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第十二話「洗濯女中」
トリスとともに、屋敷の本館から離れた煉瓦造りの小さな建物――洗濯場に足を運ぶ。
洗濯場は特有の臭いもするし、広い干し場も必要なため、屋敷のなかでは少々具合が悪いのだ。
近くまで歩いて行くと、建物の裏手の窓から湯気が立ち上っているのが見え、石鹸の匂いが強くなり、それと同時に陽気な歌声や笑い声も聞こえてきた。
通常、屋敷のなかで働く女中は無駄口を叩かないよう躾けられるものだが、その例外がこの離れで働く洗濯女中である。
ここは雰囲気が自由闊達なのが良い。洗濯場は幼少のころからのウィルのお気に入りの遊び場であった。
トリスは足を止めて振り返る。
「ここより先は、わたしよりもご主人さまのほうが、お詳しいと存じます」
「う、うん。それはそうだけど……」
先日、夢精をして下着を汚して以来、ウィルは気恥ずかしくなって、この洗濯場から足が遠のいてしまっている。
洗濯場の建物を見つめながら気後れするウィルの肩を、女中長は後ろから押してきた。
「さあ、どうぞ。姦しい洗濯女中たちの尻でも叩いて、上下関係のなんたるかを存分にお示しくださいませ」
「えっ? ええ! そんなこと言われても……」
伯爵家の令息は少し情けない声をあげる。
調理場では上手く行ったが、洗濯場ではどうだろう。
ウィルは、幼少のころによく遊んでもらった、大柄な洗濯女中の姿を思い浮かべる。
目の前のトリスより少し背は低いが、それでもウィルよりもずっと上背がある。屋敷の女中たちの中で一番身体つきががっちりしており、薄藍色のお仕着せに包まれた胸や尻はとても大きい。
以前よりウィルとの身長差はずっと縮まったものの、怒らせると、とてもおっかないイメージがある。
(う、うーん……)
少年が難しい顔をしていると、頭の後ろに柔らかい温もりが押し付けられた。
(う……)
白いエプロンに包まれた大きな胸のふくらみが、少年の後頭部を枕のように覆い包んでおり、女の体温が退くつもりのない意思を伝えてくる。
「それとも屋敷の洗濯女中では、ご主人さまのお眼鏡に適いませんか?」
「それはないよ」
このマルク領の周辺地域は、東西の血が混じりあうせいか、美人が多いことで知られている。
なかでも屋敷の女中たちは容姿の整った女性ばかりである。屋敷の裏方の洗濯女中とてその例外ではなかった。
ウィルの耳元に紅い唇を近づけ、囁きかけてくる。
「きつい肉体労働に従事する女中は、大変締まりが良いと思いますよ」
「ぶっ!」
それで用事は終わったとばかりに、女はそっと身体を離した。
「わたしは次の仕事がありますので、先に屋敷に戻らせていただきます。せめて一人くらい尻を撫でてからお戻りくださいね」
いかにも簡単そうに言って踵を返し、悠然と屋敷のほうへと歩き去って行く。
ウィルは一人その場に取り残されて、けしかけるだけけしかけていった女中長の尻を苦笑交じりに眺めていた。
(さあ、どうしたものかな……)
悩むまでもない。思春期の青い性欲が少年を突き動かす。
これから、いままで屋敷の令息のことを可愛がってくれた、古なじみの洗濯女中たちの尻を触りに行くのだ。
少年は股間をむずむずさせながら、建物のほうへと歩き出し、ドアの隙間から洗濯場を覗き込む。
すると顔が蒸し暑い熱気に晒された。
ドアの向こうには、視界を遮るように何枚もの白い布地が吊り下げられているのが見える。ほかほかと布地から湯気が上がっている。
