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第二十三話「敬虔な女中」

「あれ。ウィルのやつ見なかったか? おっかしいな。さっきまでこの辺りにいたはずなんだけど……」

 夕日が差し込む部屋のなか、扉の向こうからマイヤの声が聞こえてきた。
 あの小柄な赤毛頭の女中メイドは、廊下をきょろきょろと見回していることだろう。
 扉のこちら側では、ウィルが、しーっと後ろからフローラの唇のまえに指を立てて、息を潜めていた。
 べつに隠れる必要はないのだが、ちょっとした悪戯いたずら心のようなものである。

内覧会オープンハウスでは中心になって頑張ってもらうからね」

 ウィルは、金髪の女性の耳元でそうささやいた。
 目の前の客間パーラー女中メイドは接客のかなめである。

「はい。頑張ります……。ウィル坊ちゃんのために……」

 フローラも、そんなふうに小声で答えた。
 やがてマイヤの足音が去って行く。
 金髪の女も、二人っきりになりたかったのか、くすくすと笑っていた。
 そして、フローラを部屋に連れ込んだ一番の理由というのは――

(下半身がって仕方がないッ!)

 ウィルの身体は、内側からかっかと燃えるように熱かったのだ。
 いまフローラは、後ろから壁に押しつけられているところである。
 ウィルの手が、女中服の黒い布地越しに、フローラの豊かな乳房を後ろからみあげている。
 女は、少し巻いた金髪を揺らして、ウィルのあいに耐えるように、壁に突いた白い両手を震わせていた。
 夕食でウィルは、とあるしょうやくを一緒に混ぜた牡蠣のオリーブ漬けを口にしてからというもの、ずっと下半身のうずきを我慢していた。
 牡蠣だけでも十分に精力増強の効果があるというのに、海狗腎と呼ばれるオットセイのこうがんを乾燥させたものまで混ぜられていたのだ。
 オットセイは、一頭のオスが数十頭もの雌を従えるほど精力絶倫である。それだけに、その睾丸の効き目も絶大であった。
 料理を用意したのはリッタだが、提案したのは、もちろん薬の知識の豊富なトリスである。
 ただでさえヤリたい盛りの少年に、そんな強力な精力剤をぶちこんだら一体どうなるか――
 いまのウィルは、歩いている女がいたら、とりあえず押し倒したくなるほどサカっていた。
 そして、たまたま廊下を通りかかったのがフローラだったのだ。
 くんくんとフローラのうなじの匂いを嗅ぐと、女は逃げるように背筋をらした。

「ウィル坊ちゃん、わたし、今日はまだお風呂に入っていません……」
「そりゃ、ぼくもまだだよ」

 ウィルが使っていないということは、フローラもまだ風呂に入っていないということだ。
 女中たちは、主人の使った残り湯を使うのだから。
 そのたびにフローラの唇から笑みが零れ、張った乳房がだんだんと両手に馴染んでいく感じがする。
 フローラの腔内は夕食で食べた肉の味がかすかに残っていた。
 振り向くフローラの形の良い唇にウィルは後ろから覆い被さり、ちゅっちゅっと唇に吸いつく。

「夕飯は味が濃かったね」

 ウィルがそう囁くと、フローラは生々しさに身もだえるように耳を赤くした。
 料理人コックのリッタも、内覧会に向けて、メニューを試行錯誤しているところであり、夕飯のメインディッシュとして、胸焼けするほど味の濃厚なビーフストロガノフが振る舞われたのだ。

しかったので、つい食べ過ぎてしまいまして、正直、ずっと胃が……」

 金髪の女は、両胸を揉まれながら、片手で下腹のあたりをさすった。
 フローラは微かに脂の匂いのする吐息を吐いた。その女の吐息を同じく脂でせた少年の唇が捉まえる。
 マルク家の腕の良い酪農デイリー女中メイドの作ったバターとチーズ、そしてサワークリームがふんだんに使われており、美味いには美味かったが、しばらく同じものは食べたくない。それくらい胃もたれしていた。

