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第一話「ある朝の目覚め」

全体的に修正を入れました。2018/01/11

 それは朝の出来事であった。
 小柄な少年が、てんがいつきの大きなベッドの上に上体を起こし、わきに立つ胸の大きな女中長ハウスキーパーを不安そうに見上げている。
 この短い黒髪の少年は伯爵家のれいそくで、名をウィリアム=マルクという。

「ウィル坊ちゃまくらいのご年齢の男性に起きる生理現象です。なんの心配もいりません」

 今年で二十九歳になる黒髪の女中長トリスはそう言って、緑地に茶の混ざる淡褐色ヘーゼルの瞳を細めた。
 まだ手足の伸び切らないウィルに比べると、トリスの背は頭一つ分以上も高い。
 四十人もの女中メイドのいる屋敷の女中長を任されるだけあって、こうしてぴんと背筋を伸ばして立っていると、りんとした威厳のようなものを感じてしまう。
 女の鼻筋はすっと白く通っており、高価な調度品を思わせる硬質な色香をただよわせていた。癖のない前髪は眉のあたりで切りそろえられており、長い後ろ髪はいくすじかの三つ編みにまとめられ、白い女中帽モブキャップの周りで固く結わえられている。それが一層、女にごうしゃな印象をもたらしていた。

(うう……。いたたまれない)

 後ろ髪を寝癖で乱した少年がベッドの上で肩をちぢこまらせている理由――それは女の手に握られた白い布地にあった。

(お願いだから、そんなふうにじっくり観察しないで)

 女中長の長い指先が、さきほどまで少年が着けていた下着を容赦なく左右に広げている。
 代わりにウィルの下半身には毛布がかぶせられていた。
 このようなしゅうさらされるのは、遥か昔におねしょをして以来なのではなかろうか。ウィルはそう思い、ためいきをついた。
 思春期の少年の青い性の悩みというやつで、起きたら下着の中がぐっちょりと湿っていたのだ。
 はっきりとは覚えていないが、むんむんとした刺激的な夢を見ていた気がする。

(なんかこうやわらかいものを、両手でわしづかみにしていたような……)

 強烈な快楽とともに目が覚め、息を荒げながらだるく薄目を開けたとき、黒い布地をはち切れんばかりに押し広げるやわにくが視界に飛び込んできた。
 胸の大きな女がこちらにかがみこんでいるのだと、ぼんやりとした頭で理解した。その黒いドレスのくびれたやわごしかぎたばがぶら下がっていることに、ふと気がつく。
 それが屋敷のすべての部屋に通じる鍵束であり、女中長の権力の象徴であることに思い至ると、一瞬で意識が覚醒した。
 トリスである――
 あわてて身体を起こした。
 それと同時に、下着の中が生温かくぬめり、そこから立ち昇ってくる青いせいしゅうに大いに動転したものだ。
 なんとかやり過ごそうとしたものの、女中長はなかなか部屋から立ち去ってくれず、それどころかいつになく着替えをせかしてきた。
 それで仕方なく下着を汚したことを伝えたのであった。

(まさかこんなに念入りに調べられるとは……あっ!)

 女中長はなにを思ったのか、長い指先で綿めんについた白濁をこそぎ取り、その気品のある鼻筋に寄せ、すうっと息を吸い込んだ。

(な、なんでにおいまで嗅ぐの!?)

 前の淡褐色ヘーゼルの瞳が、あやしい緑光を帯びていた。

「ずいぶんとたくさんお出しになられました。おにおいも大層おつようございます」

 女が『ずいぶんと』という言葉を強調したとき、すっと伸ばした指の先で、白く濁ったゼリー状の塊がぷるぷると震えていた。

(うわあああっ!?)

 令息は、あまりの羞恥しゅうちに赤く染まった顔を伏せる。脱いだ下着は大量の精液でぬかるんでおり、自分でもなんでこんなにと思ったものだ。

洗濯ランドリー女中メイドに洗わせればむ話ですが、なんらかの含みをもって接されるのはお嫌でしょう?」

 その言葉には同意せざるを得ない。

(うう、うちの洗濯女中たちにからかいのネタを提供するのは、嫌だなあ……)

 ウィルはいつぞやのことを思い出してしまう――


   ‡


 マルク家には十代後半から三十代前半まで、六人の洗濯女中が在籍している。
 いつも陽気で手抜かりのない仕事をしてくれる反面、屋敷に長く勤めている古株が多いせいか、ウィルに対しあまりに明け透けで、遠慮というものがなさすぎるのであった。