屋敷から毎日大量に出るシーツや、レース地、使用人の下着など白亜麻布類と取っ組み合うのが、洗濯女中たちの日常である。
「このところウィル坊ちゃん、洗濯場に顔出さないよね!」
いきなり元気の良い女の声が聞こえてきて、思わずウィルはびくっと肩を震わせた。
(あ、ぼくに言っているわけじゃないのか……)
白い洗濯物の隙間から覗くと、短い栗毛の少女の小さな背中が見えた。洗濯女中のなかで一番小柄なアーニーである。背の高さは、ウィルともっと小柄なマイヤの間くらいだろうか。
頭の右側だけ、短い結び髪にしており、それがこの洗濯女中の印象をより幼いものにしていた。たしかフローラと同じ年齢のはずだが、あの客間女中と違って淑女といった感じはしない。
素直そうに見えて、ときどき容赦のない毒舌を吐く。胸の薄さも含め、マイヤに似ているところがあるかもしれない。
「そうねえ。最近、洗濯場にお越しいただけなくなったわね」
落ち着いた別の女の声がした。
白銀色の髪に褐色の肌をした、異国情緒豊かな十九歳の洗濯女中シャーミアである。背はウィルよりも少し高い。
髪の一部を三つ編みにして豊かな胸の上に垂らしており、残りの髪は滝のように背中に流している。ソフィアの銀髪に比べると乳白色に近い髪の輝きがある。
南方から流れてきた少数民族の出身らしく、ウィルが王立学院での寄宿舎暮らしを終え、屋敷に戻ってきたあと姿を見かけるようになった。洗濯女中のなかで一番の新参者であるせいか、ウィルに対する言葉遣いは他の洗濯女中ほどに気安くない。
南方の風習なのか、シャーミアはやや吊り上がった目をとろんと伏せると、小麦色の瞼に塗られた青いアイシャドウが映えた。砂漠の後宮にいる女のような独特な色気を感じる。
(なんで洗濯女中やってるのか不思議なくらいなんだよね……)
他の洗濯女中も十分に綺麗だが、シャーミアの容姿の華やかさは群を抜いている気がした。
いまシャーミアは、小柄なアーニーと並んで低い長椅子に腰を掛け、袖をまくり上げた腕を動かしている。この二人は、毛織物や絹織物などを洗うのを専門としており、ブラシをかけているところのようだ。
褐色の洗濯女中の白いエプロンを、豊かな胸のふくらみが持ち上げており、腕を振るたびに、たぷんと揺れた。さきほど揉み散らしたフローラよりも多少大きいだろうか。
「久しぶりにウィル坊ちゃんが調理場に顔を出したって、マイヤに自慢されたよ」
そう口にする小柄な女の胸は、まったく揺れていない。洗濯物に隠れて見えないが、口を尖らせるアーニーの表情が思い浮かぶようであった。
昔から、洗濯場と調理場には対抗意識のようなものがある。清潔な衣類と美味しい食事、衣と食のどちらも屋敷の生活水準を保つには欠かせない。自分たちが屋敷を支えているという自負があるのだろう。
「仕方ないわよ。こんな年増と遊ぶよりも、若い子と遊んだほうが楽しいに決まっているもの」
屋敷の中で最年長の女中――三十二歳のイグチナは、湯気で曇る丸眼鏡をエプロンの裾で拭きながら、拗ねるように言う。
ウィルと同年代の娘をもつ一児の母でもあるイグチナの背は、ウィルよりも少し低いくらい。
料理人リッタに身体つきが似て胸も尻も大きいが、イグチナの身体にはいよいよ線の崩れかける直前の、年増の魅力を感じさせるものがあるだろうか。
イグチナは、肩にかからないくらいの短い黒髪を揺らしながら、湯気を上げる樽のなかに白い布地をせっせと押し込みはじめた。
エプロンの脇からはみ出た大きな胸が、ぶるんぶるんと大きく揺れている。
