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第四十話「侯爵家の母娘」

 執務室の扉を開けた先、一番奥の窓際に屋敷の主人であるウィルの机がある。
 本来であればマルク伯爵の座る席だが、事実上、王都の屋敷の主人はマルク伯爵、マルク領の屋敷の主人はウィルという棲み分けが出来てしまっている。
 客間パーラー女中メイドフローラのノックの音が聞こえてきた。

「チルガハン侯爵家の奥方様をお連れしました」
「どうぞ」
「突然のご無礼な訪問、大変申し訳ありません。アラベスカ・ムーアと申します」

 見るからに緊張した顔のチルガハン夫人は、ムーアの家名のほうを名乗った。
 女は癖の強い長い金髪の頭を軽く下げ、膝を折る。
 フローラがゆっとりと柔らかい巻き毛ならば、チルガハン夫人は朝顔の蔓のようにくるくると巻いた貴族らしいごうしゃな金髪であった。
 女は柔らかい美貌をしていた。鼻筋は薄く通っているが、レベッカのような冷たい感じはじんもしない。
 そして、それ以上に目を引くのが、

(うわっ、これはなんという……)

 青いドレスの大きく開いた胸もとであった。
 乳の谷間を紐で縛る衣装となっている。貴族のドレスというのは、胸を強調するデザインがやけに多い。
 チルガハン夫人の胸の膨らみといったらトリスを上回るほどで、しかも衣装は大きな乳房の下半分しかおおっていないのである。
 おをした拍子に、ぎゅっと押しつぶされて、谷間の紐が左右に引っ張られて軋んでいた。
 扉の後から、乳母車を押す長い黒髪の酪農デイリー女中メイドケーネが続いた。
 いま屋敷にはいない子守ナース女中メイドの代わりであろう。
 赤子はすやすやとよく眠っているようだ。

「ご主人様……」

 金髪のフローラのあきれるような冷ややかな声が、ウィルをはっと我に返らせた。
 チルガハン夫人も少し困ったようにこちらを見やっている。
 ウィルは女の胸を凝視していた。ウィルもさすがに初対面でこんな失礼な対応をしたのは初めてであった。

「……あ、これはどうも……! わたしがウィリアム・マルクです」

 女の乳に見惚れていたウィルは慌てて返答をして、立ち上がった。

「いつもレベッカがお世話になっています」

 チルガハン夫人は、レベッカより表情が柔らかい感じがした。
 年齢は二十代の前半であろうか。年齢のわりに母性に満ちあふれた柔らかい印象がする。

「あ、いえ、こちらこそ……」

 一方のウィルはそれに居心地の悪い思いをする。

(いまレベッカを呼んでくれって言われたら困るなあ……)

 さきほどレベッカを大出血させ、気絶させてしまったのであった。
 とりあえず椅子から立ち上がって、執務室の入り口近くのソファーへと案内しようとした。
 だが、チルガハン夫人は慌てて手を左右に振ったのだ。

「あ、あの……わたし、お客様としてここに来たわけではないんです。その……」

 チルガハン夫人は、ちらりとウィルのほうにうかがうような視線を送ってきた。

「マルク家の女中としてお雇いいただけないかと……」
「は!?」

 ウィルは、間抜けな表情で口を開いて固まっていた。


   ‡


「ええっとつまり、あなたはチルガハン家から離婚されたというわけですか?」

 ウィルは、ソファーに座った姿勢で、目の前のチルガハン夫人――アラベスカに問いかける。
 アラベスカの座るソファーの奥には、女中長ハウスキーパーのトリスと、酪農女中のケーネが控えていた。
 正式な客人ではないということで客間女中のフローラは下がらせた。

「あの……離婚ではなく離縁です。結婚自体を無かったことにされました」

 アラベスカは柔らかい金色の眉を悲しげに歪め、そう返答した。

(あ、教会は離婚を認めていないからね)

 ウィルは頷く。
 どうしても離婚をしたいという場合には、結婚自体をなかったことにするのが常套手段であった。

(でも、貴族同士の正式な婚姻を無かったことにしたら教会のメンにも関わるよね……)

 教会としても貴族同士の内紛には関わりたくはないものだ。
 ふと、ウィルは先日、自分がムーア家の清算人を務めたことを思い出した。手続きの難しい部分は、ギュンガスやレベッカ自身に任せてしまった。

「片方が貴族でなくなれば離縁も問題ないということですか。ムーア家は没落してしまったから」
「はい。わたしは実家のムーア子爵家が領地を失ってしまったので、チルガハンの屋敷から追い出されてしまいました」

