ページ
先頭
総コメ: 2
展開畳む(行コメ:2件)
ページ
末尾
第三十八話「権力に寄り添う仕事」

女学院の院長が登場する冒頭の4分の1ほど書き直しました。

「女学院はたいへん予算の厳しい折でして、ぜひウィリアム様にはご融資をお願いできないでしょうか!」

 対面のソファーに腰をかけ、修道女のような黒いヴェールから癖のある長い金髪を垂らして必死に頭を下げている小柄な女性は、シャルロッテ女学院の学院長であった。

「そ、そういうことは父である伯爵に言っていただかないと……」

 伯爵家の令息は両の手のひらを向けて、苦笑を浮かべるしかない。
 目の前の女性は学院長という役職のわりに若い。二十代後半くらいだろうか。ぴっちりとフィットした黒いドレスを身に纏っており、

(大きいよね……)

 ローテーブルに押し付けられて潰れた胸のふくらみに、つい目が引き寄せられてしまう。
 金髪で小柄な体躯に豊満な肢体――どことなく雰囲気の方もリッタに似ている気がする。

「これまで融資くださっていた貴族の方々まで、のきみ資金を引き揚げてしまいました」

 それを聞いて、ウィルはうーんと両腕を組んで考えこんだ。
 小麦相場が高騰し、王弟派の貴族が空売りで大損をしているのだ。
 値段の上がって有利になる王兄派の地主たちも小麦の売り時を見計らっている。利益が確定するまでは資金提供する気になれないだろう。
 このような状況で貴族家を回って資金調達しなければならないとは、目の前の小柄な学院長も大変な立場に置かれているものだ。

 だが、いくら伯爵家の財政が多少回復したとは言え、そう簡単に資金提供などしてあげられるものではない。
 どうしたものかと考えていると、目の前の胸の大きな女性が令息の背後にチラチラと、上目遣いの視線を送っていることに気がついた。
 背後を見上げると、視線に気がつかないフリをしている長身の女中長の顔が見える。

(たしか、トリスもここの卒業生だったっけ……)

「どうか、わたくしをお助けください。お姉様ァ……!」

 突如、小柄な学院長がそのような言葉を発したのだ。
 泣きそうな顔ですがるように訴えかけてくる金髪の女の顔から察するに、どうやら聞き間違えではなかったらしい。

「というか……お姉様って?」
「ご説明します。ご主人様。そこにいるシンシア、ひとまず客人であるという立場は忘れてくれるかしら――は、シャルロッテ女学院の後輩にあたります」

 珍しく疲れたような声でトリスは答えた。

「女学院の首席は女王蜂と呼ばれ、姉のように慕われる校風がございまして……。もう十五年ほど前になるでしょうか、わたしは首席で卒業しましたので」
「お姉さま、わたし、かなり頑張ってあちこちの屋敷を訪問して参りましたが、もう心が折れそうですわ。どこに行っても指一本触れてくださらないんですもの!」

 どことなく金髪のリッタを見ているような既視感にかられて、

「指一本って?」

 ついウィルが質問をすると、上から溜息が降ってきた。

「シャルロッテ女学院の学院長の役割とは、言葉飾らずに申し上げますが――身体を使ってパトロンから資金を引き出すことにございます」

(なるほど、それで。学院長にしては随分と若いと思った……)

「ですからシンシアは喪服であったり修道女まがいの服を着ているというわけです。貴族の殿とのがたは背徳的な魅力に存外に弱いものですから」
「股を開くしか能のない、頭がすっからかんのわたしでも務まる役職だと助言をくださったのはお姉様ではありませんか! わたしもう身体がうずいて疼いて仕方がないのです。ご融資いただけないのであれば、せめてお姉さまが慰めてくださいませんか!?」
「シンシア、客人であるあなたにこんなこと言いたくはないのですが、これ以上わたしのご主人さまにみっともない話を聞かせるのはおやめなさい!」

 トリスの𠮟責によって、かろうじて話の脱線が免れたのであった。

「ウィリアム様からご融資をいただけないなら、シャルロッテ女学院は一時閉鎖することになるでしょう」
「え? そこまで切羽詰まってるの?」

 ウィルは驚きに目を丸くする。
 シンシアは真剣な表情でうなずく。

「中流階級の富豪からの出資を受け入れるよう約款を改定すれば資金繰りを立て直させるのですが、貴族の出資者で構成される理事会での稟議を通すのにいましばらく時間がかかります。お父上のマルク伯爵をはじめとした理事の方々が反対されておりまして――」

(うっ。父さんが同意していればなんとかなったかもしれないのか……)

 貴族ではもう資金の提供元になれず、中流階級に力に頼らざるをえないという現状に改めて時代の変化を感じずにはいられない。

「理事会には通せそうなの?」
「はい。みなさん、いずれ受け入れざるをえないことをご理解いただけるでしょう。それに資金を引き上げた理事の発言力は無いも同然ですから――」

 さきほどの醜態が嘘のように、真っ直ぐこちらを向き、自信に満ちた表情で語る金髪の学院長に、伯爵家の令息は人物評価を修正することになった。

「とにかくいまは当座をしのぐ運転資金が必要な状況にございますから、手を差し伸べていただけるなら、わたしにできることは何なりと致します」
「うーん、何なりとって言われても……」

 ウィルののうに、トリスの年の離れた妹で、二つ結びの黒髪の少女の姿が思い浮かんだ。

(ロゼどうしているかな……。イグチナの娘――ヴェラナもいるよね。二人とも女学院が閉鎖したら可哀想だなあ)

