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第六話「閨の教育係」

「つまり、ソフィアの妹を取り戻すまでは、ウィル坊ちゃまに処女をささげることはできない、そういうことですわね?」
「うん。そう約束した。内緒にしていてごめんよ」
「すまないが女中長ハウスキーパー、そういうことだ。わたしには人並み外れた腕力があり、純潔とともにこの力を失えば妹を取り戻すのが非常に難しくなる」
「そうですか」

 令息から事情を説明され、大きなタオルを身体に巻きつけただけのトリスはふうっと溜息をついた。
 そして、さきほどの感情的な反応が嘘のように淡々と少女の着替えを手伝いはじめた。その静けさがどこか不穏で怖い。

(そりゃ、高い金を払ってソフィアを買っておいて、夜伽をさせられないのはトリスからしたら納得がいかないよね……)

 ウィルが気を揉んでいる間に、ソフィアの着替えがどんどんと進んでいく。
 少女の白い足は太ももまである純白の靴下に包まれ、細いウエスト周りには長い靴下を吊るためのガーターベルトが着けられた。
 そのデルタ地帯は、銀毛をうっすらと透かせる薄いレースの下穿きで包まれていた。
 少女は自身の刺繍飾りの細かい純白の胸当てと下穿きを、裸でいたときよりもむしろ居心地悪そうに内股気味になって見下ろしている。
 トリスがソフィアのしっとりとした銀髪を軽く梳くと、高級な下着に包まれた少女の肢体の上に銀糸が舞って流れ落ちた。

(なんかさっきまでと違って可憐に見えるよね)

 この少女が、ついこの間まで奴隷の丘のうえでおりに入れられて野性の狼のように空を見上げていたなんて伝えても、屋敷の女中メイドたちもにわかに信じないだろう。
 すっかりと野性味が包み隠され、どこぞの高貴な令嬢が下着姿に剥かれていると勘違いされてもおかしくない。
 バスタオル姿のトリスはソフィアの出来栄えに納得するように一つうなずくと、その目をすっと細めた。

「つまり先ほどのように、に至らない肌の接触であれば、なんの問題もないというわけですね?」
「え? それはその……」

 ソフィアは痛いところを突かれたとばかりに言葉にまった。
 そこはまさに、ウィルが厳密に定めることをちゅうちょしていた境界線である。

「唇を吸われようが、乳を吸われようが、処女膜に傷さえつけなければ、何をされても文句はありませんね?」
「り、理屈の上ではそうなるな……」
「その上で、望み通り妹さえ取り戻せば、ウィル坊ちゃまに処女を捧げる契約と理解してよろしいですね?」

 畳みかけるようにトリスが念を押した。
 ウィルはかたを飲んでソフィアの返答を見守る。ウィルとトリスの視線が純白の下着姿の少女に突き刺さる。
 ソフィアはしばらく無言で下唇を引きらせた後――こくりと首を縦に振ったのだ。

素晴らしいトレビアン――ならば何も問題はありません。そういう趣向とは考えつきませんでした」

 トリスはメインディッシュの出来映えに満足する外国の料理人シェフのような口調でそう賞賛した。
 ウィルも「素晴らしいハラショー!」と叫んで、北方の軍騎兵舞踊コサックダンスでも踊り出したい気分であった。
 そこでふとトリスの微妙な言い回しに違和感を覚えたことを思い出す。

「そういう趣向って?」
「これなら処女のまま教育できますね」
「処女のまま教育?」

 ウィルは、トリスの放った怪しげな言葉に戸惑う。

「はい。わたしの考えが浅かったと思い知りました。先ほどは使用人ぜいが大きな声を出して申し訳ありません」
「え、いや――」

 止めるまもなくバスタオル姿のトリスが膝を折り、腰を屈める。
 よりいっそう露わになった胸の合わせ目を見下ろすことになり、白いふとももを包むバスタオルのすそも引っ張られる。足の付け根の黒い毛がほんの少しだけ顔をのぞかせた。
 散々洗い場で見たにも関わらず、つい胸と股間に視線を往復させてしまった次の瞬間――

