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第十一話「女中の使い方」

 トリスはベッドに歩み寄ると、その長い腕で掛け布団をめくり上げた。
 フローラの黒いお仕着せと白いエプロンに包まれた柔らかそうなたいが、無防備にさらされることになる。
 目の前に横たわる金髪の客間女中は、顔が清楚なだけでなくスタイルも良い。腰は細く、胸は適度に――トリスとは比べるべくもないが、それなりに大きい。
 ごくりと唾を飲み込んでいると、

「失礼します」

 トリスはそう口にした。
 そして、エスコートするようにウィルの右手をそっとつかみ、仰向けに眠る客間女中の白いエプロンの上へと導いた。

(え? な、なにを)

 ウィルの手が、いかにも自然な成り行きのように金髪のフローラの胸のふくらみの上へと押し付けられる。
 そのまま上から重ねられたトリスの長い指が曲がった。
 指に押されて、黒い布地とエプロンに包まれた乳房が変形する。女中長は令息に金髪の客間女中の乳房を握りしめさせたのだ。

(うわぁ!? や、柔らかい! お、思ったより量感あるんだ……)

 少年はさらに二、三度揉んで感触を確かめてみる――そのときにはもう、トリスの手は重ねられていなかった。
 乙女の胸のふくらみがすべて手のひらで掌握できている感じがするだろうか――
 ソフィアのように探さねば見つからないほど未成熟なわけでもなく、トリスのように暴力的に大きなわけでもない普通の――というわりには豊かな、眠れる乙女の乳房を揉んでいることに興奮していた。

(も、もっと感触を確かめたい!)

 ウィルはそう思い、刺繡飾りのついた白いエプロンの左右からするりと両手を差し入れ、黒地に包まれた柔肉を両手で大胆にわしづかみにすると、

(ん……?)

 なにか硬いものが指先に触れた。

(あ、これって……)

 もぞもぞと引っ張り出してみると、それは信心深い客間女中が首に下げているロザリオであった。
 一気に冷や水でも浴びせられた気分になる。

「い、いいのかな? こんなことをしても……」
「もちろんですとも。ご主人さまが女中の品定めをなさるのは当然ですから」

 ウィルの不安げな声に、トリスは取り合わない。
 それが腹立たしく感じられ、

「だ、だったら、これも当然だよね?」

 ウィルはトリスの方に腕を伸ばし、そのかがんだ上体からぶら下がる黒い布地に包まれた大きな乳房を、たぷんと下から持ち上げたのだ。
 だが、女中長は平然としたものである。

「ご主人さまが触り比べるのは当然です」

 そう言って腰を屈め、自分から胸を差し出してきた。

(うわあ……)

 風呂場で、トリスとソフィアの胸を触り比べたことを思い出す。無いに等しいソフィアの胸に比べると、フローラの胸の大きさが生々しく感じられてしまう。
 下から揉むのと上から揉むのとの違いはあるが、トリスの乳房は大きすぎて手から溢れる。つかみきれない。
 一方のフローラの乳房は手に収まっている感じがする。

「女の乳房を値踏みしたいのであれば、そのお手で確かめられるとよろしいのです。ええ。お触りになるのに邪魔ですね。脱がしてしまいましょう」

 眠っている女の腰に手を差し入れ、エプロンの後ろの白い紐をほどいた。そのまま身体の前面を覆うエプロンをぎ取ってしまう。
 そして、どうやったのか金髪の乙女の胸元から、上品な飾り刺繍の入った白い胸当てをするりと抜き取ってしまったのだ。
 そして、どうやったのか金髪の乙女の胸元から、上品な飾り刺繍の入った白い胸当てをするりと抜き取ってしまったのだ。

(じょ、女性が女性の服を脱がせるって、なんか凄くいやらしいなあ……)

 黒い布地の上に、胸当ての支えを失った乳房の形が浮かび上がる。胸の谷間の布地がゆったりと左右に引っ張られているのが見えた。
 脇からは蒸れた女の汗の匂いが漂ってくるのだが、不快に思うどころか妙な興奮を感じてしまう。

「さあ、どうぞ」

 その声に後押しされるように、少年はベッドの横からフローラの身体の上に覆い被さり、胸元に手を差し入れる。

じかだと感触が全然違うや。あったかいし、すっごい柔らかい!)