 そんなウィルの心中を察したように、

「これから女学院は卒業審査の時期ですわね? ロゼは女王蜂になれそうかしら?」

 女中長はそう質問をする。

「苦戦を強いられていますね。ロゼは成績自体はとても優秀なものの、周囲からの支持が少し弱いですわね」

 首を傾げるウィルに、

「ご主人さま、だれが女学院の主席に就くかは、本人の成績に加え、生徒たちによる投票によって決まるのですよ」

 元シャルロッテ女学院の女王蜂は背後からそのように補足をした。

「へえ、首席争っているだけで十分すごいよ。ロゼ、頑張っているんだなあ」
「たしかに頑張ってはいるものの、ロゼは少し潔癖症のようですね」

 学院長は、困ったものだわと頬に手を当てている。

「潔癖症って?」
「口づけの一つくらい許してあげられないようなら、支持をされないということにございます」
「え?」

 目の前の学院長と背後の女中長を見くらべたところ、二人は同時に頷いた――学院長の方は頰を染めながら。どうもそういうことらしい。

「そんなことで正当に評価されなかったらロゼが可哀想だよ!」

 自分が女中たちにしてきたことを棚に上げて不満を露わにする屋敷の令息に、

「人は、肌も与えてくれない高嶺の花よりも、ねんごろになってくれる身近な存在を選んでしまう生き物にございますよ。支配したければ、肌を与えるしかありません」

 見上げる女中長がそのように諭す。

「ウィリアムさま、もしマルク家からご融資をいただけるなら女王蜂争いでもロゼは有利になると思われますよ?」
「え?」

 前を向くと、ついに突破口を見つけたとばかりに、目を輝かせる金髪の女の声に熱が籠もる。

「なにもこれは不正を勧めているわけではありません。女学院の子たちは力の強いパトロンを持っている女を支持しますので」

 それゆえに女学院の主席は女王蜂と呼ばれるのであった――

「そ、そういうのもアリなの?」

 そんな令息に疑問に、トリスとシンシアがそれぞれ答える。

「はい。ご主人さま、女中とは権力に寄り添う仕事なのですから」
「女学院としても外部の権力に取り入ることを推奨している面があります。そうでないと卒業してから貴族のお屋敷で自分の立場を確立することはできませんから」

 なぜ女学院の首席が女王蜂と呼ばれているか、改めて分かった気がする。貴族どうしの人脈を広げることが狙いの王立学院とは随分と勝手が違うようである。

「マルク家には、卒業生の受け入れもお願いしたいですわ。ご融資いただけるなら、あらゆる面でマルク家を優遇させていただきます」

 これは渡りに舟かもしれない。
 そう思ったところで、屋敷の女中長が腰を屈め、ウィルにそっと耳打ちをしてきた。

「ご主人さま、悪くない取引だと思われます。今なら融資する余裕もありますし、女学院には優秀な女生徒も多いので、ここで貸しを作っておくのも手かもしれません」

 ソファーに深く腰をかけ、顎に手を当てて考える姿勢を作るウィルを、目の前に座る女学院の学院長がハラハラとした様子で見守っている。実のところ結論はもう決まっている。
 内覧会では屋敷にやってきた中流階級の富豪たちに女中を譲り渡したため、屋敷では特に家政女中を中心に数が不足しているのだ。

「いいよ。当座をしのぐ程度しか出せないだろうけど融資するよ」
「まあ! ありがとうございます! これでわたしも肩の荷がおりましたわ!」

 金髪の学院長は、ソファーからずり落ちるように安堵の溜息をついたのだ。

「でも、マルク家が融資をしたということは伏せておいて。勝手なことをしたと父さんに思われたくないからね」
「はい。すべてウィリアム様の仰るとおりにいたしますわ」

 金髪の学院長は従順に頷くと、男に媚びるような笑みをウィルに向けてきた。
 その機先を制するように、トリスが口を挟む。

「ご主人様は『この女』の肉体を所望されますか? 急ぐ必要はありませんが」
「え? あ、そういうこと?」

 つまり支援を決めた瞬間に、いつでも抱ける力関係になったということのようだ。

「お姉さまが手塩にかけて育てられたご主人さまに抱いていただけるなんて、なんという役得――ではなく、ご融資を決められた方のお望みとあっては、学院長としてお断りするわけにはいきませんわ!」

 女は嫌がるどころか、色香をただよわせた青い瞳でウィルに流し目を送り、自分からおもねってきた。
 だがウィルは首を振る。

「いや、やめとくよ」

 ウィルの返事に、金髪の学院長はあからさまに肩を落とす。
 興味がないわけではないが、せっかくシャルロッテ女学院に対して作った貸しを学院長の身体で返してもらいたくはない。それに思っている以上にやり手な感じがしていて、もし手を付ければさらなる支援を求められそうな気がしているのだ。

「まあ、どうせ、わたしの食べ残しのような年増女ですし、気が向いたときに屋敷に呼び出してお手つきなさるとよろしいでしょう。資金を引き上げると仄めかせば、いつでも飛んできますわ」
「お姉さま! おヒドいですわあ!」

 金髪の学院長は、トリスとのじゃれ合いを楽しむように声をあげたのだ。

   ‡


 ウィルは調理場に足を運んでいた。
 目の前には、並んで芋を洗ってる第二調理キッチン女中メイドが二人並んでいる。
 二人は髪をすっかり白い調理帽で覆って、マスクまでしているので後ろからだとほとんど見分けがつかない。
 たしか二人の調理キッチン女中メイドはウィルよりも歳が一つか二つ下である。