「ウィル坊ちゃま――いえ、にお願いがあります!」

 トリスは、バスタオルで巻かれた長身を、脱衣所の板張りの床にたたきつけるようにして頭を下げていたのだ。
 死ぬほどぎょうてんした。
 床に額までつけている。
 女の土下座である。それもこの屋敷で一番権威のある女の――

「……な! ちょっ! ど、どうしたの!?」

 いきなりご主人さま呼ばわりされたウィルは、あまりに唐突な展開に目を丸く見開いて、ぱくぱくと口を開けることしかできない。
 あまりの急な展開に下着姿のソフィアも、ただただ成り行きを見守るしかないようだ。

「願わくばこのトリスに――ご主人さまに性の手ほどきをさせていただけませんか。ねやにおいても私をご主人さまの教育係に任命してほしいのです」
「教育係――……閨の?」
「はい」

 平伏したまま返事をするトリスを見下ろすと、丈の足りない女体を包むバスタオルからは、ぷりんとした大きな白いお尻が見えた。
 白い尻たぶの割れ目が匂うようで、とても卑猥に感じられてしまう。思わずウィルはごくりと喉を鳴らした。
 トリスだけではない。ウィルの横には純白の下着姿のソフィアが控えているのだから。トリスに叱られ縮こまっていたウィルの男根がむくむくと膨らみはじめ、ズボンの股を押し上げていく。

(早くこれをなんとかしないことには、もう頭がおかしくなりそうだよ)

 そして焦燥感に駆られていたのはウィルだけではなかったらしい。突如として、ひれ伏す黒髪の女がれた調子で顔を上げたのだ。

「この願い、かなわないのであれば、おひまを頂きとうございます」

 思わず血の気が引いた――

(お暇!? どうしてそうなるの!?)

 トリスは余人を持って代えがたい。もしトリスが急にいなくなるものならこの屋敷は空中分解も同然だ。そのくらい目の前の女中長の能力に全幅の信頼を置いてきたのだ。

(ときどき、よく分かんないところある人だけど、一体どうしたものか………いや、どうしたもこうしたもないな)

 対応を考えようとしてまず気がついたのは、ウィルに選択の余地がないということである。
 すぐさまウィルの理性と性欲、それぞれから導き出された結論が完璧な合一を示した。

「――分かった。トリスに任せるよ」

 ウィルは腕を組んでトリスを見下ろしながら、そう返事をした。
 少年の精一杯の虚勢である。

「ありがとうございます」

 トリスは感極まったように、ぐりぐりと額を木の床にすりつけた後、すくっと長身を起こした。
 その顔には深紅のが咲いたような満足げな笑みがたたえられていた。
 その表情には女中長よりも女家庭教師ガヴァネスとしての一面が強くあらわれている気がする。
 だが、なめらかな白いやわはだを薄皮一枚へだてた下には、元乳母ナニーとしての余裕が感じられなくなり、匂い立つ雌の情欲がぐるぐると渦巻いているように感じられた。

「――では、まず、せっぷんからいきませんか?」

 一瞬「紅茶にしませんか」とでも言われたのかと思った。

「接吻? 接吻ってあの……?」

 もちろん接吻がなにをするものかなどウィルは知っている。

「はい。お互いの唇や舌を絡め合い、唾液を交換しあう――あの接吻です」

 思わずトリスの熱い吐息の漏れる唇をまじまじと見つめてしまった。
 目の前の紅薔薇べにばらのような女は、たしか三十近い年齢のはずだがしおれる気配をじんも感じさせない。
 それどころか、年を追うごとにより濃密な芳香を放つようになったように思う。

「基本中の基本で、意外に奥が深うございますよ」

 トリスは、れて光る唇を左右に釣り上げて、ほほむ。

「う、うん。教えて――」

 ウィルは素直にそう答えた。
 もう何でもいいから、この下半身の猛りを解放したかった。
 ウィルの胸がどんどんと高鳴る。ウィルはこのままトリスと口づけを交わすのだと思った。
 しかし、すっとトリスは片手を上げて制すると――