 しっとりと汗の滲むやわはだが少年の手になじむ。女中長の胸には大きさこそ劣るものの、若い女特有のみずみずしさがある。
 乙女の生乳をこね続け、ぎゅうっとわしづかみにすると、胸元から白い乳房がニュッとはみ出て桃色の乳首が顔を出した。

(フ、フローラのおっぱいに吸いついてみたいけど、眠れる乙女と来たら、先に唇を吸ってあげるべきなんじゃないかな?)

 年若い少年はよく分からない義務感を覚え、何歳か年上のフローラの唇のほうに顔を寄せた。
 盛られた眠剤がよほど効いているらしく、両手でかなり強めにぎゅうっと乙女の乳房をわしづかみにしてみても、この金髪の美しい乙女は目覚める気配がまったくない。
 桃色の唇の谷間からもれる甘い寝息が、鼻先をくすぐったあたりでもう我慢できなくなり、少年はえいと乙女の唇を吸ってしまう。

(ああ! 唇も柔らかい……)

 ぴちゃぴちゃとフローラのなめらかな唇を舌でなぞる。背徳感で背筋がぞくぞくした。
 結構な量感のある乳房をニギニギと両手で思う存分揉みながら、舌を伸ばし、にゅるりと口内に差し入れる。意識のない湿った舌先と交わった。
 眠れる乙女の粘膜に包まれた窄まりに侵入して興奮しないわけがない。これから本格的に口内をじゅうりんしようと鼻息を荒くした矢先――

「ご主人さま、フローラの女中帽を脱がしてあげてください」

 視界の端でフローラの白い長靴下を脱がしている女中長が、ウィルの行為をさえぎるように言ったのだ。

(……女中帽なんて、トリスが脱がしてくれたらいいのに)

 スカートの左右から白いふとももが生々しく突き出しており、その先に見えるトリスのあかい唇が、ウィルを試すようにり上がっているのが気になってしまう。
 言われるがままに金髪の頭部を彩る白い女中帽を脱がしてやった。

「ありがとうございます。ちなみに、わたしが把握している限りにおいて、さきほどのがフローラの初せっぷんになります」
「う……」

 薄々そうではないかと察していたが、改めて言われると責められているようでつらい。

「あとはコルセットと、スカートの中の邪魔なパニエを脱がせましょう」

 トリスは、ぎゅっと締まったフローラのウエストのあたりを、指でコツコツと叩く。おそらく革製だろう。いかにも硬そうな音がした。

「……たしかにこのままだと寝苦しいよね」
「はい。脱ぐのと脱がさないのとでは、疲労の回復が段違いですから」

 した穿きの上に着けたゴワゴワとしたパニエのほうは、スカートのシルエットに尻の丸みを与えているのである。

(こんだけスタイル良ければ、ゴテゴテしたパニエでお尻をふくらます必要なんてないと思うんだけどなあ……)

 接客を務める仕事柄、服装には人一倍気を使っているのかもしれない。

(それにしても、トリスはなんでぼくにフローラの胸を触らせたんだろう……?)

 女中に手を出すことをけしかけている一方で、いざウィルが手を出そうとすると引き留めるのだから、何らかの意図があると考えるしかない。
 一つの推測を口に出してみることにした。

「トリスは、きっとこう言いたいんじゃないかな。つまり――」

 白いパニエに伸びた女中長の手がぴたりと止まる。

「女中は正しく扱えと」

 ウィルがそう言ったときトリスは、はっと淡褐色ヘーゼルの目を見開いていた。

「ええ……」

 女中長は何度かまたたきをした。

「一から説明して」
「――ご主人さまは、本当にお賢い」

 その声には紛れもない感嘆の響きが含まれていた。

「ですが……」

 長身の女はしゅんじゅんしているように見える。
 瞳にうれいの色を浮かべながら、ウィルの頭の上に視線を移す。

(むむっ!)