「やあ、内覧会オープンハウスはご苦労様だったね」

 そう言って、ウィルは気安く二人の尻を左右からすっとでてみた。
 すると、二つの尻が手の平できゅっと引き締まった。
 労働の汗ですこし蒸れたような感じがするが、膨らみは年若いだけあって、張りがあった。

「あら……。ウィル坊ちゃま」

 左手から、金色の眉のエカチェリーナが、目が糸のように細めて、おっとりした声で返事をした。

「リッタさんならいませんよ。酪農部屋デイリー・ルームでケーネさんと話をしています!」

 右手の、瞳が大きく、きびきびと話す黒い太眉がフレデリカであった。
 二つの尻はウィルの姿を認めたのか、手の平で少し緩んだ。

「ところで、もうジュディスから苛められたりしていないよね」

 ウィルがそう言うと、ウィルの手のひらに身をゆだねるように体重を預け、すがるようなほほみを向けてきた。
 その反応に、伯爵家の次期当主は内心でほくそ笑む。
 厨房の女中たちは、一時期、洗濯ランドリー女中メイドから激しい突き上げを受けたという。
 こういうときに真っ先にわりを食うのは、大抵この二人のような地位の低い末端の女中たちであった。
 ジュディスは、辛く当たった他の調理女中にもびを入れると言ったが、ウィルがそれを止めさせたのだ。
 あの赤毛の大柄な女中には、強面のままでいてくれたほうが何かと都合が良かった。

「はい。お陰様で」

 とエカチェリーナが柔らかく微笑み、

「あのときは本当にくやしかったんです」

 フレデリカのほうは黒いまつを少し濡らして、見えないハンカチを噛むようなぐさをしてみせた。
 じわりじわりと陣取りゲームのように、女中たちの心を支配の糸で絡め取っていく感覚がある。一人残らず絡め取ろう。ウィルは強欲であった。

「もちろん。僕に感謝してくれているよね?」

 ウィルはそう言いながら、左右の胸を掴むと乳房が青く潰れた。
 フレデリカとエカチェリーナの乳房は少し堅いが歳のわりによく膨らんでいる。

「あんっ。お、お戯れを」

 フレデリカはそう言って抵抗する口ぶりを見せるが、身体はウィルに預けている。

「どうなの?」

 そう念を押しながら、左のエカチェリーナの乳房のほうがやや大きいことを確認するために揉みしだく。

「んん。も、もちろんです」

 おっとりとした女中は、くぐもった声でそう返事をしてきた。
 目の前の少女たちは、フローラほど貞操観念の強い家庭に生まれ育ったわけではない。思い人もいない。この年頃で性的なことに興味がないはずもない。

「知っている? おっぱいって男に揉んでもらったほうが大きくなるんだって」

 ウィルは根拠の不確かなことを言った。

「……聞いたことがあります」

 そうエカチェリーナがこてっと頭をウィルの腕に預け、

「え、ほ、本当ですか?」

 フレデリカのほうが戸惑ったようにそう訊ねてきた。

「トリスが言ってたよ。乳房が硬いのは、乳腺が発達してないからで、赤ちゃんに母乳を与えるときに乳腺が硬いままだと、人によっては潰すくらいに揉まないといけないんだって。泣きそうなくらい痛いらしいよ」

 トリスはウィルの乳母ナニーをしていたこともある。トリスの名前を出すと説得力が抜群であった。

「だから今のうちに揉んでもらったほうがいいんだよ」

 ウィルはそう論理を飛躍させた。
 左右の処女の乳房の先端を指先で探り当て、人差し指と親指の腹でこりこりと刺激しながら、残りの指で乳を搾るように良い案配で柔らかく揉み続けた。
 二人の顎が上がってきたあたりで、乳房から手を離し、ぽんぽんとお尻を撫でる。

「また虐められるようなことがあったら、ちゃんと相談するんだよ」

 すると、エカチェリーナとフレデリカは、少し息を荒くして少年を頼もしそうな視線で見上げていた。
 ウィルは、かんを膨らませながら、このまま部屋に連れ込むのもいいかなと考えはじめたそのとき――

「うっ」

 後ろからの予想外の刺激に、ウィルは妙に間抜けな声をあげて顎を仰け反らせた。
 ウィルの尻の両方が細い指できゅっと掴まれていたのだ。
 振り返ると、

「えへへ。わたしも遊んでー!」

 ウィルの腰ほどの背たけしかなく、おでこを出した金髪の幼女ニーナと

「わたしも混ぜてください」

 それより頭一つ分背の高い黒髪のルノアが、真似っ子とばかりに後ろの左右からウィルの尻を握っていたのだ。
 股間を反応させた状態で、後ろから不意打ちで尻を掴まれるというのは、どうにも奇妙な感覚がした。
 ふいに、嫌な予感がした。この二人はさきほどまで石炭オーブンの掃除をしていたのだ。
 ウィルは自分の尻を掴むニーナの指先を見やると、やられたという感じに天井を仰いだ。

(うわ。べっとり……)

 この金髪の幼女の両手は、べっとりと脂の混ざった黒い煤汚れがついたままだったのだ。
 一方のツインテールのルノアの手は綺麗に洗われていた。
 ウィルにとっては着替えれば済むことだが、さぞ洗濯ランドリー女中メイドが苦労することだろう。
 そのまましゃがんでニーナの視点の高さに合わせ、溜息をひとつ零す。