「食後に軽く腹ごなししたほうがいいよね」

 ウィルはそう言って、スカートの黒い布地の上から、フローラのやわらかい尻の谷間を開くようにぐいぐいと左右に揉みはじめる。
 そうすると、女の黒い布地の谷間が一層、匂ってくるような感じがした。
 ウィルの男根は、さっきからびくびくと大きく膨らんで収まりがつかなくなっていた。
 もう前戯すら面倒である。
 ウィルがズボン越しに、フローラの尻に押し当てると、女はウィルの意思を察したのか背筋を振るわせた。

「ウィル坊ちゃま……。わたし……」

 壁に両手をついて、お尻を突き出したままの体勢でフローラが振り返る。

「分かってるって! 結婚まで処女は守り通したいんでしょ?」

 ウィルは舌打ちしたい心境だった。

(さきほど、マイヤをやり過ごしたのは、失敗だったかなあ……)

 よりによって掴まえたのがまだ犯せないフローラだったからだ。

「あ、あの……。ウィル坊ちゃまになら、ささげてもと思うんです……」

 なんと、フローラは消え入りそうな声で俯きながらそう言ったのだ。

(あれ!? ヤろうと思えばいまヤレる!?)

 ウィルは思案をする――
 もしかすると、このまえの昼食のときに、屋敷全体が一気にウィルに服従する雰囲気になったことに、フローラもあてられているのかもしれない。
 だが、これは明らかに勢いによるものだ。
 ウィルのかんは張っており切迫しているのは確かだが、このまま性欲に任せて抱いてしまうと、けいけんな家庭に生まれたフローラは、結婚前に姦通をしたというたいめんの悪さに長く苦しむだろう。
 だから、教会に金を払って、処女証明書を発行してもらわなければならないのだ。
 だが、いまはその肝心の金が足りないのであった――
 ウィルはとりあえずフローラの黒いスカートを捲り上げる。
 すると、れいな刺繍の入った青い下穿きに包まれたお尻があらわになる。
 ひらひらしたひだ飾りで彩られたレースの布地が、柔らかく尻肉に食い込んでいた。
 これは明らかに男に見せるための下着である。

「フローラ。可愛かわいした穿きだね」

 女は清楚な印象のする下着に包まれた尻を、ウィルに差し出している。

「は、はずかしいです。実はこれ結構高かったんですよ……。貯めたお給金をはたいて買いました。今日、つけてて良かった……」

 フローラは下着を褒められてうれしかったのか、はにかむようにそう口にした。

「へえ」

 ウィルは、フローラの白桃の谷間がほんの少し露わになるあたりまで、フローラの青い下着を引きずり下ろした。
 そして、ズボンからとうが張りつめた男根を取り出して、フローラの下着と尻の谷間に張った男根を差し込む。
 壁についた女の白い指がぎゅっと握りしめられる。
 後ろを振り返るフローラは、ぎゅっと目を瞑り、歯を食いしばっている。
 尻肉をぬうっと張りつめた男根が柔らかくすべる。
 ウィルの亀頭はフローラの菊門の横を通り、フローラのまだ男の手の触れたことのない女性器をほんの少しかすめる。
 ウィルはその動作を何度も繰り返す。

「……?」

 もうれられる覚悟を固めていたはずなのに、フローラはウィルのほうを探るようにうかがっている。

「君の心と身体が全部ぼくのものになったら、挿れてあげる」

 ウィルの言葉に、フローラが反発するように背筋を反らせる。
 金色の長い髪がふわりと揺れて良い匂いがただよう。

「もうわたしの心はウィル坊ちゃんのものです!」

 せっかく覚悟を決めたというのに、こんなふうに扱われたら堪らないだろう。
 少し世間知らずなところがあるとは言え、結婚適齢期の娘が、後ろから乳房を揉まれ、尻肉で男根を挟みながら、切実な表情でそう叫んでいるのだ。

(返す返すも予算が足りないのが口惜しい)

 ウィルはつくづくそう思った。

「フローラの身体のほうが、まだぼくを迎え入れる準備ができていないんだ」

 ウィルが口から出任せとばかりにそう言うと、

「……わたしの身体が?」

 フローラはきょとんとした。
 ウィルは何を言っているのか自分でもよく分かっていなかったので、これ以上突っ込まれたら、どうしようかと少し焦る。
 すると――

「……どうしたら迎え入れる準備ができますか?」

 真面目なフローラは、そう口にしたのである。
 それを聞いてウィルの頭に悪い考えが浮かんでいた。

「フローラ。いままでにはしたことはある?」
「……えっ。そ、そんな……」

 ウィルの思わぬ質問に、フローラは動揺している。

(はああん。これはしたことあるな)