 トリスの態度に少年は憤りを抱く。
 女は迷った挙げ句、背の高さをもってウィルの成熟の度合いを量ろうとした。
 知る限り最もそうめいなはずの女性が、自分にも見透かされる人並みな行動をとったことに、ウィルは腹を立てていたのだ。

「トリスはぼくに忠誠を誓ってくれたよね。だったら、このに及んでぼくを試そうとしないで!」

 やがて女中長の淡褐色ヘーゼルの瞳をじっと見据えることは、想像以上に神経がり減ることに気がついた。なにせ相手は事実上、屋敷を掌握する女性なのだ。

(ぼくは悪くない! 悪いのは分からず屋のトリスのほうなんだ!)

 ウィルは強情に、ぐっと奥歯をみしめる。
 そうすると次第にトリスの瞳が揺れ、目の光彩にくっぷくする優しい色が混じりはじめた。

「……分かりました。ご主人さまの仰るとおりです」

 その返事に、心底ほっと胸を撫で下ろす。へたり込みたい気分であった。

「ご説明しますので、こちらをご覧ください」

 トリスは眠れるフローラの下半身の方に上体を屈めると、客間女中の黒地のスカートと裾から飾り刺繍を覗かせる白いペティコートをともにめくり上げてしまった。

(う、わっ……)

 長靴下を脱がされた生足がすらりと伸びており、膝上をひらひらと何重にも重なってスカートを押し上げる白いパニエが覆い包んでいた。
 その上には、細いウエストをさらにキツく絞る黒いコルセットベルトが見える。
 トリスは手始めに、コルセットベルトの金属の留め具をガチャガチャと外し、引き抜いて見せた。
 よほど強く締め付けていたのか、それでフローラの呼吸はかなり安らいだ気がする。
 それでも、まだこんもりとした布の塊のパニエが女の腰を包んでおり、どことなく苦しそうだ。

「無理にお尻をふくらませる必要なんてないのに……」

 幼少の頃、女中の腰にまとわりついていた令息がしみじみと口にすると、

「ご主人さまは、ありのままの尻のラインのほうがお好みですものね」

 令息の性的嗜好を知り尽くした元乳母はそう応え、フローラの腰の覆うパニエ、その下の白いガーターベルトを相次いで引き抜いてしまう。
 ウィルはごくりと唾を飲み込んだ。
 広げられたスカートの中に伸びる生足の、むっちりとした白いふとももが目に眩しく映る。
 両足の間のかん部は、刺繡の入った白い下穿きで覆われていた。

(あれは……?)

 股間部のクロッチの左右のすきに布地が挟まっていることに気がついた。

「余計なお世話なのですが、替えてあげましょう」

 女中長はためらうことなく客間女中の下穿きを膝小僧のあたりにまで、一気にずり下げてしまう。


(わわっ!? ……ん?)

 金色の茂みの下の女性器の部分には、ぴったりと当て布がされていた。布全体が黄ばんでおり、湿った布の中央が赤黒く染まっている。
 よく見ると、女の膝に橋のようにかかる白い布地にも、ほんの少し朱色が滲んでいることに気がついた。

「これはなに?」

 ウィルはフローラの股間に貼り付いた布を指さした。

「女の生理用品です」

 トリスは無慈悲にも、それをぴろりとめくりあげてしまう。

(あっ……!)