 アラベスカはそう言って、哀しそうに乳母車のほうを見つめる。そして、「ああ」と両手で顔を覆って長い金髪を左右に振った。
 先日、清算をするにあたって、チルガハン家をはじめとするムーアの親族に、借金の負担に応じてくれないかと要請書を送った。
 そして予想どおり、チルガハンを含む、ほぼ全ての貴族家から断わりの連絡が入った。
 面倒なだけであまり意味はないかもしれないが、こういう地味な貸し借りが、今後の貴族づきあいの上で有利に働くかもしれないと考えたのだ。
 ウィルは、必ず聞いておかないといけない質問に思い至る。

「家を潰したレベッカのことは恨んでいますか?」

 姉のほうは侯爵家に嫁に出され、妹のほうが屋敷を継いだのだから、なにか確執があってもおかしくない。
 だが、アラベスカはウィルの質問にきょとんと青い目を見開いた。

「いえ、全く。妹を恨むような気持ちは欠片もありません。元々潰れかけの子爵家だったのです。レベッカが頑張ってくれたからこそ、いままで家は保ったのだと思っています」

 アラベスカがそうきっぱりと答えてくれて、心底ほっとしたものだ。

「わたしは、お料理やお裁縫、お掃除などは得意なのですが、子爵家を継ぐには不出来な女でして……」

 女の殊勝な態度にウィルは好印象を抱いた。
 特に、掃除・裁縫・料理が得意というのはウィルに強い感銘を与えた。それらは貴族家の夫人として直接役に立たなかった能力かもしれないが、このマルク家の使用人としては大いに腕のふるいようがある。

「すみません。いまオクタヴィア様が身につけているお召し物は、もしかしてアラベスカ様が縫われたのですか?」

 そこで奥に控えていたトリスが口を挟んできた。

「……あ、はい。恥ずかしながら、オクタヴィアの身につけているお洋服は、わたしが作りました」

 アラベスカが恥ずかしそうにそう答える。

「少し失礼して。……まあ。これは見事なものですね。針子でも勤まりそうなくらいの腕前です」
「本当ですかっ! ふふ。マルク家の女中長に褒めていただけるのはとても光栄です」

 アラベスカは頬に手を当てて、そうほほんだ。
 トリスの言うとおり、きっとアラベスカは針子だって勤まるのかもしれない。もっとも熟練した腕前のわりに、雀の涙ほどの報酬しか手に入らないのであるが。
 ウィルはアラベスカの態度を微笑ましく見つめていた。

(アラベスカさんって、本当に良い意味で貴族らしくない人なんだな。姉妹仲も良さそうだし。あ、まてよ……)

 ならば、逆の心配もしておく必要があった。

「うちはいま、レベッカを客人や侍女レディースメイドですらなく、女中として遇している。あなたはそれをご不満に思うだろうか」

 やや堅い口調でウィルがそう問いかけると、

「いいえ。ウィリアム様はレベッカのご学友だったとお聞きしています。レベッカは賢い子なのですが、ときに意地っ張りなときもあります。姉としてそこだけが心配なんです。どうかレベッカを見捨てないであげてください」

 不満を漏らされるどころか懇願されてしまった。
 とても出来た人のように思える。しかも美人で、胸がとても大きい。

(しっかし、いくら実家が潰れたからって、こんな美人手放すかな……)

 ウィルは、幼少期に一度だけこの屋敷を訪れてきたチルガハン当主の線の細い顔を思い出した。
 仕える従者ヴァレット従僕フットマンが極度に神経を張り詰めていたのが印象的であった。
 さりげなく使用人に聞いてみると、チルガハン当主は馬車から降りるときに出す足や、そのときに使用人がどの方向を向いているかなど事細かく決めてあるという。いつも完璧でないと気が済まないという随分と神経質な中年男性のようであった。
 アラベスカはソファーの横に置かれた乳母車に優しい視線を投げかけている。
 赤子はきゃっきゃと笑っていた。目鼻立ちは整っていて金髪が生えている。天使のように愛らしい。

(オクタヴィアだっけ……? 女の子か。そもそもこの子をチルガハン家はどうするつもりなんだろう)

 ウィルはいまさらのように首を捻った。
 そもそも大貴族のなら、乳母ナニーと何人もの子守女中を付けて大事に育てるものであろう。
 家の後継者と一緒に離縁される正妻など聞いたことがない。

「あの、アラベスカ様の連れてこられたその子はチルガハン家の長子なのですよね。それなのになぜ?」

 ウィルはそう訊ねた。

「……罪深いことなのですが、この子はチルガハン当主ではなく先代の種を授かって生まれてきました」

 そう言ってアラベスカはまぶたを伏せた。

(ああ……。なるほど)

