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第四十一話「懺悔室の修道女」

 ごうおんとともに鉄の筒から硝煙が立ち昇った。
 白い的に穴が空く。標的に鉛玉が突き刺さったのである。
 その様子をソフィアが頬を引きつらせながら見守っていた。
 ウィルは双眼鏡をマイヤに手渡した。

「すげえ! おい、ウィル! オレ、まとに当たったよ!」

 マイヤが歓声を挙げた。マイヤは非常に飲み込みがいい。
 天高く煙がたなびいていく。
 ここはマルク領の屋敷のある小高い丘を下りたところに面した草原である。
 百メートルほど先、干し草の山の腹に白い的がぶら下がっていた。
 いま銃を手にしているのは、ウィル、マイヤ、ジュディス、シャーミア、レミア、アーニー、ブリタニー、イグチナの八名である。

軍曹サージェント、わたしも当たったよね?」

 栗毛で小柄なアーニーがそう意気揚々と叫ぶ。
 みな耳栓をしているので大声で叫んでいる。

「あたい洗濯ランドリー女中メイドなのに、なんで銃なんかもってんだよ……。というか軍曹? 本当に軍曹じゃねえか?!」

 大柄なジュディスがそう一人で突っ込んでいた。

「残念ながら当てたのはわたしのほう。アーニーのはたぶん斜めに逸れていったわね」

 代わりに白銀髪のシャーミアがそう答えた。

「ちぇっ! ちくしょう。マイヤとシャーミアめ、竿の扱いばかり上手くなりやがって」

 アーニーはいつもの数倍増しくらいに下品な口をたたく。兵隊というと下品でなければならないという思い込みがあるようだ。

「閣下、もう一発ぶっぱなしていい?」

 アーニーの頼みに、ウィルはおうよううなずいた。
 アーニーの言葉どおり、いま教えているなかでは、マイヤとシャーミアの飲み込みが抜群に良い。
 マイヤがなんとなく我流で勘所を押さえていくのに対し、シャーミアはウィルの動作を精密機械のように正確に再現していく。

「シャーミア上手いね? はじめてだよね?」

 ウィルはそう感嘆した。

「はい。わたしはあまり運動神経は良くないのですが、手順どおりやるのだけは得意なんです」

 白銀髪の女中メイドは、硝煙を振り払うように褐色の頬をぬぐいながら、そう答えた。

「難しいっす。なかなか覚えられないっす」

 ボーイッシュな黒髪のレミアがそうぼやいた。レミアが特に戸惑っているのは弾込めの手順であった。
 慣れない人間には火薬を扱うことすらおっかないだろう。

「練習あるのみだよ」

 ウィルはそう言い切った。
 レミアには新兵のように身体で覚えるまで特訓してもらうしかない。

(それに頭より身体で覚えてもらったほうが、いざというときに役に立つだろうし……)

 ウィルはそう思った。訓練だけ上手にできても意味がないのである。

「ごめんね。ブリタニー、イグチナ。物騒なことをやらせてしまって」

 思わずといった感じでウィルが年輩の女中二人にそう謝ると、

「いいえ。ご主人様」
「屋敷を守るために必要なことだと理解しています」

 二人はそう答えてくれたのだ。
 ジュディスを含めた年若い洗濯女中は、小柄なアーニーも含め体力が有り余っているだろうが、年輩の女中に兵隊のごとをしてもらうのはどうにも気の毒な感じがした。

「どうやらわたしは命中させる才能はないみたいですが、他にやれることはありそうです」

 イグチナはそう言うと、火薬の入った袋を口でかみ切り、大きな胸の谷間で銃身を固定する。
 火薬を銃口に流し込むと、銃身に長い槊杖ラムロッドを差し込み、それを何度も上下に何度もしごいた。
 そして一丁上がりとばかりに、もう一発撃ちたがっているアーニーに手渡す。古参の兵隊のような見事な手際だった。

「わーい。イグチナありがとう! さすが竿の扱いは年季が入ってるわ!」
「どういたしまして。でも次にとしだって言ったら後ろからぶっ放すからね」
「はっ。無駄口を叩きました!」

