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第六話「閨の教育係」
「――つまり、ソフィアの妹を取り戻すまでは、ウィル坊ちゃまに処女を捧げることはできない。そういうことですね?」
大きな白いタオルだけを体に巻いたトリスが、そう問いかけてきた。声の無機質さが怖い。
「うん。そう約束した。内緒にしていてごめんよ」
ウィルは気まずい表情を浮かべて詫びる。
(そりゃ、トリスにしたら納得いかないだろうね……)
銀狼族の神子を買うのに多額の金がかかっている。ここまでの段取りにも相当な手間をかけたに違いない。
女中長は、淡々と少女の着替えを手伝っていた。
ソフィアの白い足は、ふとももまである純白の長靴下に包まれている。細いウエストは、靴下を吊る白いガーターベルトで包まれており、その下のデルタ地帯は銀毛をうっすらと透かせる刺繡入りの白いレースで覆われていた。
銀髪の少女は、下穿きと対になるレースの胸元を、裸のときよりも恥ずかしそうに両手で包み隠す。
眉の上で切りそろえられた前髪はしっとりと濡れて輝き、背中には後ろ髪が荘厳な滝のように流れ落ちていた。
(それにしても……綺麗だな……)
いまのソフィアは、奴隷市場にいたときとは打って変わって清潔感に包まれており、匂い立つような清らかな色香を放っていた。
「すまないが、女中長。わたしは処女のままでいなくてはならない。神子の力を失えば妹を取り戻すのが難しくなるからだ」
トリスは胸の上で腕を組んだ。
腕を押し上げる豊満な乳房のふくらみが、トリスの断固たる意思の重さを表わしているようであった。
「つまり、破瓜に至らない性行為であれば、何の問題もないわけですね?」
「え――いや、それはその……」
そこはまさに、ウィルが厳密に確認するのをためらっていた境界線である。
「唇を吸われようが乳を吸われようが、処女膜に傷さえつかなければ文句はないですね? その上で、あなたの望みどおり妹を取り戻したら、ウィル坊ちゃまに処女を捧げることに異存はありませんね?」
そうトリスが畳みかけた。
(ど、どうなのかな……?)
ウィルも固唾を呑んでソフィアの返答を待つ。
遠い異国から来た遊牧民の少女は、ひとしきり無言で唇を引き攣らせてから――こくりと首を縦に振ったのだ。
「素晴らしい。ならば何も問題はありません。そういう趣向とは考えつきませんでした」
トリスは、メインディッシュの出来映えに満足する外国人料理人のような口調で賞賛した。
(や、やったああああ!)
ウィルも「素晴らしい!」と叫んで、北方のダンスでも踊り出したい気分になる。
そこでふと、トリスの言い回しに微妙な違和感を覚えた。
「そういう趣向って?」
「これなら処女のまま教育することができます」
元家庭教師はそう言ったのだ。
「処女のまま教育?」
ますますウィルは戸惑った。
(なんとなく、入り組んだ趣向であることは分かるけど……)
まだ女を知らないウィルにそれ以上のことは分からない。
しばしの間、トリスは口許に手を当てて、ぶつぶつと何かつぶやいていた。
やがて考えがまとまったのか、バスタオルに包まれた肢体をウィルのほうに向けて、姿勢を正す。
トリスの大きな乳房は下半分だけがタオル布で覆われており、ウィルはそれに向かいあう格好となる。
「わたしの考えが浅うございました。さきほどは使用人風情が大きな声を出して申し訳ありません」
トリスは、そう言って深々と頭を下げたのだ。
(なにも、そこまで言わなくても……うおっ)
トリスの胸の合わせ目を上から覗き込む体勢となる。
女の白いふとももを包むバスタオルの裾が上に引っ張られ、黒い陰毛がほんの少し顔を覗かせていた。
半端にタオルを纏っている今のほうが、より視線が引きつけられる感じがする。
(な、なんかすごく……いやらしい)
そう思った次の瞬間、
「ウィル坊ちゃま――いえ、ご主人さまにお願いがあります!」
トリスは、バスタオルで巻かれた長身を、脱衣所の板張りの床に叩きつけるようにして頭を下げたのだ。
死ぬほど仰天した。
床に額までつけている。
女の土下座である。それもこの屋敷で一番権威をもった女の――
「……な! ちょっ! ど、どうしたの!?」
ウィルはあまりの展開に目を丸く見開いて、ぱくぱくと口を開けることしかできない。
ソフィアも息を呑んでいる。
「願わくは、ご主人さまに性の手ほどきをさせていただけませんか。閨においても私をご主人さまの教育係に任命していただきたいのです」
「教育係……閨の?」
「はい」
トリスは平伏したまま返事をした。
丈の足りないバスタオルから、長身の女のぷりんとした大きな白い尻がはみ出している。
見上げることの多かった少年にとって、女の尻をこんなふうに見下ろすのは初めての経験である。
さきほどトリスに大声で怒鳴られて、縮こまっていたウィルの男性器はズボンのなかでむくむくとふくらみはじめた。
足元の熟し切った果実は濃い芳香を放っている。特に、白い尻たぶの割れ目が匂うようで、とても卑猥に感じられた。
ズボンの前側が、かなり切羽詰まった感じに張り詰めている。
(こ、これを何とかしないと頭がおかしくなりそうだっ……!)
