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第十二話「洗濯女中」

全体的に修正しました。2018/01/12

 次にトリスが向かったのは、屋敷の本館から離れたれん造りの小さな建物であった。
 建物の裏手から湯気が立ちのぼっている。近くまで歩くとせっけんの匂いが強くなった。洗濯場ランドリーは特有の臭いもするし、広い干し場も必要なため、屋敷のなかでは少々具合が悪い。
 建物から陽気な歌声や笑い声が聞こえてきた。屋敷のなかで働く女中メイドは無駄口をたたかないようしつけられるものだが、その例外がこの離れで働く洗濯ランドリー女中メイドである。
 ここは雰囲気が自由なのが良い。洗濯場は幼少のころからのウィルのお気に入りの遊び場であった。
 トリスは足を止めて振り返り、

「ここより先は、わたしよりもご主人さまのほうが、お詳しいと存じます」

 ウィルにそう告げた。

「う、うん。それはそうだけど……」

 先日、せいをして下着をらしてしまって以来、ウィルは気恥ずかしくなって、この洗濯場から足が遠のいてしまっている。
 洗濯場の建物を見つめながらおくれするウィルの肩を、女中長ハウスキーパーは後ろから押してきた。

「さあ、どうぞ。かしましい洗濯女中たちの尻でも叩いて、上下関係のなんたるかを存分にお示しくださいませ」
「えっ? えー……」

 伯爵家のれいそくは少し情けない声をあげる。
 調理場ではく行ったが、洗濯場ではどうだろう。
 ウィルは、幼少のころによく遊んでもらった、大柄な洗濯女中の姿を思い浮かべる。
 目の前のトリスよりやや背は低いが、それでもウィルよりもずっと背が高い。身体からだつきががっちりしており、うすあい色のお仕着せに包まれた胸や尻はとても大きい。
 以前よりウィルとの身長差はずっと縮まったものの、怒らせると、とてもおっかないイメージがある。

(う、うーん……)

 ウィルが難しい顔をしていると、頭の後ろにやわらかい温もりが押し付けられた。

(う……)

 白いエプロンに包まれた大きな胸のふくらみが、少年の後頭部を枕のようにおおい包んでおり、女の体温が退くつもりのない意思を伝えてくる。

「それとも屋敷の洗濯女中では、ご主人さまのお眼鏡にかないませんか?」
「それはないよ」

 このマルク領の周辺地域は、東西の血が混じりあうせいか、美人が多いことで知られている。
 なかでも屋敷の女中たちはトリスが厳選したこともあって容姿の整った女性ばかりだ。屋敷の表側にめったに姿を見せることのない洗濯女中とて、その例外ではなかった。
 ウィルの耳元にあかい唇を近づけ、ささやきかけてくる。

「きつい肉体労働に従事する女中は、大変締まりが良いと思いますよ」
「ぶっ!」

 それで用事は終わったとばかりに、女はそっと身体を離した。

「わたしは次の仕事がありますので、先に屋敷に戻らせていただきます。せめて一人くらい尻をでてからお戻りくださいね」

 いかにも簡単そうに言ってきびすを返し、悠然と屋敷のほうへと歩き去って行く。
 ウィルは一人その場に取り残されて、けしかけるだけけしかけていった女中長の尻を苦笑交じりに眺めていた。

(さあ、どうしたものかな……)

 悩むまでもない。思春期の青い性欲が少年を突き動かす。
 これから、いままで屋敷の令息のことを可愛かわいがってくれた、古なじみの洗濯女中たちの尻を触りに行くのだ。
 少年はかんをむずむずさせながら、建物のほうへと歩き出し、ドアのすきから洗濯場をのぞき込む。
 すると顔が蒸し暑い熱気にさらされた。

「このところウィル坊ちゃん、洗濯場に顔出さないよね!」
(……!)