 そこはまさに内臓という感じであった。
 男を受け入れる器官は赤黒い血で濡れそぼり、割れ目は火を通していないレバーのように生臭く見えた。

そうにゅうはお控えください。生理中の女の花弁を使うのは少々、不衛生にございますから」
(こ、ここに挿入……)

 触れるだけでウィルの性器は血まみれになるであろう。
 外縁のあぜの部分まで血でぬかるんでおり、沼地にかるあしのように、金色のしげみの末端が土手に貼り付いていた。

「まあ、フローラは処女ですから、どのみち血は流れるのですがね――」

 トリスは既定事項のようにそう付け加えながら、フローラの膝の間を橋渡しする下穿きを引き抜いてしまう。
 すると金毛の客間女中は、あられもなく左右に股を開いた格好のまま、おだやかな寝息を立てることになった。

「よくご覧ください」

 ウィルは促されるまま、き出しになった女の股ぐらへと顔を近づけていく。
 左右のほおずりしたくなるくらい瑞々しい乙女の白い肌と、目の前のぐちゃっとした赤い肉の割れ目とのギャップが激しい。
 それでもウィルは、食い入るように奥を覗き込む。
 いかにグロテスクに血で濡れていようとも、女のしょには男をきつけてやまないものがあるのだ。

「ここですね」

 ウィルの心理を読んだかのように、トリスは土手の左右を親指と人差し指で挟み、広げてみせる。ちゅくっと音がして血の沼が割れ、地底に続く細道が露わになる。

(うわああ……)

 あまりに生々しい。ちつの入り口には、しょうにゅうどうの柱のように縦にふさぐ仕切りがついていて、そこにも血が絡まっていた。
 トリスは、ポケットから白いガーゼを取り出すと、女の秘所に丹念に押し当てていく。
 すると、みるみる柔肉のひだの血のぬめりがぬぐい去られ、繊細な粘膜の形がよく分かるようになった。細い仕切りは上下に張り出した桃色の粘膜で、表面には細かい血管が走っているのが見える。

(お、うう……)

 腰が急激に疼きはじめたところで、女中長はウィルのほうに向き直り、誓いを立てるように胸の上に手を置いた。

「ご主人さま、わたしを含めマルクの屋敷に仕えるこれら女の使用人は、すべてご主人さまの道具です」

 トリスは『わたしを含め』と口にしながら、その豊満な乳房にぐっと指を沈みこませる。

「屋敷の住環境を整える女の手も、ご主人さまの道具です。存分にお使いください」

 そう言って、フローラの手の甲に触れる。

「知識や芸術、あるいはわるだくみといったものを産み出す、ざかしい女の頭脳もすべてご主人さまの道具です。存分にお使いください」

 身を乗り出し、客間女中の額を撫でる。
 トリスの指先が下に降りていった。ぷるんとした唇に軽く触れる。

「身体の外側の部分――唇や乳房、尻、股やももなど、これらすべてご主人さまの道具です。存分にお使いください」

 はだけた胸の柔肌をつうっと指がい、桃色の胸のいただきにトリスの指先がつんと食い込んだとき、眠れる女中の金髪の眉がわずかに震えた。

「そして身体の内側の部分――口内やちつない、さらには直腸も含めてもよいでしょう。これらすべてご主人さまの道具です」

 促されるまま覗き込むウィルの目の前には、白いふとももが広げられている。
 トリスは乙女の股の間を指で左右に押し広げて見せた。

「――存分にお使いください」

 綺麗な桃色をした生殖器の粘膜の合わせ目が、何の抵抗もなく、くぱっと開かれた。
 乙女の複雑な秘肉の洞窟を至近距離から眺めることになる。

(うわああ!? こ、これ女の子の……)

 その入り口に、二つ窓のついた薄い肉の膜が張り付いているのは、まだ男を受け入れたことのない証に違いない。
 眼前の光景に釘付けになっているウィルをそのままに、

「ですが――」

 そこから急にトリスの声が硬くなった。

「女中の子宮だけは、お使いいただけません」

 トリスはそう言って、さきほどまで生理痛に苦しんでいたのが噓のように安らかに眠るフローラの下腹を、その長い指で円を描くように優しく撫ではじめる。

「妊娠した女使用人は、女であるということと使用人であるということが分離して、両立させることが難しくなります」
「つまり絶対に妊娠させるなということだね――」

 ウィルの問いにトリスは重々しく頷いた。

「はい。ご主人さまがお認めにならずたいさせれば、どんな忠実な女中であろうとも心は離れていきます。お認めになる――あるいは認知しないまま出産させれば、女であることと使用人であることが分離して、以前の関係には戻れなくなるでしょう」