 ウィルは思わず納得した。
 目の前の女性は、結婚後に義父に手籠めにされたということだ。チルガハンの先代はとくを譲り渡した後も長らく院政を敷いていたと聞く。
 マルク領の北に位置するチルガハン家は、東から流れてきた遊牧民族の一派を先祖とする貴族家で、その名残りか極端な父権社会だという。
 そして女として生まれてきたオクタヴィアは、チルガハンの流儀では家を継ぐことができない。

「先代は、ムーア家が爵位を返上する少しまえに亡くなりました」

 アラベスカは鎮魂するように目の前で十字を切った。
 目の前の女にとって、チルガハンの前当主こそが夫のような存在であったのかもしれない。
 そのときトリスの淡褐色ヘーゼルの瞳がぎらりと光った。

「オクタヴィア様はお可愛らしゅうございますね。あと十五年もすれば大変な美人になられるでしょう」
「あ、ありがとうございます。わたしはこの子にはただ健康でいてくれればそれでいいのです」

 金髪の女は、女中長にそう答え、乳母車のほうへと青い瞳を細めた。

「うちに来ることはチルガハン家も承知しているのですか?」
「借金の清算ではご迷惑をおかけしたので、顔を出して指示を仰ぐようにとチルガハンの当主より命じられました」

 アラベスカは悲痛な表情で、ウィルにそう答えた。

(代わりに妻を差し出すとは、さすがは元騎馬民族。やることがえげつない。しかも一緒に赤子まで処分してしまう気か)

 チルガハン家はムーア家の精算処理に資金を出さなかった。
 その穴埋めとばかりにマルク家にアラベスカを差し出しているのだろう。

「つまり、あなたを受け入れても、チルガハン侯爵家との間に角は立たないわけですね」
「はい。なんなりと従うように言いつかっております。わたしとしてもレベッカ同様、ウィリアム様のもと以外、他に行くアテがありません。どうか、この屋敷にわたしを置いてください。どんなお仕事だってします。この子だけは守りたいのです!」

 アラベスカが必死にそう懇願してきた。

(まさに母は強しって感じだなあ!)

 ウィルはそう思った。
 そのとき、「ばあぶう。おぎゃっおぎゃ」と乳母車にいた赤子がぐずりはじめた。

「あらあらどうしたの。オクタヴィア。困ったわ。お腹が空いたのね。あの……」

 ちらっとアラベスカがウィルのほうを見つめてきた。

「申し訳ありませんが、この子にお乳をあたえてあげたいのですが」

 アラベスカの言葉に、思わずウィルは目の前の乳房の膨らみを見やって、ごくりと喉を鳴らした。
 だが、反応したのはウィル一人だけではなかった。
 後ろから、酪農女中のケーネが黒茶色ブラウンの瞳を爛々と輝かせていた。癖一つない漆黒の髪ブルネットを顔の斜めに垂らしながら、アラベスカの乳房に熱い視線を送っている。

「マルク家の働き口をお求めなら、わたしはアラベスカ様に、マルク家の乳母の面接を受けていただくようお薦めします」

 トリスが急にそんなことを言いはじめた。

「まあ。素晴らしいですね。わたしもそれには賛成です。アラベスカ様ならいっぱい母乳が出そうですもの。天職かもしれませんわ」

 いままで一言も口を挟まなかった黒髪の女が食いついてきた。表面上は清純なのだが、にっこりと細めた黒い瞳の部分だけが全く笑っていない。もうきんのように黒く輝いている。
 ケーネは天使画にも出てきそうなほど清純な美女なのだが、いまは一昔前に流行したゴシックホラー小説のような怖さを感じてしまう。

「え、あの……。マルク家にはいま赤子はおられないと伺いましたが、乳母の口も募集されているのでしょうか」

 アラベスカの質問はごく自然なものと言えよう。

(可哀想に……)

 ウィルはそう思った。いまこの場に常識的な感性をもった女性は目の前のアラベスカ一人なのである。

「ご主人様も健康な男性ですから、いつ子どもができてもおかしくないと思いますよ」

 トリスはさらりと嘘をついた。少し小首を傾げてくちもとに淡い笑みを張りつけている。どうやってでも言いくるめてしまうつもりだ。

「そのときのために、ほかの仕事もこなしながら育児室ナーサリー・ルームをお使いいただく選択肢もあるのではないでしょうか」
「育児室を!?」

 アラベスカは青い瞳を見開いた。

「伯爵家の育児室はご主人様が幼年期を過ごされた場所でして、失礼ながらチルガハン家よりも設備は整っているでしょう。オクタヴィア様の将来を考えるなら、これ以上の環境はないと思います」