 アーニーはイグチナに敬礼をしてみせる。

「イグチナ。銃身が結構熱くなるからおっぱい火傷しないようにね」
「あ、あらまあ。恥ずかしい」

 ウィルの言葉に、黒髪の胸の大きな女中がケタケタと笑った。
 イグチナほどではないが、ブリタニーのほうも弾込めはかなり早くて丁寧だ。槊杖でしごくたびに栗毛のポニーテールが跳ねる。
 女中は、手際良く仕事をこなすのに向いているかもしれない。

(あ、そうか。白兵戦をやる兵士と違って拠点防衛なんだから撃つ係と準備をする係に分けてしまってもいいな)

 ウィルはぽんと手の平を打った。
 ジュディスはまだぼうぜんとしているようだった。
 いきなり兵隊の訓練をさせて命を張れと言っても、そう簡単には受け入れられないだろう。
 この赤毛の女は、部下の命を預かる責任の重さを感じているのかもしれない。

「ジュディス。ぼくの不在中には、君、もしくはトリスが指揮をするんだから、よく銃の扱いかたを覚えておいてね」
「は、はいさ」

 赤毛の洗濯女中は緊張しながら頷いた。

「本当に、襲ってくることもあるんですかね?」

 左右に縛った赤毛の長い髪を震わせて、ジュディスが心配そうにそうたずねた。

「分からない。ちょっと情勢がきな臭くなっている。屋敷の主人として準備をしておかないといけない」

 ウィルは真剣な表情でそう言うと、ジュディスがゴクリと喉を鳴らした。

「ジュディス。君が頼りだ。襲ってくる敵兵を狙い撃つには肝っ玉がいる。期待してるよ」

 ウィルは、ジュディスの大きなお尻をばしんと叩いた。
 そうすると赤毛の女は、少し気合いが入ったのか背筋をぶるぶると震わせた。

「よく聞いて。大抵襲ってくるのは、せいぜい旧式のマスケット銃を持った盗賊の類いだ。やつらは狙いをつけるのに百メートル以内に近づかないといけない。対してこちらの射程は千メートル近い。九百メートルの距離を走ってくるのに、どうしても数分はかかる。その間に何十回と狙い撃てるんだ。冷静に対処さえすれば必ず撃退できる」

 ウィルが力強くそう言うと、ジュディスはその場面を想像したのか少し考えたあと、真剣な表情でうんうんと頷いた。
 実は、ウィルの言うことは微妙に間違っている。
 たしかに射程は千メートル近くあるが、有効射程はせいぜい三百メートルといったところだろう。
 だが、それでもマスケット銃よりも射程が五倍くらい長いのである。
 小高い丘にある屋敷の入り口まで、遮蔽物のない裸道が一キロほど続いている。
 しかもこちらは厚い壁のすきの銃眼から狙いをつけられる。
 大挙して襲ってきたなら、狙いをつける必要すらないかもしれない。
 それを想像したのか、銀髪の少女が大きく目を見開いていた。

「すごいな。射程が伸びるというのは本当に恐ろしいことだ。しかもちょっと訓練すれば誰でも使えるようになる」
「そうだね。新式の施条銃ライフルド・マスケットに熟練した兵隊が六人いれば、百人の旧式のマスケット銃で武装した兵隊が攻めてきたとしても、ほとんど無傷で殲滅することができると言われている」

 もちろんそれは相手が何の工夫もなく屋敷の坂を上ってきた場合の仮定だが、技術の進歩とは恐ろしいものである。

「わたしの存在意義を考えると、頭がくらくらしてきた」

 ぎんろうぞくは、けんに指を当てて顔を左右に振り、ふらふらと歩いた。

「まあまあ、混戦になったら力の強いソフィアが頼りだよ。うちは女中ばっかりだしね」

 ウィルは、そう言って慰めたのだ。
 少し前の時代ならば、この銀狼族の神子は一人で戦局を左右する一騎当千の強者だったのだろう。
 だが、とうの昔に神話の時代は終わりを告げていたのだ。
 いまは火薬の威力と精度、そして練度が重要となる。
 本格的に城攻めのつもりで襲ってくる敵でも現れない限り、屋敷は持ちこたえられるだろう。


