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第五話「奴隷少女を洗う」

 あさぎりの立ちこめるいしだたみを、二頭立ての優美な馬車が駆け抜けていく。
 屋根のない馬車に揺られ、少し肌寒い朝の風を感じながら、ウィルは座席の後ろの荷台を振り返った。
 そこには銀髪の少女がトランクケースを背に座っており、少し眠そうに伸びをしているのが見える。

「今日中には到着するからね」
「ん? ああ」

 ウィルが声をかけると、ソフィアは領地の北に面した広大な緑のじゅうたんに目を細めながらうなずいた。
 硬い荷台の上だと尻が痛くなってしまいそうだが、ソフィアは一向に気にした様子がない。羊に草をませながら草原を移動する遊牧の民はこのくらいの移動を苦にしないのかもしれない。
 少女は、奴隷として屋敷に買われてきたことなどどこ吹く風といった様子で、気持ちよさそうに銀髪をなびかせている。
 ソフィアの横顔を見ていると、なんとなく馬車の横を草原を駆けるぎんろうが伴走しているような錯覚を抱き、胸が高鳴ってきた。
 ガタンと馬車が揺れ、その拍子にウィルの膝頭が、向かい側に座る黒地のスカートに包まれた脚と触れ合う。

「それにしても、さすがはウィル坊ちゃま。あの騒動のなかで目当ての女を見つけ出されるとは」
(うっ……)

 女中長の言葉に、思わずウィルは目を泳がせた。
 そもそもあの騒動が引き起こされたのは自分の行動がきっかけだったとは言いづらい。おかげでトリスのほうは奴隷市場を回りきれなかったと聞く。

「屋敷に帰ったら、あの子の身体からだを隅から隅までれいにしなければなりませんね?」
「う、うん……」

 トリスの言葉に伯爵家のれいそくは、改めて背後に座る銀髪の少女が自身の筆下ろしのために連れてこられたのだという生々しい実感に顔を赤らめたのだ。
 やがて高かった日が低くなったころあいで、平野のなかにぽつんと小高い丘が見えてきた。
 ちょうど大草原の向こうに日が沈みはじめ、草原が赤く染まる。
 差し込んでくる夕日に思わず顔をしかめた瞬間、カーテンでも降ろすように道の片側が林でおおわれてまぶしい夕日がさえぎられた。
 林に沿って大きな円を描くように馬車が進んでいくと、林が突然後方へと消えてゆき、今まで見えなかった新しい景色が眼前に現れる。

「ほら! あそこがぼくの家だよ!」

 伯爵家の令息は背後を振り返りながら、丘のいただきに見える屋敷をうれしそうに指さした。
 小高い丘の上の周囲をへいげいする場所に、一人の少年が自分の家と主張するにはごうしゃにすぎる屋敷が建っていたのだ。
 領地のカントリー屋敷ハウスは夕日を背後に取り込み、赤く染まる草原一帯の核となる。周囲の景色に溶け込み、それでいて唯一の存在感を放っている。

「ソフィアもこの屋敷の一員になるんだよ!」

 明るい声でウィルは叫ぶ。少年の声には自分の愛するものを自慢したい気持ちと、銀髪の少女に対する明確な善意が含まれていた。

「むうう……」

 ぎんろうぞくの少女の捉え方は少年の予期したものとは違ったようだ。周辺一帯に広がる草原と大きな屋敷を見比べながら、わなにかかった野生の獣のようなうなり声を発する。

「こうやって、おまえたちのうじぞくは草原を侵食していったのか……」
「へ?」

 伯爵家の令息は戸惑いの声をあげたが、ソフィアの言葉は領地の屋敷の本質を突いている。
 周囲の風景が急にひらけ、視界に飛び込んでくる屋敷の鮮烈な心象からして計算しくされたものであった。
 この屋敷を見たものはだれもが理解するであろう。
 この屋敷を所有する者こそが、この地の支配者であるということを――


   ‡


 屋敷の玄関にウィルを乗せた馬車が到着した。
 座席の横のドアを開けてくれた赤毛の男に、令息は声をかける。

「正直、ギュンガスまで買うつもりはなかったんだけどなァ」

 元奴隷商人の手先はそんなウィルのつぶやきを丁重に無視して、古くから屋敷に仕える男性使用人のようにうやうやしく跪き、馬車の下から折りたたみ式の即席の階段を展開してみせた。
 それを踏んで降り、屋敷の玄関扉の中に入ると、ウィルにとっては見慣れた――大理石の支柱が何本も立ち並ぶ荘厳な玄関ホールが一向を出迎える。
 開け放たれた扉の前に立つ遊牧民の少女ソフィアは、