少年の理性はだんだんとすり切れそうになっている。
だが、それよりも早く、ひれ伏す黒髪の女が焦れた様子で顔を上げた。
「この願い、叶わないのであればお暇をいただきとうございます!」
それを聞いた瞬間、くらっと血の気が引いた。
(トリスが屋敷を辞める!? どうしてそういう話になるの!?)
もしトリスがいなくなれば、どうなってしまうのだろう。
女中長はハウスキーパーとも呼ばれ、文字どおり屋敷の維持管理に責任をもつ女性使用人の長である。女中の監督から家計簿の管理、食材の仕入れ等々と、女中長は本当に様々な仕事を担当している。もしいなくなれば、この屋敷が深刻な機能不全に陥ることは間違いない。
考えようとしてまず気がついたのは、ウィルに選択の余地がないということである。
(トリスにはこの屋敷にいてもらわないと困る………)
目の前の女中長に代わる人材が見つかるとはとても思えない。
そして、引いた血の気がすべて流れ込んだかのように、男性器は膨張を続けていた。
(トリスって本当に綺麗な顔をしているんだよね――)
それは理性と性欲、それぞれから導き出された結論が完全に合一した瞬間であった。
「分かった。トリスにお願いするよ」
口のなかをカラカラに渇かせながら、ウィルはそう答える。
「ありがとうございます!」
トリスは感極まったように、白い額をぐりぐりと木の床にすりつける。
すくっと女が長身を起こしたとき、その口許には深紅の薔薇のように艶やかな笑みが浮かんでいた。
‡
目の前の長身の女は、三十近い年齢のはずだが萎れる気配を微塵も感じさせない。軽く膝を折り曲げ、吐息がかかるほどの顔の近さで、潤んだ視線をウィルに絡みつけてくる。
「では、まず接吻をしましょう」
トリスはさも自然な成り行きのようにそう口にした。
「せ、接吻? 接吻ってあの、口と口との……?」
もちろん接吻がなんなのかなどウィルは知っている。
緊張と興奮のあまり妙なことを口走ってしまった。
「はい。お互いの唇や舌を絡め合い、唾液を交換しあう、あの接吻です」
トリスの言葉に、ウィルはごくりと唾を飲み込み、目の前の深紅の唇をまじまじと眺めた。
肌は陶器のように白く冷たいのに、紅く湿った唇の粘膜が艶っぽく感じられて仕方がない。並びの良い白い歯の隙間から、甘い芳香を放つ熱い吐息が漏れ出しているのを意識してしまう。
「基本中の基本で、意外に奥が深うございますよ」
女中長は、濡れて光る唇をねっとりと動かした。
「う、うん。教えて」
ウィルは素直にそう頷いた。
もう何でもいいから、この下半身の猛りを解放したかった。
胸の鼓動がどんどん高まる。ウィルは思い切って顔を近づけてみた。
(え……?)
だがトリスは、そっと手の平で遮ってウィルを押しとどめたのだ。
拒絶されてウィルは傷付いた表情を浮かべる。
「わたしのような年増が、ご主人さまの唇を最初にいただくのは、分不相応にございます」
トリスはそうつぶやいて首を振ったのだ。
「なっ」
(そんなふうに誘惑しておいて、お預けを食らわせるなんて酷いじゃないか!)