   ‡


 屋敷の地下には礼拝堂がある。
 地下にあるせいか、薄暗く空気が冷たい。
 室内の一番奥には祭壇があり、それにたいするように長い背もたれ付き椅子が何列も並んでいた。
 壁際の蝋燭の光がステンドグラスに反射し、色とりどりの幻想的な薄明るさを室内に与えている。
 ウィルはそこに歩く布の塊を連れてきた。

「さあ、ヘンリエッタ。ここが君の新しい職場だよ」
「ここ……?」

 黒いフードの奥から紅い瞳がウィルのほうを見つめている。
 ウィルはトリスの言葉を思い出していた。

『ヘンリエッタの肌は日の光に弱いので屋外の仕事はとても任せられません。あまり陽に焼けてしまうと肌が焼けて瘡蓋になってしまいます。そして料理が得意だったり、手先が器用だったりするわけでもないようです』
「とりあえず、そのごわごわした服を脱ごうよ。ここは太陽の光も入らないから肌も焼けたりしないし、もう肌を隠す必要もないよ」

 白子アルビノの少女はしばらくじっとウィルを見つめたあと、こくりと頷いた。
 ヘンリエッタが、マントとフードが一体化したような重そうな黒い服を脱ぐ。するとヘンリエッタは下着姿になっていた。

(あれ? それでひと繋ぎなんだ。ここで服を剥くつもりはなかったのだけど……)

 真っ白な手足は、脱衣場で見たときと同様、はっとするほど綺麗である。
 胸もフローラほどには量感がある。質素な白い下着で覆われていた。
 髪は純白である。癖のない髪が肩口で切り揃えられている。前髪も眉毛の上あたりで、のように水平に切り揃えられていた。
 少女の顔とたいにしばらくれていたが、はっとウィルは我を取り戻した。

「ごほん。君に新しい服を用意したよ」

 礼拝堂の机のうえには、膝下までを覆う黒いひと繋ぎの衣に、首や顎を覆う女性用の頭巾、頭を覆い包む黒いヴェール、額を覆う白いヘアバンドが順に積み上げられている。

「これは修道女シスターの服……?」

 ヘンリエッタは整った白い顔をげんそうに傾けた。
 ウィルはヘンリエッタのしらうおのような指先を握り、

「うん。ヘンリエッタはけいけんな信徒だったよね。これを着て、この屋敷の礼拝堂の修道女になってほしいんだっ!」

 いかにも得意気にそう言ったのであった。
 白子の少女はようやくはっと赤い瞳を見開いた。だが、少女はそのまま首を傾げたのだ。

(……あれ? あれれ? そんなに嬉しそうでもない……。涙を流さんばかりに大喜びするかと思ったのに)

 ウィルはアテが外れたとばかりに肩をすくめた。

(おかしいなあ。陽に当たらなくても済むし、家政ハウス女中メイドよりも仕事も辛くないし、ぴったりだと思ったんだけどなあ……)

 そう思って、溜息をついた。

「修道女になったら……わたし、だれかの役に立てる?」

 ヘンリエッタは今度は反対の方向に小首を傾げた。

「あっ。うん。もちろんだよ。この屋敷の礼拝堂はずっと使われていなくてね。だれかに任せてしまいたかったんだ。せっかくこんな立派な設備があるのにね」
「わたし、神様の役に立つのかしら……?」

 ヘンリエッタの口調にウィルは、かすかな違和感を感じとった。まるで余り物でも貰ってきたような口調なのである。
 もしくは自分自身を余り物と認識しているのかもしれない。

「もしかして、ヘンリエッタって、そんなに敬虔なほうでもない……?」

 白子の少女は少し困ったように白い眉をひそめ、首を縦に振った。

「ヘンリエッタ。君はだれかに必要とされたいんだよね?」

 ウィルがそう訊ねると、少女は白髪を揺らしてこくこくと頷く。
 ウィルは感情の薄そうな見えた少女が、意外にはっきりとした意思を示したことに少し驚いていた。

「わたしは生まれてからずっと役立たず。陽の光も浴びられないし、自分を愛してくれる人もいない。……神様に祈るくらいしかわたしにできることはないもの」

 フローラと違って、かなり消極的な理由で祈っていたようである。
 ウィルは困ったなあと思う。
 すでにヘンリエッタを修道女にするよう教会に申請をしているのだ。
 ロムナの町の司祭が亡くなれば後釜に据える予定であった。

