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第十四話「蒸留室の双子姉妹」

 蒸留室スティルルームにはその名のとおり、蒸留のための設備が備え付けられている。
 一般的な貴族のお屋敷では、蒸留装置を使って花びらから香水などを抽出するものなのだが、マルク家は少し違っている。
 いま女中長は、女中服を汚さないようにするためか純白の上着を肩にひっかけ、透明な硝子ガラスの蒸留塔をじっと見つめていた。
 ちょうど佳境なのか集中しているようで、

(あれ、珍しいなあ)

 ウィルの接近に気がつく様子がない。
 おそらく香料の元になる物が詰まっているであろう大きな硝子のフラスコが、アルコールランプの火でグツグツと熱せられている。
 蒸留塔を上に抜けて行く蒸気は、木のまたのように枝分かれした冷却管を通過し、いくつかの硝子瓶のなかにしずくとして溜まっていく。

(たしか、気化する温度の差を利用して、特定の成分だけ抽出しているんだっけ……)

 見上げるトリスの視線はじっと蒸留装置に注がれており、その淡褐色ヘーゼルの瞳は学者としての色合いを帯びているように思えた。
 やがて一段落したのか女中長はふうっと溜息をつく。首を振って、まゆがしらみこみはじめた。
 手を休めた頃合いだと見計らい、少年は黒い布地に包まれた女の尻を撫で上げてみた。

「きゃっ!」

 なんと女中長が可愛かわいらしい悲鳴をあげたのだ。

「トリスの悲鳴、聞いたの初めてな気がするよ」

 手に残るやわにくの感触にウィルは満足そうな笑みを浮かべる。
 今日は案内されるがまま、トリスの尻ばかり見ていたせいで、実のところ触りたくて仕方がなかったのだ。
 女中長はすくめた肩をぶるっと震わせた。

「なんとお恥ずかしい。失態ですわ。たとえ目が覚めて、ご主人さまがわたしのなかでお腰を振っていようとも、このように小娘みたいな声をあげない自信がありましたのに」

 ゆっくりとウィルのほうを振り返ったとき、淡褐色ヘーゼルの理知的な瞳は、年若い令息を惑わすてきな色合いに変化していた。

「う……と、とりあえず洗濯女中のお尻を撫でてきたよ? 一人だけ」
「それはようございました」

 トリスはそれがだれかとは訊かない。気にならないのかなとウィルは少し思った。

「ところで……何を作っているの?」

 ウィルはすんすんと鼻をひくつかせながら、目の前に立つ長身の女にそう尋ねてみる。

「避妊薬です」

 簡潔な答えが返ってきたので、

「え……? 昨晩使ったアレ、かな?」

 ウィルはつい視線を、自身より高い位置にある黒地のスカートの股のあたりまで下げてしまう。
 情事の際にはこの股の谷間に指をさし入れ、突き当たりにある子宮口にガム状の避妊具ペッサリーを貼り付けたことを思い出す。

「あれとは別口にございまして、いま作っているものは飲み薬にございます」
(べ、別口……)

 艶めかしく光る女の赤い唇を見上げ、

「えっ、飲み薬で避妊なんて、そんなことできるの?」

 ウィルは素朴な疑問を投げかけた。
 ストリキニーネや水銀、ヒ素などは、女体には重い負担があると聞く。飲むだけで妊娠しないようにする薬というのは、相当強い劇物に思えてならない。

「紀元前の文明に伝わっていた製法が分かりました。だねを殺す毒を含ませるのではなく、すでに妊娠状態にあると勘違いさせる薬でして、これを飲ませている限り、ちつないに精を放ってもはらませることはございません」

 ウィルはあっに取られる。
 目の前の硝子のフラスコのなかで判別できるのは石榴ざくろくらいであろうか――名前の分からない多数のしょうやくが、ぐつぐつとしゃふつされている。

「作ったばかりの薬を、いきなり屋敷の女中に試すわけにはまいりませんので、まずはしょうかんおろしています」
「しょ、娼館!?」
「はい。直接卸しているわけではありませんのでご安心を。もし伯爵家の女中長が関わっていると知られれば、さすがにがいぶんが悪うございますから、ここだけの話ということでお願いします。でも評判がよろしいんですよ?」