「わたしのようなとしが、ご主人さまの初めてを頂くのは分不相応にございます」

 その指を銀髪の少女の方に向けたのだ。
 ソフィアはぎくっと肩を震わせた。

「ご主人さま自ら選ばれたこのぎんろうぞくの処女なら、申し分ないかと。ソフィア。あなたは口づけを交わした経験がおありですか?」
「……わ、わたしか? 口づけの経験? ない。ないな…………」
「よろしい。さあ、ご主人さま。この少女を自分の色に染めましょう。口づけはそのための第一歩ですよ」

 トリスはウィルの背中をそっと押した。
 性のはけ口を求めて少年の足が一歩前に踏み出される。もうウィルの理性は擦り切れていた。

「ソフィア。いいかな? いいよね?」

 股間をいからせた少年が鼻息を荒くして、下着姿のソフィアににじり寄る。

「………え――え?」

 銀髪の少女は思わず周囲を見回したが、脱衣場の壁が見えるだけで自分の助けになりそうなものは何も見当たらない。

 ウィルは乱暴にソフィアの右腕をつかみあげる。その細碗が鉄格子をも引き裂いたということは綺麗さっぱり忘れ去られていた。

「ご主人さま――女をそんなふうに扱うものではございません」

 ウィルの手にそっとトリスの手が添えられ、ダンスの指導でもするかのように、ソフィアの腰を優しく抱き寄せるよう腕の位置を矯正された。
 より自然に――否応なしに男女が向き合う体勢となる。

「女性は優しく扱うものです。女なんて正しい手順で扱えば、ご主人さまの言うことを何でも聞くようになるのですから――」

 さりげなくトリスの女性観が凝縮された言葉が、いまそれどころではないウィルの耳を素通りする。
 目の前に見えるのは、鼻梁のすっと通った美少女の顔――良い匂いのする銀色の髪はまだしっとりと濡れている。
 草原の狼のように毅然としていた少女が身体を隅々まで洗われ、慣れない衣服を着せられ、一族の命運を背負った肩を抱かれてウィルのほうに不安そうに琥珀色の瞳を向けているのだ。
 ウィルはなにかを言わなくちゃと思っていた。

「君にはこれからぼくのものになってもらう。その代わり君の妹はかならずぼくが見つける。そう誓うよ――」

 ソフィアはじっとウィルの瞳を見つめた後、首を縦に振った。

「目を閉じなさい。殿とのがたに唇を吸ってもらう女のマナーですよ」

 ソフィアは覚悟を決めたようにぎゅっと目をつぶり、くっと小さな顎を上げた。
 薄桃色うすももいろの唇を差し出す少女は、清らかさとともに、どことなく神殿娼婦しんでんしょうふに通じるような神性しんせいと紙一重のところで禁忌きんきに触れるみだらさを感じさせた。
 唇と唇が触れあう。唇は温かかった。
 どうしていいか分からずに、唇をただ強く押しつける。そのたびにソフィアの唇が形を変える。
 より唇の感触を味わうために吸盤のように唇を強く吸いあげた。
 しばらく唇の感触を味わっているうちに、顔の角度をずらして唇を交差させたほうが、より深く密着させられることに気がついた。
 息が切れるまで唇を吸い続け、そして離す。

「ぷはっ、はあ、はあ、はあ……」

 ウィルだけでなくソフィアの方も、唇のまわりを唾液で濡らしながら肩で呼吸をしていた。

(まだ、ぜんぜんし足りない……!)

 ウィルはソフィアを引き寄せるように抱きしめた。
 少年の腕の中に下着姿の少女の小柄な身体が収まる。
 そうするとぼっしたウィルの男根の膨らみを下腹部で受け止め、ソフィアは肩をそば立たせた。

「ご主人さま。今度は舌を入れてみましょう」

 ソフィアの戸惑いを無視して、トリスは次のステップへと誘導した。
 吸い寄せられるように唇が触れあい、ソフィアの口腔へと舌を差し入れた。

(すごい……!)