「……ニーナ、悪戯いたずらするなら、せめて手を洗ってからにしないとダメ」

 言われたニーナは、はっと自分の汚れた両手を見つめ、まるで皿でも割ったかのように、みるみる顔面そうはくになる。

「ニーナ。こっちに来てお尻だしな。うんと厳しくとっちめてやるから。ウィル坊ちゃま、どうか、そんなところでご勘弁を……」

 フレデリカがそう言うと、ニーナは下唇を歪めて、顔中をくしゃくしゃにした。

「泣きたいのはこっちだわ。ただでさえ洗濯女中と折り合いが悪いのに……」

 フレデリカの声は暗かった。
 ニーナはしゃがんでいるウィルの前をとことこと通り、フレデリカのまえに立つとスカートを捲り上げた。

(おっと……)

 どうやら、いつもこうやって叱られているらしい。
 ウィルはちょうど座った低い姿勢だったので、黄色い人参のワンポイントの入った布地を見ることになった。
 ニーナは指を震わせて、そのままショーツを脱いだ。

(あ……)

 ウィルは男の本能とばかりについ見てしまった。
 ニーナは、ぶるぶるときゃしゃな足を震わせて、フレデリカのほうに小さなお尻を突きだしている。

「ルノアはどうしてニーナを止めなかったの?」

 黒髪を耳の左右で縛った幼女がびくっと肩を震わせた。
 ウィルにとっては、こちらのほうが問題であった。
 すると、黒髪の少女はもうぐすぐすと泣きはじめた。

「さあ。ルノアも」

 エカチェリーナに促されて、ルノアもスカートを捲り上げ、白いパンツを下ろしはじめた。
 二人の少女が白い足をぷるぷると震わせている。

「今日のは覚悟しな。二人とも、お風呂に入るときに痛みで飛び上がるからね」

 そう言って、フレデリカが黒い太眉を吊り上げて、腕を振り上げたとき、

(あ、これ、力一杯引っぱたくな)

 そう思ったウィルは、

「ぼくの服が汚されたのだから、ぼくが代わりにやるよ」

 つい反射的にそう言ってしまったのである。
 いま、ウィルの膝の上にニーナがお尻をさらして腹ばいになっていた。

(よく考えると、女中をせっかんするのはこれがはじめてだ……)

 ウィルはそんなことを思った。
 少女は、ウィルが叩きやすいよう、黒いお仕着せのスカートを両腕の横に捲り上げ、ぷるぷるとお尻を震わせていた。
 その様子をスカートを上げたルノアが心配そうに見守っている。
 あと七、八年もすればとんでもない美少女になるかもしれない。そのくらい素材はいい。
 そして、ウィルに折檻されたことを一生覚えているのだろう。
 まずウィルは、自分の左ふとももに垂れ下がるように、しがみついてぶるぶると震えるニーナの白く小さなお尻を平手で打ち据える。
 ぱーんと大きな音が鳴った。後ろのルノアがびくっと震えて、顔を反らす。
 そしてもう一発、手の平を反らし、幼い白い尻の表面に叩きつける。
 できるだけ派手で大きな音がするように、むちのように手の平をしならせるが、当たった後、手の平の力を横に逃がすようにそよがせるのがコツであるとトリスから習った。
 尻の皮膚の上で手の平を止めてしまうと、衝撃が全て伝わってとても痛いが、このように叩けば派手な音のわりにはそう痛くはないという。
 女中を折檻するときに手加減をしていると見なされるのは、屋敷の支配上ではなはだ都合が悪い。

「ニーナ。ジュディスがこの脂汚れを落とすのは結構重労働なんだよ?」

 ウィルは痛みの代わりに言葉で諭す。すると、ウィルの左の膝の上の黒い布の膨らみが頷いた。
 ウィルはさりげなくジュディスの名前まで持ち出して恩を売りつけている。

「今日はぼくが不注意で汚したことにしてあげるけど、次から人の迷惑にならないか、よーく考えること。いいね?」

 ニーナはもう一度、頷いた。
 すると、後ろで顔を曇らせていた二人の第二調理女中も、洗濯女中との軋轢はごめんとばかりに見るからにほっとした表情を浮かべていた。

「よい子だ」

 そう言って、叩いて少しだけ赤くなったお尻を撫でてやると、ニーナのお尻がぶるると震えた。
 それはどこか成熟した女性のような反応であった。
 なんとなく嫌な予感がしてウィルは慌ててニーナの身体を起こさせた。
 次は、ルノアの番であった。
 黒髪の少女はぎゅっとウィルの膝に震えながらしがみついて、ぷるんと白い尻を露出させている。スカートは脱ぎ下ろしていた。
 ルノアのほうは、女として成熟するまでに、あと四年くらい必要だろう。
 ニーナはというと、なぜかウィルの白いシャツのすそをぎゅっと掴んでいたのだ。

「ルノアはお姉ちゃんなんだから、下の子の教育にも責任をもつこと」

 すぱんと尻を叩くたびに黒い髪が震える。
 やがて、あまり痛くないということが判明して少女の指先の震えが治まっていく。

「そして、なによりもぼくに逆らわないこと。いい? ルノア。きみは悪戯をしたから怒られているんじゃない。分かっててニーナの手を洗わせなかった。それは、ぼくに逆らうということなんだよ?」

 はっとルノアはウィルのほうを見上げ、自分が叱られている理由が分かったとばかりに、こくこくと頷いた。
 トリスに言わせると、ウィルは暴力で従えるよりも言葉巧みに女の心を絡め取るほうが向いているらしい。