「なんだ、この途方もない天幕ユルトは……」

 玄関ホールの半球状の天蓋を見上げ、立ち尽くしていた。
 領地の屋敷というものは、訪れた客人――特に辺境領のこの屋敷においては、ソフィアのような異邦人を富の重さで打ちのめし、屋敷の主人に対してけいの念を抱かせるよう設計されているのである。
 女中長ハウスキーパートリスはまだ固まっているソフィアの手足を、家に上げる前の犬にでもするように雑巾で強くぬぐっていく。
 もう一人の奴隷ギュンガスの方はそれなりの身なりをしており、目を細めながら屋敷の室内を見回していた。そして、まだ中に入れてもらえないソフィアを鼻でわらい、ったらしく赤毛の髪をくしきはじめたのだ。

「なんでギュンガスがえつに浸ってるんだよ」

 思わず令息は半目でつぶやく。
 気がつけば、ソフィアだけでなくギュンガスまでもが屋敷の使用人として加わっているのだから、ウィルとしては釈然としないものを感じてしまう。

「まあまあそうおっしゃらず、この銀毛の珍獣を格安で手に入れることができたのも、わたしがいればこそなのですから」
「たしかにこの男の言うとおり、本来百万ドラクマふっかけられていてもおかしくないところ、たったの一万ドラクマで銀狼族の娘を買い取ることができました」

 トリスもギュンガスの言葉に同意した。
 美しい処女で有能という当初の目的を、ソフィアとギュンガスの二人に役割分担させることであますことなく達成できたのだから、女中長として異存はないのだろう。

「でも、ギュンガスを買うのに三十四万ドラクマもかかったんだよ?」
「つまり、この小娘を百万ドラクマで買うことに比べたら、差し引き六十五万ドラクマもの利益をマルク家にもたらしたということになりますね、ウィリアムさま」

 ギュンガスはにこやかに答えたのであった。

(よく言うよ……)

 ウィルはあきれた表情を浮かべながら、奴隷市場での最後のひとまくを思い返す。


   ‡


 銀狼族をかたっていた女と正真正銘の銀狼族の少女ソフィア、そして赤毛の男ギュンガスはなんと、同じ商人を主人とする奴隷であった。
 マルク家は今回の騒動に対し、奴隷市場側に厳重な抗議を申し入れた。そうするよう提案したのは他ならぬギュンガスである。
 きんえんに領地を構える伯爵家が不快感を示せば、奴隷市場側としては厳しく処分をしないわけにはいかなくなる。
 奴隷市場への出入り禁止を言い渡されて、しょうぜんと肩を落とす頭の禿げたおとこの商人に、ギュンガスの買い取りを申し出たところ、

「そ、それは困ります。いまこのギュンガスがいなくなったらうちの商売が……」

 小男はひどくろうばいした。
 どうやら奴隷商人にとってギュンガスを失うというのは、片腕をもがれるにも等しいらしい。
 だが、この小男には当座の金が必要ですぐに折れた――
 奴隷をよその国に連れていくだけでも結構な費用がかかる。奴隷市場への参加費も取られる。なにか別の商売をはじめるにしても元手が必要であろう。
 ウィルたちは正式な契約を取り交わすべく、天幕ユルトのなかへと案内された。
 目の前のテーブルの上には売買契約書が置かれている。
 ウィルはソファーに座って、天幕の隅にしゃがみ込む二人を冷ややかな視線で眺めていた。ソフィアの立っていた奴隷の丘の悲惨なありさまをのぞいたあとでは、あまり同情する気になれない。
 ギュンガスと奴隷商は、ひそひそと最後の相談をはじめていた。

「先方はもう一万ドラクマで、あと一人奴隷をつけるよう要求してきています。どうせですから今回売りに出せなかったクズ奴隷の一人でもつけてやりましょう」

 ギュンガスはくすくすと笑いながら、そうささやきかけたそうだ。

「いいのか? 相手は伯爵家だぞ?」
「なあに、大きな買い物するときのおまけですから何とも思いませんよ。ご主人さまは奴隷市場から出入り禁止を食らっているのですから、採算の合わないクズ奴隷たちは無理してでも処分するべきでしょう。めしだいだって馬鹿になりませんから」