 トリスが着々と外堀を埋めていく。
 ケーネも期待の籠もった視線でウィルのほうへ投げかけている。

「その線でいいんじゃない? 二人が認めるなら……」

 ウィルはそう答えた。

「ぜひっ、面接を受けさせてください!」

 アラベスカが両拳を握ると、大きな乳が震えた。

「おぎゃあああっ!」

 そのとき突然、乳母車に寝ていたオクタヴィアが火のついたような大声で泣き叫びはじめた。

「ま、まあっ。どうしましょ?!」

 アラベスカが困惑した声を挙げる。

「あら大変だわ」「まあ、大変ですわ」

 ケーネがどこかうれしそうに言い、トリスに至っては台本でも読むように口ずさんだ。

「乳母の適性があるか調べますから、アラベスカ様、いまこの場で授乳なさってください」

 トリスの言葉に、アラベスカはちらりとウィルのほうを見やった。

「し、しかし……」
「ご主人様、乳母の条件を申し上げます。硬すぎず柔らかすぎない張りのある乳房をしていること。そして赤ちゃんによっては噛みますから、強靱な乳首をしているほうが望ましいでしょう。つんと上を向いた乳首のほうが吸い付きやすいと思います。ケーネ、付け足す条件があれば申しなさい」

 そうトリスが促した。

「はい。なんといっても母乳のお味と量ですね。母体も健康でなければなりません。屋敷の環境に馴染んでリラックスできることも重要です。ストレスを抱えていますと母乳の味が落ちますから。あとは食べるものから何から、こちらの管理体制を受け入れてもらえるかどうかです」

 ケーネがつらつらと補足をする。
 貴族家の乳母は、乳の出を良くするために、毎日ジョッキ一杯の麦酒を飲むことが求められていたりと、ほかの使用人と食事から違うことは、そうおかしなことではない。

「マルク家の乳母の条件は厳しいのですね……」

 アラベスカは、ぱちぱちとまたたきをしてそう答えた。

「アラベスカ様なら十分可能性があると思います。さあ、オクタヴィア様がお腹を空かしていますわ」

 トリスが慣れた手つきでオクタヴィアを抱き起こし、そう催促をした。
 アラベスカはウィルのほうを見上げ、一度ぎゅっと目を瞑ってから、

「お目汚し失礼します」

 そう言って胸もとの紐を緩め、大ぶりの乳房を露出させた。

(うわあ。す、すごい……)

 ウィルは女の乳房の量感に圧倒された。トリス以上に、手から零れ落ちてしまいそうなほどの、ずしりとした重量感があるのだ。
 こんなに大きいにも関わらず垂れ落ちていない。どうの実のように独特の厚みがあって先端が尖っている。
 その先端には小指の先のような大ぶりの乳首の突起が繋がっていた。
 トリスから手渡された赤子は、アラベスカの左の乳首に吸いつき、ごくごくと乳を飲みはじめた。

「ウィル坊ちゃま。乳房の張りを確認してくださいまし」

 ケーネの言葉に、アラベスカはびくっと肩をそばだたせた。

「アラベスカ様。雇用主であるご主人様は定期的に乳母の乳の出が良いか確認しなければいけません。これは当然のことです」

 トリスが促した。
 ウィルが遠慮せずに右手を伸ばしはじめると、アラベスカは目をぎゅっと瞑った。金色の眉が震えている。
 ついに、対面のアラベスカの右の乳房を掴んだ。

(うわあ。でっかっ!)

 これで肩が凝らないのかというくらい本当に重い。
 反対側の乳房では、赤子がぐびぐびと飲み続けている。
 ぐにぐにと大きな白い乳房に指を沈める。素晴らしい反発が返ってくる。二十代前半の張りのある肌であった。

「い、いかがでしょうか……」

 心配そうに訊ねるアラベスカに、ようやくウィルはこれが乳母としての適性を確かめる試験だということを思い出した。

「乳房の張りは十分そうですね。乳首のほうはいかがですか?」

 トリスがそう訊ねてきた。
 ウィルは乳首の母乳の出る穴をまじまじと眺めた。
 アラベスカの乳首は軸心がしっかりしている感じがした。
 桃色にわずかに混ざった色素が沈着が、いかにも乳を出すための女という生々しい雰囲気をかもし出している。
 ウィルが乳房を握ったまま、先端の乳首を親指と人差し指でこりこりと潰すと、