 ウィルはそう見当をつけた。

「恥ずかしがることじゃないよ。女の子はみんなしてるものだよ」

 女の子がみんな自慰をしているかなんて、実際にはウィルが知りようはずもないのだが――

「トリスだってしたことがあると言っていたよ。ぼくもしたことがあるよ」

 ウィルは、フローラの顔のまえで、指で輪っかを作り、前後させて、しゅっしゅと男根をこするぐさを見せつける。
 それはどちらかというと、清純な少女を自分の手で汚していくような、下卑た喜びであった。

「……そ、そうなんですか。ウィル坊ちゃまはともかく、トリスさままで――」

 フローラはパチパチと長い金のまつを上下させていた。

「これから、一人でするときはぼくのことを考えながらしてごらん」
「え……? そ、そんな恥ずかしい。それに恐れ多いです」

 フローラは上品に小首を左右に振った。
 だが、その突きだした尻は、いまもウィルの男根が前後している。
 拒む女の綺麗な顔を見ながら腰を振ることに、ウィルは嗜虐的な喜びを感じ始めていた。

「大丈夫だから、してごらんッ!」

 そのたん、フローラは顎を上げた。

「痛っ……!」

 ウィルは黒いお仕着せの上から、フローラの両の乳房を少し強めにぎゅっと握ったのだ。
 フローラの胸がウィルの指の形に潰れている。

「……や、優しく。言うこと聞きますから。優しくしてください……」

 先日の昼に、トリスやジュディスの尻をでていた印象が強いのだろう。フローラは、逆らえないとばかりに哀願するようにそう言ったのだ。

「乱暴にしてごめんね。でも、約束したからね」

 ウィルの心は、微量の罪悪感と、多量の征服感で占められていた。
 白い尻肉の間で擦る亀頭の先は、先走りでれはじめていた。
 後ろからだと、振り返るフローラの横顔をじっくりと観察することができる。鼻筋は白く優美に通っている。
 フローラは、これから起こることにおびえるかのように金色の眉をゆがませている。
 ウィルはちゅっとフローラの唇の先をついばんだ。
 すると、ウィルの男根が一層ぬちゃっと湿った。

「ん?」

 間違えてちつないに入れてしまったのかと一瞬焦ったが、目の前のフローラは頰を赤く染めて、断続的に息を吐いているだけだった。
 ウィルが女のやわごしの前面に腕を回し、ショーツのすきへと指を差し込む。
 そのまま遠慮無く、女性器へと指を伸ばす。

「あ!」とフローラ。

 少年の指先がくちゃりと濡れる。
 多量の女の愛液が、ウィルの亀頭の行く先をぬかるませていたのである。
 ウィルは、より動きやすいよう、女の背を倒す。
 フローラの金髪のうなじの部分に顔を埋める。客間女中であるせいか、汗の臭いに混じって、かすかに茶葉の香りがした。
 くちゅくちゅと尻の谷間を往復し、ついに――

「くっ!? いくよ!」

 ウィルの柔らかく張り詰めた亀頭の先端が、フローラの菊の穴とまだ男を知らない女性器の間で震える。
 そのとき、フローラの壁に手をつく指が震える。
 びゅっびゅっと、尻肉の割れ目で脈動するような感覚とともに、女性器の下端に触れる亀頭から大量の精液が放たれる。
 それを受け止めるのは、フローラが奮発して買った青いレース飾りつきの下穿きである。
 フローラのうなじを舌でめあげ、柔らかい乳房に深く両手の指を沈め、女の白い尻たぶで挟まれた先端からどくんどくんと長い時間をかけて快楽の証を送りこむ。
 多量の熱量を一気に発散したためか、小便の後のように、ぶるると少年のおしりが震えた。

(ああ……、すっきりしたぁ!)