「とりあえず試してみてほしいんだ。当面の職場としてドライに考えてもいいからさ……」

 ヘンリエッタは、もそもそとウィルのまえで修道女の服を着ながら頷いてきた。
 これほど厳かさと無縁の、修道女の任命もないかもしれない。

「ええっと、この礼拝堂の立ち位置を説明するとね、もともと東の教会は西に比べて権力との結びつきが強い。国ごとに教会組織が別れているくらいで」

 一応の職場説明のつもりであった。

「なかでも屋敷の礼拝堂に勤める聖職者は、教会よりも貴族家に雇われている性格が強くなるんだ。ヘンリエッタもそれに納得してくれるかな?」

 マルク領の司祭はそれを嫌って、屋敷の礼拝堂ではなく、ロムナの町に教会を構えているのであった。
 ヘンリエッタは祭壇のほうを指さし、「つまり神様よりも」その指をウィルのほうに水平に移動させる。

「ウィル坊ちゃまのほうが偉い。理解したと思う」

 白子の少女はそう端的に要約した。
 思わず、ウィルは渇いた笑い声を立てる。

「ねえ、ヘンリエッタ。君にしかできない仕事があるんだけど、やってみる? 君には、ぜひぼくの役に立ってもらいたいんだ」

 ウィルは視線を壁のほうに向けた。そこには二つの扉が見える。
 片方が聖職者の入る扉で、もう片方が迷える子羊の入る扉である。


   ‡


 マルク家のざん室の入り口の片方は、聖職者の居室に繋がっている。居室にはベッドが備え付けられており、ここで生活を営むこともできる。
 ウィルは、白いベッドの上で、黒いスカートの布地に包まれた白子の女の股を割ろうとしていた。
 とりあえずヘンリエッタのことはヤってから考えよう、それがウィルの出した結論であった。
 下から修道女の黒いヴェールに包まれた整った顔が見上げている。
 ベッドに寝そべった女の上半身に服の乱れはない。
 修道女の黒いスカートの布地をたくし上げ、ウィルのまえに白い剥き出しの股を開かせた。

(この背徳感がたまらんね……)

 聖職者の生活空間で行為に及ぶことにそれほど抵抗は感じなかった。
 ウィルは、マルク領の司祭の山羊のような顔を一瞬思い浮かた。もしバチが当たるならば、とっくにあの老人に当たっているはずなのだ。

「……わたしはいま役に立ってる?」
「もちろんっ!」

 ウィルは誤魔化すように即答した。

「そう。良かった」

 黒い布地と白すぎる太ももの明暗がまぶしい。
 股の間には、雪化粧をしたかのような白い土手が見える。
 この女には綺麗な刷毛のような印象がある。女の土手に白い刷毛があり、女の切り揃えられた前髪も白い刷毛のようである。
 ウィルのぼっした男根を押し当てる。
 ぷちっと軽く破ける感触がして、すぐにぬるっとちつないすべる感触がある。
 目の前の女性は、白い頭巾に包まれた顎先を微かに持ち上げた。そしてそっと白いまつをふせた。
 ほとんど無反応に近い。
 処女でないのかもしれないとも思ったが、聖職者の居室のシーツには、確かに生々しい赤い染みが零れている。
 軽く二、三度膣内を往復した後に、ウィルは問いかける。

「痛くなかったの?」

 修道女は、少し考えるように小首を傾げた。

「机に足の小指をぶつける程度には……」

 つまり、結構痛かったということか。
 レベッカは気絶するほどだったが、人それぞれということなのだろう。

「いまは?」
「とくに」

 腰を進ませる感触が次第になめらかなものへと変わってきた感じがする。

「気持ちいい?」

 ウィルの質問に、腰を揺さぶられながらヘンリエッタは少し自身の感覚を探るように瞳を閉じ、

「……少しだけ」

 そう答えた。しゅうしんを感じているかどうかはヘンリエッタの表情からは分からない。

「性交は好きになれそう?」

 ついにウィルは、修道女にそんな質問をした。

「ぎゅっとされるのは好きかも。必要とされているようで」

 ヘンリエッタはそんなことを言った。

「こう?」

 ウィルが繋がったまま抱きしめてやると、ヘンリエッタは黒い袖で抱きしめ返してきた。

「ヘンリエッタいる?」

 そのとき、この部屋に繋がった懺悔室の仕切りの向こうから、フローラの声が響いた。

(ま、まずいかも!)