ウィルは本気で憤慨していた。
するとトリスは、困ったような嬉しいような表情を一瞬浮かべた後、すっとウィルの背後を指さした。
「ご主人さまが手ずから選ばれた女なら、申し分ないかと」
それまで、ずっと息を殺していた下着姿の少女が、ひっと肩を竦めた。
「……わ、わたしか!?」
「ソフィア。あなたは以前に口づけを交わしたことがありますか?」
トリスの質問に、
「なっ、ないっ。……ない!」
ソフィアは薄桃色の唇を指先で押さえながら、ぶんぶんと首を振った。
「素晴らしい。まさにご主人さまのために誂えたような女にございます。さあ、ご主人さま。ソフィアを自分色に染めてしまいましょう。口づけはそのための第一歩ですよ」
トリスはそう言って、ウィルの背を押した。
目の前の少女は、もう出会ったときの灰被りの少女ではない。くすんだ灰色の髪は、月明かりのような銀糸へと生まれ変わっている。顔はまだ幼さが残るものの驚くほど整っている。煤汚れが湯で洗い流され、見違えるように白い肌は湯で温められ、ほのかに色づいている。
もう我慢できない。少年の理性はあっけなくすり切れていた。
ウィルは鼻息を荒くして、下着姿の少女に、にじり寄る。
「ソフィア。いいかな? いいよね?」
「………え? お、おい、ええっ!?」
銀髪の少女は、思わずきょろきょろと周囲を見回したが、脱衣所の白い壁が見えるだけで自分の助けになりそうなものは何も見当たらない。
「ひゃっ!」
乱暴に両肩をつかまれ、ソフィアは悲鳴をあげる。力自体は銀狼族の神子のほうが強いはずなのだが、発情した少年の勢いに圧倒されている。
「ご主人さま。女の扱いが正しくありません」
横合いから諫めるトリスの声が響いた。
令息はソフィアの肩を握りしめながら、邪魔しないでと言わんばかりに、荒い呼吸で女中長を見上げた。
「ふふ。少しお助けするだけですよ」
閨の教育係となった女は、まずウィルの手を少女の手の上にそっと重ねた。消極的に逃げる少女の指を少年の指先が絡め取る。
少年の反対の腕を、するりと少女の脇の下へと潜り込ませた。
ウィルは、そのまま華奢な少女の背中を抱き寄せる。
自然とソフィアの肩が浮いた。
「あれっ……なんでだ?」
ワルツでも踊るように自分から腕を回していることに、銀狼族の少女は困惑の表情を浮かべている。
空中でさまよう手は、パートナーの背に巻きつけるより仕方がない。
「女は正しくお扱いください。正しい手順で扱いさえすれば、ご主人さまの言うことを、何でも聞くようになるのですから」
さらりとトリスの女性観を凝縮させた言葉が、二人の耳を通過した。
至近距離で視線を絡ませている少年少女は、いまそれどころではない。
草原の狼のように毅然としていた少女は、身体を隅々まで洗われ、慣れない衣服を着せられ、背に手を回され、ウィルに上目遣いの視線を向けている。
切りそろえられた前髪の下の眉は、弱々しい曲線を描いていた。意思の力で満ち溢れていた琥珀色の瞳も不安そうに揺れている。
(か、可愛い……)
ウィルはなにかを言わなくちゃと思った。
「きみの妹は必ずぼくが見つけてあげる。誓うよ」
銀狼族の少女はじっとウィルの瞳を見つめた後、はっきりとした意思と覚悟を込めて首を縦に振った。
「ソフィア。目を閉じなさい。殿方に唇を吸ってもらう女のマナーですよ」
そうトリスに促され、ソフィアは一度うつむいて、ぎゅっと目をつぶる。数瞬後、覚悟を決めたように、すっと白い顎を上げた。
薄桃色の唇を差し出す少女には、清らかさとともに、神性と紙一重のところで禁忌に触れる色気があった。それもそのはず、目の前の少女は、神懸かりの力を与えられた銀狼族の神子である。神託を受けてウィルに身を寄せているのだ。必要とあらば、身体も差し出さなければならない。
そう意識すると、どことなく神に仕えながら女の性を売る神殿娼婦に通じる淫らさを感じはじめた。飛び切りの美少女が唇を無防備に男に差し出して目を閉じているのである。
ウィルは胸を高鳴らせながら、ゆっくりと尖らせた唇を近づけ、ついにちゅぷっと唇と唇が触れ合った。
(や、やわらかい!)