「女はもうお済みですか」

 突然そんなことをかれ動揺するウィルに、

「なんでしたら、うちらを使ってくれて構わないんですよ? 洗濯女中なのですから洗ってさしあげませんと」

 まだ美貌を失っていない屋敷の最年長――三十二歳のとしの女中がニマッと笑い、そこに、

「ウィル坊ちゃんが望んでくださるなら……」

 いつもウィルの言うことをなんでも聞いてくれる、二十八歳の女中まで同調したのだから、場の雰囲気が妙にぬめっとした。

「なら下のぞうきんらしてもらいませんとね」

 さきほどの年輩の女中が、うすあい色のスカートのすそまみ、白い長靴下に包まれた膝小僧が見えるあたりまで持ち上げ、むっちりとしたふとももを、きゅっと内側に締めてみせたのだ。
 ウィルと同年代の娘がいるというのに、このなまめかしさは一体どういうことだろう。
 顔を赤くして視線をらす令息の反応に満足したのか、

「ふふ。お目よごしをしました。年増がお嫌なら、この二人なんていかがでしょう?」

 今度は若い洗濯女中に話を振りはじめた。

「あたし? もっと強引に迫ってくれないと、その気になれないっス」

 たしかウィルより二、三歳年上だっただろうか。黒髪のボーイッシュな女中が興味なさそうに言った。
 本当にウィルが強引に迫ってきたら、どうするつもりなのだろうか。

「あたしは優しくしてくれるなら別にいいよ? ウィル坊ちゃん、弟みたいで可愛かわいいし」

 もう一人の小柄な栗毛の女中が、脳天気にそう言った。
 深く考えての発言ではないことは間違いない。められている。ウィルはそう感じた。

「だそうですよ? ウィル坊ちゃん」

 興が乗ったのか、屋敷で一番大柄なリーダー格の洗濯女中がウィルの顔の高さにある大きな胸を誇示するように腕組みをして、返事を促してくる。

「口さがない女どもですみません」

 そろそろやり過ぎたと察したのか、一番容姿の整った褐色の肌の洗濯女中がようやくフォローに回った。
 いつもこのような調子なのである――
 なかには、ウィルのおしめまで洗ったことのある洗濯女中まで混じっているのだから始末に困る。


   ‡


 もし精液で下着を汚したことを知られようものなら、屋敷の洗濯女中たちになにを言われるか分かったものではない。
 ウィルが思い悩んでいると――

「これは洗濯女中たちに見られないよう、今回はわたしの方で処分しておきましょう」

 女中長はそのようなことを言い出し、湿った白い下着を黒いスカートのわきのポケットに無造作に押し込んでしまったのだ。

(へ? だって、それぼくが汚した……)

 少年の白濁をたっぷり吸い込んだ下着は濃厚なせいしゅうを放っていた。トリスの黒い羅紗地のスカートの内側はさぞ匂いが充満することだろう。
 下半身が毛布一枚きりの少年は、一回り以上も年の違う女のたいを、まじまじと観察することになる。
 トリスのくびれたウエストの上には、西瓜すいかが横に並んでいるかと思うほど大きな胸のふくらみがつながっており、胸の谷間を橋渡しする黒い布地は左右に引っ張られ、ぴんと張り詰めていた。
 ウィルは段々と下半身が落ち着かなくなってきて、もぞもぞと毛布のなかで尻を動かした。
 だが、そうすることによって毛布の繊維が、少年の下腹部の敏感な粘膜をちくちくと刺激してくる。

(ううっ……しずまれ。トリスをそんな目で見てはいけないよ)

 少年は、必死で抑えようとした。
 なにせ目のまえにいる女性は、ウィルの元乳母ナニーであったのだから。
 物心つく前なのではっきりとした記憶はないが、あの大きな乳房を吸って育ってきた。
 実の母親――マルク伯爵夫人はウィルを産んだ直後に亡くなっており、トリスこそが少年にとっての母性の象徴といえる。
 いくら血の繫がりがないとはいえ、乳母だった女性に性欲を抱くのは、きんのように感じられてならない。

「ウィル坊ちゃま――」
「な、なにかな!?」

 思わず少年は肩を跳ね上げ、裏返った声で返事をしてしまう。

「ここまでめるまえに処理いたしませんと、また何度でも繰り返してしまうのではありませんか?」

 降り注ぐトリスの視線を頭上に感じ、一層いたたまれない気持ちにさせられる。

(も、もし、またせいしてしまったら……)

 ウィルは、トリスの顔を見上げ、

「そのときはもう自分で洗うよ!」

 ほっといてと言わんばかりに、っぱちでそう叫ぶ。
 すると――

「は? 伯爵家の次期当主ともあろう方が、お汚しになった下着をご自身でお洗いになる? そのようなこと女中長として到底受け入れられませんね」

 トリスは珍しく挑発するような口調でそう言ってきたのだ。
 屋敷の主人が、使用人に見つからないよう夜中にこそこそと自分の下着を洗う――たしかにそれはシュールな光景かもしれない。

「だったら、どうしたらいいんだよぅ……」

 ふて腐れてウィルがそっぽを向くと、

「そろそろとぎに使う女をお作りになったほうが、よろしいかと存じます」

 女は予想だにしない提案をしてきた。

(……よ、とぎ? よとぎ……夜伽!?)