洗濯女中として日々の肉体労働に従事しているせいか、ウエスト周りも女性としての魅力を損なうほどに太くはない。
なんでも結婚はしているものの夫は蒸発してしまい、イグチナは事実上の独り身だとか。
『大変締まりが良いと思いますよ』
ついトリスの言葉を思い出してしまう。
顔を赤くするウィルの目の前を、イグチナと同様に丸眼鏡をかけ、柔らかそうな長い栗毛を背中で束ねた、ほっそりとした長身の女中が横切った。
「わたしたちは年増ですから仕方ありませんよ」
古株の洗濯女中ブリタニーは長い睫毛を伏せて、ふうっと溜息をついている。その寂しげな横顔を見て、ウィルの心が少し痛んだ。
歳は二十八歳。女性に年齢を訊ねるものではないが、嫌な顔一つせずに教えてくれた。
ウィルは、ブリタニーの薄い尻を眺める。
(子宝に恵まれなかったんだよね……可哀想に……)
良家との縁組みを果たしたものの、跡継ぎを産めなかったため婚姻を解消されてしまったとか。
教会が離婚を認めていないため、イグチナのように籍を入れ続けるか、ブリタニーのように最初からなかったものとして扱うかのどちらかしかない。
子供好きなことも手伝ってか、この長い栗毛の女中は、全力でウィルを甘やかしにかかっているフシがある。
「ちょっと忘れないで! 若いのもいるよ! あたしとか、レミアとか」
アーニーの言葉に、ボーイッシュな黒い短髪の女中が、洗濯物の入った大きな盥を木のへらで搔き回しながら、こちらを振り返った。
十代後半の洗濯女中レミアである。暑いのか女中服のブラウスを脱いでおり、上半身は下着の上にエプロンをつけただけの格好で、面倒くさそうに頭を搔く。
脇から覗かせる胸のふくらみは乏しいものの、ブリタニーのように手足の長い、すらりと引き締まった細身の身体つきをしている。
「あん? 坊ちゃんと? 興味ないね」
レミアはウィルに対して少々そっけないのだ。少女はもっと男らしい異性が好みだと口にしていた覚えがある。
(ちぇっ……)
ウィルは唇を尖らせた。
ブリタニーに言わせると、そういうのが可愛くて仕方がないそうだが、幼く見られがちなことをウィルは少し気にしていた。
「なんでわたしが若いのに含まれていないのかしら。わたしまだ二十歳の日を迎えていないのだけど……?」
「だってシャーミアって年齢不詳な妖しい感じがするもん」
「なっ……」
白銀髪の女は、さも心外そうにアーニーのほうを振り向く。
「ほら、あんたら! 口を動かすんだったら手も動かしな!」
部屋の中央にいる大柄な女が腰に手を当て、睨みを利かしていた。この職場のまとめ役を務める、二十代半ばの第一洗濯女中ジュディスである。
栗毛のブリタニーも長身なほうだが、ジュディスは肩幅が広く体つきも筋肉質で引き締まっており、屋敷のなかでは一番大柄な女と言って差し支えないであろう。背もトリスに次いで高い。
蒸れて暑いのか女中服の胸のボタンをいくつか外しており、その露わになった胸の白い柔肉の合わせ目には汗が滴り落ちている。
「はい。姉御!」
レミアが元気よく同意した。ボーイッシュな少女にとって、頼れる姉貴分という関係のようだ。
赤毛のジュディスは、イグチナとブリタニーに次ぐ、屋敷の古参の女中の一人である。あの髪型は昔から変わっていない。両耳の横あたりから結わえられた太い赤毛の三つ編みは腰まである。
もう十年も昔の話だが、背の高いジュディスに肩車をしてもらったこともある。あの三つ編みの髪をひっぱっては怒られたものだ。