「あ、ああん……」

 アラベスカは悩ましげな声を挙げ、次の瞬間、猛烈な勢いで白い乳液が飛び散る。

「わ、わわわわっ!」

 アラベスカの左の乳首から三つ叉の噴水のように、ぷしゅうっと猛烈な勢いで吹き出した母乳がアーチを作って、対面に座るウィルの黒いズボンの上に飛び散った。

「す、すみません。すみませんっ!」

 アラベスカが母乳の出を押さえようとするが、一度吹き出した母乳はそうそう止まるものではないらしい。押さえようとする女の手の平を湿らしている。

「ケーネ。アラベスカ様をお手伝いなさい」
「はい」

 ケーネは返事をして、アラベスカの介抱に向かう。

「ご主人様は、下のお召し物をお脱ぎください」

 そう言ってトリスがウィルのズボンを引っ張り出した。

「ちょ、ちょっと。ここにはアラベスカさんもいるのに」
「おそらく、もうご心配ないでしょう」

 トリスは、ウィルのズボンを膝の上まで下ろした後、ケーネのほうを指差した。
 その先には、アラベスカの大きな乳房を絞っているケーネの白い指が見えた。
 乳房の先にはワイングラスが並べられ、ケーネが一絞りするたびに、びゅっびゅっと大きな音を立て、泡立つほどの勢いで乳首の先端から母乳が放出されている。
 酪農女中だけあって、そのしごく指使いには一切の無駄がない。
 三つ目のワイングラスに母乳が注がれたとき、ようやくケーネが指を休めた。

「ご主人様……」

 ケーネは少し荒い息づかいで、ウィルに視線を送ってきている。
 ズボンを下ろしたウィルの股間の白い布地は山になっていた。勃起しないはずがなかった。
 ウィルは頷いた。
 すると、ケーネはワイングラスの縁に口をつけ、一気に逆さにする。
 黒髪の酪農女中は、ごくごくと白い喉を鳴らしたあと、ぷはあと至福の笑みを浮かべたのだ。

「ぜひアラベスカ様をお雇いください。母乳の質が良いことはわたしが保証いたします。母乳の量を維持するために、なにとぞ、わたしをアラベスカ様のお世話役に任命ください」

 この瞬間、アラベスカはマルク家の女中となったのであった。

「そしてお約束どおり、わたしは一生この屋敷にお仕えします。この身は一生ご主人様にささげます」

 ケーネは深々とお辞儀をしてきた。やはり大きな乳房が一緒に垂れる。
 ウィルは、いまさらのようにケーネとそういう約束であったことを思い出した。
 ウィルは、レベッカの姉をどのように処遇しようかと考えた。
 目の前の女性は、貴族として生まれてきたことが気の毒に思えるくらい家庭的な女である。
 後ろの、どこか思想の偏った女たちに比べると、その真っ当さは際立っている。
 いままで散々権力に人生を左右されてきたのだ。酷い目に合わせるのはあまりにも可哀想である。
 アラベスカ一人くらい抱えてもレベッカの活躍で十分お釣りが出るのは間違いない。
 この女性には権力に人生を左右されない、幸せな余生を送らせてあげるべきだろう。
 ウィルはそのように感じていた。

「アラベスカさん。この屋敷で女中として採用致します。育児室もお使いください」

 ウィルはできる限り誠実な態度でそう言った。

「ああ。神のお導きに感謝します」

 金髪の女はそう柔和な顔をさらにほころばせて涙を流していた。
 教会に酷い目にわされたというのに、この金髪の女性はけいけんな信徒でもあるようだった。

「アラベスカさん。いえ、アラベスカ。この屋敷には礼拝堂もあるからね。専属のシスターもいる。いつでも祈りを捧げていいからね」

 ウィルは打ち解けた笑顔でそう語りかけた。
 すると、女はソファーからじゅうたんの上へと青いドレスの膝を突き、ウィルの手を神の導き手であるかのように掴んでむせび泣きはじめたのだ。

「ああ。ありがとうございますっ。ありがとうございます!」

 ウィルの優しい笑顔に心を揺れ動かされたのかもしれない。直線的で混じりけのない感謝の言葉である。
 ここまでのウィルは完璧な紳士であった。ウィル自身もそのように思う。
 だが、上から見下ろすウィルの目線からは、女の剥き出しになった乳房がたぷたぷと揺れ、テーブルを柔らかく押しつぶしているのが見えるのだ。

「ところでアラベスカ。君に一つ頼みがあるんだ」
「わたしにできることであれば、なんなりと!」
「あの机に手をついてもらえないだろうか」


   ‡


(ああ。本当に具合がイイね!)