 冷や汗を垂らしながら、どうしたものかとウィルが考えあぐねたとき、

「いるわ」

 繋がった女が下からそう返事をした。

(ヘンリエッタ。居留守を使えばいいのに。なんで返事するの!?)

 ウィルは少し考えた挙げ句、繋がったままのヘンリエッタの太ももを抱きあげ、そのまま仕切りのほうへと移動をはじめる。

「フローラ、少し待ってちょうだい」

 ヘンリエッタがそう返事をしたのは、ウィルが耳元でささやいたからだ。

「分かりました」

 姿の見えない巻き毛の金髪は、やや硬い口調でそう返事をした。
 ウィルが懺悔室の仕切りのまえの椅子に慎重に腰をかけると、新任の修道女は、ウィルの身体と繋がったまま、大股を開いて懺悔室の子羊に世話向ける格好となる。

「なにかしら、フローラ」

 そんな状態にも関わらずヘンリエッタの声はへいたんであった。

「まずは礼拝堂への着任おめでとうございます。ヘンリエッタ」
「ありがとう」

 気の優しいフローラは、ヘンリエッタを祝福するために来たらしい。

「では、シスター。さっそくですがわたしの罪を聞いてください」
(ぶっ!? ここで懺悔するつもり?)

 ウィルは動揺した。
 適当にフローラと世間話の一つでもさせて帰すつもりだったのだ。

「はい。なんなりと」

 繋がった姿勢にも関わらず、平然とヘンリエッタはそう返答した。
 ヘンリエッタのヴェールから、白い髪が零れウィルの鼻先をくすぐる。

(く、くすぐったい!)

 ウィルは、ヘンリエッタを強く抱きしめ、女の肩に鼻を強く押し当てることによって何とか、くしゃみをやり過ごした。
 それと同時に股間を一層強く張り詰めたが、ヘンリエッタはとくに反応しなかった。

「わたしは結婚まで純潔でいることを誓いながら、実はわたしはご主人様――ウィリアム様と関係をもってしまったのですっ」

 後半のフローラの声は、自分に酔っているかのように少し感情的になっていた。

「それって、なにが問題かしら?」

 ヘンリエッタの発言は修道女として問題であった。

「え? でも結婚前に若い娘が……」

 目の前のヘンリエッタが小首を傾げた。どう返事をするか、困っているようであった。

「……ときに王と教会の利害が対立するように、ご主人様と教会、どちらに忠誠を誓うか悩むこともあるでしょう。……どちらを優先したのであれ、あなたは自分の判断に誇りと責任をもつべきです。……そうでないとむしろ、どちらに対しても失礼ですよ。……はい……。神様はきちんと礼儀さえ尽くせば分かってくださるでしょう。アーメン」

 台本を読むようであったが、それは不思議とヘンリエッタの平坦なしゃべり方と見事に調和していた。

「……ああっ。あ、ありがとうございます。シスター! う、嬉しい。ぐすっ……。シスター、あなたは素晴らしい人だわ」

 フローラは感極まって涙声になっていた。
 そして、フローラが立ち去った後、激しく身体を上下させながら、ヘンリエッタは呟いたのだ。

「嬉しい……。はじめて人の役に立った気がする。ふうっ。ふうっ……」
「ぼくの役にも立ってるからね……」

 ウィルは腰を強く突き上げたときのヘンリエッタの反応といったら、ようやく肺から大きく呼吸をらすくらいであった。
 接合部に指を伸ばし、それを蝋燭の光にかざす。血と愛液が混ざり合っている。
 感じていないわけではないらしい。
 どれだけ攻めてもほとんど表情を変えないのは、これまで家政女中として沈黙を強いられてきたからであろうか。

「よう! ヘンリエッタ。来てやったぜ。この商売続けられそうか?」

 次に来たのは赤毛の女中マイヤであった。
 仕切りの向こうから、いつもの調子で語りかけてきた。
 マイヤはかなり勘が鋭い。ウィルは動かず大人しくしていることにした。