 伸ばした舌全体が異性の粘膜で包まれるのは初めての体験だった。より大きな刺激を求めて、ウィルの手がソフィアの尻と胸に伸びる。
 ブラのすきに指が差し入れられ、尖った乳首に触れた瞬間、ソフィアは少し顎を上げ、合わさった唇のまま途切れ途切れに身を震わせた。尻の谷間を指がったとき、ソフィアは唇を合わせたまま、腰が引ける。

「ソフィア。あなたは処女膜以外は捧げる約束をしたのでしょう?」

 トリスの言葉を聞いて、ソフィアは引けかけた腰をウィルに合わせるように元の位置に戻した。
 びくびくとウィルの男根が脈打っていることを股間のあたりで受け止める格好となる。
 乳首をいじっていた指が離れたとき、ソフィアは鼻で息を吐いた。それが二人の口許をすり抜ける。それで、ようやく鼻で呼吸をすれば良いと二人とも気がついた。
 ふくらみに乏しい胸の代わりに、ウィルは両手をショーツの内側に差し入れ、形の良い尻を思う存分みほぐす。

(な、なんてやわらかいんだ!)

 膨らんだいんけいを思う存分押しつけた。
 同時に、ソフィアの口腔を思う存分なぶった。
 唇と歯の隙間に舌を差し入れ、一本一本歯をなめていく。
 興奮が高まっていく。限界に近かった。
 押し寄せる刺激に耐えかねてソフィアが唇を離したところを、さらに唇で捕まえて、自身の唾液を流し込む。
 思ったよりも大量の唾液を送り込んでしまったせいか、ソフィアが困惑の表情を浮かべている。

「もらった唾液は飲むのがマナーですよ」

 嘘くさいトリスの言葉を信じたのか、やがてソフィアはこくりと喉を鳴らした。

(の、飲んでる!?)

 そのことがウィルの性感を一層高めた。少年の小さなお尻がぶるぶると震え、その震えが背筋へと伝わっていく。
 ソフィアの口腔に一際鋭く舌を打ち込み、尻肉を思いっきり掴み、腰を突き出した瞬間、

(――あああ! い、いくぅ!)

 ウィルの頭が真っ白い快楽で染まる。
 抱き合ったまま、ウィルの綿の下着のなかに濃い精が放たれた。
 ソフィアの男を迎え入れる器官のすぐそばで、精を送り出す男の律動を繰り返す。
 ソフィアの下腹に張りついたウィルのこわばりが少しずつ力を失ってかんしていく。

(き、気持ち良かった……)

 快楽がひと段落した頃合いで唇を離すと、二人の間に唾液の橋が架かった。
 目の前のソフィアは肩で息をしながら唾液の垂れた顎を手の甲でぬぐうと、慣れない行為によほど疲れたのか、よろけて壁にもたれかかる。
 ウィルとしてはまだまだ味わいたかったが、どうやら奴隷市場から解放され屋敷に連れて来られたソフィアの身体はもう限界らしい。
 ウィルの呼吸も落ち着いたころには、トリスに手助けされながら、ソフィアは屋敷の女中服に着替えていた。黒のワンピースに、白いエプロンを身につけている。

「ふう。ようやく服を着られた」

 ソフィアはやれやれと首を振った。
 銀髪の少女は先ほどよろけたことを恥じるかのように、ぴんと背筋を伸ばして立っている。
 奴隷市場にいた少女の雰囲気は、すっかり屋敷の女中へと――立ち居振る舞いを覚えるのはこれからだが――様変わりしてしまった。

「今日はもう部屋で休んでいいよ。疲れてるでしょ」

 そう言ったが、ソフィアはまだじっとウィルのほうを見つめている。

「ちゃんと約束は守るよ。心配しないで――」

 ソフィアはこくりとうなずいた。
 そして去り際に、「うう……。身体が熱くて落ち着かない……」と呟いた。
 年の近い少年の性欲をまともに受け止めたのだから無理もない。
 脱衣所の扉がばたんと閉まると、なんだか熱情のいんが一枚の扉で遮断されたようで寂しい感じがした。
 それを見透かしたのかトリスは、