少女の唇の粘膜は瑞々しく、張りついてくる感じがする。
最初はどうしていいか分からずに、唇をただ強く押しつける。何度も何度も――
そのたびに、ちゅっちゅと初々しい音がして、ソフィアの唇が形を変える。
「ご主人さまと、銀狼族の娘の初接吻。眼福ですわァ」
横合いからトリスの嬉しそうな声が聞こえてきた気がする。
しばらく唇の感触を味わっているうちに、唇を交差させたほうが、より深く味わえることに気がついた。
少女の桃色の唇を割るようにして、自身の唇を隙間なく密着させる。
そのまま息が切れるまで唇をねっとりと絡ませた。
離すときには、ぴちゃりと粘膜が音を立て、唾液の橋が架かる。お互い、唇のまわりを唾液で濡らしながら肩で息をしていた。
「ご主人さま。今度は舌を入れてみましょう」
ウィルは、特に迷うこともなく、トリスの助言に従った。
んうっと舌を突きだし、ソフィアの唇へと近づける。
ソフィアは怯えたように首を左右に振っていた。ウィルは、背中に回した手でソフィアの後頭部を押さえつけ、口腔へと尖らせた舌をちゅるんと差し入れる。
(す、すごい……!)
伸ばした舌全体が異性の粘膜で包まれていることに少年は感動していた。
ソフィアは侵入を拒むように唇を窄めているため、柔らかい乙女の肉の隙間を舌でこじ開けることになる。にゅるり、にゅるりと何度も何度も抜き差しすると、陵辱しているという実感が湧いてくる。
だんだんと唇が硬さを失い蕩けてきて、少女はもう為されるがままである。
ウィルは、唇と歯の隙間に舌を差し入れ、一本一本の歯をぬるりぬるりと執拗に舐めあげる。
もう少女の後頭部を押さえつける必要もなくなってきたので、今度はウィルの手がソフィアの上下の下着の隙間にも侵入する。
もぞもぞと潜り込んだ指先が、尖った乳首に触れた瞬間、ソフィアはびくっと顎を上げ、合わさった唇のまま途切れ途切れに身を震わせた。
下着の隙間に侵入した反対の手の指が尻の谷間を這い、尻穴に触れたとき、堪えきれず少女の腰が後ろに逃げる。
「ソフィア。あなたは処女以外は捧げる約束をしたのでしょう?」
すかさずトリスが叱責した。
ソフィアは引けた腰をおずおずと寄せてくる。再び少年少女の股間が布越しに接した。
唇を合わせたまま、少年は鼻息を荒くする。
厚手の布地越しというのが、とてももどかしく感じられて仕方がない。
「ご主人さま、そのままではおつらいでしょう。おズボンの前を開けさせていただきます」
まるでウィルの心を読んだかのようにトリスはそう言って、二人の脚の横に跪いた。
女中長の指先が、ウィルの黒地のズボンの股間の留めボタンに伸びる。
ボタンを外し、ズボン地の隙間から、白い布地に覆われ窮屈そうに張り詰めた強ばりを摘まみ出す。
ウィルは腰を突き出し、白い下着に包まれた男性器をソフィアの下穿きの上へと押し当てる。薄手の布地越しに男性器の形状を意識させられたのか、唇を合わせるソフィアの顎がくんと上がった。
(……お、おおっ! き、気持ちいい……)
ソフィアは堪りかねたように鼻から息を吐く。合わさった唇の周りを吐息がすり抜け、それで、ようやく鼻で呼吸をすれば良いと二人は気がついた。
ふくらみに乏しい胸の代わりに、両手で形の良い尻を揉みながら、ぐりぐりとソフィアの股間にふくらんだ陰茎を押しつける。
少女の唇を強く吸いあげると、ウィルの口内に、もうどちらのものとも分からない唾液が流れ込んできた。
さらに興奮が高まる。限界が近い。
耐えかねたのか、ソフィアはちゅぽんと唇を離す。
少女は荒い息で、
「うっ。ちょ、ちょっと待ってくれ……」
一時休止を提案する。
だが、ウィルは無情にもそれを無視し、唇にかぶりつく。口に溜まっていた唾液を上から流し込んだ。