「分からない。でも、ここにいると役に立ってる気がする」

 ヘンリエッタはそう返事をした。

「へえ! 良かったな! ヘンリエッタは聞き上手なのかもしれないな。ウィルを探していたらフローラの姿が見えてな。なんか嬉しそうにしていたぞ」
「そう。だったらわたしも嬉しいわ」

 だんだんとヘンリエッタの口調から感情が読めるようになってきた。平坦な口調に喜色が混ざっている。

「…………あのな。オレもヘンリエッタのことは気の毒に思っていたんだけど、もしかしたらウィルがヘンリエッタにまるかもと心配で、なかなか言い出せなかったんだ。ごめんな」

 マイヤは意外なことを言った。
 たしかにそうなってもおかしくないと思わせるくらい、ヘンリエッタは透明感のある美人だ。

(懺悔室にいると、意外にあっさり心のうちを明かすものなんだね……)

 ウィルは改めて実感した。

「なにも問題ないわ。わたしはいまここにいるもの」

 ヘンリエッタはごく自然にそう返答した。
 いままで影のように生きてきた白子の少女には、みな口を開きやすいのかもしれない。

「あー良かった。胸のつかえが取れてすっきりした。……また来てもいいか?」

 マイヤは、ほっとした口調でそういた。

「いつでもどうぞ…………えと。ほかの人も来るように誘ってもらえないかしら。……それと……処女証明書も書いてあげられると思うと伝えて……」

 ヘンリエッタは、ウィルの言葉をそのまま伝えた。

「おう。分かった。処女証明書か。すげえな。オレには必要ねえけど、喜ぶ女もいるだろう。仕事忙しくなるぜ?」
「構わないわ」
「助かった。またな! ウィルのやつすぐにいなくなるんだよな……」

 マイヤはそうぼやいて去って行った。
 ウィルは女の黒い衣の下に手を差し入れ、ヘンリエッタの吸いつくような白い乳房を揉みはじめる。

「やっていけそう? 手応えあったでしょ?」
「分かりませんが。でも嬉しかったっ……」

 ようやく感情の篭もった声でヘンリエッタは返事をしてくれた。
 そしてヘンリエッタはふわりと柔らかく笑っていた。ヘンリエッタの笑みは蝋燭の光に照らされて、雪明かりのように綺麗だった。
 思わずウィルはその唇に吸いついた。白蛇の赤い唇のように、ウィルの舌と絡み合う。

「うん。そろそろ出すよ」

 息を殺すようにして、ぬるぬるとの血に染まる膣内をこすりあげる。
 目の前の女は快楽を感じているみたいだが、どうやっても乱れない性質らしい。
 木の椅子が軋むほど、上下に突き上げても、押された肺の吐息が激しくなるだけだ。

(無理に声を出させる必要もないかもしれない……)

 動きやすいように、懺悔室の仕切りのところに手をつかせ、後背位の体勢から尻を突き込む。
 仕切り壁に磔にするように後ろから突きこみ、そのまま我慢することもなく解き放った。
 ウィルは椅子に腰掛けて少し息を荒くする。
 一方のヘンリエッタのほうは、床にぺたんと腰を下ろした。見た目以上に身体の消耗は激しかったのかもしれない。

「ねえ、ヘンリエッタ。口を仕込んであげる。もっとぼくの役に立ってくれるよね」

 ヘンリエッタの黒いヴェールをぎゅっと掴み、腰のあたりまで手繰り寄せる。女はゆるゆると素直に従った。
 こうぎょくのような唇にウィルのとうの先端が触れる。
 ウィルは修道女の頭を両手で鷲づかみにした。白いヘアバンドを親指で押し、顔を少し上に向けさせる。

「僕を受け入れる心の準備をして。いま僕の手のひらのなかに自分の心があることを意識して」

 尖った腰の先端がヘンリエッタの唇を少しずつ割り進んでいく。

「舌の上の硬い部分を通っているのが分かるよね」

 少女は上目遣いにこくりと頷く。
 もう少し進ませると、ヘンリエッタが少し苦しそうにうめいた。
 亀頭が硬口蓋を通り抜けて、柔らかい軟口蓋にたどり着く。

「ぼくの先端が触れているすぐ上には人の頭脳の一番原始的な部分があるそうだよ。ほらイメージして。君の心のなかに僕の男根が突き刺さっているところを。ほら舌を使って」

 こんな調子で小一時間が経過した。女の舌遣いは幾分かマシなものへと変わっていった。
 ふいに、ヘンリエッタの指の背がウィルの睾丸に触れる。
 それが合図となった。精の詰まった袋はもうぱんぱんに張っていた。