 トリスはそう悪戯いたずらっぽくほほんでみせた。
 ウィルはあきれ顔を浮かべながら、思案する。
 現状でも、トリスの作ったガム状の避妊具ペッサリーで十分避妊できるが、飲み薬で避妊ができるならば、それに越したことはない。

(避妊具を付けない方がぼくも気分がいいしね……)

 子宮口を触る教育を受けたせいか、より自分の性癖が明確になった気がする。そこに直接精液をぶちまけられる方が征服欲が満たされるのであった。

「それよりも蒸留室にいらっしゃるのはお珍しい――」

 トリスの言葉に頷くと、ウィルは蒸留室に置かれている木の椅子の一つに腰をかける。

「ちょっと相談したいことがあってね」
「なんなりと」

 トリスは軽く膝を折って、快諾を示す。

「さっきね、ソフィアが言ったんだ。妹を取り戻したら草原に戻るって」
「ほほお。わざわざそのようなことを伝えて来るとは。あの子なりの実直さと言うべきですかね」

 妹を見つけた報酬に純潔を捧げてもらう――というのがソフィアとの約束であるが、ウィルの本当の望みは、あの気高い草原の少女を身も心もり、一生自分のものにしてしまうことなのだ。

「――して、ご主人さまはそれをお認めになるつもりで?」

 すると少年は両の拳を握りしめ、

「そんなこと認めてやるもんかッ! ソフィアは、ぼくのものなんだ。絶対に手放したりなんかしない!」

 そう激昂してみせたのだ。
 昔見た、瞳の綺麗な草原のステッペンウルフが目の前から去っていったのを、少年はどれほど惜しんだことか分からない。
 自分の手のうちから宝物が逃げていくのは許せない――少年にはそういう分からず屋なところがあった。

「それでこそ支配者です。しょうちゅうに収めたぎょくをみすみす逃すようなことがあってはなりません」

 トリスは実に満足そうに頷くと、後押しするように背もたれの背後に回り、令息の耳に唇を寄せてくる。

「女の心を支配するには、身体から支配してしまえばよろしいのです。まずは屋敷の女中で練習なさるのがよろしいでしょう」

 どこか、ぞくりする声でそうささやきかけてきた。

(れ、練習って……?)

 振り返って見上げると、

「ソフィアは双子なのですから、あの子たちが適任でしょう」

 女中長の涼しげな顔が、別室に通じる少し開いたドアのほうに向き、

「二人とも入ってらっしゃい」

 そう呼びかけた。
 すると、ぎいっと開いたドアの左右から、黒いリボンのついた白い女中帽モブキャップがちょこんと顔を覗かせる。もとおおい隠す長い前髪の下で、あいきょうのある可愛らしい唇が動いた。

「失礼します」「です」

 双子の蒸留室スティルルーム女中メイドのリサ・サリであった。分厚い台帳のようなものを胸に抱えているのが姉妹のどちらであるかは、見分けがつかない。
 近づいてくる二人の背は、小柄なマイヤよりもさらに少し低く、どこか森の黒リスを思わせる小動物的な感じがする。

(そういや、時間作ってほしいって言われてたっけ……)

 そろって目の前に並ぶと、二人は肩を寄せ合うようにして、ぺこりとおをした。

「ご存じのとおり、リサとサリは三年ほど前にわたしが奴隷市場で見かけ――ちょうど直属の部下がほしかったこともあり、屋敷で買っていただけるようお願い致しました」

 トリスが背後からそっと語りかけてくる。

(……たしかこの子たち、遠い東から来たんだっけ)

 ちょうど屋敷に来た時期と前後して、屋敷の令息は王立学院で寄宿舎暮らしをはじめたので、それほど接点があったわけではない。

「今後は、ご主人さまのお耳としてお使いください」
(耳……?)