「――まだしたりないのではありませんか?」

 淡褐色ヘーゼルの瞳をあやしく輝かせ、そう問いかけてきたのだ。


   ‡


「着替えないの?」

 ウィルがタオル一枚の女を見上げて、そう問いかけると、

「さきにご主人さまのお召し物を替えさせてください」

 主人の着替えを優先するのが当然とばかりに、トリスは答えた。

「え、ぼくの服?」
「まさか、おズボンのなかをそのままにして、お部屋にお戻りになるのですか?」

 たしかに、さきほど放った精液がべっとりと下着を濡らしていて気持ちが悪い。

「さあ」

 トリスはそう言って、長い脚を折ってかがむやいなや、ウィルの腰の皮革ベルトを掴んだ。
 獲物を捕らえるもうきんのような動きだった。

「え、ちょっと!」

 あっという間にベルトを緩めると、ウィルのズボンは膝の下まで降ろされてしまう。
 三十前の熟れた女がタオルを巻いただけの格好で、少年のズボンを剥ぎ取ろうとしているのだ。

「ま、待って。トリス!」
「ズボンまで染みるといけませんので」

 女は取りあわない。
 ウィルは、着替えを手伝ってもらうというよりは、半ば以上押し倒されて床にお尻をついた。
 トリスは、そのまま少年の両の足首から要領よくズボンを引き抜いてしまう。
 一瞬でズボンを畳み終えて篭に放り込んだ。
 長年ウィルの世話係を務めてきただけあって手際が良い。

(あわわわ……!)

 さらに、ウィルの同意を得ずに、パンツまで引き摺り下ろしにかかる。

「ひ、ひぃ」

 倒れたウィルの膝小僧に乳房を載せるようにして、パンツを引っぱるトリスの唇は、食虫植物の花びらのように毒々しく吊り上がっていた。
 ぽろりとウィルのものが露出ろしゅつした次の瞬間、ウィルは背筋をらせていた。
 精液にまみれたウィルの男性器を、女中長は唇に含んでしまったのだ。

(こ、これが例の――!)

 そういう行為があることは知識として知っていた。
 ウィルが貴族向けの寄宿学校に通っていたときに、学校の図書館の蔵書に遙か南方より伝わった性の教典を見つけた。
 男性の生殖器を女性の口であいする性の技巧の説明を読んで、ウィルはとても興奮した。
 一緒にそれを見ていた悪友は実家の女中メイドに無理矢理くわえさせたそうだが、ひっかき傷の残る顔で「あまり気持ちよくはなかった」と体験談を語ってくれた。
 だが――いま、

(むちゃくちゃ気持ちいいッ!)

 ウィルは背中のゆかに両手をついて、自身の股間の先端をついばむ女の舌づかいに、あごを反らしていた。
 トリスの腔内は、押しては引き、吸い付いては離れ、舌が別の生き物のようにうごめいている。
 口腔性交はいけないという教会の教える倫理観などは、頭の片隅から弾け飛んでいた。
 どんどん性感が高まって、このまま身を任せたいと思いかけた矢先――あっさりとトリスは口を離した。するとウィルの男性器はトリスの唇による固定を失って、びくびくと宙を彷徨さまよう。

「トリス……?」
「女中の口は、こうしてくわえさせるのにもお使いいただけます」

 とうに息のかかる間合いで放たれたトリスの言葉に、少年は激しい憤りを覚える。
 ふざけるな!
 だいたい強引に咥えてきたのはトリスじゃないか!
 あまりの理不尽な中断に、股間をちょうさせたまま少年は怒りをあらわにしていた。
 だがそれに先んじて、

「ご主人さま――」

 トリスは再び床板に額をすりつけたのだ。

「このトリスに、ご主人さまの筆おろしのお相手を務めさせていただけませんか!」

 女中長の口を突いて出た言葉の破壊力はすさまじい――

「へ……?」

 実の母親と死別した貴族家の少年にとって、トリスこそが母性の象徴である。

「で、でも、そんな……」

 乳母ナニーだった女とまぐわってはいけないという法はないが、その行為を想像するだけでも、ウィルは大地を汚すような背徳感を抱いてしまう。

 実のところ少年はただ流されていただけで、そこまでの踏ん切りがついているわけではなかった。
 乳離れすると、トリスは家庭教師ガヴァネスとなって厳しくウィルを教育するようになった。いまや、だれもが認める有能な女中長として、この屋敷を支えてくれている。ウィルにとってトリスとは、マルクの屋敷にも相当する存在といえた。
 つまり――

(トリスを自分のモノにすることができたら、どれほど素晴らしいことだろう!)