 ウィルは心底嬉しそうに、快楽に歪んだ口許から大きな吐息をらしていた。
 股間の先が柔らかい刺激に包まれている。レベッカと違い、簡単に奥まで入る。
 そして、お尻に下半身が沈みこむ。肉の量感が素晴らしい。
 若い少年が、先ほどまで赤子に乳を与えていた女性の白いやわにくを好き放題にむさぼっているのだ。

「い、妹に、レベッカに会わす顔が、はぁはぁ、ありませんわ……」

 アラベスカは、さきほどのレベッカと同じポーズである。そして同じ場所である。
 白い大きな乳を放り出した女が、屋敷の支配者の机に両手をついて、お尻を突き出す姿勢を取っていた。
 そこにウィルは、すぱん、すぱんと容赦なく腰を振る。鋭くキレキレであった。

「大丈夫だよ。うちの女中はみんな仲良しだからっ!」
「ああっ。あん……。はいよろしくお願いします!」

 女のくぐもった声で、必死にそう返事をした。
 ウィルの下腹で女の柔らかい尻肉が震えるのが堪らなく気持ちがよい。
 奥までにくを突き通すと、深い達成感のようなものが得られる。
 そして引き抜くときには、ねっとりと大きな尻全体が名残惜しそうに絡みついてくる。

「激しくするから、しっかり机を掴んで。声は我慢しなくてもいいよ」

 アラベスカはウィルの言葉に素直に従った。
 尻肉を鷲掴みにして、そのまま思う存分尽きまくる。尻に肉がリズミカルな音で打ち付けられる。

「あんっ。あんっ。うあああああああ。だめです。なにか、来そうでっ!……ああ。怖い……」
「あれ! アラベスカはまだ性交で達したことがなかったの?」

 ウィルが少し突く速度を緩やかにする。

「あ、ありません。そもそも……経験自体が。乏しくて……。まだ数えるほどしか、ん。殿とのがたと肌を合わせたことがありませんっ!」

 チルガハン家の夜の生活は随分と冷めたものであったようだ。

「へえっ! これを口にくわえたこともない?」
「咥えるってなにを……ああ、そ、そんなっ。まさか。……神はそのようなことをお許しになりません……」
「もしかしてもしたことがないの?」
「……自慰!? そんな、はしたないっ!」

 寂しい夜も多かったであろう。だが、性交の経験はあっても快楽を知らない女は、自慰をする必然性を見出せなかったのかもしれない。
 想像以上に貞操観念のしっかりした女性の肉体を犯しているようであった。
 ウィルは興奮し、女の肉を分け入る腰つきが、より激しくなった。

「あんっ! ああんっ! な、なにかきそう……ああ、わたしったらなんてはしたない声をっ!」
「ほらっ、せっかく君の子どもが見ているんだから、そんな苦しそうな声なんてあげてはダメだよ」

 ウィルとアラベスカの目の前、机の向こうで、トリスがオクタヴィアをあやしていた。

「ほーら。高い、高い!」

 トリスはオクタヴィアに満面の笑みを見せる。
 オクタヴィアは早くもトリスに懐いたのか、ときおり不思議そうに母親のほうに視線を送りつつも、きゃっきゃという笑い声をあげている。
 普段、能面のように白い顔をしているというのに、これほど人付きのする笑みを浮かべていることにウィルは驚いていた。

「それにしても大きいなあっ」

 ウィルが乳房を後ろから鷲づかみにすると、乳首の先端から白い液体がにじみ出し、ウィルの指先を濡らしはじめた。
 さきほどケーネに散々絞られたばかりだというのに、すさまじい量である。
 ケーネは採取した母乳を酪農部屋に持ち帰り、さっそく試作品作りに取りかかるようである。邪魔しないに限る。もう帰るに任せておいた。

「さっきの黒髪のケーネが君のお世話をするからねっ!」
「……わ、わたしのお世話だなんてっ……」
「いいから、いいから」

 ウィルは、アラベスカの開いては閉じる尻の穴を見ながらそう答えた。

「ケーネに健康的な食事のメニューを考えてもらって。それと、うちには使用人用の便所があるけれど、君は特別におまるチェインバー・ポットを使ってもいいからね」
「……は、はい」

 アラベスカは恥ずかしそうに頷く。だが、排泄の管理を他人にゆだねることを疑問に感じなかったようだ。

「赤ん坊にあげる母乳が足りなくなったら、ケーネに言ってミルクを出してもらいなさい」
「はっ、はいっ!」

 自身が乳を出すための家畜のような存在に成り下がったことに気づく様子は無かった。
 突いているうちに、だんだんと女の身体の弱い部分が分かってきた。
 そこを狙い澄ませて奥まで一突きにした。

「……あんっ! そ、そこは。ん。んん……」

 女の体の芯の一番深いところに何かが到達した。
 アラベスカは声にならない声をあげて、息を絶え絶えとなった。

「よし。そろそろ出すよっ!」
「えっ?!」

 ウィルの言葉に、アラベスカはたんに動揺した。
 目の前の大きな尻は、妊娠をして子どもは出産したものの、精液を迎え入れた回数は本人の申告どおり、ごくごく少ないのかもしれない。