 いきなり元気の良い女の声が聞こえてきて、思わずウィルはびくっと肩を震わせた。
 ドアの向こうには、視界をさえぎるように大量の布地が山積みになっているのが見えた。白い山は、ほかほかと湯気を立てていた。
 屋敷から毎日大量に出る、シーツやレース地、使用人の下着などの白亜麻布リネン類を扱うのが洗濯女中たちの日常である。

「そうねえ……」

 洗濯物の山の向こうから、落ち着いた女の声が返ってきた。

(あ、ぼくに言っているわけじゃないのか……)

 山の向こうを覗くと、十代後半の短い栗毛の少女アーニーの小さな背中が見えた。頭の右側だけ、短い結び髪ピッグ・テールにしており、それがこの洗濯女中の印象をより幼いものにしていた。年齢的にはフローラと同じくらいのはずだが、あの客間パーラー女中メイドと違って淑女レディといった印象はない。

「最近、洗濯場にお越しいただけなくなったね」

 そう口にしたのは、白銀の髪に褐色の肌をした異国情緒豊かな二十代前半の洗濯女中シャーミアである。
 南方から流れてきた少数民族の出身らしく、ウィルが三年の寄宿舎暮らしを終えた後、屋敷に加わっていたのだ。
 そのせいもあってか、ウィルに対する言葉遣いは古株の洗濯女中ほど気安くはない。

(なんで洗濯女中やってるのか不思議なくらいなんだよね……)

 シャーミアの容姿の華やかさは、客間女中フローラと並んでも見劣りはしないくらいである。
 器量の整った女が洗濯女中に就いてはいけないという法はないが、普通そういう女性は客人の前に姿を見せる客間女中や、清らかな乙女のイメージのある酪農デイリー女中メイドに就くことを望むだろう。
 いま褐色の肌の女は、アーニーと並んで低い長椅子に腰を掛け、捲り上げた腕を動かしている。ブラシをかけているようだ。この二人は、主人の使う毛織物や絹織物などを洗うのを専門としていた。
 少し横を向いたシャーミアの簡素なエプロンを豊かな胸の膨らみが持ち上げている。フローラのものよりも少し大きいであろうとウィルは見当をつけた。

「さっきマイヤにね、ウィル坊ちゃんにケツ触られたって言われたんだよ。満更でもないクセに。あれ愚痴のフリした自慢だよね?」
(ちょっと! ぼくが触ったんじゃないってばっ!)

 ウィルは弁解したいが、顔を出すわけにもいかない。
 つい先ほどのことが、すでに使用人たちの噂話として広まっていることに驚いていた。

「仕方ないよ。こんなとしと遊ぶよりも、若い子と遊んだほうが楽しいに決まっているもの」

 ややねるような口調で言ったのは三十代前半と屋敷で最年長のイグチナである。

(そういうつもりじゃないんだけどな……)

 単に夢精をして、下着を汚してしまって顔を出しづらかっただけだ。
 イグチナは、肩にかからないくらいの短い黒髪を揺らしながら、湯気を上げるたるのなかに白い布地をせっせと押し込みはじめた。
 エプロンの脇からはみ出た大きな胸が、ぶるんぶるんと揺れている。
 屋敷のほっそりした女中に比べると、太っているというほどではないが、全体的に身体の丸みを感じさせるものがある。リッタに身体つきが似ているかもしれない。背が高くないこともあってか、洗濯女中のなかでは胸の大きさが一番目立つだろう。
 トリスの均整を失わないプロポーションに比べると、イグチナの身体にはいよいよ線の崩れかける直前の、年増の女の魅力を感じさせるものがあるのだ。
 ウィルと同年代の娘をもつ一児の母であることもあってか、母性と色香がない交ぜになったような肉厚の柔らかそうな女の色香を放っていた。
 全体的にやや丸いが、年齢を感じさせるのは洗濯女中の商売道具である手だけだ。
 毎日洗濯女中として働いていることもあってかウエスト回りも、きちんと引き締まっている。

「わたしたちはもう年増ですからね。仕方ありません」

 古株の洗濯女中ブリタニーは長いまつを伏せて、ふうっとためいきをついている。その寂しげな横顔を見て、ウィルの心が少し痛んだ。
 としは二十八歳。女性に年齢をたずねるものではないが、嫌な顔一つせずに教えてくれた。昔からブリタニーはさいげんなくウィルのことを甘やかしてくれる年上のお姉さんといった感じがする。
 ウィルは、トリスに次いで長身の女中のやや薄い尻を眺めた。

(子宝に恵まれなかったんだよね……わいそうに……)