 トリスの言葉の意味するところが分からず、ウィルは首を傾げた。

「報告なさい」

 トリスがそう促すと、左側に立つ少女が口を開いた。

「はい。マイヤさんですが、使用人ホールを出た後もニヤニヤと笑いが止まらず、調理場で気味悪がられていました。それでも料理の手際が良いのはさすがなのです」

 続いて、右側の少女が口を開く。

「体調を崩したフローラさんがウィル坊ちゃんの寝室で寝ていることについて、一部の女中たちがうわさをしておりました。ウィル坊ちゃんの紳士的な態度が褒め称えられる一方で、フローラさんだけが特別扱いされてズルいという声もあがりました」

 少年はぎょうてんしていた。
 トリスはこうやって屋敷の使用人たちの情報をこと細かく集めていたのだ。どうりでいつも屋敷の内情に詳しすぎると思った。

「女中に悪い虫フォロワーはついていないわね?」

 トリスの質問に、

「はい。わたしたちが見回ったところ怪しそうな素振りはありませんでした。わたしは今日、出入りの商人に口説かれましたが、特に心は動かなかったのです」

 片方が白い顎の下に指を当てて、そう返答した。

「わたしも、お嬢ちゃん可愛いねって褒めてくれました。孫みたいだって」

 もう片方がえへへと笑った。

「サリ、報告は正確になさい」
「……申し訳ないです」

 女中長にしかられた少女は、バツが悪そうに相方に向けて下唇を突き出した。見栄を張ったのかもしれない。

「リサ、今日生理中の女はだれかしら?」
「はい。少々お待ちを」

 たしか姉のほうのリサが台帳を広げた。
 ウィルがひょいとそれを覗き込むと、ページに細かいマス目が引かれているのが見えた。
 左側には屋敷の女の名前がつらなり、上側には一ヶ月分くらいの日付が羅列してある。その日付をまたぐようにいくつもの棒線が引かれていた。

「はい。今日の生理はイグチナさん、レミアさん、ケーネさん、フローラさん、アンネさん、パティさん、チュンファさん、フレデリカさん。以上八名です」
(ぶっ……)

 ウィルは、ふとその棒線が臭ってくるような錯覚におちいっていた。使用人便所の異臭ただよう生理用品の山、あれらはすべて女中長の手によって監視されていたのだ。ページのみつさと台帳の厚みが恐ろしい。

「ちなみにルノアさん、今回初です」
(うわあ……)

 少年の胸くらいのたけしかない皿洗いスカラリー女中メイドの名前が挙がって、さらに動揺する。

「あなたたちの生理は終わったのね?」
「はい。昨日終わりました」

 台帳を持っていない方――サリはそう報告した後、ウィルのほうに顔を向け、ほんのりと頰を染めた。

「こ、ここなのです」

 リサの指先に促されて少年が台帳を見下ろすと、たしかにリサ・サリの名前の横の棒線は昨日の日付で途絶えている。

「お聞きいただいたとおり、この子たちはご主人さまのお役に立つ女中です。今後はご活用ください」
「……活用って言われても」

 ウィルが反応に困っていると、

「たとえば、女中の悩み事や関心事、あるいは弱みなど、この子たちを使えばたちどころに丸裸にできますよ」

 こともなげにトリスはそう言ったのだ。ウィルはあんぐりと口を開ける。
 ふと、ある思いつきが頭をかすめた。

「ん? も、もしかしてぼくのことも……?」

 主人の行動は、基本的に同じ屋敷に暮らす使用人――特に女中長には筒抜けなのだが、できれば隠しておきたいこともある。
 トリスと肌を合わせるまえに、何度か我慢できずに自分で慰めたことがある。繊細な思春期の少年にとって、秘密を暴かれるのはなによりも恐ろしいことであった。

「さきほど洗濯場でご主人さまがブリタニーさんのお尻やおっぱいを触っていたことは、すでに報告済みなのですよ?」
(うわああ!?)
「ご安心ください。ご主人さまがお一人のときに、お部屋でどのように過ごされているかなど、この子たちを使ってせんさくするような無礼なはしておりません」

 バレバレな気がしないでもないが、それでもウィルは女中長の言葉にほっと胸を撫で下ろした。

「ただ――」

 見上げるトリスは、とぼけるように自身のあかい唇に指を当て、ウィルに涼しげな視線を送ってきた。

「ご主人さまが女中の着替えを覗かれていたことは、存じ上げております」
「ご、ごめんよ……! つい出来心で……」

 ウィルが悲鳴をあげるように弁解しはじめたとき、

「「あの――」」

 唱和する双子の声が聞こえ、正面を向く。

「わたしたちにご命令いただければ」
「もっと覗きやすい場所をご案内しましたのに」

 二人は、うずうずした口調でウィルの左右の腕をとった。

「え、ええ!?」
「よく女中の着替えに使われている空室もございますよ」
「もし見つかっても、悪いのは勝手に使ってる女中のほうですし」

 どうやらこのように使えるらしい。

「『ご主人さまのお役に立つ』ということは、いつでも抱ける女中ということですよ。もちろん処女にございます」

 女中長はあたりまえのようにそう口にする。
 ウィルの左右の腕に、双子は明らかに胸を押し付けてきており、その感触の薄さがかえって生々しい。東方の出身なせいか、やけに幼く見える。

「……ほ、本当にいいの?」

 少年が問いかけると、小柄な双子の少女は赤い顔で、こくりと同時に頷いた。

(ふ、二人いっぺんにってこと……?)