 ウィルは心地よい疲労感に包まれている。

(でもやっぱり中に挿れたかったかなあ)

 フローラの背筋に顔を寝かせながら、ウィルはそんなことを考えていた。
 なんとなく、うなじに唇を当てると、フローラの背筋がびくんと震えた。
 そこで初めてウィルは思い立つ。
 自分が気持ち良く達するだけで、フローラが気持ちいいかなんて全く気にもしていなかったのだ。
 顔を上げると、フローラがどう反応してよいか分からないとばかりに、形の良い下唇を歪めていた。
 ややけんしわが寄っている。
 買ったばかりのお気に入りの下穿きを男の精で汚されたのだ。
 少年が顎を上げて、つうっと女の唇を吸うと、女の表情が少し和らいだ気がした。
 ウィルはのし掛かっていた身体を離すと、女が尻を突き出した体勢のまま、刺繍の入った綺麗な下着を、太もものあたりまで引き下ろす。

(あちゃあ……)

 ウィルはしゃがんだ体勢で、フローラの下腹部をしげしげと見上げながら、苦笑いをしていた。
 ショーツと女の股の間は、にちゃっと上下に精液が糸を引いている。
 精力剤まで口にしただけあって白濁はいつもより量が多く、鼻を近づけるとせそうになるほど臭いがきつい。
 青い下穿きのクロッチの部分は、精液溜まりとなっており、左右の綺麗なひらひらした飾りひだが、横れをかろうじて防いでいた。
 男を迎え入れる準備の整った女性器は、うっすらと精液がひとすじ垂れ下がっている。
 ウィルが、フローラの左右のショーツの紐の部分を指で掴んで、ショーツを引き上げると、

「あ!」

 フローラは軽い悲鳴をあげて、困惑した表情を浮かべた。
 ぐっちょりと、精液でぬかるんだクロッチの部分と、フローラの女性器や尻の穴が触れあったことだろう。
 生温かい感触が精神的にかなりくるものがあったのか、フローラは壁からずり落ちるように、しりもちをついた。
 そんな金髪の女の鼻先に、ウィルは自身のまだ滴が切れていないえた男根を差し出す。

「ねえ、フローラ。ぼくのここを綺麗にしてくれる」

 ウィルはもう大丈夫だと思った。
 フローラは、唇が触れあいそうになってる垂れ下がった少年の男根を、その青い瞳をまん丸にして見つめている。

「ぼくの身体に少しずつ慣れてもらわないとね?」

 ウィルが落ち着いた声でそう言う。
 すると――

(あれ、意外にすんなり)

 男根がすぐに柔らかい温度に包まれた。フローラは、特に悩む時間も必要とせずに、少年の性器を口に含んだのである。
 金髪の頭をそっと撫でてやる。

「裏側も舐めて綺麗にしてくれる?」

 女に舌を使わせて、亀頭の裏筋の部分を舐めさせる。
 こんな可愛い子が、ショーツを自分の精液でべとべとにして、男根をくわえてくれているのだから嬉しくないはずがない。
 少年の背筋にやんわりとした心地良い支配感が立ち上っていく。

「ぼくは自分で慰めたことがあるって言ったけど、これからは、なにも自分でやらなくてもフローラにやってもらえばいいよね?」

 再びウィルは、フローラの目の前で、指で輪っかを作り、前後させて、しゅっしゅと男根をこする仕草を見せつけたのである。
 金髪の女性は、咥えた格好のまま、黙ってうなずいた。

「下着汚しちゃってごめんね」

 ウィルは、いまさらのようにそう言った。
 女は咥えたまま、首を左右に振る。

「汚れた下着は洗濯ランドリー女中メイドにそのまま渡せばいいよ」

 フローラは、それだけはできないとばかりに、慌ててクビを左右に振った。
 その拍子に、ちゅぽんと少しだけ力を取り戻した性器が口を離れた。
 自分で手洗いするつもりだったのだろう。
 男の精液で汚された自身のお気に入りの下着を、ほかの女中たちに隠れてこっそり洗うのは哀愁が漂うだろう。
 下級使用人には個室が与えられていないのだから、干し場にも困り、生乾きになるかもしれない。
 ウィルは性器をズボンにしまいながら、笑った。

「馬鹿だなあ。ぼくの洗濯女中がぼくの精液のついた下着を洗うくらい当然じゃないか」

 先日、ウィルは、自分に逆らった第一洗濯女中を屈服させた。だから、その言葉にはかなりの説得力があった。
 なおも戸惑うフローラに、

「代わりに新しい下着をプレゼントしてあげる」

 ウィルは、金髪の女性を肘を掴んで立ち上がらせて、部屋の隅に置かれている白い飾り足のついた背の低い箪笥のほうへと案内したのだ。
 少年が引き出しを開けると、フローラの青い瞳がはっと大きく見開かれる。