「あ、あ。いくよ!」

 そう叫んだ瞬間、快楽の堤防が決壊した。
 白い濁流がヘンリエッタの喉を叩く。
 一滴残らず注ぎ切った後、ごくりと女は喉を鳴らしたのだ。
 ふとだるねむに誘われたとき、懺悔室の壁の向こう側に人の気配がした。
 ヘンリエッタの懺悔室はすぐに盛況となったのだ。


   ‡


 それは懺悔という名のただの愚痴であった。

 ――料理人コックリッタの懺悔。
「最近、ご主人様がちっともお相手をしてくださらないの。自分で慰める回数を増やしたらどうかって?
 ご主人様にまたがってもらうときのためにとっておきたいの。ああ。想像したらまた濡れてきたわ。
 一日に何枚もショーツを履き替えてたら洗濯女中から苦情が来たのよね。なんでそんなにショーツばかり汚すんだって」

 ――洗濯ランドリー女中メイドジュディスの懺悔。
「あたいさ、洗濯女中なのに、なんで銃の訓練なんかしてるんだろ。アーニーのやつは喜んでるけどさあ。
 はああああああ。屋敷を守るために必要なことだってのは分かるんだけど、やっぱり気が重いわ。部下の命を預かるんだぜ。
 あたいみたいな女を使うんじゃなくて、やっぱり屋敷に男手を入れてほしいんだよな。こう、ギュンガスみたいな優男ではなく馭者の爺さんみたいな、がっしりした頼れる男手を。
 まあ無理を聞いているからこそ、洗濯屋を開けるチャンスも与えられているんだけどよお。仕事忙しい分、びっくりするくらいガンガンお金貯まってるんだわ。
 この間、レベッカに話を聞いてもらったんだ。そしたら事業計画書をしっかり練れって。
 いやあ、たしかに夢なんだけど、あたいみたいな鳥頭には荷が重い気がしてきたよ。難しいことは頭の良いシャーミアに任せているんだけど。あははは」

 ――乳母ナニーアラベスカの懺悔。
「あ、あの。ケーネさんが毎日わたしの母乳をしぼりにくるんですけど、こういうのってほかの貴族家のお屋敷でも良くあることなんでしょうか。
 育児室を使わせてもらって、自分たちがもの凄い好待遇を受けていて文句を言える筋合いではないのですが。
 わ、わたし、最近ケーネさんの笑顔が、瞳だけ笑ってないってことに気がついてとても怖いんです。ひっ!」

 ――調理キッチン女中メイドエカチェリーナ・フレデリカの懺悔。
「わたしたち、さっさと抱かれたいのに第一調理キッチン女中メイドのジューチカが先だって言われたの」
「この間、計算してみたんです。ご主人様に毎月一回抱かれる場合と抱かれない場合で、五年後にどのくらいお給料が違ってくるか」
「ジューチカのやつ、さっさとウィル坊ちゃんと寝てくれないかな。後がつかえているんだよね。なにが不満なんだよ。早く済ませてわたしに代われってーの」
「マイヤに頼んだらなんとかならないかしら」

 ――酪農デイリー女中メイドシャーロットとエヴァの懺悔。
「最近のケーネにはついていけません。わたし、もう熱せられた母乳の臭いに当てられて頭がくらくらしてしまって。あれってケーネが作りたいだけよね?」
「正直、わたしも頭がおかしいと思ってた。で、でも、実はこの間、こっそりケーネの試作品食べてみたの。そしたら……すんごい美味しかった!」
「う、嘘!」

 ――側付きウェイティング女中メイドレベッカの懺悔。
「気絶している間に、いつのまにか姉さんが屋敷に来ているのよね。
 もちろん。ウィルに文句が言えた義理でないことは分かっているわ。でも、手が早いにもほどがあるわよ!
 会うとどうしても微妙な空気になるのが嫌なのよ。困ったわ。
 は? 三人で仲良くしたらって? ふ、ふざけないで! あなた修道女のくせになんてこと言うのよ!」