 出入り禁止という言葉に奴隷商人はがっくりと肩を落とした。

「わたしはご主人さまのお手伝いがしたいのです。ご主人さまが再起を果たすには一ドラクマだって無駄にはできません。最後のご奉公ですから――」

 若かりしころの奴隷商は小柄な身体が大きく見えるくらい強気で、部下に判断を預けることなどなかったそうである。
 やがて奴隷商はテーブルを挟んだウィルの向かい側の席に戻ると、ついに羊皮紙にサインした。

「いままでおまえには随分と助けてもらった。おまえなら新しい職場でもきっと上手うまく――」

 奴隷商は目を赤くしてギュンガスにそう語りかけるが、かつての部下ははえでも払うかのように興味なさそうに手を振り、

「さあ、ウィリアムさま、行きましょうか」

 そう声をかけたのだ。
 そして、鉄のおりに閉じ込め、煤までって隠しておいた秘蔵の奴隷ソフィアが『売りに出せなかったクズ奴隷』に含まれるよう帳簿に計上されていたことがすぐに明らかになる。
 そのときの奴隷商のぼうぜんとした顔は忘れられないだろう。
 奴隷の丘を踏みしめていた銀狼族のは、

「自分の大地に立っていられない人間には、天の恵みを受け取る資格はない。あのような男に自らの判断をゆだねたおまえが悪い」

 地面に両手をついてえつする奴隷商をそう断罪し、長い銀髪をひるがえす。
 鉄の檻にすら捕われない遊牧民の少女が振り向いた先に見たものは、自身に向けられた伯爵家の令息のまっすぐな瞳――

「じゃあ行こっか? きっとソフィアも屋敷を気に入るよ」

 ウィルはくったくなくそう言って、鉄の檻さえも引き裂くソフィアの手を取ったのだ。そこに一切のためらいはなかった。
 遊牧民の少女はおのれを絡め取る少年の手を見下ろし、ひくっとほほらせたのだ。


   ‡


「ほう。良い生地ですな」

 ギュンガスは、小柄で年若い女中がたずさえてきた黒い上着を広げながら、そうほほんでみせた。
 格式にうるさい伯爵が男性使用人を着飾るために支給しているお仕着せのため、それなりに上物である。
 赤毛のやさおとこにつられて小柄な女中が微笑んでいると、

「ギュンガス。さきほども言いましたが、屋敷の女中に手をつけることは絶対に認められません。いいですね?」

 さっそくトリスがくぎを刺した。
 マルク家に限らず使用人どうしの職場内恋愛ははっであるが、特にトリスはこの問題に厳しい。
 使用人が食事をするときの席順も別、寝室につながる階段も別で、徹底的に男女の接触の芽がまれていた。

「大丈夫ですよ。わたしは女性の家柄や資産、ぎょうぎょうしい外見に欲情するタイプですから。せめて侍女レディースメイドくらいでないと。ただの女中なんぞには興味がありません」

 上着にそでを通しながら、赤毛の男はぬけぬけとそう言い放った。
 トリスは「それなら結構」と頷く。

(仰々しい外見に欲情って、ぼくと正反対だなあ。まあ、いいけど)

 ギュンガスが侍女を特別扱いにする理由。それは侍女が上級使用人のなかでも特に女主人と近しい関係にあるためであろう。
 幸いマルク家には、ギュンガスの標的になりそうな奥方も令嬢も、女主人に仕える侍女もいなかった。
 上着を持ってきた少女は、ギュンガスの典型的な上流階級好みスノビズムはなじろんだのか、「感じのよい人かと思っていたのにぃ。残念なのです」などとねるようにつぶやいていた。

「伯爵がご不在ということは、わたしはウィリアムさまを実質的な主人とあおぎ、お仕えするということでよろしいのですか?」

 いきなり屋敷の繊細な問題に触れてきたので、ウィルは苦笑をらす。
 父親のマルク伯爵とは十年以上も顔を合わせていない。もしその機会があったとしても、お互いを親子と認識できるかすら怪しいものだ。
 大貴族というものは子飼いの仲間を従え、一年の半分ちかくも王都に滞在して政治を動かすのが常だが、さすがに十年間一度も屋敷に戻っていないというのはまれであろう。