「次からぼくに悪戯するときはもっと上手くやるんだよ」

 ルノアの尻をニーナと同じように撫でてやった。
 お仕置きが終わったので、黒いスカートを履かせるが、ニーナとルノアは、左右からウィルのシャツを掴むように抱きついて、ぐりぐりと頬ずりするように顔を埋めていた。

(ちょっと甘かったかなあ……)

 ウィルは苦笑した。
 そして、ウィルはふと思いついた。

「ニーナ、ルノア。今晩、一緒にお風呂入ってあげよう」

 するとニーナは目を輝かせ、ルノアは恥ずかしそうに頷いた。
 後ろの調理女中二人も目を丸くしている。

「知らなかったの? 主人が使っている時間も女中はお風呂を使ってよいことになったんだよ。君たちもニーナとルノアを連れていらっしゃい」
「で、でも……」

 金色の眉のエカチェリーナが、もじもじと言った。

「わたしはちょっと恥ずかしいので」

 フレデリカが申し訳なさそうに首を振ったのだ。
 多少、男に胸や尻を触らせたとしても、生まれたままの姿を見せるのには抵抗があって当然だろう。
 すると、ウィルは自分のべっとりとした脂で汚れたズボンを見下ろしながら、

「そっかあ。ジュディスに責められるの大変だと思うけど、頑張ってね」

 前言を翻すようにそう呟いたのであった。

「は、入ります。入らせてください!」

 フレデリカは即座にそう反応し、

「うう。恥ずかしい」

 エカチェリーナはぎゅっと目を瞑った。

「二人のおっぱい見みせてね。心配しなくても、他にも女中がいっぱい入りに来るから、気にしなくても大丈夫だよ」


   ‡


「ふろー、風呂、お風呂ー。お風呂は楽しいなー」

 ウィルが脱衣所の扉を開けると、ちょうど栗毛の洗濯女中アーニーが、上半身裸でスカートを脱ごうとしているところであった。
 悲鳴をあげるかなと一瞬身構えたが、

「あ、ご主人様ぁ」

 以前、かなり無理矢理抱いた少女は、にこにこと薄い乳房を晒したままウィルに話しかけてきた。

「今月のお給料凄かったんですよ。給料減るかと思いきや、ありがたやありがたや」

 アーニーはウィルに向かって、太陽を仰ぐように膝を曲げて両手を上下させた。そのたびに、乳房が弾む。

「二度とご主人様に会いたくないって言っていたくせに、舌の根も乾かぬうちにこの子は……」

 褐色の肌をしたシャーミアが額に手を当てていた。

「わたしは金で魂を売る女なのだ」

 アーニーはえっへんと薄い胸を張った。

「そういえば、今日から屋敷の清掃を手伝ってもらっているけれど、仕事は大変かな?」

 ウィルがそう訊ねた。
 洗濯女中には、家政ハウス女中メイドの手が足りない間、屋敷の清掃を手伝ってもらっている。

「ちょっと腰は痛くなりますけど、洗濯女中の仕事に比べて特にきついってわけじゃないですね」

 白銀色の髪の女はためらわずに服を脱いでいき、豊満な乳房をぽろりと零した。
 そこで、ばんと後ろの扉が開いて、

「ウィル! どうしてオレを置いていくんだ。今日こそ背中を流してやるからな」

 赤毛の小柄な少女が入ってきた。

「あ、番犬がやってきた」

 アーニーがそう反応する。

「番犬だと? そのとおりだ。さ、ウィル。服を脱がしてやるからな」
「あ。うん」

 赤毛の少女が、じゃれつくようにウィルのシャツのボタンを外し始めた。
 続いて、わーと、両手を左右に広げながら、低いたけの幼女ニーナが脱衣所に走りこんできた。

「ニーナ。脱衣所で走ってはいけませんよ」

 幼い声を注意を促したのが、黒髪を耳の左右で縛ったルノアである。
 その後ろから、金髪を後ろに束ねたエカチェリーナと、黒髪の髪の短いフレデリカが脱衣所に入っていた。
 二人とも調理場にいたときと違って、女中帽ボンネットぶかに被っていないので顔がよく見える。
 二人の調理女中は、洗濯女中の姿を見つけるて、びくりと顔を強張らせた。

「なんにもしないよ! ていうか、なんにもできないよ!」

 アーニーが少しイライラするようにそう言った。
 その間にも、ちゃくちゃくとマイヤがウィルの服を脱がしている。
 白い下着一枚になり、それを膝をついたマイヤの手が下ろすと男根が勢いよくはみ出した。

「わ、わわッ」「ウ、ウィル坊ちゃん」

 エカチェリーナとフレデリカが、手で顔を覆っている。
 ニーナは不思議そうに、ルノアは目を限界まで見開いてウィルのびくびくとぼっする肉の塊を見つめていた。

「おいおい。おまえら。この屋敷の女中だろ。屋敷の主人が屋敷の女中の裸を見て勃起をする。ごく当たり前のことだろうが。勃起をされなかったら、女としてよほど魅力がないってことだぜ」

 マイヤがあきれるようにそう言ったのだ。

「そりゃそうだね。おかげで、この時間の温かい湯を使わせてもらえるんだから」

 アーニーがそう言った。
 二人の調理女中は、きょろきょろと周囲を見まわしている。
 アーニーはウィルが見ているまえでショーツを脱いでいるところだし、シャーミアはもう素っ裸になっている。
 あまりに周囲の女中たちが、裸のウィルを自然に受け入れてしまっていることに戸惑っていた。
 そこにさらに、客間パーラー女中メイドのフローラが脱衣所のドアを開けて入ってきた。
 ウィルの下半身を見て、「まあ」と頬を赤らめたがそれきりだった。
 貞淑なイメージの強いフローラが、ウィルの勃起した男根を受け入れていることには、エカチェリーナとフレデリカは目を丸くするしかない。
 この金髪の客間女中は、さあいらっしゃいと布の塊をドアのなかへと引っ張ってきた。
 家政ハウス女中メイドのヘンリエッタである。
 ヘンリエッタは、フローラに連れられてウィルの隣に来た。
 白子の少女は、「わた……」そう、なにかを呟いた。

「え、なに?」ウィルがそう問い返すと、ウィルのほうにぺこりと一礼し、脱衣所の出口のほうに、もそもそと歩き出した。
(え? え?)

