたものだが、扱い方が丁寧なだけで、マルク家でもやっていることは実はあまり変わりがない。いや、奴隷として買ったわけでもない女中たちまで家具のように扱っている分、なお始末が悪いかもしれない。
「女中のほうも、高価な下着をつけられると喜びます。むしろご干渉なさってください。それにお仕着せだけでなく、直接肌に接する下着にまで主人の意思が反映されていると、女中の意識も違ってきますから」
（な、なんの意識が違ってくるのだろう……）
女中長の思考は、怖いくらいに主人のより良き屋敷の支配を手助けすることで一貫していた。骨の随までの女中長である。
ウィルは、いまトリスの思想の偏りよりも、ベッドの縁に腰をかけて薄明かりで見える目の前の白いデルタ地帯のほうが気になって仕方がない。
ゆっくりと足を左右に開くと、レースの刺繍の縁取りがある白いショーツが露わになった。
「ご主人さま、お手数ですが、燭台に火をつけていただけませんか。ちょうどご主人さまの右手のそばにありますので。しっかり明るい場所でご覧いただいたほうがよろしいかと」
「あ、うん」
ウィルは燐寸を擦って、棚の上に置かれた蝋燭に火を点すと、トリスの影がゆらゆらと扇情的にカーテンに映し出された。
蝋燭の火に、白いレース編みの中央部がゆらゆらと照らされている。そこは湿って色違いになっていた。蝋燭の火で見ると、なぜか匂いをいっそう強く実感してしまう。
「女中たちは、服装はお仕着せですから、下着だけはお洒落をすることが多いのです。さあ、どうぞ――」
トリスは濡らしたショーツを見せつけるように股を開いたまま促してきたが、ウィルはここで困った。
次にどうすればいいのか、さっぱり分からないのである。
「えっとね――こういう場合、次にどうするとかってマナーはあるの？」
「あら。ご主人さまが望むとおりになさればよろしいのです。触っても舐めても、匂いを嗅ぐのも自由です。わたしの身体で思う存分、女を抱く練習をなさいませ」
「……た、たとえば、……こ、こんなところの匂いを嗅いでもいいのかな？」
ウィルは恥ずかしそうに、そこを指さし、そう問いかけた。
育ちの良さも相まって、ウィルは、女の股間に顔を埋めるという行為に抵抗を感じてしまうのだ。
「わたしの可愛いご主人さま。愛とは――そして性欲とは原始的なものですよ。ご参考までにわたしの痴態を晒しましょう」
トリスは、床に落としたスカートに手を伸ばし、ポケットから白い綿の布きれを引き抜いた。
それはさきほどウィルの射精を受け止めて汚した下着であった。
（な、なんで持ってきてるの！？）
「わたしはいやらしい女にございます」
そう言って、艶めかしく白く長い脚がＭの字になるよう、その踵をベッドの縁に上げると、濡れて透き通るショーツがいっそう見やすい姿勢となった。
トリスは、そのまま背を後ろに倒して、白濁で汚れた下着を鼻筋に当てて、すうっと息を吸い込んだのだ。
その姿はウィルに衝撃をもたらした。
「ご主人さまの汗と精液の臭いがします」
今度は、ぺろぺろと下着に舌を伸ばして舐め始めた。
（な、舐めてる！？）
トリスとは、ウィルにとって母親代わりの乳母であり、知識の多くを授けた女教師である。
その女がウィルの精液を舐めて鼻息を荒くしているのだ。
「射精まで長かったためでしょうか。前回夢精されたときにいただいたものより、ずっとお味が濃厚です」
（ぜ、前回……？）
トリスの白いレースの下着の中央はじゅわあっと目に見えて濡れている。
「男女がお互いの生殖器に舌を這わせるくらいごく自然なことですよ。教会はなるべく快楽のない性行為を推奨していますが、厳密に守っている人なんてほとんどいないでしょう」
それはウィルも薄々感じていたことである。
「人の自然な営みを否定する教会の教えなど、もうお忘れください。あれは一夫一妻制を前提としている平民の足枷であって、貴族であるご主人さまに相応しい考え方ではありません」
トリスは教会関係者が聞いたら宗教裁判にかけられそうなことを平気で言ってのけた。
「ふふ。こんなものは世間ではしょせん睦言と呼ばれます。睦言だからこそ本音と本音でぶつかり合えるのです。ご主人さまにおきましては、女の本音を引き出し、自らの本音で女を従えてください」
トリスは熱い吐息を吐きながら、女中長の顔で微笑んだ。
「ご主人さまはこれからソフィアを自分好みの女に調教なさるのでしょう。女のあそこくらい嬉々として舐めなくて、どうして女を自分の思いどおりにできるとお思いですか？」