 複数の女性を同時に抱くという発想に、まだウィルの頭がついていかない。

「身体をご覧いただきましょう。リサ・サリ、スカートを上げて、ご主人さまにお見せしなさい」
「「はい」」
「へ? いまなんて……」

 双子は、呆気にとられるウィルの左右の腕を解放すると、

「ええ!?」

 二人ともちゅうちょなく、白いエプロンと一緒に黒地のスカートをめくりあげてしまった。
 黒い靴下の覆うふともものむっちりとしたあやしさといったら上質の白絹シルクのようだ。ふとももの上の飾り透かしの入ったした穿きが目にまぶしい。
 やや幼児体形気味だが、見た目ほど幼くないあかしのように黒いいんもうかすかに透けて見える。それが二人並んでいるのだ。

(…………あ……)

 ウィルはそれに目を疑った。
 二人とも下穿きの足の付け根のあたりが、はっきりと分かるくらい湿っているのだ。

「な、なんで……?」

 触れてもいないのにそんなふうに濡れるものでないことくらい、なんとなく分かる。

「それはですね――」

 ウィルの疑問に答えるべく、トリスが口を開いた。

「ご主人さまに愛欲を抱いているからですよ。わたしはこの双子の少女を、ご主人さまのそばにいるだけで濡れるように教育しました」
「あなたたち、下着も下ろしなさい」

 双子は、ほんのりと顔を赤らめながら頷いた。

(ちょっと、ちょっと待って……!)

 スカートが落ちないよう、黒地の布をその小さな口に含むと、白い下穿きを膝のあたりまで一気に脱ぎ下ろしてしまった。
 あまりの成り行きに少年はただただ目を見開いていた。
 しかしそれでも視線は、双子の下半身へと吸い寄せられる。暗くてぼんやりとしか細部が見えないが、ふとももや腰まわりがむっちりと白く、妙にそそられる。

「この子たちには、この屋敷に来たときからあることを命じております。週に一度、ご主人さまのことを思いながらをなさいと――」

 ウィルはあんぐりと口を開けた。
 表面上、他の女中と扱いは同じに見えても、やはりこの双子はなんでも言うことを聞かせられる奴隷なのだ。服従の度合いが違う。伯爵家に買われ、トリスの教育を受けただけあって、疑問を挟むまえに命令に従う習性が染みついているのかもしれない。
 トリスは近くのテーブルの上からしょくだいをひっつかみ、足下の木の床にことりと置いた。
 そうすると、少女たちの黒い靴下と白いふとももが一層妖しく照らされることになる。橋渡しされた白い布地は中央部が湿って変色している。濡れそぼるしょいんえいが揺れていた。

「三年前に屋敷に来てから、この双子はもうかれこれ二百回はご主人さまのことを想像しながら花弁を慰めていることになりますね。今日は自慰をする曜日ですから、条件反射的に濡らしているというわけです」

 その言葉を裏付けるように左側の少女――リサの花弁から、白い下着の上につつっと滴が垂れ落ちた。

「どのくらいで、あなたたちはご主人さまに愛情を感じるようになったのかしら?」

 双子は顔を赤らめたまま小首を傾げ、

「三ヶ月くらいしたころです」「わたしもそのくらいなのです」

 そのように返答した。
 伸ばした前髪の隙間からじっと見つめられているのを感じる

「なかなか興味深い実験でした。女の身体を快楽にひたせば、ある程度まで心はどうにでもなるということです」

 あまりに寒々しいトリスの言葉に、

「い、いや……。いくらなんでもやり過ぎなんじゃないかな……」

 目の前の少女からは、性欲よりも哀れさのほうを強く感じてしまう。
 この双子は遠く離れた異国の地に売られてきた。

「いつか故郷にだって帰りたいだろうし……あっ」

 つい口にしてしまってから後悔した。
 マルク家が奴隷として二人の身柄を所有しているからこそ、この双子には故郷に戻るという選択肢が与えられない。
 買われてきた身でありながら『故郷に帰る』と公言するソフィアは例外中の例外であろう。