 ウィルがあっに取られていると、着ぶくれたヘンリエッタの腕をフローラが掴む。

「ヘンリエッタは、わたしもお風呂に入っていいのですかと、そう訊ねているようです!」
「え? もちろん。だって、お風呂場に来て、お風呂に入らなくてどうすんの?」

 ウィルがそう言うと、ようやくヘンリエッタは部屋の隅で、もぞもぞと服を脱ぎ始めた。
 脱衣所のみなの視線がヘンリエッタに集まる。
 なかには怖々とした表情を浮かべている女中もいる。ヘンリエッタと一緒にお風呂に入りたくないという気持ちになっても責められはしない。
 こうやって人に見られないように四六時中肌を布で覆っているような人間は、肌の病気にかかっている場合もあるのだ。
 ヘンリエッタが布の塊を脱ぐと、そこからはホルマリン漬けにしたようなシミ一つない真っ白な手足が、にょきっとあらわになった。
 髪は純白であり、眉毛も白い。目は血の色をしている。
 肌は透明感があるを通り越して、ところどころ、うっすらと血管が浮かんでいる。異形ではある。
 鼻筋はすっと通っているが、口を開けば牙でも生えていそうな耽美な雰囲気があった。吸血鬼伝説のような趣があった。
 だが、それ以上に圧倒的に綺麗であった。

「良かったァー」

 ウィルはヘンリエッタの近くまで歩いてきて膝を折り、心の底からあんの声をあげた。
 ウィルにとって、ヘンリエッタが自分が受け入れられる女性であることを確認しないことには何もはじめられなかった。

「?」

 ヘンリエッタは、いきなり近くにやってきてへたりこんいるウィルに小首を傾げている。
 雪の精の使いのように髪も真っ白である。
 しゃがみこんだウィルの姿勢からは、木の股に張り付く雪の結晶のような白い陰毛が見えた。
 胸や尻は十分に張っている。
 これならば、今後のことも考えてあげられる。安心したあと、ウィルの頭は切り替わっていた。

「ねえ、シャーミア。今日、家政女中の仕事を手伝ってもらったわけだけど、ヘンリエッタの指示はどうだった?」
「……答えにくいことをお聞きになる。はっきり言って、ヘンリエッタの指示は言葉足らずで分かりにくかったです。正直、今日はフローラが手伝ってくれてすごく助かりました」

 シャーミアの白銀の髪には独特の色つやがあるが、ヘンリエッタの髪はペンキでも塗ったかのように白一色である。
 シャーミアの褐色の肌が健康的な色気を漂わせているのに対し、ヘンリエッタの肌は病的な危うい色気を感じさせる。リサ・サリに言わせれば、どことなくヘンリエッタの容姿から、肌に白粉を塗った舞妓と呼ばれる踊り子を連想するのだという。
 二人とも出るところが出て、締まるところが締まっているのは変わりがなかった。

「ヘンリエッタって、『そこ掃除して』とか『それダメ』みたいにしか言わないんだよ。ダメって掃除の仕方がダメなのか、そもそも触ったらダメなのか、すごく困ったんだから」

 続いてアーニーが、短い栗毛の止め紐を外しながら、ふんがいするようにそう言った。

「いつも包帯を巻いたような姿だから、なんだか気味が悪くて。わたしこの間、近くにいることに気がつかず、つい悲鳴を挙げてしまいました」

 調理女中のフレデリカもそう漏らした。

「みんな、それ以上苛めたらヘンリエッタが可哀想よ!」

 たまりかねたようにフローラが声を張り上げた。
 そうすると、「しまった。つい言い過ぎた」とばかりに女中たちが口の前に手を当てていた。

「……ごめんなさい……。わたし旦那様に……人前で姿を見せてはダメって……きつく言われているのに……」

 ヘンリエッタは身体を震わせてそう言った。

「役立たずでごめんなさい……。わたしみたいなのが一人お屋敷に残ってごめんなさい……でも、わたし他に行く場所がないの……わたしを必要としてくれる人がいないの……」

 やがてヘンリエッタはぽろぽろと涙を零しはじめた。
 周囲の女中たちが罪悪感に駆られたのか、おろおろと動揺しはじめる。だが、女中たちはヘンリエッタにかける言葉を思いつけないようであった。
 そのとき、ウィルはよっこらしょと膝の裏を伸ばし身体を起こす。そして正面から、俯くヘンリエッタの裸の身体を抱きしめた。
 温かいし柔らかい。ヘンリエッタの肌は張り付くようであった。女の乳房がぺたんとウィルの胸板にあたり、吸盤のように柔らかく吸いつく。