 古めかしい響きのあるその言葉に、ウィルの目は大きく見開かれた。
 ウィルとて年ごろの少年である。性的なことに興味があるどころの騒ぎではない。
 だが、あまりの展開に脳の理解が追いついていかなかった。

「よ、夜伽って、そ、それって……」

 女が大きくうなずくと、その豊満な乳房がたぷんと揺れた気がする。

「もちろんウィル坊ちゃまに女の肉体をご提供することです。としてだけでなく、朝でも昼でもお好きなときにお好きなだけお使いください」

 美貌の女中長は表情ひとつ変えず、そう言ってのけた。

「……女の肉体を、朝でも昼でも……」

 令息はあんぐりと口を開ける。

「はい。今後は男性機能を持てあますことなど無いようにしていただきませんと――」

 トリスの言葉に、ウィルはぎくりとした。
 屋敷の令息は、多くの年頃の少年の例にれず、青い性欲に振り回されるときがある。
 女中の着替えをこっそりのぞいたこともあった。一人で慰めたことも一度や二度ではない。
 実は気がつかれていたのではないだろうかというウィルの内心の不安を知ってか知らでか、

「ウィル坊ちゃまはマルク家のたった一人のあとりなのですから、男性機能を維持することは極めて重要です。いまのうちに健康な女の肉体で、正しく性欲を発散する習慣をつけていただきたいのです」

 トリスはさも当然のようにそう口にしたのだ。
 ウィルはその言葉の意味をしばぎんしたのち、

「……う、うん。そ、そうかもしれないね。そうなのかも……」

 自らを納得させるように、まんざらでもない口調で返事をする。
 実のところトリスの提案は、やりたい盛りの少年にとって願ったりかなったりであった。

「はい。そうですとも。管理の目の行き届いた手近な女中をお使いになるのでも構いませんが――」

 その言葉はウィルにとってかなり予想外なものである。

(…………え? 屋敷の女の子たちもアリなの?)

 屋敷の女中に手をつけようものなら、てっきり監督者であるこの女中長が烈火のごとく怒り出すものと思っていたのだ。

(ということは……)

 のうに様々な選択肢が思い浮かぶ。
 洗濯物を干している女中の胸を、いきなり後ろからわしづかみにするのも良い。
 洗濯場にひとり、昔からウィルの言うことを何でも聞いてくれる気の優しい洗濯女中がいる。きっと許してくれるに違いない。
 夕飯の下ごしらえをしている女中の尻をでるのもよい。
 調理場には幼なじみの調理キッチン女中メイドがいる。さぞびっくりすることだろう。
 お茶をれに来た女中の唇を迫ってみるのもよい。
 マルク家の客間パーラー女中メイドはどことなく押しに弱そうな金髪の乙女だ。もしかすると、あの唇を吸わせてもらえるかもしれない。
 想像の現実味を吟味して、むくむくと下半身に血液が集まるのを意識したそのとき――

「せっかくですから奴隷市場を見て回りませんか? ちょうどマルク領の近くで開催されており、あそこならばウィル坊ちゃまのお好みに合う女も見つかるかもしれません」

 トリスが思わぬ提案をしてきたのであった。

(え? 奴隷市場?)

 うわさに聞いたことがある。
 奴隷市場では、老いも若きも男も女もじきから元王族まで――真偽のほどは分からないが、戦争に負けた王族が売られることもあったとか――それこそ世界中から奴隷が集められて売買されているらしい。

「お父上には、奴隷を買っても良いとのご了承をいただいております」

 トリスの言葉に、少年は目を丸くした。
 この『お父上』というのは、もうかれこれ十年近くウィルと顔を合わせていない――王都のべっていに住むウィルの父親のマルク伯爵のことである。

「……えらく手回しがいいね」
「滅多にない機会ですので」

 おそらく、昨日今日思いついた話ではなく、何ヶ月も前から伯爵にうかがいをたて、執事バトラーと手紙を交わしながら準備を進めていたのだろう。

「買った奴隷は当家の女中へと仕立て上げましょう。ウィル坊ちゃまは伯爵家の次期当主なのですから、領地経営の面からもいまのうちに奴隷市場をご覧になっておいたほうがよろしいでしょう」