結婚してから三年ほど屋敷を離れていたのだが、夫を亡くしたため屋敷に出戻ってきていた。
「口は悪くても、腕は悪くないのが洗濯女中ってもんさ」
大柄な女は、いかにも気の強そうな赤い眉を少し緩め、カカと笑った。白い歯がこぼれる。昔から竹を割ったような性格をしている。
屋敷に戻ってからのジュディスは、以前にもましてよく働いてくれるようになった。仕事に生き甲斐を見出しているようである。
「暑いねえ……」
洗濯物を洗うのに湯を使っており、室内は熱気が籠もっていた。
「よし、わたしも脱ぐよ」
ジュディスは額の汗を拭うと白いエプロンを外し、薄藍色のロングドレスを頭から脱ぎはじめる。白い下着に包まれた大きな胸が露わになった。ついで大きな尻も――
屋敷の本館から離れた蒸し暑い職場であり重労働なこともあって、必要に応じてこうして服を脱いでも見逃される。
赤毛の女は長い木のへらの取っ手をつかみ、大きな樽のなかを搔き回しはじめた。
じゃぶじゃぶという湯音とともに、ジュディスの背中の筋肉が盛り上がっている。柔らかい身体つきのトリスとは真逆の、ほれぼれするような見事な筋肉美であろう。
トリスほどではないものの胸は相当に大きく、大柄な女の動きにあわせて、ぶるんぶるんと汗が飛び散らせながら大きく揺れるので、有無を言わさぬ迫力があった。
周囲に湯けむりが立ち上っており。ジュディスの背中には汗が滴り落ちる。厚手の下着は汗や蒸気を吸って、むんむんと湿っている。
その光景に情事のときの息苦しいほどの熱気や湿気、肌の火照りを連想してしまうのは、少年が性行為を経験したからであろうか。
「軍曹どのは背中もいいんだけど、一番カッコイイのはお尻の筋肉なんだよね」
小柄なアーニーがジュディスの背を覗き込み、妙なことを言い始めた。
この栗毛の少女の最近のお気に入りは、ジュディスを軍曹と呼ぶことらしい。軍隊で働いていた亡きジュディスの夫の話を聞いて感化されたようだ。
「……うーん。まあ、いいけどねえ」
なんともいえない表情を浮かべ、ジュディスは赤毛の後ろ頭を搔きながら、足下の湯気の立つ桶を見下ろした。
いま使っているのは炭酸ソーダ水であろう。どうしても落ちない汚れは薬剤に浸けて洗い落とすという。
食べ物の汚れなどを落とすのに効果絶大だと、いま桶を覗き込む赤毛の女中に説明してもらった覚えがある。女中服の白は貞淑さを表わす色とされており、真っ白に洗い上げるよう求められるのだとか。
トリスに唆されたこともあってか、こちらに向けられたジュディスの大きな尻を、ウィルはつい凝視してしまう。
女性にしては逞しい脚で支えられたそこが、どんなふうに『締まる』のか、想像のあまりの身近な生々しさに少年は思わず息を呑むことになった。
そのとき当の赤毛の第一洗濯女中は、桶の中から白い布地を摘まみ上げると、ぱんと左右に広げてみせたのだ。
(あ……)
それはウィルの白い下着である。
大柄な女は、布地の白さに満足するように頷いている。
そうまでしないと落ちないシミ――少年が解き放った白い残滓を、赤毛の洗濯女中は苦労してこそぎ落としていたのだ。
ウィルが羞恥で顔を赤くしていると、
「うん。やっぱりいつかはお店を出したいねえ。屋敷で働くのも不満はないんだけどさ……」
ふとした拍子に、ジュディスがそう口にした。
「さんせーい! 軍曹どのに賛成!」
「いいね。姉御。ついていくよ」
アーニーとレミアが即座に賛同し、
「わたしたちの腕なら、きっと繁盛するでしょう」
シャーミアが、洗濯場のプライドをちらりと覗かせる。
(ぼくは反対!)