「きれい……!」

 そこには所狭しと様々な色やサイズの下着が収納されていた。
 どれも刺繍入りの高級品である。

「フローラにはこれが一番似合うかな……?」

 そのうちの一つを無造作にとって、フローラの胸の左右に当てる。

「うわあ。しかも上下セット」

 フローラは目を丸くしている。

「いまはどういうの着けてるの?」

 そういうと、フローラは黒いブラウスのボタンを二つほど外して、服の隙間を開いて見せた。
 柔らかそうなそうきゅうが、白い布地に包まれている。

「サイズはいくつかあるから、自分に一番あったものを一つだけ選んでね」

 刺繍入りの女の下着はそれなりに値は張るが、所詮は消耗品である。揃えられないこともなかった。
 お洒落は女の生き甲斐でもある。
 もうフローラは目を輝かせて、下着を広げている。

「あげた下着なんだけど、ほかの女中には――」

 ウィルがそう言いかけると、

「わ、分かっています。内緒にしておきます!」

 フローラが慌ててそう答えた。
 だが、ウィルは笑って首を振る。

「違う違う――これから、みんなにどんどん自慢していいからね」

 ウィルは、下着を選ぶフローラを後に残して部屋を出たのであった。

「やっと見つけたぞ! ウィル!」

 廊下に出ると、赤毛のマイヤが少し息を切らせて駆けてきた。

「ん? なんか用事だった」

 ウィルはとぼけた。

「オレはおまえの部屋付きなんだから、いつでもお前のそばにいて当然じゃねえか」

 マイヤはウィルの肩に小さな赤毛の頭を擦りつけると、小柄な身体をくっつけるようにして横を歩き始めた。
 赤毛の少女は、ふいにクンクンとウィルの服の匂いを嗅ぐ。

「この臭い、どっかで嗅いだことがあるなあ。ソフィアは藁の臭いがするし、最近のトリスは少し薬臭い、リッタは美味しい匂いがする。残るはフローラか――」

 ウィルはぎくっとした。まさに犬のような嗅覚である。

「まあいいけどよ。ちぇっ。言ってくれたらオレが相手をしてやったというのに」

 見えない石ころでも蹴るように、マイヤは足をじゅうたんのうえに振り上げた。
 そんなマイヤがつい可愛くなって、肩を抱き寄せようとして、途中で止めた。
 廊下のむこうにソフィアがいるのが見えたからだ。
 ふと横をみると、伸ばしかけてやめたウィルの手をマイヤが物欲しそうな顔で見つめていた。

「おーい。ソフィア。それ、どうしたの?」

 ウィルがソフィアのほうに近づき、指で少女の頰を指し示す。
 銀色の綺麗な髪は今日も輝かんばかりであったが、少し頰に泥がついていた。

「ん? ああ」

 ソフィアは手の甲で泥をぬぐった。

「今日はケーネに頼んで、家畜の世話をさせてもらっていたんだ」

 ケーネというのは、マルク家の酪農女中の名前だ。
 酪農女中は、清楚なイメージの漂う職位で、事実、乳製品を作る酪農部屋デイリー・ルームは屋敷で一番清潔な空間といえる。
 それがある種、汚れなき乙女といった男の願望を投影するようでミルク女中メイドと呼ばれることもある。
 そのためか、貴族の女主人が乳女中スタイルで客を迎えることが流行したことさえあるのだ。

「なんだ。わたしにも役に立てる仕事があるではないか」

 ソフィアは心なしか生き生きしている。遊牧生活を営んでいただけあって、家畜の世話はお手の物らしい。

「馬の世話もしていいよ」
「本当か!?」

 ソフィアの声がさらに弾む。
 馭者長ヘッドコーチマンの爺さんが馬の扱いに慣れた人手を欲しがっていた。手伝いに行ってもらうのも悪くないだろう。
 ウィルがソフィアの肩に手を回すと、

「牛小屋にいたから、少し臭うぞ」

 銀髪の少女はそう言って目を閉じ、白い顎を上げた。

(今日はやけに協力的だな……?)