 良家との縁組みを果たしたものの、あとぎを産めなかったため婚姻を解消されてしまったとか。
 教会が離婚を認めていないため、イグチナのように籍を入れ続けるか、ブリタニーのように最初から無かったものとして扱うかどちらかしかない。
 子供好きなせいもあってか、この長い栗毛の女中は、全力でウィルを甘やかしにかかっているように見えるフシがある。

「ちょっと忘れないで。若いのもいるよ! わたしとかレミアとか」

 アーニーの言葉に、ボーイッシュな黒い短髪の女中が、洗濯物の入った大きなたらいを木のへらでき回しながら、こちらを振り返った。
 十代後半の洗濯女中レミアである。暑いのか女中服のブラウスを脱いでおり、上半身は下着の上にエプロンをつけただけの格好で、面倒くさそうに頭を搔く。
 脇から覗かせる胸のふくらみは乏しいものの、ブリタニーのように手足の長い、すらりと引き締まった細身の身体つきをしている。

「あん? 坊ちゃんと? 興味ないね」

 レミアはウィルに対して少々そっけないのだ。少女はもっと男らしい異性が好みだと口にしていた覚えがある。

(ちぇっ……)

 ウィルは唇を尖らせた。
 ブリタニーに言わせると、そういうのが可愛くて仕方がないそうだが、幼く見られがちなことをウィルは少し気にしていた。

「なんでわたしが若いのに含まれていないのかしら。わたしまだ二十歳の日を迎えていないのだけど……?」
「だってシャーミアって年齢不詳なあやしい感じがするもん」
「なっ……」

 白銀髪の女は、さも心外そうにアーニーのほうを振り向く。

「ほら、あんたら! 口を動かすんだったら手も動かしな!」

 部屋の中央にいる大柄な女が腰に手を当て、にらみをかしていた。この職場のまとめ役を務める、二十代半ばの第一洗濯女中ジュディスである。
 栗毛のブリタニーも長身なほうだが、ジュディスは肩幅が広く体つきも筋肉質で引き締まっており、屋敷のなかでは一番大柄な女と言って差し支えないであろう。屋敷のなかではトリスに次いで背が高い。
 蒸れて暑いのか女中服の胸のボタンをいくつか外しており、そのあらわになった胸の白いやわにくの合わせ目には汗がしたたり落ちている。

「はい。あね!」

 レミアが元気よく同意した。ボーイッシュな少女にとって、頼れる姉貴分という関係のようだ。
 赤毛のジュディスは、イグチナとブリタニーに次ぐ、屋敷の古参の女中の一人である。あの髪型は昔から変わっていない。両耳の横あたりから結わえられた太い赤毛の三つ編みは腰まである。
 もう十年も昔の話だが、背の高いジュディスに肩車をしてもらったこともある。あの三つ編みの髪をひっぱっては怒られたものだ。
 結婚してから三年ほど屋敷を離れていたのだが、夫を亡くしたため屋敷に出戻ってきていた。

「口は悪くても、腕は悪くないのが洗濯女中ってもんさ」

 大柄な女は、いかにも気の強そうな赤い眉を少し緩め、カカと笑った。白い歯がこぼれる。昔から竹を割ったような性格をしている。
 屋敷に戻ってからのジュディスは、以前にもましてよく働いてくれるようになった。仕事に生きいだしているようである。

「暑いねえ……よし、わたしも脱ぐか」

 そう言って、ジュディスが額の汗をぬぐった。
 湯に浸した洗濯物を洗っているので、室内は熱気が籠もっているのだ。
 女は急に女中服の黒いブラウスを脱ぎはじめた。黒い下着に包まれた大きな胸がぶるんとあらわになる。
 トリスがいれば顔をひそめるかもしれないが、屋敷の本館から離れた職場だからこそ、必要に応じてこうして服を脱ぐこともできるのだ。
 女は、耳の少し下で結んだ左右の赤髪を後ろに掻き上げる。
 そして、洗濯物を入れた大きな樽を、大きな木のへらで掻き回しはじめた。
 ジュディスの背中の筋肉が少し盛り上がった。ウィルから見てもほれぼれするような女の筋肉美である。
 黒いブラの背中の止め紐に交差するように、発達した背中に汗がしたたり落ちる。下着は蒸気を吸ってむんむんと湿っている。
 なんとなく昨晩の女中長トリスのせ返るような吐息の熱さや肌のほてりを思い起こさせるものがあった。