 トリスのげんに疑問を挟む余地はなかった。
 だが、以前の関係に戻れなくなってもと思わせる女中がいることは確かなのだ。
 たとえば、

(おっと。ややこしくなりそう……)

 さとい女に気取られないよう、きゅうっと口のなかを嚙みしめる。
 上下しょうかは一日に百戦す――
 支配者と被支配者のあいだがらで、肌を重ねるほど親しくても、心のなかでは常にせめぎあっている。権力が絡めばそういうものなのだ。
 女の味を知ったウィルは、もう素直なだけの子供ではなかった。

「わたしの生まれ育った医者の家庭の話でありますが、何度もたいさせられ、それでも共依存するかのようについていく――そういう女中を何人か見てまいりました」

 そこでトリスは、歳若い主人に向けて姿勢を正す。

「わたしは女中長として、女中をそのような境遇に落とすつもりはございません」

 トリスの美学に触れ、女中に愛されて育った令息は、まばたきを繰り返した。

「ぼくは、決して女中たちを不幸にしたりしないから」

 それは伯爵家の令息の心の底からの言葉である。

「それを聞きとうございました。ご理解いただき、ありがとうございます」

 マルク家の女中長は、スカートの左右を摘まんで膝を折るカーテシーのしゃくを、完璧なしょで行ってみせた。
 その涼しげな横顔を見ながら、ウィルは思案する。
 マルク家は女中の待遇が良いことで知られており、トリスの考え方もそれを裏付けるものだ。
 一方で、主人のために身も心もささげる女中のりかたをりょうとしているのは間違いない。

「ええっと、女中の使いかたさえ知っていれば、ろうがどうしようがそれは主人の自由。つまりトリスの言いたいのは、そういうことだよね?」
「過不足ない完璧な定義にございます」

 トリスはさらりと肯定してみせた。

「われわれ女中はご主人さまの道具にございますが、道具には道具なりに、正しく扱ってもらいたいというきょうがございまして。きちんと段取りをお踏みいただいた上で、女中に股を開かせ征服せんとすること――それは道具の正しい使いかたに含まれます」

 つまり、女中を大切にすることと、女中にお手付きをすることは両立しうるということか。ふと、頭にひっかかりを覚えた。

「え、待って! ちょっと確認したいのだけど……」

 ウィルは手のひらを額にあて、うーんと考え込む姿勢をとる。

「その理屈だと、ぼくがここで突然発情して、トリスを押し倒すのは主人の自由ってことだよね?」

 随分なたとえ話であるが、女中長は即座に頷いた。

いちの問題もありません。ここはご主人さまの寝室ですし、避妊の準備もできております」
「じゅ、準備できてるの? ……ええっと、フローラについては、たとえ避妊ができるとしても、その後のことを一切考えずに及ぶのは無しってことだよね」
「ご名答にございます。さすがはご主人さま。女中という道具を使うにあたって、肉体的な面以外に精神的な面も考慮しなければなりません」
「じゃ、じゃあ、ぼくが後で責任をとるつもりなら、眠っているフローラを抱いてもいいの?」

 すると、トリスが彫像のように固まった。

「いまここでおれになりますか? かなり面倒にございますよ」

 トリスは油を差し忘れたゼンマイ人形のように、ぎいっとウィルのほうからフローラの股間のほうへと首を回転させた。

「た、たとえばの話!」
「もし避妊をなさらずに、ご主人さまがフローラの膣内に精をお出しになったとしたら、その後わたしはどのような行動をとるとお思いになられますか?」
「さ、さあ? ど、どうするんだろう」