「大丈夫。ヘンリエッタ。ぼくは決して君を見捨てたりはしないよ。ぼくが君を必要としてあげる」

 すると、白子の少女は涙で濡れた瞳でウィルのほうを見上げてきた。よしよしと白髪を撫でてやる。

「ほ……ん……と……」

 本当ですかと聞いているようだ。ウィルは自信たっぷりに頷いた。

「みんなも聞いてほしい」

 両手をヘンリエッタの背に回し、女のやわはだの感触を身体の正面で楽しみながら、ウィルは口を開いた。

「ぼくはね。女中が少々失敗したくらいで決して見捨てたりはしないよ。一生懸命やってくれて、ぼくに忠誠を誓ってくれるならね」

 裸の女中たちから、ウィルを賞賛する視線が集まった。ヘンリエッタの腹には、ウィルの張り詰めたこわばりがひたひたと当たっていた。

「ヘンリエッタはぼくに忠誠を誓ってくれるよね?」

 白子の少女は強く頷いた。

「なら、もう肌を隠せという伯爵の命令をく必要はないよ。ヘンリエッタに頼みたい仕事があるんだ。大丈夫、肌の弱いヘンリエッタでもできる仕事だから。たぶんぼくの見立てだとヘンリエッタはすごく向いていると思うんだ」


   ‡


 ウィルは湯船にかりながら、一緒に湯船に浸かる女の胸や、身体を洗う女の尻を眺めていた。
 鼻の下が伸びているのは隠そうともしていない。

「ウィル。さっきからちっぱなしなんだけど、オレが一発抜いてやろうか?」

 湯船の隣に浸かるマイヤがそう言って、腕を下半身に伸ばしてきた。
 ウィルの眉がぴくりと揺れた。
 あのままヘンリエッタを抱かなかったんだから溜まってるだろ、横から見つめるマイヤの視線はそう言いたげである。

「なんなら女の裸を見ながら、オレがこのまま擦ってやるってのでもいいぜ」
「ダメだよ。マイヤ。お風呂はリラックスする場所なんだ。だいたいそんなことをしたら女中たちが安心してお風呂に入れないじゃないか」

 ウィルがぬけぬけとそう言い放った。
 思うところがあるのか洗い場の向こうで、色違いのお尻をこちらに向けているアーニーとシャーミアがびくっと肩を震わせた。
 二人は意外に面倒見が良いのか、ニーナとルノアの髪を洗ってやっているところであった。

「それを聞いて、少し安心しました」

 調理女中のエカチェリーナが大きな乳房を湯に浮かべていた。湯面の下、女の足の付け根には金色の毛がゆらゆらと揺れているのが見える。
 自分が一緒に浸かっている湯船のなかで男が射精するのを思いとどまってくれたら、安心するだろう。
 いまもウィルの張った男性器をマイヤが柔らかく握ったままだ。

「でも、ウィル坊ちゃまのを間近で見るのはさすがに恥ずかしいです」

 エカチェリーナの隣に、それより小ぶりの乳房のフレデリカが座っていた。
 最初のうちは胸を隠していた二人も、周りの雰囲気に流されてか、すっかりウィルの前で身体を隠すのをやめてしまった。

「でもね、ここはぼくの屋敷なんだから、主人の男性器が膨らんでいるくらい、そろそろ見慣れてほしいんだ」

 ウィルは、自身の勃起した男根の熱を冷ますように、風呂の縁に座る。足は湯のなかに浸けたままである。

「…………」
「わっわわ……」

 するとたんに、エカチェリーナとフレデリカが指の隙間で瞳を揺らしている。

「いい加減に見慣れろって。オレなんか毎朝ウィルの身支度をしているから、朝起きたときにこいつの下半身見て、元気がない日には体調が悪いのかと心配になるくらいだぜ」

 マイヤはさも当たり前のようにそう言う。
 タオルを頭の後ろに巻いた黒髪のフレデリカか、浴槽の縁に座るウィルの勃起した男根をちらちらと気にしながら、

「……あ、あの、ウィル坊ちゃんにお聞きしたいことがあるのですが」

 そう訊ねてきた。

「なにかな?」

 なんでも聞けとばかりにウィルは鷹揚に頷いた。

「お、お金の話で申し訳ないのですが。噂を耳にしました。その……ご主人様に抱かれるか抱かれないかでお給料が変わってくるというのは本当でしょうか?」
「うん。ぼくに抱かれた女か抱かれていない女かで、まず、お給金は二割は違うよ」

 ウィルが話し始めると興味を引かれたのか、周囲で身体を洗っていた女中がたちまちウィルの周りに集まってきた。

「一種の信用料だとトリスのやつは言っていた。まあそれはオレもそのとおりだと思う。一緒に仕事をするのに、ウィルに抱かれたことのある女のほうが断然信用できるからな。ウィルは能力のある女が好きだし、ウィルにしつけられたことのある女のほうが裏切らないと安心できる」

 マイヤがウィルのふとともに手を置きながら理由を説明した。

「たとえば最近屋敷にレベッカが来ただろ? あの見るからに頭の切れそうな金髪のできる女。オレはウィルに抱かれた後はあいつを信用すると決めている。それまでは、どっかでやらかすのが心配だ」

 マイヤの口からレベッカの名前が出たので、ウィルは少しびっくりした。

「調理女中の親玉のリッタだってウィルに抱かれている。要するにこの屋敷においてウィルに抱かれたことのない女は半人前なんだよ」
「は、半人前……」

 エカチェリーナは唖然と口を開いている。

「あ、あの、ということは女中長ハウスキーパーも?」

 黒髪のフレデリカが好奇心を我慢できずといった感じで問いかけてきた。
 ウィルは仕方なく口を開く。

「うん……。月に一度は抱いているね」
「ウィル坊ちゃま。すごいです!」

 フレデリカがウィルに尊敬の視線を向けてきた。

(といっても、まだ二回なんだけどね……)