「軍曹は背中もいいんだけど、一番カッコイイのは尻の筋肉なんだよね」

 小柄なアーニーがジュディスの背を覗き込み、妙なことを言い始めた。
 軍隊で働いていたというジュディスの夫の話を聞いて感化されたのかもしれない。

「……その軍曹って呼び方はずっと続けるつもりなのかい? ……まあ、いいけどね」

 ジュディスはなんともいえない表情を浮かべながら、湯気の立つ桶のなかから白い洗濯物をつまみ、左右に広げる。
 その白さに満足するように赤毛の女中はうんうんとうなずいた。

「やっぱりいつかは自分たちの洗濯屋を構えたいねえ。この屋敷の仕事に不満はないんだけどさ」

 ジュディスがふとした調子に口にした言葉に、

「さんせーい! 軍曹に賛成!」
「いいね。姉御。ついていくよ」

 即座にアーニーとレミアが賛同し、

「わたしたちの腕ならきっと繁盛するでしょう」

 白銀髪のシャーミアがそう太鼓判を押した。
 古株のブリタニーとイグチナは、口を挟まずほほましそうに見つめている。

(ぼくは反対!)

 昔なじみの女中たちが、独立して屋敷を辞めていくなど、ウィルには到底受け入れられることではなかった。
 だが、大貴族家の洗濯女中は、上質な衣類を扱う機会も多く、専門技術も磨かれていくものなのだ。腕に自信のある職人なら、自分の店を構えたいと考えてもおかしくはない。

「でも、そのためには先立つものがねえんだよな」

 赤毛の第一洗濯女中は、そうがっくりとうなだれる。
 洗濯屋を開業するにはそれなりの資金が必要であろう。

「姉御のためならお金を出すよ?」
「うちらのお給料、軍曹にあげたところでどうにもならないって」
「そうですねえ」

 一連の会話の流れにウィルはホッとしていた。
 店を開店する資金というのは、いっかいの洗濯女中が働きながら貯められるような金額ではないだろう。
 支援してあげたい気持ちもなくはないが、ウィルとしてもジュディスたちに抜けられては困るし、そもそもいまのウィルに屋敷の資金を左右するだけの実権がないのであった。

「まあ人の夢なんてはかないもんさ。ブリタニー、シーツを干しはじめとくれ」

 振り向いたジュディスがそう声を掛けた。

「はい。分かりました」

 同意する女の声がした。

(あ、こっちに来た……)

 ひょいとシーツの山の影から顔を出した長い栗毛の女中ブリタニーが、ウィルの姿を認め、女の黒茶色の瞳がきょとんと見開かれた。

(お、お願い。ブリタニー……)

 ウィルが黙っていてくれるよう、しーと口の前に戸を立てると、ほんの僅かにウェーブのかかった長い栗毛の洗濯女中は、軽く微笑んでこくこくと頷いた。
 ブリタニーはウィルよりも頭半分ほど背が高い。山のようなシーツを胸の前のカゴに積み上げ、ウィルの姿を隠すように、一緒に建物から出た。

(見つかったのがブリタニーで良かったよ)

 少年はホッとした表情を浮かべながら、干し場の横のウッドデッキに腰を掛ける。
 洗濯場のなかはサウナのように蒸し暑かったので、涼しい風を顔に受けると気持ちがよい。
 このままブリタニーの働きぶりを眺めることにした。

 すらりとした体形の洗濯女中は、ときおりウィルのほうにニコニコとうれしそうな視線を送りながら、洗濯物を干している。
 カゴから洗濯物を取りだそうとブリタニーが背をかがめると、薄藍色のスカートにやや薄い尻の谷間がわずかに浮かび上がる。腰骨から背中にかけてのくびれたラインや、スカートの裾から覗かせる白い靴下に、誘われるような色香を感じてしまう。

(そういえば、昔よくあの中に入れてもらったっけ……)