 ついにウィルは最後の決断を下した――
 あとは、もう抑えのきかない、この青い性欲を目の前の女にぶちまけるだけである。
 だが、さきほど一度精を放ったおかげか、ふとした疑問がウィルの頭をよぎる。

(でも、なんでトリスはここまで強引なんだろう。いつも冷静なトリスらしくもない。まさか……。ひょっとして!)

 平伏する女の身体をよく観察していると、女が額を床につけたまま、やや落ち着かなさそうに尻をわずかに揺らしていることに気がついた。

(自分だけじゃない。トリスも、もう我慢できないんだ! だから性器を口に含んで、ぼくの性欲が自分に向かうように仕向けた……)

 そう確信した。
 そして、その次の瞬間にウィルの頭を占めた考えは、「ならば、どうやってこの女を支配するか」である。そのあたり備わっている資質は貴族のそれであった。

(いや、待て待て。いてはことをし損じる)

 ひとまず深呼吸をすることにした。

「ね、ねえ、トリス――ぼくにとって屋敷の女とはどんな存在だと思う」

 そう言って、ウィルは話をずらす。
 するとトリスは、頭を下げた姿勢のまま落ち着かなそうにお尻をわずかに揺らす。

「そうですね……」

 トリスは少し戸惑うように首を傾けた。

「使用人とは、人を使用するという字義のとおりご主人さまがお使いになられる道具です。なかでも女の使用人は――寝具の一種でもあると言えるでしょう。正しく扱えば長持ちしますし、次第にご主人さまの身体に馴染んで、温かく包んでくれます」
「おまえはぼくをあたたかく包んでくれるの?」

 トリスのことを『おまえ』と呼んだのはこれが初めてである。
 ごくっとトリスの白い喉が鳴った。
 ウィルは上から虫眼鏡で覗くような気分でトリスの様子をじっと観察していた。

「もちろんですとも。わたしを抱いたところで、何も面倒になることはありません。他の女と違い、避妊の用意もありますし……」

 ウィルの見下ろす先には、バスタオルを巻き、三つ指をついて平伏している女がいた。
 寄せられた深い胸の谷間を流れる汗の匂いが立ち上ってくるようだった。黒髪を後ろにまとめうなじが見える。そこは桃色に染まっていた。トリスの氷の彫像のような美貌は、いま劣情の炎に熱せられ揺蕩たゆたっているのだ。
 身体はかすかに震えており、呼吸は隠しきれないほど荒い。

(間違いない……!)

 顔を上げた女の鼻先に、ウィルは自らの剛直を銃剣バヨネットのように突きつけた。どうしても手に入れたいものに対し、少年は蛮勇をふるうのである。
 女は食い入るように瞳を見開き、少年の張り詰めた亀頭に熱い視線を注いでいる。
 ウィルは、女の後髪を白い女中帽モブキャップごと乱暴につかみあげた。

「あん!」

 髪留めがほどけて、女中帽とともに女の長い黒髪がばさりと床に流れ落ちた。
 ウィルの心臓は、ばくばくと激しくどうを刻んでいる。

「違うよね? トリスはぼくに抱かれたいんだ! ぼくがソフィアを抱かなかったものだから、もう他の女にゆずるのが惜しくなったんだ!」

 なぜだかそれを的確に指摘することができた。

「あ、あああっ……」

 トリスは感極まったようなか細い悲鳴をあげた。
 ただでさえ感情を表に出すことの少ないあのトリスが、責められる快感をあらわにしているのだ。
 それを見てウィルはぞくぞくとした心の震えのようなものを感じている。性根の素直な少年の心にも少しくらいは偏執的な部分が存在していた。
 女中長の心を抉るという思いつきは、ウィルの心の嗜虐心という痩せた土壌に大量の肥料をぶちこむ結果となった。