大量の唾液がどろりと流れ込んできて、少女は瞳を見開いた。口のなかの液体の処分に困って琥珀色の瞳を揺らしていたところに、
「殿方からいただいた雫は飲むのがマナーですよ」
平常時なら一瞬で噓と分かる言葉がするりと忍び寄る。
ソフィアはごくっと喉を鳴らした。
隙間なく唇を塞いでいるのだから、飲むしかない。
少年の白い下着のふくらみの一部は、亀頭から分泌した先走りを吸収して、湿っていた。透けるほど薄い少女の下穿きの上に、男根の形にふくらむ下着を執拗に塗りつける。何度も何度も腰を上下させた。
(うっ、そろそろ……)
快楽が背筋を駆け上ってくる。
その予兆が伝わったのか、少女のひっという悲鳴が少年の肺に吸い込まれた。
ソフィアの口内に一層深く舌を伸ばし、搔き回す。両手で、肉づきの薄い尻肉を思いっきりつかむ。
少年の背中に少女の震える両手が回されていた。ギリギリと万力のような力で締めつけられている。ひやりとした恐怖は感じたが、快楽のほうが上回った。
少女の柔らかい下腹部に向けて腰を突き出した瞬間、
(……ああっ! い、いくっ!)
ウィルの頭は真っ白に染まり、背筋を一気に快楽が駆け上る。
両手で少女の尻を引き寄せ、ぐりぐりと男性器の裏筋を押し当てながら、精を一気に解き放った。
少女の下腹部に、どくっどくっどくっと精を送り出す律動が刻まれていく。亀頭が吐き出した精液は、白い綿生地に受け止められた。
ソフィアの下腹に張りついていたウィルの強ばりが少しずつ力を失って弛緩していく。
腰を離すときに、染みこんだ精液がにちゃっと小さな音を立てた。
(き、気持ち良かった……)
銀髪の少女は肩で息をしながら、よろけて後ろの白い壁にもたれかかった。慣れない行為によほど削られるものがあったのだろう。
(や、やりすぎてしまったかな……)
今日のところはこのくらいにしておくべきだろう。
ウィルはズボンを穿き直した。たっぷりと精液を含んだ下着が気持ち悪い。ソフィアの着替えを手伝うよう、トリスに目配せをした。
ソフィアはもぞもぞと黒地のワンピースに袖を通していく。白いエプロンが被せられ、銀色の頭の上に白い女中帽が載せられた。
やがて遊牧民出身の少女は、マルク家の女中服に身を包んで困惑顔で立っていた。
「すっごい似合うよ!」
ソフィアには、明日からウィルの側付き女中として仕えてもらう。極上の美少女が、自分に奉仕するために女中服に身を包んでくれているのだ。これを喜ばないはずがない。
ソフィアはどう反応してよいか分からないといった感じで、困ったように溜息をつき、じっとウィルの様子を窺っている。
「ちゃんと約束は守るよ。心配しないで。きみの妹は探してあげるから」
そう請け合うと、ソフィアはこくりと頷いた。
「部屋の場所は、さきほどの女中に案内してもらいなさい」
トリスがそう言った。ソフィアは脱衣所の出口へと歩き出す。少しふらふらしていた。
「うう……酷い目にあった。なんだか身体が熱くて落ち着かない……」
少女はそんなつぶやきを漏らしたのだ。
奴隷市場から連れて来られるなり、同年代の少年の青い性欲に晒されたのだから無理もない。
やがて脱衣所の扉が閉められ、ウィルはせっかくの熱情の余韻が一枚の扉で遮ぎられたことに寂しさを覚えていた。
(もうちょっと続けたかったな……)
一度出したくらいでは収まりがつきそうになかった。
そんな令息に、元乳母がねっとりとした視線を絡みつけていることにふと気がつき、顔を上げる。
豊満な身体つきをした長身の女中長と脱衣所に二人っきりになったのだ。
「ご主人さま――」
トリスはタオルだけを身に纏った格好のまま、ウィルにそっと身を寄せてきた。