「……トリスの言うとおりかもしれない」
トリスは必ず、ウィルが納得する理屈を引っ張り出してくる。
ソフィアを自分の好みの女に変えてしまいたいという欲望がウィルの背中を押した。
「さあ、どうぞ。女は感じると膣が濡れます。どうぞ触ってみてください」
ウィルがぐにぐにと濡れた下着の中央をなぞると、急に「あん」という嬌声を上げたのでびっくりした。
「ふふ。気持ちがよければ声も出ます。お嫌いであれば声を出すのを我慢しますが……」
（あのトリスが自分の指先一つで感じているんだ……）
ウィルの背筋がぞくぞくと震えた。
「聞きたいから、我慢しないで」
「はい……あんっ」
ウィルはしばらく布の上から、ぐじぐじと股間を攻め、トリスは淫靡な感情のこもった声を上げ続けた。指先には粘着質な液体がこびりつき、嗅ぐとちょっと腋の下のような汗の臭いがした。
（へえ、女性のあそこってこんな臭いがするんだ）
臭いには臭いが、どちらかというと、チーズのように慣れると癖になりそうである。
「お尻をあげて」
「はい」
少年は、ぐしゃぐしゃに湿ったトリスのショーツを引き抜く。
そうすると、ほかほか湯気をあげるトリスのあそこが露わになった。
「す、すごい……。女性のあそこはこういう形をしていたんだ……」
「ご主人さま、ご説明します――ここが勃起した男性器が入るところです」
トリスはそう言って、敏感なその部分に指先を差し込んだ。くちゃりと音を立てて、指の第二関節までが沈む。抜いたときに、指はてらてらと蝋燭の明かりで光っていた。
「もうご主人さま専用ですわ」
その言葉に、ごくりと唾を飲み込んだ。
「この上の小さな穴が尿道で、女性がお小水をするところです」
ウィルの目に、わずかな肉の凹みのようなものが見えた。
「ここからおしっこが出るの？」
「はい。女のお小水も意外に勢いよく出るものなのですよ。ご主人さまのように――」
（う……）
この女性は自分のおしめを替えていたのだ。改めてそれを意識させられてしまう。
「――見たいのですか？」
「実は、ちょっと……」
後ろめたさで小声になる。
「今度、浴室でお命じください。さすがにご主人さまの寝室を汚したくはありません」
トリスはくすくすと笑った。
（そりゃそうか……）
残念なような安心したような、そんな気分である。
「さらにその上が――」
その声に促されて、ウィルは女の陰部にかぶりつくように顔を近づける。
膣口は、少年の鼻が触れるか触れないかの距離にあり、なにか別の生き物のように妖しく蠢いている。
トリスの指がその上の突起で止まったとき、眉頭が上がり、指が震えた。ウィルの鼻先にあるそこは、とても敏感そうだった。
「ここが陰核で、女性が特に感じる場所です」
「へえ。ここを弄ればトリスを泣かせられるんだ」
「はい。泣かせてください」
ウィルが、少年らしい躊躇のなさで、そこに舌を伸ばし、女芯を舐め上げると、
「あん！」
トリスは、黒地のブラウスに包まれた大きな乳房を揺らしながら、上体を大きく後ろに反らせる。
すると、白い尻肉の谷間がよく見えてきた。窄まりがウィルの眼前に晒される。
「ちなみに一番下が不浄の穴――肛門です」
女中長は己の恥部をすべて晒したまま、嬉しそうに言葉を紡ぎ出す。
「え、えっと、ここだね」
ウィルは親指で尻肉を左右に広げてじっくりと観察する。
「ああっ。ご主人さまがわたしの汚らしい穴をご覧になっています……」
トリスがそうつぶやくと、ふとももが少し痙攣し、前の穴がきゅっと収縮する。
膣口から透明な液体が流れ出て、尻の窄まりを濡らした。
「……ちなみにお尻の穴も、男性器を受け入れる穴として使うことができますよ」
「え、ここを？」
「はい。ですが、上級者向けですから、まずは女陰に慣れてからにしたほうがよいかと」
「う、うん……わ、分かった」
ウィルはそう言って、女の膣口の周りをくちゅくちゅと指先でなぞりあげると、
「つっ！」
トリスは悩ましく眉を寄せながら、白いふとももをぷるっと震わせた。
「ソフィアはそこに処女膜が張っていますから、もし約束を守られるのであれば、うっかり突き破らないように気をつけてください」
まるで約束を破るのが前提であるかのような口ぶりだった。
「暗くて見づらいんだけど、処女膜ってどのあたりにあるものなの？」
ウィルがそう訊くと、トリスは、股間を舐める猫のように柔らかく身体を折り曲げて、自身の膣の入り口を指で左右に開いてみせた。