「ギュンガス。明日から従者ヴァレットとして働いてもらう。今日はもう休んでいいよ」

 質問に対する返事は与えなかったが、赤毛の男は素直に一礼してあてがわれた部屋へと去って行く。

「ソフィアの身体を洗わないことには、女中服も着せられません」

 そんなトリスの言葉に、ウィルも「そうだね」と同意する。
 少女のせた身体にはいまも、ぼろ布のような服が巻かれているだけだ。その顔を拭ったタオルは真っ黒になっている。
 トリスはソフィアの銀髪をひとふさ摘まみ、

「せっかくですから一緒にソフィアを洗ってみませんか」

 そう提案してきた。


   ‡


「な、なんでトリスまで服を脱いでるの!?」

 動揺したウィルの声が広い浴室に響く。
 水にれないようにシャツの袖とズボンのすそをまくり上げて、タイル張りの浴室で待っていると、全裸のトリスが姿を現わしたのであった。
 トリスはこれまでウィルの背中を流すときでも、腕まくりをするだけでいちいち服なんか脱いだりしなかったというのに。

「全身煤まみれの少女を洗うのです。脱いで洗わないと洗濯ランドリー女中メイドの手間を増やしてしまいますので」
「そ、そりゃそうだけど……」
「お目汚しして申し訳ありません」

 そう言って、トリスはいつものように静かに頭を下げた。たわわな乳房が谷間でつぶれあって形を変える。

(うっわあ!? 目のやり場に困るなあ……)

 すらりと伸びた長い足は、白くなまめかしい。大きく張り出した白い乳房の先には赤い突起が乗っている。
 隠すことなど何一つないとばかりに、抜群のプロポーションがしげもなくさらされていた。
 一方のソフィアは、煙突掃除でもしたかのように浅黒く汚れた裸体を晒したまま、湯気の立ちこめる屋敷の大浴場を見回していた。
 壁には大理石が張られている。ここまで豪華な大浴場を持つ屋敷はマルク家くらいであろう。古典様式のものではあるが、東方から伝わった文化の影響によるところも大きいかもしれない。

(そういや、遊牧民にはみをする習慣はないんだっけ……?)

 草原で清潔な水が大量に手に入ることは滅多にない。水辺に辿たどり着けたとしても湿地帯はやぶひるの巣窟で、水にかろうものならたちまち病気になってしまうと聞く。戸惑うのは無理もないかもしれない。

「さあ、いらっしゃい」

 ソフィアは呼びかけてきた背後のトリスのほうを振り返ると、女中長のあらわになった胸元を見上げ、らせた顔をうっと引き攣らせた。

(間近だと、すごく圧倒されるんだよね……)

 もっとも、トリスのき出しの乳房を間近に見たのは、ほとんど記憶に残っていない幼少のころの話である。
 銀髪の少女は自身の薄い胸板に手を当てて、顔の左右に張り出した重そうなやわにくを、信じられないものでも見るような表情で見上げている。
 トリスに比べると、少女のたいわいそうなくらい身体つきに起伏がない。
 だが、同じ痩せっぽっちの身体でも、奴隷市場で見かけた他の未熟な少女たちとは、目鼻顔立ちや骨格のバランスに至るまで質がまるっきり違っていた。
 女中のきにけたトリスでさえ、ウィルの連れてきたソフィアを一目見て、

『このトリス、ほとほと感服しました。極上品です。わたしにこれ以上の女を用意することはできません』

 そう絶賛したのであった。

「……本当に浸かるのか? 水まりに浸かると病気になるというぞ?」

 ソフィアは心配そうな様子でタイル張りの大浴場を見回した。

「伯爵家の大浴場を羽虫のく沼地と一緒にされては困ります。さあ、洗いましょう」

 いけないとは思いつつも、ついトリスの身体を横目でちらちらと覗いてしまう。
 そこで、女が手桶に湯をむために膝を折った。
 そのとき、白い足の間の黒い茂みとその下のやわらかく複雑な構造をしたにくひだが、ぱっくりと口を開けたのだ。

(うわあ……)

 初めて見るウィルにはとても刺激が強い。湯にも浸かっていないのに湯あたりしてしまいそうであった。

「洗いますから、そこにおかけなさい」

 トリスは、木製の低い浴室椅子に座るよう、ソフィアに指示をした。
 銀髪の少女は、言われたとおりに腰掛ける。そしてトリスがかがんだ拍子に近くまでぶら下がってきた大きな白い乳房の迫力に頰を引き攣らせている。
 トリスは、ソフィアの薄い胸にばしゃっと遠慮なく湯をかけていく。
 すると、たちまち湯は煤を吸って灰色に濁る流れを作り出した。
 良いにおいのする薬液を染みこませたかい綿めんで、手際よくソフィアの身体を拭っていく。すると、まるで汚れたタイルでも洗うかのように、浅黒かった皮膚がみるみる白く色を変えていく。
 浴室椅子に支えられた尻の谷間に、ぬるりとトリスの白い指先と海綿がもぐり込んだ。