 昨晩、初体験を済ませたばかりのウィルには想像もつかない。

「いまはそれほどはらみやすい時期ではありませんが、万が一ということがございます。フローラのと生理の血で汚れたちつこうに唇をつけて、ご主人さまのお出しになった精液を吸い出します。精液が膣の奥に流れないほうがよいので、女の上半身を起こし、こう下からじゅるじゅると――」

 あまりに生々しい話であった。目の前の女がフローラの花弁に唇をつける姿がちょっと想像できない。
 だが、たしかに複雑に入り組んだ膣から精液を吸い出すなら、人の唇に頼るのがより確実であろう。

「ほ、本当にトリスはそんなことをしちゃうの……?」
「まず申し上げておきたいこととして、わたしはご主人さまの精液を喜んで味わう変態にございますが、生理中の女の花弁を味わう趣味はございません」

 女中長はぜんとした表情で溜息をついたのだ。

「ですが、女中たるもの主人のためなら、どんな汚れ仕事もこなさねばなりません。唇で精液を吸い出した後、さらに湯で洗い流し、膣内に精を殺すお薬を塗り込みます。そうしてできる限り孕む可能性をなくします」
「や、やらない。約束するから、もうこの話はもう忘れていいよ」
「お待ちください。本当に肝心なのはここからにございます」

 トリスはそう言って、フローラの黒いお仕着せの胸元に指を差し入れる。

「フローラが目を覚ました後は、ご主人さまが我慢できずに行為に及んだことを説明しなければなりません」

 女中長がもぞもぞと引っ張り上げた黒い鎖――それは客間女中が首から提げている黒い十字架のネックレスであった。

けいけんな家庭に生まれた子ですから、結婚するときに処女でなければ大問題となります。フローラ自身も家族に対面がたもてません。真面目な子ですから仕事が手につかなくなるでしょう」

 屋敷の令息は、あっと口を開ける。
 避妊は大切だがそれ以上に、個々の女中にはそれぞれの事情というものがあるのだということに、ようやく思い至ったのだ。

「ですから、フローラが引き続きこの屋敷で働くよう、全力でなだめすかさねばなりません」

 女中の一人をめにするのと、一対一の対等な間柄で口説くのでは、思っていたほど大きな違いはないのかもしれない。だんだんとそんな気がしてきた。
 ウィルが頷いている間に、トリスは真新しい布でフローラのいんを覆い包み、下着を穿かせる。そしてスカートを穿かせ、客間女中の色気のある足を隠してしまった。

「なら、結婚を前提にしないことには、フローラとは関係を持てないということだよね?」

 そう問いかけたウィルの言葉に、

「女中との結婚などありえません。ご主人さまとフローラとでは家の格式が違いすぎますから」

 取り付く島もない感じで、トリスは首を振った。
 たしかに社会階級を無視した婚姻を結べば、社交界からつまはじきにされることだろう。

「じゃあ、どうやってもフローラと関係を持つのは、無理ってことかな?」
「いいえ。世の中は綺麗ごとだけではありません。多少ついえがかさみますが、教会の司祭さまにお願いして、処女であることを証明してもらえばよろしいのです」

 きょを突かれた――
 マルク領の町ロムナには、辺境領にしてはそれなりに立派な教会が一つあり、そこには高齢の司祭が駐在している。よぼよぼの老人の目で、処女膜の有無など確かめられようはずがない。
 司祭を抱き込んで、処女証明書を発行してもらうよう女中長はそそのかしているのである。

「そ、そこまでする?」
「支配者たるもの、欲しいものを手に入れるためならば、手間を惜しむべきではありませんし、手段を選ぶべきでもありません」

 元家庭教師ガヴァネスよどみなく言い切った。

「――ようやく、トリスの言っていることが分かってきたかもしれない。女中を支配するには、どんなにあくらつであろうとも、きっちり段取りを踏めと」

 じっとトリスの瞳を見つめながらウィルはそう口にする。

そのとおりですイエスご主人さまマイマスター。女とは深く入り組んだ何重もの堀をもつ城です。征服するには外堀も内堀もすべて埋めてしまえばよろしい。ご主人さまが多くの城の完全なる支配者となられますように」