「な、なにかな……?」
いつもより距離が近い。
すぐ目の前に見える、厚手のタオル地で包まれたトリスの豊満な胸の合わせ目が気になって仕方がない。
女の白い肌は薄く色づき、ほんのりと甘い女の芳香が漂ってくる。いつも付けている香水の匂いとは違い、女の体臭そのものなのだ。たわわに実る完熟した果実の芳香が、少年の男としての本能を強烈に刺激する。
「まだしたりないのではありませんか?」
淡褐色の瞳の緑地を妖しく煌かせ、そう問いかけてきたのだ。
‡
「き、着替えないの?」
すぐ目の前に立つタオル一枚きりの女を見上げ、少年はそう問いかける。
「さきにご主人さまのお召し物を替えさせてください」
トリスは、主人の着替えを優先するのが当然とばかりに答え、ウィルとの距離をさらに一歩詰めた。
「う……ぼ、ぼくの服を?」
張り出した胸の迫力に押されるようにウィルは少し仰け反る。
「まさか、おズボンのなかをそのままにして、お部屋にお戻りになるおつもりですか?」
たしかに、さきほど放った大量の精液がべっとりと下着を汚していて、大変気持ちが悪い。
トリスは長い脚を折って屈むやいなや、
「ちょ、ちょっと!」
ウィルの腰の皮革をひったくるようにつかんだ。獲物を捕らえる猛禽さながらの動きである。
あっという間に少年のベルトを緩めると、膝の下までズボンを降ろしてしまう。
三十路まえの熟れた女がタオルを巻いただけの格好で、少年のズボンを剝ぎ取ろうとしているのだ。
「ま、待って。トリス!」
「ズボンまで染みるといけませんので。急ぎませんと。お手伝いいたします」
女は取りあわない。
ウィルは、着替えを手伝ってもらうというよりは、半ば以上押し倒されて床にお尻をついた。
トリスは、そのまま少年の両の足首から要領よくズボンを引き抜いてしまう。
一瞬でズボンを畳み終えて篭に放り込んだ。
長年ウィルの世話係を務めてきただけあって手際が良い。
(あわわわ……!)
さらに、ウィルの同意を得ずに、パンツまで引き摺り下ろしにかかる。
「ひ、ひぃ」
倒れたウィルの膝小僧に乳房を載せるようにして、パンツを引っぱるトリスの唇は、食虫植物の花びらのように毒々しく吊り上がっていた。
ぽろりとウィルのものが露出した次の瞬間、ウィルは背筋を仰け反らせていた。
精液に塗れたウィルの男性器を、女中長は唇に含んでしまったのだ。
(こ、これが例の――!)
そういう行為があることは知識として知っていた。
ウィルが貴族向けの寄宿学校に通っていたときに、学校の図書館の蔵書に遙か南方より伝わった性の教典を見つけた。
男性の生殖器を女性の口で愛撫する性の技巧の説明を読んで、ウィルはとても興奮した。
一緒にそれを見ていた悪友は実家の女中に無理矢理咥えさせたそうだが、ひっかき傷の残る顔で「あまり気持ちよくはなかった」と体験談を語ってくれた。
だが――いま、
(むちゃくちゃ気持ちいいッ!)
ウィルは背中の床に両手をついて、自身の股間の先端を啄む女の舌づかいに、あごを反らしていた。
トリスの腔内は、押しては引き、吸い付いては離れ、舌が別の生き物のように蠢いている。
口腔性交はいけないという教会の教える倫理観などは、頭の片隅から弾け飛んでいた。
どんどん性感が高まって、このまま身を任せたいと思いかけた矢先――あっさりとトリスは口を離した。するとウィルの男性器はトリスの唇による固定を失って、びくびくと宙を彷徨う。
「トリス……?」
「女中の口は、こうして咥えさせるのにもお使いいただけます」
亀頭に息のかかる間合いで放たれたトリスの言葉に、少年は激しい憤りを覚える。
ふざけるな!
だいたい強引に咥えてきたのはトリスじゃないか!