 女中の腰ほどのたけしかなかったころ、あのスカートのなかは絶好の隠れ場所だった。
 マルク家の女中たちは、毎日清潔な衣類を着け、仕事のあとにはにも入れることもあって、スカートのなかは甘い匂いが充満していたものだ。
 特に記憶に残っているのは、ブリタニーの白く柔らかいふとももの感触――
 ウィルをスカートのなかにかくまったまま器用に歩いてくれるのだ。
 スカートのなかから見上げるお菓子の包み紙のようなした穿きは、ウィルの目を楽しませるように、ときどき色が変わった。

(流石にこの歳になると、ちっちゃいときみたいにスカートの中に入れてもらうことなんて、できないだろうなあ)

 そんな風に昔を懐かしんでいるとウィルの視線を察したのか、

「……またお隠れになりますか?」

 ブリタニーはくすりと笑うと、スカートを摘まみ、少しだけ持ち上げて見せた。
 白い長靴下の足首より上が露わになる。
 そこにウィルをからかう意図はない。本気なのだ。いつでも受け容れるという意思をストレートに示してから、細身の女はすぐに白いシーツを干す仕事に戻った。
 長身の身体が動くたびに、背中のあたりで緩く結んだ長い栗毛が、形の良い女の尻を撫でるように揺れている。
 白いシーツを干そうと女は軽く爪先立ちになる。そうすると少年のほうに突き出された、身長のわりに小ぶりな尻が、お仕着せの布地の下で、きゅっと引き締まるのが分かり、思わずウィルはデッキから腰を浮かせていた。
 周囲をきょろきょろと確認する。
 幸い、干されたシーツがのように空間を仕切り、視線を遮ってくれている。
 ウィルは洗濯物を干している女の背後に忍び寄る。

「あっ……」

 後ろからウエストの辺りをぎゅっと抱きしめてみたのだ。
 親愛の表現と性的なほうようの中間くらいかもしれない。ちょっとズルいとは思ったが、こうして子供っぽく振る舞うとブリタニーは逆らわないだろうと思ったのだ。
 思った以上に女の身体は柔らかく温かかった。ブリタニーは軽く身を震わせただけで全く抵抗をしない。

「ふふ……」

 女はくちもとを軽くほころばせて、歳の離れた弟を見るような目でウィルのほうを振り返った。

「あれ、驚かないんだね?」

 少し前傾姿勢になった女の背の上に、こてっと顔を置きながらそうたずねると、

「さきほどからずっとわたしのお尻を見つめているのですもの」

 ぴたっと耳をつけたブリタニーの背中から、くすくすという笑い声が響いてきた。
 古株の女中には、思った以上にバレバレのようであった。

「お年頃ですもの。女性の身体に興味がおありになって当然ですわ。どうぞこの身体は、ウィル坊ちゃんのお好きになさってください」
「え? いいの?」

 想像以上の抵抗感の無さに、ウィルは驚いた。

「ウィル坊ちゃんのお役に立てるなら本望です」
「う、うん……」

 少年は少しドキドキとしながら、シーツを広げている洗濯女中のエプロンの隙間に手を差し入れる。すぐに大きな乳房に指の腹が触れた。
 女の乳房の重さを確認するように下から持ち上げてみる。

(大きさはだいたいフローラと同じくらいかな?)

 フローラほどのみずみずしさはないが、トリスより一つ年下の洗濯女中の柔肉は、しっとりと指になじむ感じがした。
 脇の間から差し込んだ手のひらで、くすんだ青色の布地の上から女の柔肉を何度も揉みほぐす。
 さきほどは寝ているフローラの身体を触ったが、今度は目覚めていても無抵抗な女の身体をまさぐっているのだ。

「イグチナがうらやましかったんです……」
「え?」

 突然、最年長の洗濯女中の名が出てきて戸惑う。

「ウィル坊ちゃんに、おっぱいを差し上げているのが……」
「あ……みたいだね。ぼくは覚えてないんだけど」

 一児の母であるイグチナは、乳母ナニーであったトリスの部下として子守ナース女中メイドを務めていたことがある。トリスの手が離せないとき、代わりにウィルに母乳を授けることもあったと聞く。

「ウィル坊ちゃんがこうして、わたしのおっぱいを求めてくれるのが嬉しいんです」
(昔みたいに母乳が飲みたいわけじゃないのだけど、いいのかな? で、でも、もう我慢できないや……)