 トリスの淡褐色ヘーゼルの瞳は家庭教師ガヴァネスの色合いをしていた。
 目の前の女性は、ウィルの乳母を務めたあと家庭教師としてウィルを教育し、いまでは屋敷の女中長としてウィルを支えてくれている。

(トリスの言うとおりかもなあ……)

 マルク領は北の大草原に面した辺境に位置しており、広大な農地を耕すのに小作人だけでは足りず、農奴の手を必要としている。
 以前トリスは、マルク家の令息ならば奴隷の一人や二人手ずから選んだ経験がなくてはならないと口にしていた。

「分かった。そうするよ」

 ウィルは頷いた。元家庭教師の言葉に従っておいて損はない。
 それで奴隷市場に行くことが本決まりとなった。
 トリスは満足そうに目を細め、ようやく替えの白い下着をシーツの上にそっと置いてくれたのだ。

(やれやれ、やっと下着が穿ける……)

 そう思いながら、ウィルは木綿の布地をつかむ。
 少年の手をそっと包み込むように、トリスの手が重ねられた。

「え?」
「そのお手で、最初の夜具にする女をお選びください」

 女の長い指先が、少年の指の間に絡みつく。
 すぐ目のまえには、黒地の布をきゅうくつそうに押し上げる胸のふくらみがぶら下がっていた。
 朝の労働の汗と香水の入り交じる女の匂いが立ち上ってくる。年上の女の性を意識せざるを得ない。
 思わず、ごくりと唾を飲み込んだ。

(ううっ……)

 ウィルはもう余裕がなくなってきて、自分がどんな行動に出るか想像もつかなくなっていた。
 ぎゅっと目をつぶると、

「……ご、ごめん! トリス! 着替えるから、ちょっと出て行ってくれないかな!」

 しぼり出すようにそう言ったのだ。
 するとトリスは、

「あら。着替えのお手伝いをさせていただこうかと思っていたのですが……」

 そう口にしたが、本気で困っているウィルの様子を見てとって、

「ふふ。おおせのとおりにいたしますよ。では失礼します」

 くちもとに含み笑いを忍ばせながら優雅にスカートを摘まんで一礼し、寝室から退出していく。
 部屋の扉が閉められたのち、ウィルは不自然に盛り上がった毛布のふくらみを見下ろしていた。

「うう……これどうしよう」

 毛布をめくると、そこにはピクピクと揺れながら天をく若い剛直があったのだ。



◇ 用語解説 ◇

裏方として屋敷の維持管理に責任を持つ女性使用人の長。ハウス・キーパーといった呼び方もされる。屋敷の表側に責任をもつ執事バトラーついになる関係にある。
女中長の仕事は、女性使用人の監督以外にも、帳簿の管理、食材の仕入れ、救急手当てや、お菓子や飲み物作り等々と多岐たきにわたり、まさに屋敷を裏側から支える存在と言える。有能な女性が男性にして実力を発揮できる数少ない職業の一つ。
トリスは、ウィル家庭教師ガヴァネスを務めたあと、マルク伯爵家の女中長の後任に選ばれた。それ以来、執事不在のマルク領の屋敷の留守を任されている。

屋敷の児童に教育を授ける使用人職。主人と近しい立場にあるが、乳母ナニーほど家族の一員として扱われず、他の使用人からも浮きやすい。幼児期の子供の教育を巡っては乳母と対立しがちである。
中流階級出身の女性がこの職に就くことが多く、教養ある女性が自立できる数少ない職業の一つとなっている。児童が成長してより高度な教育が必要になると、学校に通うか上級家庭教師チューターの手に移るため、そこで家庭教師の仕事は終わりとなり新しい勤め口を探さなければならない。
トリスは、前任者を追い出して家庭教師を務めるようになり、王立学院に入学するまでの間、ウィルに教育を授けた。

乳幼児までの主人の子供の育児と教育を担当する上級使用人職。高い専門教育を受けた中流階級の女性が就くことが多い。部下に子守ナース女中メイドをもつ。育児室ナーサリールームで主人の子供と寝食を共にし、主従関係を超えて近しい立場になれる使用人職といった面もある。そのせいもあってか乳児期には料理人コックと幼児期には家庭教師ガヴァネスあつれきを起こしやすい。
乳児期に母乳を与える乳母はウエット・ナースという呼び方をされる。トリスは、乳房が大きいだけでなく、母乳の質や量ともにウィルのウエット・ナースとして申し分なかったようである。
主人の子供が幼児期を過ぎると、乳母は役目を終えて解雇されてしまうのが一般的である。



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