昔なじみの女中たちが、独立して屋敷を辞めていくなど、ウィルには到底受け入れられることではなかった。
だが、大貴族家の洗濯女中は、上質な衣類を扱う機会も多く、専門技術も磨かれていくものなのだ。腕に自信のある職人なら、自分の店を構えたいと考えてもおかしくはない。
「でも、そのためには先立つものがねえんだよな」
赤毛の第一洗濯女中はがっくりとうなだれる。開業するにはそれなりの資金が必要になろう。
「姉御のためならお金を出すよ?」
レミアは木のヘラを搔き回す手を休め、額の汗を拭う。
「いや、うちらのお給料、ジュディスに渡したところでどうにもならないって」
ブラシをかけるアーニーが呆れたように返事をする。
一連の会話の流れに実のところウィルはホッとしていた。
店を開店する資金というのは、一介の洗濯女中が働きながら貯められるような金額ではないだろう。
金主になってあげたい気持ちもあるが、いまのウィルに屋敷のお金を動かす権限はなく、なによりジュディスたちに抜けられては困るのであった。
「うーん、どうにかできないものですかねえ……」
新参のシャーミアは、とても残念そうな口調である。
「はは、あんがとよ。人の夢なんて儚いもんさ」
一方で、屋敷に長く勤めたイグチナとブリタニーは独立話には口を挟まず、ただ微笑んでいた。
「シーツを干しはじめとくれ」
「はい。分かりました」
同意する女の気配にドキリとする。
(あ、こっちに来た……)
洗濯物の陰から顔を出した、長い栗毛のブリタニーはウィルの姿を認め、きょとんと丸眼鏡の奥の黒茶色の瞳を見開いた。
しーと、黙っていてくれるよう口のまえに指を立てると、長身の洗濯女中はなにも訊かず、微笑みながら頷いてくれた。
山のようなシーツを胸の前のカゴに積み上げた長身の女中は、ウィルの姿を隠すように一緒に建物から出る。
(冷静に考えたら、べつに隠れる必要なかったね……)
干し場の横のウッドデッキに腰を掛け、ブリタニーの働きぶりを眺めることにした。洗濯場のなかはサウナのように蒸し暑かったので、涼しい風を顔に受けると気持ちがよい。
すらりとした体形の洗濯女中は、ときおりウィルのほうにニコニコと嬉しそうな視線を送りながら、洗濯物を干している。
カゴから洗濯物を取りだそうとブリタニーが背を屈めると、薄藍色のスカートにやや薄い尻の谷間がわずかに浮かび上がる。腰骨から背中にかけてのくびれたラインや、スカートの裾から覗かせる白い靴下に、誘われるような色香を感じてしまう。
女中の腰ほどの背丈しかなかったころ、あのスカートのなかは絶好の隠れ場所だった。
マルク家の女中たちは、毎日清潔な衣類を着け、仕事のあとには風呂にも入れることもあって、スカートのなかは甘い女の肌の匂いが充満したものだ。
特に記憶に残っているのは、ブリタニーの白く柔らかいふとももの感触――見上げるお菓子の包み紙のような下穿きは、ときどき色が変わり、ウィルの目を楽しませてくれた。
この長身の洗濯女中は、ウィルをスカートのなかに匿ったまま、器用に歩いてくれるのだ。
「昔はよくブリタニーのスカートのなかに隠してもらったよね?」
懐かしくなって、つい口に出してしまった。
「……またお隠れになりますか?」
ブリタニーはくすりと笑うと、後ろを向いたままスカートの裾をちんまり摘まみ上げる。
そこにウィルをからかう意図はない。本気なのだ。いつでも受け容れるという意思をストレートに示してから、細身の女はすぐに白いシーツを干す仕事に戻った。
長身の身体が動くたびに、背中のあたりで緩く結んだ長い栗毛が、形の良い女の尻を撫でるように揺れている。
白いシーツを干そうと女は軽く爪先立ちになる。そうすると少年のほうに突き出された、身長のわりに小ぶりな尻が、お仕着せの布地の下で、きゅっと引き締まるのが分かり、思わずウィルはデッキから腰を浮かせていた。
周囲をきょろきょろと確認する。
幸い、干されたシーツが帆のように空間を仕切り、視線を遮ってくれている。
少年は、洗濯物を干している女の背後へとそっと忍び寄ると、
「あら……」
以前やったように、後ろから細身のウエストの辺りをぎゅっと抱きしめてみる。わずかに身をくゆらせた細身の女中の身体は思った以上に柔らかく、そしてどこか懐かしい感じがした。
性的な抱擁と、親愛の表現のちょうど中間くらいかもしれない。狡いとは思ったが、こうして昔のようにアプローチをかけたら、きっとブリタニーは受け入れてくれる。そんな確信があった。
「ふふ……」
振り返ったブリタニーは、聖母のように慈愛に満ちた表情を向けてくる。
「あれ、驚かないんだね?」
ウィルが不思議そうにそう訊ねると、
「さきほどからずっと、わたしのお尻を見つめてくださっていたんですもの……」
ぴたりと耳をつけたブリタニーの背中から、くすくすと笑い声が響いてきた。
この古株の女中にはウィルの青い性欲など見透かされていたようである。
「お年頃ですもの。女性の興味がおありになって当然ですわ。どうぞこの身体は、ウィル坊ちゃんのお好きになさってください」
「え!? いいの? ホントに?」
想像以上の抵抗のなさに、ウィルは驚いた。
「ウィル坊ちゃんのお役に立てるなら本望ですもの」
ブリタニーは顔を赤くするウィルのことが可愛くてたまらないといった感じで、身体をくゆらせた。
「う、うん……」
少年は少しドキドキとしながら、シーツを広げている洗濯女中のエプロンの隙間に手を差し入れる。すぐに大きな乳房に指の腹が触れた。
女の乳房の重さを確認するように下から持ち上げてみる。
(大きさはだいたいフローラと同じくらいかな?)