 ――蒸留室スティルルーム女中メイドリサの懺悔。
「いつもわたしのこと仕事怠けてるってサリがいじめるのです。わたしのほうがお姉さんなことをサリは忘れている。サリったら生意気!
 わたし、絶対見返してやりたいと思って……。
 あっ、ちょっと、サリ! 懺悔中に入ってこないで!
 痛い! いたい。ごめんなさい。ごめんなさい。耳引っ張らないで。お仕事ちゃんとするからっ!?」

 ――雑役女中オールワークスチュンファの懺悔
「うちら少し影が薄すぎではないでしょうか。
 屋敷のなかで洗濯女中に負けないくらいキツい仕事を担っているのに、屋敷の室内にいる機会が少ないせいかウィル坊ちゃんのお手つきの機会にも恵まれません。
 肌が陽に焼けているせいでしょうか。このままだと、お給料とか全然違ってくるんですよう……。
 今度、雑役女中八人で団結してウィル坊ちゃんの寝室に押しかけようかと計画しているんです。ウィル坊ちゃん絶倫と聞いてますから全員で押しかけてもきっと大丈夫ですよね。はあ。ドキドキするっ。
 あ、あの、うわさでは処女証明書を頂けると聞いたのですが……」

 ――食器洗いスカラリー女中メイドニーナの懺悔。
「ウィルさまのことを考えてたら、おまたがムズムズするの。
 ルノアったらわたしのこと子ども扱いして、どうしたらいいか教えてくれないの。まっかな顔をしてたから、ぜったい知ってる!
 トリスさまに聞いたらね、リッタの手をわずらわしたらダメだからジューチカに聞きてごらんって。
 でも、ジューチカったら教えてくれないの。ひどいよねっ!」

 ――調理キッチン女中メイドジューチカの懺悔。
「最近、部下からの風当たりが厳しいんです。
 エカチェリーナとフレデリカは、ウィル坊ちゃんに抱かれてこいって毎日のように言ってくるし。
 気のせいか、トリスさままでわたしに妙に辛く当たってくるような気がするんです。
 こういう問題でリッタはまったく頼りにならないし。マイヤに聞いたら見たことがないくらい困った顔をされました。
 わたしはどうしたら。ううっ」


◇ 屋敷の女性一覧 ◇
女中長   1人 (トリス◎)
蒸留室女中 2人 (リサ◎・サリ◎)
洗濯女中  6人 (第一:ジュディス◎)
         (第二:イグチナ◎・ブリタニー◎・シャーミア◎)
         (第三:アーニー◎・レミア◎)
料理人   1人 (リッタ◎)
調理女中  3人 (第一:ジューチカ)
         (第二:エカチェリーナ・フレデリカ)
皿洗い女中 2人 (ニーナ・ルノア)
乳母    1人 (アラベスカ◎)
酪農女中  3人 (ケーネ)
客間女中  1人 (フローラ◎)
雑役女中  8人
側付き女中 3人 (ソフィア△・マイヤ◎・レベッカ◎)
修道女   1人 (ヘンリエッタ◎)
その他   1人 (オクタヴィア)
    計33人
お手つき 15人 (済み◎、途中△)

◇ 用語解説 ◇
寝室や客室、応接間など屋敷の表側の清掃を担う女中職。拭き掃除が多く、膝を痛めることが職業病として知られているくらい重労働だが、豪華な調度品や美術品の置かれた主人たちの暮らす階上の世界アッパーステアーズで働ける魅力がある。
ウィルの父親のマルク伯爵が屋敷の表側で女中を目にすることを極端に嫌っており、いまも『主人の前から姿を消すように』という命令が生き続けているため、領地のカントリー屋敷ハウスの家政女中たちは深夜に起きて働きはじめ、夕方前には就寝するという変則的な生活を強いられている。屋敷の女中たちのなかでも主人の姿を見て逃げ出すよう教育された家政女中だけは、ウィルとあまり親しく接していない。



第四十一話「懺悔室の修道女」へのコメント:
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