「この子たちは身寄りをなくしたところを人買いに拐われて売られてきたので、もう帰る場所なんてないのですよ」

 双子は哀しそうにこくりと頷いた。
 目許を黒い前髪で隠しており、二人の内心を窺い知ることはできない。正直、さきほどから表情が分からないのが落ち着かない。

「ねえ、もう下着は戻しくれていいから、前髪あげてみてくれない?」

 ところが黒髪の双子は、ふるふるとそろって首を振った。そして膝まで脱ぎ下ろした下着のほうも穿こうとはしない。

「え、どうして?」

 ウィルの疑問に、

「恥ずかしいです」「恥ずかしいのです」

 双子は顔を一層赤くして答えた。
 男のまえで下着を下ろしておいて、額を見せるのを恥ずかしがる心理が、ウィルにはよく分からない。

「この子たちは、自慰をするように命じてから前髪を伸ばすようになったのです。どちらか分からないほうが情報収集には便利なので、放っておいたのですが」

 やれやれとばかりにトリスは肩を竦め、

「ご主人さまが命令なさっています。髪をあげなさい」

 そう命じたが、なんと双子は強情にも首を振ったのだ。

(へえ……?)

 意外だった。それで双子の内面に興味が湧いてきた。
 それをトリスが許すはずもなく、長身の女はすっと目を細め、双子を見下ろす。

「あなたたち――」
「「ひぃ」」

 下着をおろした格好のままお互いに手と手を合わせて、追い詰められた小動物のようにぷるぷると震えはじめた。

「トリス、ぼくはべつにいいよ?」
「仕方ありませんねぇ。ご主人さま、閨でゆっくりと裸にひんいてやってください。一人の女を抱くのも良いですが、同じ顔をした娘を二人同時に抱くのもまたおつなものにございますよ」

 トリスがそう言ったとき、ウィルの目の前では双子姉妹の黒い陰毛が燭台の炎に照らされていた。

「――とは言っても今晩はきゅうきょ先約が入ったので、この子たちの番は後回しなんですけどね」

 トリスは少し悪戯っぽい口調でそう言ったのだ。

「リサ、今日はマイヤさんの日だから戻るのです」

 一体どこで聞かれていたのだろうか。サリのほうがそう口にした。

「ええ!? 覚悟してきたのに、そんなあ……あわわっ!」

 双子の片割れが、自分で下ろした下穿きに足をもつれさせ、後ろにしりもちをついた。
 白く柔らかそうな股がぱっくりと口を開く。汁気の多い果肉でも割ったかのように薄桃色のそこは、ぐじゅぐじゅに濡れていた。

「リサ。なんで転ぶの?」

 サリが呆れたようにそう問いかける。

「あいたたた。なんか腰が抜けちゃったのです……」

 見た目がそっくりな双子でも、性格に違いがあるようであった。

「ご主人さま、ソフィアとマイヤをお呼びになりましたよね。せっかくですから、わたしがお化粧してお部屋にお運びしましょう」

 伯爵家の女中長は、少し悪戯いたずらっぽい口調で言ったのだ。



◇ 屋敷の女性一覧 ◇

女中長   1人 (トリス◎)
蒸留室女中 2人 (リサ△・サリ△)
洗濯女中  6人 (第一:ジュディス)
         (第二:イグチナ・ブリタニー△・シャーミア)
         (第三:アーニー・レミア)
料理人   1人 (リッタ)
調理女中  4人 (マイヤ△)
皿洗い女中 2人
酪農女中  3人
客間女中  1人 (フローラ△)
家政女中 12人
雑役女中  8人
側付き女中 1人 (ソフィア△)
    計41人
お手つき  1人 (済み◎、途中△)


◇ 用語解説 ◇

蒸留室女中は女中長ハウスキーパーの補佐役を務める女中職。その名前の由来どおり蒸留装置を使った薔薇香水の精製や茶葉の管理やお菓子作りなども行なう。
マルク家の蒸留室女中リサ・サリには上司であるトリスの意向もあって、本来の業務から外れた指示が与えられることも多いようだ。




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