「身体柔らかいね」
「ご存じのとおり、バレエをやっておりましたから」
少し三つ編みの髪量が多すぎるきらいはあるものの、頭の後ろできつく結われた黒い団子のシニヨンはどこかバレリーナの残り香を感じさせるものがある。
「ご主人さま。明かりをこちらに近づけますか？」
手近にある燭台を近づけると、桃色の洞穴の入り口が見えた。その奥の内壁はウィルが想像していたよりも起伏に富んでいるように見える。
「未通の女はいま口を開いている膣の入り口の何割かが処女膜で覆われています」
トリスは膣の入り口に小指を差し込み、そこで円を描いた。
「全部閉じているわけではないんだ」
「はい。完全に閉じていると、生理のときに血を吐き出せなくなりますので」
そこに生命の神秘のようなものを感じて、「なるほど」と令息は何度も頷いた。
「あと、処女膜の形は女の子によって個人差が激しいと思います」
「トリスはどんな形をしていたの？」
そう訊ねると、女は少し首を傾げ、ウィルが焦る。
あまりに酷い質問だと気がついたのだ。
「――あ、さすがに答えられなければ」
「あ、いえ。思い出そうとしたのですが覚えてないんです。わたしはバレエの訓練をしているうちに、気がついたら破けてまして」
「へえ……」
「身体を極端に曲げるような激しい運動だと破けることもあるようです」
（そういうものなのか）
ウィルは目を丸くした。
「ええ、おかげでわたしの初体験の相手はバレエの教師だったのですが、破瓜の血が流れず大層疑われました。バレエ教師のくせに……」
思いもかけずトリスの男性経験を聞くことになった。
「――トリス。もし嫌だったらそこまで話をしなくてもいいんだよ」
ウィルはいまさらだがそう言った。
トリスの口調に僅かな険を感じたのだ。
「お優しい。これからはご主人さまを唯一の男性と定めてお仕えするのですから、むしろ、ご主人さまさえ不快でなければ聞いていただきたいのです」
ウィルは湯気の立つ股間を拝むようにして神妙に頷く。
「ありがとうございます。わたしが話をしている間、ご主人さまはお好きになさっててください。女中のしがない昔話にすぎませんから――」
トリスの言葉に甘えて、さっそくウィルは女陰のなかに舌を窄めると、トリスの両の足先の震えが、ウィルの手に伝わった。
「ん。当時のわたしはシャルロッテ女学院の生徒で、バレエに身を捧げていました。んん」
シャルロッテ女学院は、女性が通える最高峰の教育機関として名高い。
マルク家もかなり出資をしているという。詳しく聞いたことはないが、その縁もあってトリスがマルク家に来たそうである。
舌先の動きに応じて、ときおり女の紡ぐ言葉がゆらぐ。
「これでも、ちょっとしたものだったのですよ。わたしはバレエ史に自分の名前が残ることを露とも疑ってませんでした。ライバルが仕込むトゥーシューズの画鋲もなんのその。翌日にはわたしと同じ目に合わせてやりましたが――わたしはシューズを血染めにしてでも踊って見せましたわ。少女時分は、傲慢にも自分が芸術の神に選ばれていると信じていましたから」
右側の足をぴんと上に伸ばして見せた。座った姿勢にも関わらず、爪の先までぴんと神経が通っているように見える。
女陰の縁から股の付け根から白い太ももにむけて、くっきりと筋肉の筋――恥骨筋が浮かび上がる。
たったそれだけなのに、
（綺麗だ……）
ウィルはそう思った。
機能美というか、抜き身の迫力のある美しさであった。足先まで自分の意のままにするためには激しい訓練が必要だろう。
視線を戻すと、トリスが脚を開いたため女陰の形が変わっている。
（ここが、ぼくのものを入れる穴なのか）
思わず唾液を飲み込んだ。ウィルの心を読んだかのように、
「ご主人さま。指を入れてみてください」
トリスはそう言った。
「あ、うん」
おそるおそる人差し指を桃色の肉壁の中に差し入れる。ぬめった肉壁が指に絡みつくが、吸い込まれるように中へと消えていく。
「ん！」
トリスの顎が反れ、白い喉と顎の裏が見えた。そのまま指の第三関節のぎりぎりのところまで押し込んいく。
「失礼します」
トリスはそう言ったあと、白い太ももの内側の筋と腹筋がくんと張ったかと思うと、ウィルの挿入している指を、ぬめった肉壁がきゅっと締め上げた。
（こんなところに僕のものを入れたら、どうなってしまうのだろう――）
ウィルは、ソフィアの股間に男性器を押しつけているだけで達してしまったのである。