 ウィルはそう思った。
 いつもは、嫌そうに銀色の眉をひそめながら仕方なく唇を許すのである。
 少年は、銀髪少女の唇を吸い、両手で身体を抱きしめる。
 少女からは、お日様と干し草の匂いがした。
 上から唾液を流し込むと、ソフィアは特にちゅうちょする様子もなく唾液を飲み込んだ。
 少女のお尻をさわっても、特に抵抗することもなく身をゆだねている。
 ウィルは身体を離して、きょとんとソフィアを見つめていた。

「どうした?」
「いつもだったら、もう少し嫌そうにするのに……」

 ウィルはそう不思議そうに問いかけた。

「まあべつに減るもんじゃないしな。ウィルに屋敷を動かす力があると分かったから、わたしも約束を果たそうとしているだけだ」

 そう笑った。今日は久しぶりに動物の世話をしたせいか、本当に機嫌が良いらしい。
 この少女は、案外にさばさばしたところがある。ウィルのことを好きになったというより、自分の立場に納得したというのが正解かもしれない。
 遊牧民の女は基本的にとても働き者だ。そして極めて実際的な性格をしている。
 マルク伯爵家は農場を経営の基幹にしているが、ウィルから見ても、ひたすら土地にしがみつき堪え忍ぶ農民と、遊牧民のしつは全く違う。
 遊牧民においては、突然襲い来る寒波など、いつ牧草地を去るかという指導者の判断の誤りひとつが、命の糧となる家畜の大量死を招く。
 それゆえに遊牧民は、農民以上に力のある人間には黙って従うものなのだ。
 もっとも、いったん力がないと見なされたならば、扱いも一転して酷薄になるのだが――

「だいたい、わたしの貧相な身体なんか触らずとも、ケーネあたりを触ればいいだろ?」

 そう言われて、ウィルは思わず苦笑をする。
 ケーネは、長い黒髪と乳女中の名に相応ふさわしい大きな乳房をもつ女性である。
 外見の特徴は、若干トリスに似ているが、トリスほど背は高くなく、朴訥さと清楚さの印象のほうが先に立つ。
 ケーネは毎日屋敷と農場を往復しており、屋敷にいるときはずっと乳製品作りに勤しんでいるため、邪魔しては悪いと思い、あまり接点がなかったのである。
 貴族家のチーズやヨーグルト、バターなどの乳製品は、貴族家のプライドである。
 内覧会に向けて、ケーネとも話をする必要があるだろう。
 ふと横を見ると、じいっとマイヤがウィルのほうを見上げていた。
 自分もと、唇を指差しているのだ。
 それを見て、ソフィアが明るい笑い声を立てた。

「はは。マイヤは可愛いな。ウィル、風呂に早く入ってくれないかなと女中たちがやきもきしていたぞ」

 そう言って、背を向けて自室へと戻っていったのだ。
 領地の屋敷のお風呂は、ウィルだけでなく使用人みんなの楽しみだ。
 だが、主人のために沸かされた湯は、使用人たちが使うころにはどうしても温くなってしまう。
 マイヤは、なおも物欲しそうに唇を押さえている。
 さきほどフローラのショーツのなかに一発放ったとはいえ、まだまだ精は有り余っている。下半身が疼くくらいだ。
 このままどこかの部屋で押し倒すのもいいかもしれない。そして明らかにマイヤはそれを期待している。
 だが、ウィルは赤毛の少女の肩に手を回し、

「あっ!」

 くるりと身体を方向転換させて、

「洗濯場に行こう」

 そう言ったのである。


   ‡


 現時点での領地の屋敷には計四十一人の女使用人がいるが、伯爵領の屋敷にしては、やや少ないくらいである。
 ほかの貴族家の屋敷とは違い、男手を減らすため雑役女中オールワークスとして雇われた女たちが、農園の手伝いや、きゅうしゃの手伝いまでしていることに特徴がある。
 マルク家のお屋敷はとにかく女によって維持されているのだ。
 実は、屋敷のなかで十二人もいる――屋敷のなかの最大勢力は家政ハウス女中メイドであった。
 マルク家くらい広いお屋敷を清掃するには、どうしても多くの女中の手が必要になる。
 だが、これだけの人数がいるにも関わらず、家政女中が屋敷の中で目立つことは、ほとんどない。