 だんだんと股間の刺激を求める気持ちが抑えきれなくなり、ブリタニーの体格のわりに小ぶりな尻の谷間に、張りめた腰の先端をこすりつけてみた。

「あっ……こ、こんなにも大きくなられたのですね」

 戸惑いの声とともに女の尻たぶが引き締まり、つるりと谷間から性器の裏筋が押し出される。
 だがすぐに、ぐにゃりと柔らかくなった薄い尻が、ウィルの存在を受けいれたのであった。

「いいの? ぼくは最後までするつもりなんだよ?」

 そう言いながら、尻の谷間で腰を上下させる。

「どうぞお使いください」

 ブリタニーはためらうこともなくそう答えた。
 たしかに勝算があるとは思っていたが、あまりの抵抗のなさに拍子抜けするくらいである。
 なんとなくウィルは、先日夢精したときのことを思い出していた。
 もしトリスの介入がなければ、頼みやすいこの女性に汚した下着のことを相談していただろう。この栗毛の女性は、青い性のはけ口にされることをこばまない。あまりにすべてが簡単すぎた。
 際限なくウィルを甘やかすブリタニーの存在は、元家庭教師ガヴァネスのトリスにとってはなはだ都合が悪かったのかもしれない。どうしてトリスがあそこまで強引だったのか、ようやくに落ちる気がした。

「遠慮なくわたしの身体で、ウィル坊ちゃんが将来子作りをする練習をなさってください」

 女の『子作りする練習』という言葉の生々しさに、ウィルは思わず息をまらせる。
 ややためらいがちに顔を近づけると、ブリタニーは唇を差し出してきた。さきほど意識のない乙女の唇でせっぷんの練習をしたばかりだ。どれだけブリタニーを喜ばせられるか、さっそく実践してみようと思った。
 だが、どこかその横顔にうれいのようなものが浮かんでいることに気がついて、

「ほ、本当にいいの?」

 そう念押ししてみたところ、

「どうせわたしは、子もせないような女ですもの。こんな身体、どうしていただいたところで構いません」

 寂しい言葉が返ってきて、はっと我に返る。
 少年は、避妊に気を使う必要のない栗毛の女中から、そっと身体を離した。

「…………?」

 ブリタニーはどうしたのだろうと振り返り、小首をかしげている。

「こ、ここだと落ち着かないでしょ。そのうち部屋に呼ぶから来てよね?」

 都合の良すぎる女として扱うのは、あまりにも可哀想だと思ったのだ。

「あ、はい……。ウィル坊ちゃんがそうおっしゃるなら」

 女は一度、ウィルの頭をぎゅっと胸のなかに抱き寄せてきた。柔らかいふくらみが少年の頭を包む。洗濯女中らしくおさまの匂いがした。

「うん。またね」

 去りぎわに手を振ったウィルを、昔なじみの女中は優しい表情で見送ってくれたのだ。



◇ 屋敷の女性一覧 ◇

女中長   1人 (トリス◎)
蒸留室女中 2人 (リサ・サリ)
洗濯女中  6人 (第一:ジュディス)
         (第二:イグチナ・ブリタニー△・シャーミア)
         (第三:アーニー・レミア)
料理人   1人 (リッタ)
調理女中  4人 (マイヤ)
皿洗い女中 2人
酪農女中  3人
客間女中  1人 (フローラ△)
家政女中 12人
雑役女中  8人
側付き女中 1人 (ソフィア△)
    計41人
お手つき  1人 (済み◎、途中△)


◇ 用語解説 ◇

日々、屋敷から出る大量のシーツや下着類のほか、主人の着る高価な衣類の洗濯業務を担う使用人職。重労働で高度な専門性まで要求されるわりに給料はさほど高くない。
洗濯場は汚れ物を扱うこともあり、主人の生活空間から離れた場所に設置されていることが多く、無駄口を叩かないよう躾けられる他の女中とは違い、仕事中に歌を歌うことができるなど洗濯場は賑やかな雰囲気になりやすい。
女中の多くは結婚後に退職するが、洗濯女中はジュディスイグチナのように結婚後に屋敷に出戻りしやすい利点がある。退職後には、その高度な専門性や屋敷との繫がりを生かして洗濯屋を開業するケースもあるようだ。



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