あまりの理不尽な中断に、股間を怒張させたまま少年は怒りを露わにしていた。
だがそれに先んじて、
「ご主人さま――」
トリスは再び床板に額をすりつけたのだ。
「このトリスに、ご主人さまの筆おろしのお相手を務めさせていただけませんか!」
女中長の口を突いて出た言葉の破壊力は凄まじい――
「へ……?」
実の母親と死別した貴族家の少年にとって、トリスこそが母性の象徴である。
「で、でも、そんな……」
乳母だった女とまぐわってはいけないという法はないが、その行為を想像するだけでも、ウィルは大地を汚すような背徳感を抱いてしまう。
実のところ少年はただ流されていただけで、そこまでの踏ん切りがついているわけではなかった。
乳離れすると、トリスは家庭教師となって厳しくウィルを教育するようになった。いまや、だれもが認める有能な女中長として、この屋敷を支えてくれている。ウィルにとってトリスとは、マルクの屋敷にも相当する存在といえた。
つまり――
(トリスを自分のモノにすることができたら、どれほど素晴らしいことだろう!)
ついにウィルは最後の決断を下した――
あとは、もう抑えのきかない、この青い性欲を目の前の女にぶちまけるだけである。
だが、さきほど一度精を放ったおかげか、ふとした疑問がウィルの頭をよぎる。
(でも、なんでトリスはここまで強引なんだろう。いつも冷静なトリスらしくもない。まさか……。ひょっとして!)
平伏する女の身体をよく観察していると、女が額を床につけたまま、やや落ち着かなさそうに尻をわずかに揺らしていることに気がついた。
(自分だけじゃない。トリスも、もう我慢できないんだ! だから性器を口に含んで、ぼくの性欲が自分に向かうように仕向けた……)
そう確信した。
そして、その次の瞬間にウィルの頭を占めた考えは、「ならば、どうやってこの女を支配するか」である。そのあたり備わっている資質は貴族のそれであった。
(いや、待て待て。急いてはことをし損じる)
ひとまず深呼吸をすることにした。
「ね、ねえ、トリス――ぼくにとって屋敷の女とはどんな存在だと思う」
そう言って、ウィルは話をずらす。
するとトリスは、頭を下げた姿勢のまま落ち着かなそうにお尻をわずかに揺らす。
「そうですね……」
トリスは少し戸惑うように首を傾けた。
「使用人とは、人を使用するという字義のとおりご主人さまがお使いになられる道具です。なかでも女の使用人は――寝具の一種でもあると言えるでしょう。正しく扱えば長持ちしますし、次第にご主人さまの身体に馴染んで、温かく包んでくれます」
「おまえはぼくをあたたかく包んでくれるの?」
トリスのことを『おまえ』と呼んだのはこれが初めてである。
ごくっとトリスの白い喉が鳴った。
ウィルは上から虫眼鏡で覗くような気分でトリスの様子をじっと観察していた。
「もちろんですとも。わたしを抱いたところで、何も面倒になることはありません。他の女と違い、避妊の用意もありますし……」
ウィルの見下ろす先には、バスタオルを巻き、三つ指をついて平伏している女がいた。
寄せられた深い胸の谷間を流れる汗の匂いが立ち上ってくるようだった。黒髪を後ろにまとめうなじが見える。そこは桃色に染まっていた。トリスの氷の彫像のような美貌は、いま劣情の炎に熱せられ揺蕩っているのだ。
身体はかすかに震えており、呼吸は隠しきれないほど荒い。
(間違いない……!)