「んっ……」
「ほら。じっとしてなさい」

 少女の尻が白桃のようにぷりんと光る。
 後ろから見たその割れ目のみずみずしさに、ウィルは息をんだ。
 少女の尻を、トリスが平手で軽く張ると、

「ひっ!」

 ソフィアはびくんと背筋を伸ばす。

(うっ……)

 なんとなくウィルもびくっと反応してしまった。同世代の少女の裸を間近で見ているこの距離感がなまなましい。

「少し痩せすぎね。これからはきちんと食べなさい」

 トリスはそう言って、ソフィアの身体を手早く拭っていく。
 肌の浅黒さがあらかた消えたあたりで、少し呼吸を荒くして、ソフィアが抵抗しはじめた。

「も、もう十分だ。あとは自分で洗える……」
「なりません。身体の汚れた女中がおそばにいたら、ウィル坊ちゃまの恥になります」

 女中長は取り合わない。トリスは海綿を持つ手の甲で、自身の黒い髪のほつれたひたいの汗を拭った。
 なんだかいつもよりも活き活きとしているようだ。
 このくらい身体が綺麗になったら、こちらの服も汚れないだろう。
 そう思ったとき――

「さ、ウィル坊ちゃまは前をお願いします」

 トリスが真新しい海綿を手渡してきた。

「え? ま、前っ? う、うん。ごくっ……」

 ウィルは、ソフィアの白い背中を見ながら頷いた。
 トリスは、少女の両足の下に腕を差し入れて、身体を少し持ち上げる。
 そのままウィルのほうに回転させると、開いた股がちょうどウィルの眼前に開放される形となった。

(ぶっ!?)

 ソフィアは、すぐに膝を閉じる。

(あ、一応毛は生えているんだ……)

 それは一瞬だったが、薄い銀毛がべっとりと張り付いて濡れている少女の土手を、ざとく視界に捉えていた。

「女中長。さすがにこういうのはおさなにするようで恥ずかしい……」
「髪を洗いますから、みないように目を閉じてなさい」

 トリスは、ソフィアの抗議を当然のように無視して、ばしゃっと頭に湯をかけた。
 濡れた銀髪が、ぺたんと少女の額に引っ付く。
 トリスが、わしゃわしゃとソフィアの銀髪を泡立てはじめた。
 ソフィアが目をつぶったのをいいことに、ウィルはじろじろとその身体を観察しはじめる。
 後ろの大ぶりな女中長の乳房に比べると、少女の胸はないに等しい。胸の先端の二つの突起が、ほんの少し突き出ているくらいだ。
 ソフィアの乳首の表面の小さな起伏を食い入るように観察していく。濡れて光る乳首は、ウィルのものに比べると確実に大きい。

「ウィル坊ちゃま、ソフィアの身体はいまあかだらけなのです。あんな風呂もない環境で何ヶ月も暮らしていれば無理もありません。細部まで念入りにお洗いになってください」

 トリスが細部までと言った瞬間、ソフィアはきゅっと膝を締めた。目をつぶったソフィアの耳が赤く染まっている。
 たしかに見違えるほど白くなった肌には、垢がった糸のようになって張りついていた。

(同じ年代の女の子を洗うって、なんだか緊張するなあ……)

 すぐ目の前の少女の身体の発育途上っぷりが、あまりに身近に感じられ、興奮に拍車を掛ける。
 汚れを払うべく、ソフィアの痩せた胸に海綿を持って行くと、肌に触れた瞬間「あ……」という少女のかすかな吐息がれた。
 そこは、ほとんど、あるか、ないかという感触だった。
 トリスがソフィアの両手首を掴んで持ち上げた。ちょうどウィルの前で万歳する格好となる。
 浮き出たあばらの凹凸をウィルの持った海綿がくすぐった。