「大丈夫。さっき、膣に入れたでしょ。避妊はしっかりしてあるからっ!」
「あっああっ……はい」

 ウィルが腰を突き出すたびに、巨大な胸ごとぶらぶらと前後に揺れている。
 さきほどレベッカが血を流して染みになった絨毯のうえに、ぽたぽたと白い母乳が零れている。
 元人妻の吸いつくような尻を下腹に打ち付けるたびに、ウィルの性感が高まっていく。
 指先はアラベスカの大きなお尻の両側に食い込んでいた。

「あなたのお母様は、あと十五年くらいはご主人様に伽を提供できるでしょう。そのあとはあなたが伽を引き継ぐんですよー」

 窓際でオクタヴィアを揺らしながら、トリスが勝手なことを吹き込んでいる。

「ト、トリスさんっ!……あんっ。それはいくらなんでも……ひゃっ」

 癖の強い金髪を振り乱しながら、息も絶え絶えにそう言いつのる。

「どうして? この子は最高の教育を授かり、すくすくと育つでしょう。ですが、高度な教育を授かった女が、才能を活かせるような職場は世の中に多くありません。あなたの妹も女中になってようやく、存分に活躍する機会に恵まれたのですよ。もう貴族ではなくなった、ムーアの一族に、ご主人様にご奉仕する以上に幸せな生き方が残されていますか?」
「ううっ……」

 アラベスカはトリスの言葉に有効な反論が思いつかなかったようだ。

「で、ですが……」

 なおも、机の縁に噛みつくようにして、そう言いすがるアラベスカに、

「大丈夫。将来、その子がだれに抱かれるかなんて、その子が決めたらいいよ」

 ウィルがそう助け船を出した。
 トリスの胸に気持ち良さそうに頬を埋めている赤ん坊に欲情する気はかけらも起きない。
 たしかにこの子は美人になるのかもしれないが、自分が倍の年齢になったときの将来など現実味が沸かない。
 むしろ生々しいのは、その小さな身体の大きさのほうである。

(こんな小さな穴からオクタヴィアが生まれたんだよね……)

 ウィルは尻の谷間をぱっくり左右に開いて、なまめかしく柔肉の潰れる結合部を観察した。
 いまウィルの男性器は、アラベスカの膣によって一分の隙もないくらいに柔らかく、そして複雑に締め付けられている。

「だから、さっ。アラベスカは何の心配もなく、快楽に、集中するといいよっ!」
「んっ! はいっ! ああっ!……ああんっ! あああああああああ」

 掻き分けるウィルの肉棒により複雑な刺激が絡まりはじめる。
 金髪の女は従順にウィルの指示に従った。
 二人の汗が飛び散る。いままでの女と違って、そこには白い母乳まで混ざっている。
 男と女の湯気と性臭がただよう、すぐ近くで、窓の陽の光を存分に受けながら、トリスが赤ん坊をあやしている様子がミスマッチであった。
 姉妹だからだろうか。さきほど妹が爪を立てたのと同じ場所をひっかき、ぶるぶると白い手を震わせている。痛みではなく快楽によって。
 激しく尻をたたきつける。
 にゅるりにゅるりと、尻の谷間から男根が出たり消えたりする。

「ほら。あなたのお母様とご主人様は、いないないばあしているんですよ」
「ぶっ」

 トリスが変なことを吹き込んでいた。

「アラベスカ、なかに出すよっ!」
「そ、そんなっ……」

 ウィルは遠慮なく、腰をめいいっぱい前に突きだし、散々に腰を動かした満足感とともに本日二回目の精を一気に解き放つ。
 びゅっびゅっと精が膣を叩く。
 ぶるぶると背筋を震わせながらどくどくと女の膣に精を解き放っている間、女の白い太ももが、がくがくと震えている。

(おお。満足したぁああ。うっはあ)

 ウィルが溜まっていたものを一滴残らず出し切ったという実感を感じた直後、繋がっている女の身体の力が一気に抜けた。

「おっと」

 女はかろうじて机に突いた額で身体を支え、ウィルも肩を掴んで後ろから身体を引っ張ってやる。
 しかし、堪えきれず机の上にかぶさるように突っ伏したのだ。

「す、すみません。ち、力が抜けてしまって」

 ふと前を見ると、「だあ、だああ」と机の上に寝かされたオクタヴィアが腕を振り回している。
 達して身体を震わせている母親とウィルの頭を、オクタヴィアの指先がよしよしとではじめた。