フローラほどの瑞々しさはないが、トリスより一つ年下の洗濯女中の柔肉は、しっとりと指になじむ感じがした。
脇の間から差し込んだ手のひらで、くすんだ青色の布地の上から女の柔肉を何度も揉みほぐす。
さきほどは寝ているフローラの身体を触ったが、今度は目覚めていても無抵抗な女の身体をまさぐっているのだ。
「イグチナが羨ましかったんです……」
「え?」
突然、最年長の洗濯女中の名が出てきて戸惑う。
「ウィル坊ちゃんに、おっぱいを差し上げているのが……」
「あ……みたいだね。ぼくは覚えてないんだけど」
一児の母であるイグチナは、乳母であったトリスの部下として子守女中を務めていた時期がある。トリスの手が離せないとき、代わりにウィルに母乳を授けたこともあったそうだ。
「ウィル坊ちゃんがこうして、わたしのおっぱいを求めてくれるのが嬉しいんです」
(昔みたいに母乳が飲みたいわけじゃないのだけど、いいのかな? で、でも、もう我慢できないや……)
だんだんと股間の刺激を求める気持ちが抑えきれなくなり、ブリタニーの体格のわりに小ぶりな尻の谷間に、張り詰めた腰の先端をこすりつけてみた。
「あっ……こ、こんなにも大きくなられたのですね」
「いいの? ぼくは最後までするつもりなんだよ?」
そう言いながら、尻の谷間で腰を上下させる。
「どうせわたしは、子も為せないような女ですもの。こんな身体、どうしていただいたところで構いません」
寂しい言葉が返ってきて、はっと我に返る。
少年は、栗毛の女中からそっと身体を離した。
「…………?」
ブリタニーはどうしたのだろうと振り返り、小首を傾げている。
「こ、ここだと落ち着かないでしょ。そ、そのうち部屋に呼ぶから来てよね?」
都合の良すぎる女として扱うのは、あまりにも可哀想だと思ったのだ。
「はい。ウィル坊ちゃんのお好きなときにお呼びください」
女は一度、ウィルの頭をぎゅっと胸のなかに抱き寄せてきた。柔らかいふくらみが少年の頭を包む。洗濯女中らしくお陽さまの匂いがした。
「うん。またね」
去り際に手を振ったウィルを、昔なじみの女中は優しい表情で見送ってくれたのだ。
◇ 屋敷の女性一覧 ◇
女中長 1人 (トリス◎)
蒸留室女中 2人 (リサ・サリ)
洗濯女中 6人 (第一:ジュディス)
(第二:イグチナ・ブリタニー△・シャーミア)
(第三:アーニー・レミア)
料理人 1人 (リッタ)
調理女中 4人 (マイヤ)
皿洗い女中 2人
酪農女中 3人
客間女中 1人 (フローラ△)
家政女中 12人
雑役女中 8人
側付き女中 1人 (ソフィア△)
計41人
お手つき 1人 (済み◎、途中△)
◇ 用語解説 ◇
【洗濯女中】
日々、屋敷から出る大量のシーツや下着類のほか、主人の着る高価な衣類の洗濯業務を担う使用人職。重労働で高度な専門性まで要求されるわりに給料はさほど高くない。
洗濯場は汚れ物を扱うこともあり、主人の生活空間から離れた場所に設置されていることが多く、無駄口を叩かないよう躾けられる他の女中とは違い、仕事中に歌を歌うことができるなど洗濯場は賑やかな雰囲気になりやすい。
第十二話「洗濯女中」へのコメント:
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