「トリス。ソフィアはすさまじく力が強いから、気をつけてね」

 やや心配そうにウィルはトリスを見上げた。

「そのようです。ソフィア、少しじっとしていてください」
「……んっ。そう言われても……くすぐったい」

 目の前では裸の大人の女性が、目を瞑った少女の腕を必死になって拘束していた。
 少女の胴や脇のまわりを、少年が手にする海綿が行き交うと、少女の眉がムズムズと震えた。
 ソフィアの上半身を洗い終えたとき、トリスは汗まみれになっていた。汗のしずくが、裸身の深い胸の谷間から臍へ、さらに臍から下へと流れ落ちるさまが、いかにも成熟しきった女の性の生々しさを感じさせた。
 一方のソフィアは、妖精のような清純さで性をあまり意識させなかった。長い銀髪はしなやかに濡れて輝いている。瞳は大きく、まつが長いことにいまさらのように気がついた。

「ウィル坊ちゃま、綺麗になったか肌に触れて確かめてください」

 よほど疲れたのか、もうソフィアはぐったりとされるがままになっている。

「う、うん」

 ウィルの右手がソフィアの左胸に触れたとき、ソフィアの眉頭が震えた。どくどくというソフィアの心臓の音を感じる。
 同じく裸のトリスの豊かな胸の膨らみに比べると、大きさは比べるべくもないが、指の下にたしかな女性としての膨らみが芽生えはじめているのが分かった。ウィルの指がつんとした桃色の乳首に触れると、ソフィアは、「ああっ」と鼻にかかった吐息を漏らしたあと、くやしそうに銀色の眉頭をひそめ、下唇を噛んだ。
 桃色の乳首が微かに尖るのを指先で感じ、ウィルはごくりと唾を飲み込んだ。

「触り比べてみませんか?」

 頭の上には、トリスの大粒の果実のような乳房がぶら下がっている。
 トリスの誘惑にあっさりとウィルは陥落する。
 おずおずと反対側の手を伸ばすと、トリスの胸をゆっくりと深く鷲づかみにしたのだ。
 大きな胸の柔肉の中に指が沈み込む。
 左手の白く膨らんだ乳房を二、三度み、そして右手の薄すぎる胸を揉むと、その淡い胸の持ち主は「あっ……」と短い悲鳴とも嬌声ともつかない声を上げた。
 もうウィルの股間は、そのまま射精してしまいそうなほど張っていた。まだ性になれていない少年にとっての初めてづくしなのだから無理もない。

「次はソフィアの下半身を念入りに洗いましょう。ウィル坊ちゃまの手や唇や……大事なところが触れるところですから」

 ウィルは感嘆すべき自制心でそれぞれ掴んだ果実から指を引きはがすと、

「あら?」

 トリスのほうを見据えて、こう言った。

「そのことなんだけどトリス。ぼくはソフィアを抱かない」
「ウィル坊ちゃまもそろそろお脱ぎになってはいかがですか――え?」

 まず、トリスはウィルの言っていることが理解できないという表情を見せた。
 次にトリスの視線がソフィアの全身を上から下までめ回した。まるで、晩餐のときにメインディッシュの料理の質を確認しているかのようであった。身体を清めたソフィアは、発育の不十分さにさえ目をつぶれば言うまでもなく極上である。
 そして、改めてウィルのほうを振り返って、少年の意思が変わらないことを見て取ると、

ぜんし上がらないなんて、ウィル坊ちゃまはそれでも男ですかあッ!?」

 これまで聞いたことのないような厳しい声で、ウィルを怒鳴りつけたのであった。



◇ 屋敷の女性一覧 ◇

女中長   1人 (トリス)
蒸留室女中 2人
洗濯女中  6人
料理人   1人
調理女中  4人
皿洗い女中 2人
酪農女中  3人
客間女中  1人
家政女中 12人
雑役女中  8人
側付き女中 1人 (ソフィア△)
    計41人
お手つき  0人 (済み◎、途中△)


◇ 用語解説 ◇

女主人の身のまわりの世話をする上級使用人職。女中長ハウスキーパーの管理下にはなく女主人の世話以外の雑事をする必要がない。
侍女は女中服を着ることを義務づけられておらず女主人のおふるの服を払い下げてもらうことが多く、そのため女主人と間違えられることもある。現在マルク家には仕えるべき女主人も令嬢もいないため侍女は雇われていない。

主人の身のまわりの世話をする下級使用人職。役割的には上級使用人の侍女レディースメイドに近いが、女主人直属の侍女とは違い女中長ハウスキーパーの指揮下にあり、女中服を着ている。
マルク領の屋敷は慢性的に男性使用人が不足していることもあり、従者ヴァレット従僕フットマンの代わりを務めることも期待されている。
(※伯爵家女中伝のオリジナル要素の強い女中職です)




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