ごくりと唾を飲み込んだ。
「鍛えると、女のあそこはかなり自由になります」
トリスの白い頰は少し紅潮し、息を荒くしたまま、首まわりに白いレースの刺繍の入った黒地のスチュワートブラウスを脱ぎ始めた。
細かい刺繍の入った布地で包まれた大きな胸が露わになる。身体つきが華奢で乳房だけが大きいので、その存在感に毎度びっくりする。
「わたしはその後もバレエを続けていたのですが、必死の食事制限にも関わらず、身長が高くなるのは止まらず――」
トリスは眉間に皺を寄せながら、自分の乳房を両手で掴んだ。
「なによりもこの胸です。この胸が邪魔だったんです」
「え、駄目なの？」
「駄目なんです！ バレリーナにとって乳房が揺れるほどみっともないことはありません。相方のバレリーノとの共演でも、持ち上げられるリフト動作のときに胸が上下に揺れて、はしたないと言われます。おまけに重いと暴言まで吐かれました。だいたい、わたしは骨も細いし身体も重いほうではないんですよ。分かりますか！？」
トリスはつらつらと一気にまくし立てる。
「わ、分かる。た、たぶん――」
なんとかウィルがそう答えると、トリスは、はっと我に返り、気まずそうに顔を少し赤らめた。
そして恥じ入るように、こほんと咳払いをする。
「とにかくバレエの道を諦めざるをえなくなったわたしは、荒れに荒れ、バレエの教師と関係を持ち、妊娠してしまいました」
いま、まさにウィルが指を入れている穴から子どもが生まれてきたのだ。生々しすぎる話であった。
「そのバレエ教師とは？」
ウィルはつい聞いてしまった。聞かずにはいられなかったのだ。トリスがかすかに眉間に皺を寄せた。
「あの男は、国王陛下の不興を買い、殺されました。わざわざ陛下のまえで陛下を嘲るような演目を踊ったのです」
「――ごめん。悪いことを聞いちゃった」
しゅんと暗い雰囲気になり、思わず抜こうとするウィルの指を、トリスは取り押さえ、ぎゅっと膣で締めあげた。
（うわ……いま、すごい締めつけだった）
その感触にウィルは目を丸くする。
「いえ、全然、まったく。殺されて当然の男でしたから。あの男のことなど愛してないので問題ありません」
トリスはそう言い捨てて、顔を左右に振る。胸当てに包まれた大きな乳房も揺れた。
「そ、そう……」
そこから先は生半可な覚悟では踏みこめない。そう予感した。
「あのような男のことなどどうでもよいのですが、娘を失ったのはとても残念です。だからこそ、ご主人さまにお仕えすることができたのですが――」
女は寂しげに瞳を伏せる。
娘と死に別れたトリスには乳を授ける赤子がおらず、母親と死に別れた赤子のウィルには乳を授けてくれる女が必要であった。
「生きていたら、ぼくやロゼと一緒に遊べたのにね……」
ウィルがそう言うと、トリスはハッと淡褐色の瞳を見開いた。
ロゼというのはトリスの年の離れた妹のことで、父親の伯爵から顧みられず家族がほしいと願うウィルのために、この屋敷に連れて来られた経緯がある。
黒髪を頭の左右で結わえたロゼが、その名前の由来ともなったロゼワインのように綺麗な薄桃色の瞳でウィルを見つめ、ウィルのことをお兄さまと呼んで慕ってくれたのだ。
ロゼがウィルの女中長を目指すようになり、トリスの後をなぞるように遠く離れたシャルロッテ女学院に入学して、もう三年くらいは顔を合わせていない。
（あと半年くらいでロゼも卒業だよね。早くロゼに会いたいなあ……）
ウィルが感慨に耽っていると、トリスがじいっとウィルの顔を見つめていることに気がついた。
「ご主人さまがあの子に目をかけていただけることを、姉として大変光栄に思います」
少しだけ潤んだ目元を長い指でこすった。
「さあ、気合いを入れてご奉仕させていただきますわ」
ぎゅっと握った両手の間で、大きな乳房がぶるっと震えた。
◇ 用語解説 ◇
◇ 登場人物 ◇
【ロゼ】
第七話「女中長の性教育」へのコメント：
コメント入力のお願い
Twitterログイン後、本文中の行をクリックすることで直接行にコメントがつけられるようになっております。
書いている著者自身がWeb版／同人Kindle版／商業版の各バージョンの違いで混乱しているものでして、もし読んで気になる点や誤字脱字などございましたらご指摘願います。
↓ クリックするとTwitterログイン画面に飛びます ↓
コメントのお礼に特典小説もご用意しております。
ページ
先頭
末尾