顔を上げた女の鼻先に、ウィルは自らの剛直を銃剣のように突きつけた。どうしても手に入れたいものに対し、少年は蛮勇をふるうのである。
女は食い入るように瞳を見開き、少年の張り詰めた亀頭に熱い視線を注いでいる。
ウィルは、女の後髪を白い女中帽ごと乱暴につかみあげた。
「あん!」
髪留めが解けて、女中帽とともに女の長い黒髪がばさりと床に流れ落ちた。
ウィルの心臓は、ばくばくと激しく鼓動を刻んでいる。
「違うよね? トリスはぼくに抱かれたいんだ! ぼくがソフィアを抱かなかったものだから、もう他の女に譲るのが惜しくなったんだ!」
なぜだかそれを的確に指摘することができた。
「あ、あああっ……」
トリスは感極まったようなか細い悲鳴をあげた。
ただでさえ感情を表に出すことの少ないあのトリスが、責められる快感を露わにしているのだ。
それを見てウィルはぞくぞくとした心の震えのようなものを感じている。性根の素直な少年の心にも少しくらいは偏執的な部分が存在していた。
女中長の心を抉るという思いつきは、ウィルの心の嗜虐心という痩せた土壌に大量の肥料をぶちこむ結果となった。
「ぼくのことが好き?」
ずばりと聞いた。
「も、もちろんですとも! ――使用人としてお慕い申し上げています」
「使用人として? 違うだろ。本当のことを言ってごらん。心の内をさらけ出してみなよ」
蛇が蛙を睨むような顔でウィルはそう言った。
自分でもそんな芸当ができると思っていなかった。
「ひどいおかた……」
潰れた蛙のような姿勢のトリスが身を震わせてそう呟くと、白いふとももをつうっと一筋の透明な液体が零れ落ちた。それは無色透明だったが、汗よりももっと濃厚な女の匂いを予感させた。
「ずうっとお慕いもうしあげていました」
トリスはずうっとを強調して、なぜかそこで軽く舌舐めずりした。
どこか、交尾した後の雄を食い殺す雌蟷螂のように、「お慕いしている」と「美味しそう」が両立している気配があって怖かった。
「服従の証として、わたしのどろどろとした醜い欲望を晒します――ご主人さまの性器をお吸いしたのはさきほどが初めてではありません。乳母としてお仕えしていたころにも、ご主人さまのことが好きすぎて、性器を口に含ませていただいたことがございます。わたしは、いまも昔も、ご主人さまへの欲情を抑えきれない変態にございます」
ウィルはトリスのあまりに予想だにしない告白を聞いて、ぶっと喉を詰まらせた。
だが、淫らな乳母に生理的嫌悪感を感じないでもなかったが、この屋敷を支えている女中長に跨って征服してやりたいという欲求のほうが遙かに勝っていた。
「なら、ぼくに生涯変わらぬ忠誠を誓ってよ。女中としても、ただの女としてもだ。そうしたら抱いてやる」
ウィルは心臓が止まりそうなくらい緊張して、固唾を飲んで見守った。
ウィルの言葉に、目の前の四つん這いの肢体がぶるぶると心配になるくらいに身を震わせて、バスタオルが脱げ落ちた。真っ白な背中が露わとなる。
そして、静止した時間が流れた――
(もしかして、失敗した!?)
トリスの沈黙がひたすら怖い。
ウィルは先ほどトリスが『お暇を頂きとうございます』と言っていたのを改めて思い出さざるを得ない。
「トリス?」
ウィルがやや上ずった声で呼んだとき、
「――女としても使用人としても生涯変わらぬ忠誠を誓います」
トリスが一言一言はっきりとそう口にしたのだ。
「……よ、良かったァ」
それを聞いて、ウィルは心底安心したのか、床に背中をついて手足を伸ばす。
一方トリスは何かの余韻に耽っているように見えた。
「ど、どうしたの?」
ウィルがそう訊ねると、トリスはまるで小娘であるかのように照れてみせた。
「……達していたんです。ご主人さまの言葉の愛撫があまりにお上手だったので、つい、じっくり味わってしまいました」
トリスはそういって余韻に浸るように、ほんのわずかに股をすり合わせた。
ウィルは、ぞくぞくとした期待感とともに、これからの行為に思いを馳せてみる。
ふと、手の平に感じるひんやりとした木製の床板の硬さと冷たさを意識した。ここだと身体が痛いし、風邪をひいてしまいそうである。
「もしよろしければ、ご主人さまのお部屋にご招待していただけませんか?」
女中長はそう言ったのだ。
◇ 屋敷の女性一覧 ◇
女中長 1人 (トリス△)
蒸留室女中 2人
洗濯女中 6人
料理人 1人
調理女中 4人
皿洗い女中 2人
酪農女中 3人
客間女中 1人
家政女中 12人
雑役女中 8人
側付き女中 1人 (ソフィア△)
計41人
お手つき 0人 (済み◎、途中△)
書籍版3巻の前後と4巻に該当する部分である25話くらいまで文章の酷いところを手直ししたら、とりあえず見通しがつくかなと思ってます。
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第六話「閨の教育係」へのコメント:
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