 ウィルはこっそりと嘆息した。

「それと、ぼくに抱かれた回数だけ、少しずつ給料のベースが上がっていくんだ」
「それ、わたし初耳だよ!」

 後ろからアーニーの声がかけられた。風呂に入りにきた女中はウィルを囲むようにして座っている。
 ヘンリエッタも輪の端にちょこんと座っていた。幼女たちも不思議そうに輪に加わっている。

「ぼくは自分の女中をひと月に一回は抱く。一種の年功序列型の賃金制度だと考えてもらっても差し支えない。さらに、ぼくに抱かれた女中はここを辞めたときに年金が出るよ」
「年金が!?」

 なかでも褐色の肌のシャーミアが驚きの声をあげた。
 この迫害を受けた歴史のある少数民族出身の女性は、年金という言葉を一番縁遠く感じ、憧れを抱いているのかもしれない。

「もちろん、円満にこの屋敷を離れた女中が対象だけどね。金額はもちろん、この屋敷に勤め続けた年数、というかぼくと寝た回数によって上がる」
「メ、メモがほしい」

 思わずといった感じで、アーニーがそう言った。

「詳しい計算式は改めてトリスに聞いてよ」

 ウィルはそう返答した。

「もちろん、全てメリットばかりというわけじゃねーぜ」

 マイヤが湯にあてられたのか、うなじを紅く染め、ウィルの太ももにしなだれかかる。
 そうすると、自分たちも起立した男根との距離が縮まる気がするのか、だれかがはっと息を呑んだ。

「ウィルに抱かれるということは、女としてもウィルに忠誠を誓うということだ。もしウィル以外の男に一度でも抱かれたら、これまで積み上げたものを全て失う。そして屋敷との繋がりも失うな。オレならウィルを裏切った女中とは口をきかないし、ほかの女中にもそうしろって言うな」
「もし、その場合には年金は?」

 なおも聞いてきた褐色の肌のシャーミアに、

「もちろん無いよ。年金にしても退職後もぼくに逆らえなくなるってことだから、必ずしもメリットとは限らない」

 そう答えたウィル自身、つくづくえげつない制度だと思う。
 言ってみればこれは、一度でも多く主人に抱かれて基本給と年金を積み上げる性交序列型賃金制度である。
 もし主人以外の男に抱かれたら、これまで屋敷で積み上げてきた全てを失うことになる。
 おまけに退職して以降も年金という鎖が行動を縛り続け、主人に逆らうことが許されないのだ。
 ふと目の前をみると、二人の若い調理女中がウィルの股間を凝視しながら実利と情欲のはざで瞳をぐるぐると揺らしていた。

「ウィルに抱かれるのは気持ちがいいぜ。最初は痛くてもな」

 マイヤの言葉に二人の若い調理女中が、ごくりと唾を飲み込んだ。
 しかも、年若い女中というのは背伸びをしたがりで、一人前と見なされないことに極端に我慢がならないものなのだ。
 どうせ抱かれるなら早いほうがよい。いずれ、そういう結論に達するだろう。

「ついでに言うと屋敷を出たあと、社会的に不利にならないよう教会をつかって処女証明書も書いてあげられる。ねえ、フローラ?」

 ウィルがそう言うと、けいけんな信徒であると見なされていた女は、しゅうで赤く染まる顔を両手で包み隠した。
 ぶら下がった形の良い乳房は晒したままだ。
 そして、自分に言い訳するように顔と乳房を振って本音をぶちまける。

「もうわたしはご主人さまなしでは生きられません!」

 褐色の肌のシャーミアが頷いていた。

「処女証明書まで。すごい仕組みだ。この屋敷の女中ならば社会から迫害されずに済む」

 心底感心したという口調である。

「でも、これってものすごく狡猾なルールな気がするよ! 一度でも身を委ねたら骨の髄までって感じで」

 アーニーの言葉に、マイヤは皮肉っぽく唇を吊り上げて笑った。

「トリスのやつが考えたルールなんだから狡猾に決まってんだろ!」


◇ 屋敷の女性一覧 ◇
女中長   1人 (トリス◎)
蒸留室女中 2人 (リサ◎・サリ◎)
洗濯女中  6人 (第一:ジュディス◎)
         (第二:イグチナ◎・ブリタニー◎・シャーミア◎)
         (第三:アーニー◎・レミア◎)
料理人   1人 (リッタ◎)
調理女中  3人 (第一:ジューチカ)
         (第二:エカチェリーナ・フレデリカ)
皿洗い女中 2人 (ニーナ・ルノア)
酪農女中  3人 (ケーネ)
客間女中  1人 (フローラ◎)
家政女中 12人 (ヘンリエッタ)
雑役女中  8人
側付き女中 2人 (ソフィア△・マイヤ◎)
客人    1人 (レベッカ)
    計42人
お手つき 12人 (済み◎、途中△)




第三十八話「権力に寄り添う仕事」へのコメント:
コメント入力のお願い
Twitterログイン後、本文中の行をクリックすることで直接行にコメントがつけられるようになっております。
書いている著者自身がWeb版/同人Kindle版/商業版の各バージョンの違いで混乱しているものでして、もし読んで気になる点や誤字脱字などございましたらご指摘願います。
↓ クリックするとTwitterログイン画面に飛びます ↓
コメントのお礼に特典小説もご用意しております。