「あ、ヘンリエッタだ……」

 マイヤの視線の先に注意を向けると、そこには、まるで砂漠の女のように黒いスカーフで顔をおおい、マスクでくちもとを隠した少女が、逃げ遅れた小猫のように、びくっと固まっているところであった。
 黒い手袋には、雑巾が握られていた。さきほどまで床を掃除していたようだ。
 顔はほとんど窺えない。
 スカーフの奥から覗く赤い目は、周囲を少しきょろきょろと見回した後、逃げられないとばかりにウィルのほうを振り向いて、まるで叱責されているかのように、こわごわと深く頭を下げた。
 これが伯爵の方針なのである――

 女中は決して、階上の世界アッパーステアーズの主人の目につくところに出てきてはならない。
 女中は決して、主人のいるまえで口を開いてはならない。
 女中は必ず、主人がいないときに完璧に掃除を済ませていなければならない。
 おかげで家政女中たちは、朝の三時には、主人が起きるまえに屋敷の清掃を済ませ、夕飯を食べた後は、せっかく使用人に開放されている風呂に入る時間もなく、次の日のために就寝するのが常であった。

 このあたりに、表で接客にあたる客間女中がフローラただ一人しかいない理由がある。
 本当のところ伯爵は、客間女中であろうと屋敷の目立つ場所に女中は置きたくないのだ。
 王都のタウン別邸ハウスでは客間女中はおかずに、より高給の従僕フットマンが接客に当たるのである。
 領地の屋敷でも、接客に当たる専門のものが誰もいないのでははなはだ都合が悪い。
 そういうわけで、ようやくフローラを一人雇い入れることができたのだ。

 だが、内覧会では、フローラ一人で足りるはずもない。
 これから何人か客間女中を増やす必要があった。
 目立ってはいけないという習性が染みついているためか、おそらくはそう命じられているからなのか、家政女中だけは屋敷の表の空間だけでなく、階下の世界ビロウステアーズでもウィルを見かけると、逃げる――柱の影に姿を隠す。
 他にやりようがないのか、かろうじて、使用人ホールの昼食だけは一緒にとってくれる。
 食堂でもフードを被りながら、ぼそぼそと食べている。

「仕事ごくろうさん。ヘンリエッタ――」

 ウィルがそう言うと、ふるふると少女は顔を振り、その拍子にスカーフのすそから、ぴょこんと少し跳ねた白い髪の毛先がはみ出した。
 白髪の少女は、慌てて白い髪をスカーフの中へと隠す。
 ヘンリエッタは、生まれつき色素がほとんどない白子アルビノなのであった。
 瞳は血の色のように真っ赤である。スカーフの奥から、瞳だけが不気味に光るから正直怖い。
 百年も昔なら、不吉な忌み子として殺されていたかもしれない。
 直射日光を浴びないほうが肌には良いのだろうが、なにもここまで白子であることを隠す必要はないと思う。
 ヘンリエッタの容姿は目立ちやすいため、伯爵からこうして髪と肌を隠すように命ぜられているという。

「……もうし、わけ、ありません……」

 ヘンリエッタの声を久しぶりに聞いた気がする。透明感のある綺麗な声なのだが、もう何日もまともに人と話をしていないようなしゃべりかただった。
 家政女中たちは、このような手ひどい扱いを受けながら、先日まで解雇される女中の筆頭にあげられていたのだ。
 屋敷に主人筋はウィル一人しか生活していない。
 そのため、屋敷の表側の使っていない部屋を封鎖してしまえば、家政女中の人減らしをすることもできたのである。
 ヘンリエッタはスカーフを整えると、一礼をして長い廊下の向こうへと歩き去って行く。
 この白髪の少女が屋敷にやってきたのは、ウィルが寄宿学校に通っているときくらいの時分で、王都の別邸タウンハウスより領地のカントリー屋敷ハウスに転勤してきたようである。
 そういうわけで、ウィルは、ヘンリエッタの顔をまだ一度もまともに見たことがなかった。