 トリスは満足そうにほほんでみせた。
 ウィルの方も思考の枠が取り払われるのを楽しく感じており、納得するように頷き返したのだ。

「ではフローラが起き出したら、さきほどのように唇を吸ってあげてください」
「え、ええ!?」

 それは予想していなかった。

「まさかこの子の初接吻を、そのまま無かったことにされるおつもりですか?」
「うぐ……」

 痛いところを突かれた。
 フローラの乳房はトリスに誘導されて触ったが、フローラの唇を奪ったのはウィル自身の意思によるものだ。

(昔から、変なところで妙に生真面目なんだよね……)

 肌を合わせた後も、女中長が厳しいことには変わりがなかった。

「強引に迫っても良ろしいと思います。生娘メイド拒絶ネイを示しながら受け入れるテイク。まさにフローラですわ」

 女中長はそう断言してみせた。

「最初に身を許した相手になし崩し的に捧げ尽くす、そういう性質の女です。おまけに恋に恋しています。このままだとそうばん、客人にめられ屋敷から去って行くことでしょう」

 ウィルは顎の下に手をあて、金髪の客間女中を値踏みするように見下ろす。

「……フローラは可愛いからね」
「はい。客間女中を目当てに足しげく屋敷に通う商人もいるくらいです。おそらくは時間の問題でしょう。みすみすだれかにくれてやるのが惜しいのであれば、意識のあるときにフローラの唇を奪う、最初の男性になられるべきです。唇を奪ったあとは、胸を触ろうが尻を触ろうがさほど抵抗はしないでしょう」

 トリスの断言に、ウィルはごくりと唾を飲み込んだ。

「一度唇を吸えば、あとは最後の一線を超える合意を取りつけるだけです。汽車の切符を買うようなものですわ。レールさえきちんと敷いておけば、いかように扱っても問題はありません。わたしも客人から評判の良い客間女中を手放したくはありません。女中長としてフローラにお手つきなさるよう、強く要請いたします」

 ついには女中長の立場から頼まれてしまった。

「で、でも、フローラの人生を左右してしまうんだよ?」

 決断を迫られて、令息はためらいを露わにする。
 ウィルとて健康な少年だ。清らかな乙女を手折りたいという気持ちはある。問題は重くのしかかる責任である。

「左右して当然でございましょう。土地であれ建物であれ女であれ、欲しいのであれば永続的な支配に根ざすべきです。ご主人さまは支配者としてお生まれなのですから――」

 覚悟が足らないと言わんばかりのトリスの口調に、ウィルは「うっ」と息をまらせる。

「何人お手折りになろうが、それで屋敷がく回ればよろしいのです」

 女中長はそう言い切る。

「わ、分かった。ぼくは……フローラを自分のものにする、よ? いずれね……」

 自身のベッドに横たわり安らかな寝息をたてる金髪の女中は、手放すにはあまりにも惜しい。それが決め手である。
 令息の返答に、女中長は満足そうにうなずいた。

「承知いたしました。フローラにお手つきされるには、教会の司祭さまに処女証明書の発行をお願いするなど、もう少し準備に時間をかける必要がありますから、さしあたり次は、ご主人さまと昔なじみ女中たちの多い洗濯場ランドリーにお顔を出しませんか?」



◇ 屋敷の女性一覧 ◇

女中長   1人 (トリス◎)
蒸留室女中 2人
洗濯女中  6人
料理人   1人 (リッタ)
調理女中  4人 (マイヤ)
皿洗い女中 2人
酪農女中  3人
客間女中  1人 (フローラ△)
家政女中 12人
雑役女中  8人
側付き女中 1人 (ソフィア△)
    計41人
お手つき  1人 (済み◎、途中△)





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