「ぼくのことが好き?」

 ずばりと聞いた。

「も、もちろんですとも! ――使用人としてお慕い申し上げています」
「使用人として? 違うだろ。本当のことを言ってごらん。心の内をさらけ出してみなよ」

 蛇が蛙をにらむような顔でウィルはそう言った。
 自分でもそんな芸当ができると思っていなかった。

「ひどいおかた……」

 潰れた蛙のような姿勢のトリスが身を震わせてそう呟くと、白いふとももをつうっとひとすじの透明な液体が零れ落ちた。それは無色透明だったが、汗よりももっと濃厚な女の匂いを予感させた。

「ずうっとお慕いもうしあげていました」

 トリスはずうっとを強調して、なぜかそこで軽く舌めずりした。
 どこか、交尾した後の雄を食い殺すめすかまきりのように、「お慕いしている」と「しそう」が両立している気配があって怖かった。

「服従の証として、わたしのどろどろとした醜い欲望をさらします――ご主人さまの性器をお吸いしたのはさきほどが初めてではありません。乳母としてお仕えしていたころにも、ご主人さまのことが好きすぎて、性器を口に含ませていただいたことがございます。わたしは、いまも昔も、ご主人さまへの欲情を抑えきれない変態にございます」

 ウィルはトリスのあまりに予想だにしない告白を聞いて、ぶっと喉を詰まらせた。
 だが、淫らな乳母に生理的嫌悪感を感じないでもなかったが、この屋敷を支えている女中長にまたがって征服してやりたいという欲求のほうが遙かに勝っていた。

「なら、ぼくに生涯変わらぬ忠誠を誓ってよ。女中としても、ただの女としてもだ。そうしたら抱いてやる」

 ウィルは心臓が止まりそうなくらい緊張して、固唾を飲んで見守った。
 ウィルの言葉に、目の前の四つん這いの肢体がぶるぶると心配になるくらいに身を震わせて、バスタオルが脱げ落ちた。真っ白な背中が露わとなる。
 そして、静止した時間が流れた――

(もしかして、失敗した!?)

 トリスの沈黙がひたすら怖い。
 ウィルは先ほどトリスが『お暇を頂きとうございます』と言っていたのを改めて思い出さざるを得ない。

「トリス?」

 ウィルがやや上ずった声で呼んだとき、

「――女としても使用人としても生涯変わらぬ忠誠を誓います」

 トリスが一言一言はっきりとそう口にしたのだ。

「……よ、良かったァ」

 それを聞いて、ウィルは心底安心したのか、床に背中をついて手足を伸ばす。
 一方トリスは何かの余韻にひたっているように見えた。

「ど、どうしたの?」

 ウィルがそうたずねると、トリスはまるで小娘であるかのように照れてみせた。

「――達していたんです……。ご主人さまの言葉の愛撫があまりにおじょうでしたので、つい、じっくり味わってしまいました」

 寝転んだ低い姿勢からトリスの下腹を見ると。白い太ももの付け根のあたりが、べっとりと濡れているのが見えた。
 ウィルは、ふと、肌に感じる木板の硬さと冷たさを意識した。ここだと身体を痛めるし、風邪をひいてしまいそうだった。

「もしよろしければ、これからご主人さまのお部屋に招待していただけませんか?」

 同じことを考えていたのか、トリスがそう言ったのだ。



◇ 屋敷の女性一覧 ◇
女中長   1人 (トリス△)
蒸留室女中 2人
洗濯女中  6人
料理人   1人
調理女中  4人
皿洗い女中 2人
酪農女中  3人
客間女中  1人
家政女中 12人
雑役女中  8人
側付き女中 1人 (ソフィア△)
    計41人
お手つき  0人 (済み◎、途中△)


書籍版3巻の前後と4巻に該当する部分である25話くらいまで文章の酷いところを手直ししたら、とりあえず見通しがつくかなと思ってます。

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