「なあ、ウィル?」

 マイヤがそうたずねてきた。

「ヘンリエッタは真面目だから……。一応、伯爵がいないときは、そこまでしなくてよいとは言ってあるのだけれどね」

 ウィルは先回りするようにそう言い訳した。
 なにせ命じたのが、マルク家の最高権力者の伯爵である。
 命令を勝手に覆したことが知られれば、本人だけでなく、屋敷を実質的に任されているトリスの立場も悪くなりかねない。
 それはトリスにはできない――同じ主人筋のウィルにしか口を挟めない専権事項なのである。

 だが、口では優しいことを言ってあげられても、肝心な部分でウィルは腹をくくる気になってなかった。
 差し迫られない限り、面倒ごとはご免であった。わざわざ父親に逆らって何になろうか。
 ウィルはジュディスでさえクビにしなかったというのに、蜃気楼のように気がつけばどこかに消えていく、接点の少ない家政女中については冷淡であった。
 ならば、ヘンリエッタがウィルの言葉を気休め程度にしか受け取らないのは当然である。
 ――だが、頭角を現わしはじめると当然周囲の期待も重くなる。

「あんまり教えたくないけど、一応、教えておいてやる――」

 つい、マイヤが見かねたとばかりに、そう口にしたのだ。

「ヘンリエッタは、あのスカーフを外せば、無茶苦茶美人だぞ」
「なんだって!?」

 マイヤの言葉に、ウィルは、まるで足元に落ちていた宝石でも見つけたかのようであった。
 さきほどの格好のヘンリエッタは、まるで旅人を惑わすという、黒い布をはためかせた砂漠の不気味な案内人のようである。
 白子であるせいか黒い手袋までしているのである。

「一度だけ風呂場で見かけた。ソフィアにだってタメ張れるくらい……。白子なせいもあるだろうけど、肌とかすんごい綺麗だしな。お尻もおっぱいもぷりんとして、すごいぞ」
「ぼくとしたことが!」

 いま、ウィルは、廊下の少し離れた先に見えるヘンリエッタの尻を熱心に見やっていた。
 白髪と銀髪が似ているということもあるが、体型的には、ちょうど成長したソフィアくらいかもしれない。

「薄幸の美少女って感じだな。見りゃあ分かるが処女だろうな」

 廊下の突き当たり付近まで行ったヘンリエッタが何か悪寒でも感じたのか、ふいに肘の付け根あたりを抱きしめて、身体を一瞬ぶるぶると震わせていた。

「ああ――またライバルが増える。なんだってオレはこんな自分が損することばかり……」

 マイヤは両手で肩口までもない短い赤毛をばりばりと掻きあげながら、ウィルを見上げて、そうぼやいたのである。
 少年の目は少し血走っていた。
 ――下半身の欲望は、いつだって男を動かす原動力であったのだ。



◇ 屋敷の女性一覧 ◇

女中長   1人 (トリス◎)
蒸留室女中 2人 (リサ◎・サリ◎)
洗濯女中  6人 (第一:ジュディス◎)
         (第二:イグチナ・ブリタニー△・シャーミア)
         (第三:アーニー・レミア)
料理人   1人 (リッタ◎)
調理女中  3人 (ジューチカ)
皿洗い女中 2人 (ルノア・ニーナ)
酪農女中  3人
客間女中  1人 (フローラ△)
家政女中 12人 (ヘンリエッタ)
雑役女中  8人
側付き女中 2人 (ソフィア△・マイヤ◎)
    計41人
お手つき  6人 (済み◎、途中△)


◇ 用語解説 ◇

寝室や客室、応接間など屋敷の表側の清掃を担う女中職。拭き掃除が多く、膝を痛めることが職業病として知られているくらい重労働だが、豪華な調度品や美術品の置かれた主人たちの暮らす階上の世界アッパーステアーズで働ける魅力がある。
ウィルの父親のマルク伯爵が屋敷の表側で女中を目にすることを極端に嫌っており、いまも『主人の前から姿を消すように』という命令が生き続けているため、領地のカントリー屋敷ハウスの家政女中たちは深夜に起きて働きはじめ、夕方前には就寝するという変則的な生活を強いられている。屋敷の女中たちのなかでも主人の姿を見て逃げ出すよう教育された家政女中だけは、ウィルとあまり親しく接していない。





第二十三話「敬虔な女中」へのコメント:
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