「さあ、ご主人様」

 トリスはいとおしげに赤子の黒髪を撫でてやっている。

「将来、どんなオクタヴィアを抱きたいですか。ピアニストになれば繊細な指でご主人様のものをご奉仕してくれましょう。それともわたしのようにバレリーナの柔軟な身体を味わいたいですか。生まれながらに身を捧げるパトロンに苦労しないなんて幸せなことですわ。それともご主人様を守る忠実な女騎士を組み敷きたいですか。オクタヴィア。あなたの人生は、ご主人様のまわりに無限に広がっているのですよ」

 トリスの言葉に返事をしたのか、オクタヴィアは白く長い指先をぱくっと咥えた。

「……で、ですが、将来のことはオクタヴィア自身に……」

 アラベスカは陸に打ち上げられた魚のような呼吸でそう懇願した。
 ウィルは、気の毒になって、そっとアラベスカの尻を優しくなでてやる。
 その瞬間、びくっとアラベスカは背筋を震わせた。達した直後のためか敏感だったらしい。

「おっと。大丈夫。ぼくは自分の約束を守るよ。将来のことは、オクタヴィアが決めればいい」

 ウィルがそう言うと、アラベスカはウィルの頬に、服従を誓うようにちゅっと唇を寄せてきた。

「あらあら。お甘いご主人様。まあよろしいですわ。この屋敷の環境で育ってご主人様に惚れないことなど可能かしら。このお屋敷はご主人様の魅力を引き出すためにあつらえられた場所なのですよ。マイヤも妹のロゼも、ご主人様と長く過ごした女は、みんなご主人様に惚れていますよ。古株の女中を含めてね。まして自分を赤ん坊の時代から知っているご主人様ならなおさらですわ」

 トリスはそう自信たっぷりに言い切った。


   ‡


 従者のギュンガスは、これから一足先に港街レノスへの出発するところであった。
 黒い山高帽シルクハットからはみ出た赤毛の髪を櫛でいている。いつどこで手に入れたのか、必要のない高そうな杖までついて、いかにも中流階層の紳士といった出で立ちである。
 その姿に、なんとなくいけ好かない印象を抱いたが、大事な仕事を任せるのである。ウィルは黙って見送ってやることにした。
 伊達男が馬車に乗り込もうと足をかけたところで、ギュンガスはウィルのほうを振り向いた。

「チルガハン家はこれから新しい妻を娶られるそうですよ。そのことでお家騒動になっているようです」

 ギュンガスがそのようなことを口にした。

「へえ。お家騒動?」
「女中を妻にしようとしているのです。それも平民出の」

 ギュンガスの言葉にウィルは目を見張って驚いた。
 チルガハン当主と言えば、女中が視界に入るだけで怒り出すような神経質な男であったのだ。
 いままでマルク家の家政ハウス女中メイドの扱いが厳しかったのもチルガハン当主の影響である。
 貴族社会において、女中を妻にするというのは蛮勇である。一体どういう心境の変化だったのだろうか。

「当然、周囲は大反対しています。侯爵家で認められるのは相当に難しいでしょう。しかも、チルガハンの現当主はようやく権力を手にした地盤の固まっていない時期です」
「そ、そりゃそうだよね」

 ウィルは自分のことのように、言葉を詰まらせながらそう返答した。
 元貴族と離縁して、平民の女中を妻にしようとしたら教会も良い顔をするはずがない。
 社会階級を無視して結婚するというのは相当な抵抗があって当然だ。

「ぜひオクタヴィア様を大事になさってください。ご主人様の大事な手駒ですから」

 ウィルの従者は聞き捨てならないことを言ってのけて、馬車へと乗り込んだ。
 ウィルが口を開きかけたとき、馬車はすでに走りはじめていた。

「それではレノスの街でお会いしましょう」

 遠ざかる馬車の窓からギュンガスの声が響いた。
 男はキザったらしく、白い手袋をめた手で山高帽を掲げたのであった。


◇ 屋敷の女性一覧 ◇
女中長   1人 (トリス◎)
蒸留室女中 2人 (リサ◎・サリ◎)
洗濯女中  6人 (第一:ジュディス◎)
         (第二:イグチナ◎・ブリタニー◎・シャーミア◎)
         (第三:アーニー◎・レミア◎)
料理人   1人 (リッタ◎)
調理女中  3人 (第一:ジューチカ)
         (第二:エカチェリーナ・フレデリカ)
皿洗い女中 2人 (ニーナ・ルノア)
乳母    1人 (アラベスカ◎)
酪農女中  3人 (ケーネ)
客間女中  1人 (フローラ◎)
家政女中  1人 (ヘンリエッタ)
雑役女中  8人
側付き女中 3人 (ソフィア△・マイヤ◎・レベッカ◎)
その他   1人 (オクタヴィア)
    計33人
お手つき 14人 (済み◎、途中△)




第四十話「侯爵家の母娘」へのコメント:
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